第27章 電子と光

ブラッグ反射
─ 結晶によるX線の回折

X線が波であるならば、回折や干渉を示すはずです。しかしX線は波長が極めて短く($\sim 0.1\,\text{nm}$)、通常のスリットでは回折が観測できません。
1912年、ラウエは結晶の原子配列が「天然の回折格子」として使えることに気づきました。ブラッグ父子はこのアイデアを発展させ、結晶面からのX線反射の条件を簡潔な式にまとめました。
ブラッグの条件は、X線の波動性の直接的証拠であると同時に、結晶構造の解析にも不可欠な基本法則です。

1X線の回折 ─ 結晶が回折格子になる

波の回折を観測するには、スリットの間隔が波長と同程度であることが必要です。X線の波長は $0.01$ 〜 $10\,\text{nm}$ 程度であり、人工的にこのスケールの回折格子をつくることは当時困難でした。

しかし、結晶中の原子間距離は $0.1$ 〜 $0.5\,\text{nm}$ 程度であり、X線の波長とちょうど同じオーダーです。つまり、結晶の規則正しい原子配列がX線の回折格子として機能するのです。

💡 ここが本質:結晶は「三次元の回折格子」

可視光に対して使う回折格子は一次元(スリットの列)ですが、結晶は三次元に規則正しく並んだ原子の集合です。

この三次元構造が、X線に対して強い回折パターンを生み出します。回折条件を満たす角度でのみ強い反射が観測されるため、このパターンから結晶内の原子配列を逆算することが可能になります。

2ブラッグの条件

結晶中の原子は、等間隔で平行に並んだ格子面(結晶面)を形成しています。隣り合う格子面の間隔を $d$ とします。

X線が格子面に角度 $\theta$(格子面と入射X線のなす角=ブラッグ角)で入射すると、各格子面で反射されたX線が干渉します。隣り合う格子面からの反射波の光路差が波長の整数倍であるとき、強め合いの干渉が起こります。

▷ ブラッグの条件の導出

隣り合う2つの格子面からの反射X線の光路差を考えます。

上の格子面で反射されるX線と、下の格子面まで進んで反射されるX線の光路差は、幾何学的に $2d\sin\theta$ です。

この光路差が波長の整数倍であれば強め合います。

$$2d\sin\theta = n\lambda \quad (n = 1, 2, 3, \ldots)$$

📐 ブラッグの条件

$$2d\sin\theta = n\lambda$$

※ $d$:格子面間隔 [m]、$\theta$:ブラッグ角(格子面となす角)、$\lambda$:X線の波長 [m]、$n$:回折の次数(正の整数)。この条件を満たす角度 $\theta$ でのみ強い反射が観測される。
⚠️ 落とし穴:ブラッグ角は入射角ではない

✕ 誤:ブラッグ角 $\theta$ は結晶面の法線と入射X線のなす角(通常の入射角)

○ 正:ブラッグ角 $\theta$ は結晶面と入射X線のなす角(すれすれ角・グレージング角)

通常の光学で使う入射角(法線からの角度)を $\alpha$ とすると $\theta = 90° - \alpha$ の関係です。ブラッグの条件では $\sin\theta$ が登場するので、角度の定義を間違えると $\sin$ と $\cos$ が入れ替わってしまいます。

⚠️ 落とし穴:光路差を $d\sin\theta$ と書く

✕ 誤:光路差 = $d\sin\theta$

○ 正:光路差 = $2d\sin\theta$(入射時と反射時の両方で $d\sin\theta$ ずつ余分に進む)

光は格子面に向かう途中と、格子面から戻る途中の両方で経路差が生じるため、係数が「2」です。

🔬 深掘り:なぜ $\sin\theta$ か($\cos\theta$ ではなく)

ブラッグ角 $\theta$ は結晶面からの角度なので、格子面に垂直な方向の成分は $d\sin\theta$ です($\theta = 0$ なら光は面に平行に進み、格子面間の距離を「感じない」ので光路差は0)。

$\theta = 90°$ のとき $\sin\theta = 1$ で光路差は $2d$(最大)。この直感的チェックで $\sin$ が正しいと確認できます。

3ブラッグ反射の応用

X線の波長測定

格子面間隔 $d$ が既知の結晶を用いて、反射が強め合う角度 $\theta$ を測定すれば、$\lambda = 2d\sin\theta / n$ からX線の波長を求めることができます。

結晶構造の解析

逆に、X線の波長 $\lambda$ が既知であれば、ブラッグ角 $\theta$ から格子面間隔 $d$ を求め、結晶内の原子配列を決定できます。これがX線結晶構造解析です。

1953年にワトソンとクリックがDNAの二重らせん構造を発見できたのも、ロザリンド・フランクリンによるX線回折写真が決め手でした。ブラッグ反射は現代科学の広範な領域で活用されています。

