第29章 原子核と素粒子

放射線の種類と性質
─ α線・β線・γ線

目に見えない「光」が写真乾板を感光させる ── 1896年にベクレルが偶然発見したこの現象が、放射線研究の幕開けでした。
不安定な原子核は、自らを安定な状態へと変えるために放射線を放出します。
放射線には大きく3種類 ── α線・β線・γ線 ── があり、その正体も物質を通り抜ける力もまったく異なります。
ここでは、それぞれの放射線の正体と性質を整理し、見分け方の原理を学びましょう。

1放射線の発見 ─ ベクレルからキュリー夫妻へ

1895年にレントゲンがX線を発見したことに刺激を受けたベクレルは、蛍光物質がX線に似た放射線を出すかを調べていました。 ウラン化合物を写真乾板の上に置いたところ、太陽光を当てなくても乾板が感光していることを発見しました。 これがウランからの放射線の発見(1896年)です。

その後、キュリー夫妻はピッチブレンドからポロニウム(Po)とラジウム(Ra)という新元素を発見し、放射能の研究を大きく前進させました。 放射線を出す性質を放射能、放射能をもつ物質を放射性物質と呼びます。

ラザフォードは、放射線を磁場中に通すことで、性質の異なる複数の成分に分離できることを発見しました。 磁場で正の向きに曲がるものをα線、負の向きに曲がるものをβ線、曲がらないものをγ線と名づけました。

⚠️ 落とし穴:「放射能」と「放射線」を混同する

✕ 誤:「放射能が飛んでくる」「放射能を浴びる」

○ 正:「放射線が飛んでくる」「放射線を浴びる」

放射能は「放射線を出す能力(性質)」であり、飛んでくるのは放射線です。 日常会話ではしばしば混同されますが、物理では明確に区別しましょう。

2α線・β線・γ線の正体

3種類の放射線は、それぞれまったく異なる粒子(または波)です。

α線(アルファ線)

α線の正体はヘリウム原子核 ${}^{4}_{2}\text{He}$(陽子2個+中性子2個)の流れです。 電荷は $+2e$、質量は陽子約4個分と大きく、比較的ゆっくり(光速の数%程度)飛びます。

β線(ベータ線)

β線の正体は高速の電子 $e^-$ の流れです($\beta^-$ 線)。 電荷は $-e$、質量は陽子の約 $\frac{1}{1836}$ と非常に軽く、光速に近い速度で飛ぶことができます。

なお、陽電子 $e^+$ が放出される $\beta^+$ 崩壊もありますが、高校物理では主に $\beta^-$ 線を扱います。

γ線(ガンマ線)

γ線の正体は非常にエネルギーの高い電磁波(光子)です。 電荷も質量もゼロで、光速 $c$ で伝わります。 X線と同じ電磁波ですが、γ線は原子核の遷移から発生する点が異なります。

📐 3種類の放射線の基本量

α線:${}^{4}_{2}\text{He}$ 核、電荷 $+2e$、質量数 $4$

β線:電子 $e^-$、電荷 $-e$、質量 $\approx \frac{1}{1836}m_p$

γ線:電磁波(光子)、電荷 $0$、質量 $0$

※ α崩壊では質量数が4、原子番号が2だけ減少する。β崩壊では質量数は変わらず、原子番号が1増える。γ線放出では質量数も原子番号も変わらない。
💡 ここが本質:3つの放射線は「粒子の大きさ」がまったく違う

α線はヘリウム原子核という「重い粒子」、β線は電子という「軽い粒子」、γ線は質量をもたない「電磁波」です。

この大きさ(質量)の違いが、透過力・電離作用・磁場での曲がり方など、すべての性質の違いを生み出しています。 3つの放射線の性質を個別に暗記するのではなく、「重い・軽い・波」という本質から理解しましょう。

