X線が波であるならば、回折や干渉を示すはずです。しかしX線は波長が極めて短く($\sim 0.1\,\text{nm}$)、通常のスリットでは回折が観測できません。
1912年、ラウエは結晶の原子配列が「天然の回折格子」として使えることに気づきました。ブラッグ父子はこのアイデアを発展させ、結晶面からのX線反射の条件を簡潔な式にまとめました。
ブラッグの条件は、X線の波動性の直接的証拠であると同時に、結晶構造の解析にも不可欠な基本法則です。
波の回折を観測するには、スリットの間隔が波長と同程度であることが必要です。X線の波長は $0.01$ 〜 $10\,\text{nm}$ 程度であり、人工的にこのスケールの回折格子をつくることは当時困難でした。
しかし、結晶中の原子間距離は $0.1$ 〜 $0.5\,\text{nm}$ 程度であり、X線の波長とちょうど同じオーダーです。つまり、結晶の規則正しい原子配列がX線の回折格子として機能するのです。
可視光に対して使う回折格子は一次元(スリットの列)ですが、結晶は三次元に規則正しく並んだ原子の集合です。
この三次元構造が、X線に対して強い回折パターンを生み出します。回折条件を満たす角度でのみ強い反射が観測されるため、このパターンから結晶内の原子配列を逆算することが可能になります。
結晶中の原子は、等間隔で平行に並んだ格子面(結晶面)を形成しています。隣り合う格子面の間隔を $d$ とします。
X線が格子面に角度 $\theta$(格子面と入射X線のなす角=ブラッグ角)で入射すると、各格子面で反射されたX線が干渉します。隣り合う格子面からの反射波の光路差が波長の整数倍であるとき、強め合いの干渉が起こります。
隣り合う2つの格子面からの反射X線の光路差を考えます。
上の格子面で反射されるX線と、下の格子面まで進んで反射されるX線の光路差は、幾何学的に $2d\sin\theta$ です。
この光路差が波長の整数倍であれば強め合います。
$$2d\sin\theta = n\lambda \quad (n = 1, 2, 3, \ldots)$$
$$2d\sin\theta = n\lambda$$
✕ 誤:ブラッグ角 $\theta$ は結晶面の法線と入射X線のなす角(通常の入射角)
○ 正:ブラッグ角 $\theta$ は結晶面と入射X線のなす角(すれすれ角・グレージング角)
通常の光学で使う入射角(法線からの角度)を $\alpha$ とすると $\theta = 90° - \alpha$ の関係です。ブラッグの条件では $\sin\theta$ が登場するので、角度の定義を間違えると $\sin$ と $\cos$ が入れ替わってしまいます。
✕ 誤:光路差 = $d\sin\theta$
○ 正:光路差 = $2d\sin\theta$(入射時と反射時の両方で $d\sin\theta$ ずつ余分に進む)
光は格子面に向かう途中と、格子面から戻る途中の両方で経路差が生じるため、係数が「2」です。
ブラッグ角 $\theta$ は結晶面からの角度なので、格子面に垂直な方向の成分は $d\sin\theta$ です($\theta = 0$ なら光は面に平行に進み、格子面間の距離を「感じない」ので光路差は0)。
$\theta = 90°$ のとき $\sin\theta = 1$ で光路差は $2d$(最大)。この直感的チェックで $\sin$ が正しいと確認できます。
格子面間隔 $d$ が既知の結晶を用いて、反射が強め合う角度 $\theta$ を測定すれば、$\lambda = 2d\sin\theta / n$ からX線の波長を求めることができます。
逆に、X線の波長 $\lambda$ が既知であれば、ブラッグ角 $\theta$ から格子面間隔 $d$ を求め、結晶内の原子配列を決定できます。これがX線結晶構造解析です。
1953年にワトソンとクリックがDNAの二重らせん構造を発見できたのも、ロザリンド・フランクリンによるX線回折写真が決め手でした。ブラッグ反射は現代科学の広範な領域で活用されています。
ブラッグの条件 $2d\sin\theta = n\lambda$ には、X線の波動性(波長 $\lambda$)と結晶の周期性(格子面間隔 $d$)の両方が含まれています。
この式は「X線が波であること」の直接的証拠であると同時に、「結晶には規則正しい原子配列がある」ことの証拠でもあります。一つの式が二つの重要な事実を同時に示しているのです。
ブラッグ反射は、X線の波動性を実証し、結晶構造解析の基礎を築きました。
Q1. ブラッグの条件を式で書いてください。各記号の意味も述べてください。
Q2. X線の回折格子として結晶を使えるのはなぜですか。
Q3. ブラッグ角 $\theta$ と通常の入射角 $\alpha$ の関係を述べてください。
Q4. 光路差が $2d\sin\theta$ であり $d\sin\theta$ でない理由を説明してください。
ブラッグ反射に関する入試レベルの問題です。
格子面間隔 $d = 0.28\,\text{nm}$ の結晶にX線を当てたところ、ブラッグ角 $\theta = 30°$ で1次($n = 1$)の反射が観測された。このX線の波長を求めよ。
$\lambda = 0.28\,\text{nm}$
$2d\sin\theta = n\lambda$ より、
$\lambda = \dfrac{2d\sin\theta}{n} = \dfrac{2 \times 0.28 \times \sin 30°}{1} = \dfrac{2 \times 0.28 \times 0.50}{1} = 0.28\,\text{nm}$
波長 $\lambda = 0.154\,\text{nm}$ のX線を結晶に照射し、ブラッグ角を変えながら反射強度を測定した。$\theta = 15.9°$ で1次の反射、$\theta = 33.1°$ で2次の反射が観測された。
(1) 格子面間隔 $d$ を1次の反射から求めよ。
(2) 2次の反射の結果は1次の結果と整合するか確認せよ。
(1) $d \approx 0.281\,\text{nm}$
(2) 整合する。
(1) $d = \dfrac{n\lambda}{2\sin\theta} = \dfrac{1 \times 0.154}{2 \times \sin 15.9°} = \dfrac{0.154}{2 \times 0.274} = \dfrac{0.154}{0.548} \approx 0.281\,\text{nm}$
(2) 2次の反射から:$d = \dfrac{2 \times 0.154}{2 \times \sin 33.1°} = \dfrac{0.308}{2 \times 0.546} = \dfrac{0.308}{1.092} \approx 0.282\,\text{nm}$
1次と2次でほぼ同じ $d$ が得られるので、結果は整合しています。