💡 ここが本質:X線の波動性と結晶の周期性を結ぶ

ブラッグの条件 $2d\sin\theta = n\lambda$ には、X線の波動性(波長 $\lambda$)と結晶の周期性(格子面間隔 $d$)の両方が含まれています。

この式は「X線が波であること」の直接的証拠であると同時に、「結晶には規則正しい原子配列がある」ことの証拠でもあります。一つの式が二つの重要な事実を同時に示しているのです。

4つながりマップ

ブラッグ反射は、X線の波動性を実証し、結晶構造解析の基礎を築きました。

  • ← A-1-6 X線の発生:ブラッグ反射で使うX線はX線管で発生させる。
  • ← 波の干渉(波動):光路差と干渉条件の考え方は、ヤングの実験や回折格子と同じ。
  • → A-1-8 物質波:電子もブラッグ反射を示す(デイヴィソン=ガーマーの実験)。これは電子の波動性の証拠。
  • → 結晶構造解析:ブラッグの条件を使って物質の原子配列を決定する現代の技術。

📋まとめ

  • 結晶の規則正しい原子配列は、X線に対する天然の回折格子として機能する
  • ブラッグの条件:$2d\sin\theta = n\lambda$($d$:格子面間隔、$\theta$:ブラッグ角、$n$:次数)
  • ブラッグ角 $\theta$ は結晶面と入射X線のなす角であり、法線からの角度(入射角)ではない
  • 光路差は入射・反射の両方で生じるため $2d\sin\theta$($d\sin\theta$ ではない)
  • X線の波長測定と結晶構造解析に利用される
  • ブラッグ反射はX線の波動性を実証した実験である

確認テスト

Q1. ブラッグの条件を式で書いてください。各記号の意味も述べてください。

▶ クリックして解答を表示$2d\sin\theta = n\lambda$。$d$:格子面間隔、$\theta$:ブラッグ角(結晶面と入射X線のなす角)、$n$:正の整数(次数)、$\lambda$:X線の波長。

Q2. X線の回折格子として結晶を使えるのはなぜですか。

▶ クリックして解答を表示結晶中の原子間距離($\sim 0.1\,\text{nm}$)がX線の波長と同程度であり、規則正しい原子配列が回折格子の役割を果たすためです。

Q3. ブラッグ角 $\theta$ と通常の入射角 $\alpha$ の関係を述べてください。

▶ クリックして解答を表示$\theta = 90° - \alpha$。ブラッグ角は結晶面からの角度、入射角は法線からの角度です。

Q4. 光路差が $2d\sin\theta$ であり $d\sin\theta$ でない理由を説明してください。

▶ クリックして解答を表示X線は格子面に向かう途中で $d\sin\theta$、格子面から戻る途中でさらに $d\sin\theta$ の経路差が生じるため、合計 $2d\sin\theta$ になります。

8入試問題演習

ブラッグ反射に関する入試レベルの問題です。

A 基礎レベル

27-7-1 A 基礎 ブラッグの条件計算

格子面間隔 $d = 0.28\,\text{nm}$ の結晶にX線を当てたところ、ブラッグ角 $\theta = 30°$ で1次($n = 1$)の反射が観測された。このX線の波長を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$\lambda = 0.28\,\text{nm}$

解説

$2d\sin\theta = n\lambda$ より、

$\lambda = \dfrac{2d\sin\theta}{n} = \dfrac{2 \times 0.28 \times \sin 30°}{1} = \dfrac{2 \times 0.28 \times 0.50}{1} = 0.28\,\text{nm}$

B 発展レベル

27-7-2 B 発展 格子面間隔計算

波長 $\lambda = 0.154\,\text{nm}$ のX線を結晶に照射し、ブラッグ角を変えながら反射強度を測定した。$\theta = 15.9°$ で1次の反射、$\theta = 33.1°$ で2次の反射が観測された。

(1) 格子面間隔 $d$ を1次の反射から求めよ。

(2) 2次の反射の結果は1次の結果と整合するか確認せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $d \approx 0.281\,\text{nm}$

(2) 整合する。

解説

(1) $d = \dfrac{n\lambda}{2\sin\theta} = \dfrac{1 \times 0.154}{2 \times \sin 15.9°} = \dfrac{0.154}{2 \times 0.274} = \dfrac{0.154}{0.548} \approx 0.281\,\text{nm}$

(2) 2次の反射から:$d = \dfrac{2 \times 0.154}{2 \times \sin 33.1°} = \dfrac{0.308}{2 \times 0.546} = \dfrac{0.308}{1.092} \approx 0.282\,\text{nm}$

1次と2次でほぼ同じ $d$ が得られるので、結果は整合しています。

採点ポイント
  • ブラッグの条件を正しく立式する(3点)
  • $d$ を正しく計算する(4点)
  • 2次の反射で整合性を確認する(3点)