⚠️ 落とし穴:β線の電子は「軌道電子が飛び出したもの」と誤解する

✕ 誤:β崩壊では原子核の周りを回っている電子が飛び出す

○ 正:β崩壊では原子核の中の中性子が陽子に変わるときに電子と反ニュートリノが生成される

$$n \to p + e^- + \bar{\nu}_e$$

β線の電子は軌道電子とは別物で、崩壊の瞬間に核内で新たに「作られる」のです。

3放射線の透過力と電離作用

放射線が物質中を通過するとき、原子から電子をはじき飛ばして電離を引き起こします。 この電離によって放射線はエネルギーを失い、やがて止まります。 放射線の種類によって、電離作用の強さと物質を通り抜ける力(透過力)が大きく異なります。

放射線 透過力 遮蔽に必要なもの 電離作用 飛程(空気中)
α線 弱い 紙1枚 非常に強い 数 cm
β線 中程度 アルミニウム板(数 mm) 中程度 数十 cm ~ 数 m
γ線 強い 鉛や厚いコンクリート 弱い 非常に長い
💡 ここが本質:透過力と電離作用は「トレードオフ」

電離作用が強い = 短い距離で多くのエネルギーを周囲に与える = すぐに止まる = 透過力が弱い。

逆に、電離作用が弱い = エネルギーをなかなか失わない = 遠くまで飛ぶ = 透過力が強い。

α線は「近距離で大暴れするが、すぐに止まる格闘家」、γ線は「静かにすり抜けていく忍者」とイメージすると覚えやすいでしょう。

⚠️ 落とし穴:「透過力が弱い=危険でない」と思い込む

✕ 誤:α線は紙で止まるから人体に無害

○ 正:α線は外部被曝では皮膚で止まるが、放射性物質を体内に取り込んだ場合(内部被曝)は、局所的に強い電離作用を及ぼすため非常に危険

透過力が弱いことと安全であることは同義ではありません。被曝の形態によって危険性は大きく変わります。

🔬 深掘り:放射線の検出方法

放射線は電離作用を利用して検出されます。代表的な検出器を紹介します。

GM計数管(ガイガー=ミュラー計数管):放射線が気体を電離し、生じた電流パルスを数える。放射線の有無と数を測定できる。

霧箱(ウィルソンの霧箱):過飽和蒸気中で放射線の通った跡が霧の筋として可視化される。α線は太く短い直線、β線は細く曲がりくねった軌跡を描く。

シンチレーション検出器:放射線が蛍光物質に当たると発光する。この光を光電子増倍管で電気信号に変換して測定する。

4磁場・電場中での放射線の振る舞い

放射線を磁場や電場の中に通すと、電荷をもつα線とβ線は力を受けて曲がりますが、電荷をもたないγ線はまっすぐ進みます。 この違いを利用して、放射線の種類を識別できます。

磁場中での振る舞い

一様な磁場 $B$ の中で荷電粒子が運動すると、ローレンツ力を受けて円運動をします。 曲がる向きは電荷の符号で、曲率半径は運動量と電荷の比で決まります。

📐 磁場中の荷電粒子の円運動の半径

$$r = \frac{mv}{qB}$$

※ $m$:粒子の質量、$v$:速さ、$q$:電荷の大きさ、$B$:磁束密度。$r$ が大きいほど曲がりにくい。

α線は正電荷をもつので、フレミングの左手の法則に従ってある方向に曲がります。 β線は負電荷なので、α線とは反対方向に曲がります。

さらに、α線は質量が大きいため曲率半径が大きく(ゆるやかに曲がる)、β線は質量が小さいため曲率半径が小さい(急に曲がる)傾向があります。

💡 ここが本質:磁場での3本の筋を読み解く

放射線を磁場中に通すと、3つの成分に分かれます。

α線:正電荷 → 一方にゆるやかに曲がる(質量大)

β線:負電荷 → 反対方向に大きく曲がる(質量小)

