目に見えない「光」が写真乾板を感光させる ── 1896年にベクレルが偶然発見したこの現象が、放射線研究の幕開けでした。
不安定な原子核は、自らを安定な状態へと変えるために放射線を放出します。
放射線には大きく3種類 ── α線・β線・γ線 ── があり、その正体も物質を通り抜ける力もまったく異なります。
ここでは、それぞれの放射線の正体と性質を整理し、見分け方の原理を学びましょう。
1895年にレントゲンがX線を発見したことに刺激を受けたベクレルは、蛍光物質がX線に似た放射線を出すかを調べていました。 ウラン化合物を写真乾板の上に置いたところ、太陽光を当てなくても乾板が感光していることを発見しました。 これがウランからの放射線の発見(1896年)です。
その後、キュリー夫妻はピッチブレンドからポロニウム(Po)とラジウム(Ra)という新元素を発見し、放射能の研究を大きく前進させました。 放射線を出す性質を放射能、放射能をもつ物質を放射性物質と呼びます。
ラザフォードは、放射線を磁場中に通すことで、性質の異なる複数の成分に分離できることを発見しました。 磁場で正の向きに曲がるものをα線、負の向きに曲がるものをβ線、曲がらないものをγ線と名づけました。
✕ 誤:「放射能が飛んでくる」「放射能を浴びる」
○ 正:「放射線が飛んでくる」「放射線を浴びる」
放射能は「放射線を出す能力(性質)」であり、飛んでくるのは放射線です。 日常会話ではしばしば混同されますが、物理では明確に区別しましょう。
3種類の放射線は、それぞれまったく異なる粒子(または波)です。
α線の正体はヘリウム原子核 ${}^{4}_{2}\text{He}$(陽子2個+中性子2個)の流れです。 電荷は $+2e$、質量は陽子約4個分と大きく、比較的ゆっくり(光速の数%程度)飛びます。
β線の正体は高速の電子 $e^-$ の流れです($\beta^-$ 線)。 電荷は $-e$、質量は陽子の約 $\frac{1}{1836}$ と非常に軽く、光速に近い速度で飛ぶことができます。
なお、陽電子 $e^+$ が放出される $\beta^+$ 崩壊もありますが、高校物理では主に $\beta^-$ 線を扱います。
γ線の正体は非常にエネルギーの高い電磁波(光子)です。 電荷も質量もゼロで、光速 $c$ で伝わります。 X線と同じ電磁波ですが、γ線は原子核の遷移から発生する点が異なります。
α線:${}^{4}_{2}\text{He}$ 核、電荷 $+2e$、質量数 $4$
β線:電子 $e^-$、電荷 $-e$、質量 $\approx \frac{1}{1836}m_p$
γ線:電磁波(光子)、電荷 $0$、質量 $0$
α線はヘリウム原子核という「重い粒子」、β線は電子という「軽い粒子」、γ線は質量をもたない「電磁波」です。
この大きさ(質量)の違いが、透過力・電離作用・磁場での曲がり方など、すべての性質の違いを生み出しています。 3つの放射線の性質を個別に暗記するのではなく、「重い・軽い・波」という本質から理解しましょう。
✕ 誤:β崩壊では原子核の周りを回っている電子が飛び出す
○ 正:β崩壊では原子核の中の中性子が陽子に変わるときに電子と反ニュートリノが生成される
$$n \to p + e^- + \bar{\nu}_e$$
β線の電子は軌道電子とは別物で、崩壊の瞬間に核内で新たに「作られる」のです。
放射線が物質中を通過するとき、原子から電子をはじき飛ばして電離を引き起こします。 この電離によって放射線はエネルギーを失い、やがて止まります。 放射線の種類によって、電離作用の強さと物質を通り抜ける力(透過力)が大きく異なります。
| 放射線 | 透過力 | 遮蔽に必要なもの | 電離作用 | 飛程(空気中) |
|---|---|---|---|---|
| α線 | 弱い | 紙1枚 | 非常に強い | 数 cm |
| β線 | 中程度 | アルミニウム板(数 mm) | 中程度 | 数十 cm ~ 数 m |
| γ線 | 強い | 鉛や厚いコンクリート | 弱い | 非常に長い |
電離作用が強い = 短い距離で多くのエネルギーを周囲に与える = すぐに止まる = 透過力が弱い。
逆に、電離作用が弱い = エネルギーをなかなか失わない = 遠くまで飛ぶ = 透過力が強い。
α線は「近距離で大暴れするが、すぐに止まる格闘家」、γ線は「静かにすり抜けていく忍者」とイメージすると覚えやすいでしょう。
