前の記事で、光が光子というエネルギーの粒であることを学びました。
光子はエネルギーだけでなく運動量ももちます。質量がゼロなのに運動量がある──日常感覚からはかけ離れた性質ですが、相対性理論のエネルギーと運動量の関係式から自然に導かれます。
$E = h\nu$ と $p = h/\lambda$ は、光の粒子性を記述する二大公式です。
光電効果の説明で導入された光子のエネルギーの式を、改めて整理しましょう。
$$E = h\nu = \frac{hc}{\lambda}$$
この式は驚くほどシンプルですが、深い意味をもちます。光子のエネルギーは振動数だけで決まり、光の強さ(振幅)とは無関係です。
$E = hc/\lambda$ より、波長が短いほどエネルギーが大きくなります。電磁波のスペクトルでエネルギーの大小を整理しておきましょう。
| 電磁波の種類 | 波長の目安 | 光子エネルギーの目安 |
|---|---|---|
| 電波 | $1\,\text{m}$ 以上 | $\sim 10^{-6}\,\text{eV}$ |
| 赤外線 | $700\,\text{nm}$ 〜 $1\,\text{mm}$ | $\sim 0.01\text{–}1.8\,\text{eV}$ |
| 可視光 | $400$ 〜 $700\,\text{nm}$ | $1.8$ 〜 $3.1\,\text{eV}$ |
| 紫外線 | $10$ 〜 $400\,\text{nm}$ | $3.1$ 〜 $120\,\text{eV}$ |
| X線 | $0.01$ 〜 $10\,\text{nm}$ | $120\,\text{eV}$ 〜 $120\,\text{keV}$ |
| $\gamma$ 線 | $0.01\,\text{nm}$ 以下 | $120\,\text{keV}$ 以上 |
$E = h\nu$ の左辺は粒子としてのエネルギー、右辺の $\nu$ は波としての振動数です。
つまり、この式は光の粒子性と波動性を橋渡しする関係式です。プランク定数 $h$ は「波の世界」と「粒子の世界」をつなぐ定数であり、量子力学の根幹をなします。
光子は質量をもちませんが、運動量をもちます。これは特殊相対性理論から自然に導かれます。
特殊相対性理論によるエネルギーと運動量の関係式は、
$$E^2 = (pc)^2 + (m_0 c^2)^2$$
光子は静止質量 $m_0 = 0$ なので、
$$E = pc$$
$E = h\nu = hc/\lambda$ を代入すると、
$$pc = \frac{hc}{\lambda} \quad \Longrightarrow \quad p = \frac{h}{\lambda}$$
$$p = \frac{h}{\lambda} = \frac{h\nu}{c} = \frac{E}{c}$$
✕ 誤:光子の運動量は $p = mv$ で、質量0だから運動量も0
○ 正:$p = mv$ は非相対論的な式であり、光子には使えません。光子の運動量は $p = h/\lambda = E/c$ です
質量がゼロでも光速で運動するため、相対論的にはゼロでない運動量をもちます。実際、光が物体に当たると圧力(光圧、輻射圧)を及ぼすことが実験で確かめられています。
光子について成り立つ $p = h/\lambda$ を、逆に質量のある粒子にも適用して $\lambda = h/p$ とすれば、粒子にも波長が定まります。
このアイデアがド・ブロイの物質波仮説であり、量子力学の誕生につながります。光子の運動量の式は、物質波への「入り口」なのです。
1個の光子が壁に完全吸収されると、壁は $p = h/\lambda$ の運動量を受け取ります。完全反射なら $2p = 2h/\lambda$ です。
太陽光が地球表面に及ぼす光圧は約 $5 \times 10^{-6}\,\text{Pa}$ と極めて小さいですが、宇宙空間では宇宙帆(ソーラーセイル)の推進力として利用する構想が実現されています。
原子・光子スケールのエネルギーをジュール(J)で表すと数値が極端に小さくなるため、電子ボルト(eV)がよく使われます。
$$1\,\text{eV} = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{J}$$
波長 $\lambda$(nm単位)で表した光子のエネルギーを eV で素早く求めるには、次の近似式が便利です。
$$E\,[\text{eV}] \approx \frac{1240}{\lambda\,[\text{nm}]}$$
たとえば波長 $500\,\text{nm}$ の可視光のエネルギーは、$E \approx 1240/500 = 2.5\,\text{eV}$ です。
✕ 誤:$h\nu$ の計算で $h$ を J・s で代入し、答えを eV と書く
○ 正:$h\nu$ を J で計算した後、$1.6 \times 10^{-19}$ で割って eV に変換するか、最初から eV 系の値を使う
単位の不整合は入試でも頻出のミスです。$h = 4.14 \times 10^{-15}\,\text{eV}\cdot\text{s}$ を使えば、結果が直接 eV で出ます。
光子の二大公式は、この章の多くのテーマの基盤となります。