γ線:電荷なし → 直進する

この3本の分離パターンは入試で頻出です。「曲がる向き」と「曲がる度合い」の両方を正しく描けるようにしましょう。

電場中での振る舞い

一様な電場中では、α線は電場と同じ向きに偏向し、β線は電場と逆向きに偏向します。 γ線は電荷をもたないので偏向しません。

⚠️ 落とし穴:α線が「大きく曲がる」と答えてしまう

✕ 誤:α線は電荷 $+2e$ が大きいから、磁場中で大きく曲がる

○ 正:α線は質量が大きいため、$r = \frac{mv}{qB}$ の分子 $mv$ が大きく、結果として曲率半径は大きい(ゆるやかに曲がる)

電荷が大きいことは曲がりやすさに寄与しますが、それ以上に質量が大きいことが支配的です。 α線の方がβ線よりもゆるやかに曲がることを覚えておきましょう。

🔬 深掘り:自然放射線と人工放射線

私たちは日常的に自然放射線を浴びています。宇宙線(宇宙から降り注ぐ高エネルギー粒子)、大地の放射性元素(カリウム40、ウラン、トリウムなど)、食物中の放射性物質(${}^{40}\text{K}$ など)、大気中のラドンなどが主な線源です。

日本での自然放射線による年間被曝量は平均約 $2.1\,\text{mSv}$(ミリシーベルト)です。 人工放射線には医療(X線撮影、CT、放射線治療)や原子力発電に伴うものがあります。

5この章を俯瞰する

放射線の基本を押さえたところで、今後の学習とのつながりを確認しましょう。

つながりマップ

  • ← A-3-1 原子核の構造:原子核が陽子と中性子からなること、核力とクーロン力のバランスが不安定さの原因であることを学んだ。
  • → A-3-3 放射性崩壊と半減期:α崩壊・β崩壊を定量的に扱う。崩壊の法則と半減期の概念。
  • → A-3-4 核反応:放射性崩壊だけでなく、外部から粒子を当てて起こす核反応も扱う。質量数と原子番号の保存則。
  • → 電磁気学(ローレンツ力):磁場中の荷電粒子の運動。α線・β線の曲がり方はローレンツ力で理解できる。
  • → A-3-5 質量欠損と核エネルギー:放射線のエネルギーの源泉は原子核の質量欠損にある。$E = mc^2$ との接続。

📋まとめ

  • 放射線を出す性質を放射能、放射線を出す物質を放射性物質と呼ぶ。飛んでくるのは放射線
  • α線はヘリウム原子核 ${}^{4}_{2}\text{He}$(電荷 $+2e$)、β線は高速電子(電荷 $-e$)、γ線は電磁波(電荷 $0$)
  • 透過力は α線 < β線 < γ線 の順に強い。電離作用は α線 > β線 > γ線 の順に強い。透過力と電離作用はトレードオフの関係
  • 磁場中でα線は正電荷の向きにゆるやかに曲がり、β線は逆向きに大きく曲がり、γ線は直進する
  • α線は紙で、β線はアルミニウム板で、γ線は鉛やコンクリートで遮蔽できる
  • β崩壊の電子は軌道電子ではなく、中性子が陽子に変わるときに核内で新たに生成される

確認テスト

Q1. α線の正体は何ですか。電荷と質量数を含めて答えてください。

▶ クリックして解答を表示α線の正体はヘリウム原子核 ${}^{4}_{2}\text{He}$ です。電荷は $+2e$、質量数は $4$ です。

Q2. 3種類の放射線のうち、透過力が最も強いのはどれですか。

▶ クリックして解答を表示γ線です。電荷も質量もゼロの電磁波であるため、物質との相互作用が弱く、鉛やコンクリートでないと遮蔽できません。

Q3. 磁場中でα線とβ線が互いに反対方向に曲がるのはなぜですか。

▶ クリックして解答を表示α線は正電荷($+2e$)、β線は負電荷($-e$)をもつため、ローレンツ力の向きが逆になり、反対方向に曲がります。

Q4. β崩壊で放出される電子は、原子核の周りの軌道電子ですか。

▶ クリックして解答を表示いいえ。β崩壊の電子は、原子核内の中性子が陽子に変わる際に新たに生成される粒子です($n \to p + e^- + \bar{\nu}_e$)。軌道電子とは別物です。