Q1. 光子のエネルギーを振動数 $\nu$ で表す式と、波長 $\lambda$ で表す式をそれぞれ書いてください。
Q2. 光子の運動量の式を書いてください。なぜ $p = mv$ は使えないのですか。
Q3. 波長 $620\,\text{nm}$ の赤色光の光子エネルギーは約何 eV ですか。
Q4. $1\,\text{eV}$ は何 J ですか。
光子のエネルギー・運動量に関する入試レベルの問題です。
波長 $\lambda = 0.20\,\text{nm}$ のX線の光子1個について、プランク定数 $h = 6.6 \times 10^{-34}\,\text{J}\cdot\text{s}$、光速 $c = 3.0 \times 10^8\,\text{m/s}$、$1\,\text{eV} = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{J}$ として、次の問いに答えよ。
(1) 光子のエネルギーを J と eV でそれぞれ求めよ。
(2) 光子の運動量を求めよ。
(1) $E \approx 9.9 \times 10^{-16}\,\text{J} \approx 6.2 \times 10^{3}\,\text{eV} = 6.2\,\text{keV}$
(2) $p \approx 3.3 \times 10^{-24}\,\text{kg}\cdot\text{m/s}$
(1) $E = \dfrac{hc}{\lambda} = \dfrac{6.6 \times 10^{-34} \times 3.0 \times 10^{8}}{0.20 \times 10^{-9}} = \dfrac{1.98 \times 10^{-25}}{2.0 \times 10^{-10}} = 9.9 \times 10^{-16}\,\text{J}$
$E = \dfrac{9.9 \times 10^{-16}}{1.6 \times 10^{-19}} \approx 6.2 \times 10^3\,\text{eV} = 6.2\,\text{keV}$
(2) $p = \dfrac{h}{\lambda} = \dfrac{6.6 \times 10^{-34}}{2.0 \times 10^{-10}} = 3.3 \times 10^{-24}\,\text{kg}\cdot\text{m/s}$
波長 $\lambda = 500\,\text{nm}$ の光が、鏡面(完全反射)に垂直に入射している。光の強度(単位面積あたりの仕事率)が $I = 1.0 \times 10^3\,\text{W/m}^2$ のとき、鏡面が受ける圧力(光圧)を求めよ。$h = 6.6 \times 10^{-34}\,\text{J}\cdot\text{s}$、$c = 3.0 \times 10^8\,\text{m/s}$ とする。
$P \approx 6.7 \times 10^{-6}\,\text{Pa}$
方針:1個の光子が完全反射すると運動量変化は $2p = 2h/\lambda$。単位面積に単位時間あたり $n$ 個の光子が入射するとして圧力を求める。
光子1個のエネルギー $E = hc/\lambda$。単位面積・単位時間あたりの光子数 $n = I/E = I\lambda/(hc)$。
各光子の運動量変化 $\Delta p = 2h/\lambda$(完全反射)。
圧力 $P = n \cdot \Delta p = \dfrac{I\lambda}{hc} \cdot \dfrac{2h}{\lambda} = \dfrac{2I}{c}$
$P = \dfrac{2 \times 1.0 \times 10^3}{3.0 \times 10^8} \approx 6.7 \times 10^{-6}\,\text{Pa}$
波長に依存しない結果になることに注目。完全反射では光圧は $2I/c$、完全吸収では $I/c$ です。
振動数 $\nu$ の光子が静止している自由電子に吸収された場合、運動量保存則とエネルギー保存則が同時に成り立たないことを示せ。プランク定数を $h$、光速を $c$、電子の質量を $m$ とする。
運動量保存とエネルギー保存を同時に満たす解が存在しないことを以下に示す。
光子が電子に完全吸収された場合を考える。
運動量保存:$\dfrac{h\nu}{c} = mv'$ …①
エネルギー保存:$h\nu = \dfrac{1}{2}mv'^2$ …②
①より $v' = \dfrac{h\nu}{mc}$。これを②に代入すると、
$$h\nu = \frac{1}{2}m\left(\frac{h\nu}{mc}\right)^2 = \frac{(h\nu)^2}{2mc^2}$$
整理すると $2mc^2 = h\nu$、つまり $h\nu = 2mc^2 \approx 1.0\,\text{MeV}$ でなければ成り立たない。これは特定のエネルギーに限定され、一般の $\nu$ では成り立たない。
さらに非相対論的近似($v' \ll c$)の範囲では $h\nu \ll mc^2$ なので条件を満たせない。したがって、自由電子が光子を完全吸収することは一般には不可能である。これがコンプトン散乱(次の記事)で光子が消滅せず散乱される理由です。