8入試問題演習

この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

3-2-1 A 基礎 放射線の性質 知識

α線・β線・γ線について、次の問いに答えよ。

(1) 紙1枚で遮ることができるのはどの放射線か。

(2) 電荷をもたない放射線はどれか。

(3) 電離作用が最も強いのはどの放射線か。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) α線

(2) γ線

(3) α線

解説

(1) α線はヘリウム原子核で質量が大きく電離作用が強いため、紙1枚で止まります。

(2) γ線は電磁波なので電荷も質量もありません。

(3) α線は質量・電荷ともに最大であるため、単位距離あたりの電離数が最も多くなります。

B 発展レベル

3-2-2 B 発展 磁場中の偏向 論述

放射性物質から放出されるα線・β線・γ線を、紙面に垂直で手前向きの一様な磁場中に通した。放射線は紙面上を右向きに進んでいるとする。次の問いに答えよ。

(1) α線はどちらの向き(上向きまたは下向き)に曲がるか。理由とともに答えよ。

(2) β線の曲がる向きを答えよ。

(3) α線とβ線で、曲率半径が大きい(ゆるやかに曲がる)のはどちらか。理由を述べよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 上向き

(2) 下向き

(3) α線の方が曲率半径が大きい

解説

(1) α線は正電荷 $+2e$ をもつ。フレミングの左手の法則で、速度(右向き)と磁場(手前向き)から、力は上向きになる。

(2) β線は負電荷 $-e$ をもつので、力の向きは正電荷の場合と逆になり、下向きに曲がる。

(3) 曲率半径 $r = \frac{mv}{qB}$ において、α粒子は質量 $m$ が電子の約7000倍と大きいため、運動量 $mv$ が大きい。したがって曲率半径が大きく、ゆるやかに曲がる。

採点ポイント
  • フレミングの左手の法則またはローレンツ力から曲がる向きを正しく判定する(3点)
  • β線が逆向きに曲がる理由(電荷の符号が逆)を述べる(2点)
  • $r = \frac{mv}{qB}$ を用いて、質量の違いから曲率半径の大小を論じる(3点)

C 応用レベル

3-2-3 C 応用 霧箱の軌跡 論述

磁場をかけた霧箱の中で、ある放射性物質からの放射線の軌跡を観察した。軌跡Aは太く短い直線状で、軌跡Bは細く長く曲がりくねっていた。次の問いに答えよ。

(1) 軌跡Aと軌跡Bは、それぞれα線・β線のどちらによるものか。理由とともに答えよ。

(2) 軌跡Aが太い理由を、電離作用の観点から説明せよ。

(3) 軌跡Bが曲がりくねっている理由を説明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 軌跡A:α線、軌跡B:β線

(2) α線は電離作用が強く、飛跡に沿って大量のイオン対を生成するため、多くの霧粒が凝結して太い軌跡になる。

(3) β線(電子)は質量が小さいため、空気中の原子と衝突するたびに大きく方向が変わるから。

解説

(1) α線は質量が大きく電離作用が強いため、太く短い軌跡を残す。β線は質量が小さく電離作用は弱いが、飛程が長いため細く長い軌跡になる。

(2) 霧箱では、放射線が生成したイオンを核として過飽和蒸気が凝結し、飛跡が可視化される。α線は単位長さあたりの電離数(比電離)が大きいため、多数の凝結核が生じ、太い軌跡となる。

(3) β線の正体は電子であり、質量が空気中の原子に比べて非常に小さい。そのため1回の衝突で運動方向が大きく変化し、曲がりくねった軌跡になる。α線は質量が大きいため衝突しても方向がほとんど変わらず、直線的に進む。

採点ポイント
  • 軌跡の特徴(太い/細い、短い/長い)と放射線の種類を正しく対応させる(2点)
  • 電離作用の強さと軌跡の太さの関係を説明する(3点)
  • 質量の大小と散乱されやすさの関係を説明する(3点)
  • 物理用語(比電離、飛程など)を適切に使う(2点)