✕ 誤:α線は紙で止まるから人体に無害
○ 正:α線は外部被曝では皮膚で止まるが、放射性物質を体内に取り込んだ場合(内部被曝)は、局所的に強い電離作用を及ぼすため非常に危険
透過力が弱いことと安全であることは同義ではありません。被曝の形態によって危険性は大きく変わります。
放射線は電離作用を利用して検出されます。代表的な検出器を紹介します。
GM計数管(ガイガー=ミュラー計数管):放射線が気体を電離し、生じた電流パルスを数える。放射線の有無と数を測定できる。
霧箱(ウィルソンの霧箱):過飽和蒸気中で放射線の通った跡が霧の筋として可視化される。α線は太く短い直線、β線は細く曲がりくねった軌跡を描く。
シンチレーション検出器:放射線が蛍光物質に当たると発光する。この光を光電子増倍管で電気信号に変換して測定する。
放射線を磁場や電場の中に通すと、電荷をもつα線とβ線は力を受けて曲がりますが、電荷をもたないγ線はまっすぐ進みます。 この違いを利用して、放射線の種類を識別できます。
一様な磁場 $B$ の中で荷電粒子が運動すると、ローレンツ力を受けて円運動をします。 曲がる向きは電荷の符号で、曲率半径は運動量と電荷の比で決まります。
$$r = \frac{mv}{qB}$$
α線は正電荷をもつので、フレミングの左手の法則に従ってある方向に曲がります。 β線は負電荷なので、α線とは反対方向に曲がります。
さらに、α線は質量が大きいため曲率半径が大きく(ゆるやかに曲がる)、β線は質量が小さいため曲率半径が小さい(急に曲がる)傾向があります。
放射線を磁場中に通すと、3つの成分に分かれます。
α線:正電荷 → 一方にゆるやかに曲がる(質量大)
β線:負電荷 → 反対方向に大きく曲がる(質量小)
γ線:電荷なし → 直進する
この3本の分離パターンは入試で頻出です。「曲がる向き」と「曲がる度合い」の両方を正しく描けるようにしましょう。
一様な電場中では、α線は電場と同じ向きに偏向し、β線は電場と逆向きに偏向します。 γ線は電荷をもたないので偏向しません。
✕ 誤:α線は電荷 $+2e$ が大きいから、磁場中で大きく曲がる
○ 正:α線は質量が大きいため、$r = \frac{mv}{qB}$ の分子 $mv$ が大きく、結果として曲率半径は大きい(ゆるやかに曲がる)
電荷が大きいことは曲がりやすさに寄与しますが、それ以上に質量が大きいことが支配的です。 α線の方がβ線よりもゆるやかに曲がることを覚えておきましょう。
私たちは日常的に自然放射線を浴びています。宇宙線(宇宙から降り注ぐ高エネルギー粒子)、大地の放射性元素(カリウム40、ウラン、トリウムなど)、食物中の放射性物質(${}^{40}\text{K}$ など)、大気中のラドンなどが主な線源です。
日本での自然放射線による年間被曝量は平均約 $2.1\,\text{mSv}$(ミリシーベルト)です。 人工放射線には医療(X線撮影、CT、放射線治療)や原子力発電に伴うものがあります。
放射線の基本を押さえたところで、今後の学習とのつながりを確認しましょう。
Q1. α線の正体は何ですか。電荷と質量数を含めて答えてください。
Q2. 3種類の放射線のうち、透過力が最も強いのはどれですか。
Q3. 磁場中でα線とβ線が互いに反対方向に曲がるのはなぜですか。
Q4. β崩壊で放出される電子は、原子核の周りの軌道電子ですか。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
α線・β線・γ線について、次の問いに答えよ。
(1) 紙1枚で遮ることができるのはどの放射線か。
(2) 電荷をもたない放射線はどれか。
(3) 電離作用が最も強いのはどの放射線か。
(1) α線
(2) γ線
(3) α線
(1) α線はヘリウム原子核で質量が大きく電離作用が強いため、紙1枚で止まります。
(2) γ線は電磁波なので電荷も質量もありません。
(3) α線は質量・電荷ともに最大であるため、単位距離あたりの電離数が最も多くなります。
放射性物質から放出されるα線・β線・γ線を、紙面に垂直で手前向きの一様な磁場中に通した。放射線は紙面上を右向きに進んでいるとする。次の問いに答えよ。
(1) α線はどちらの向き(上向きまたは下向き)に曲がるか。理由とともに答えよ。
(2) β線の曲がる向きを答えよ。
(3) α線とβ線で、曲率半径が大きい(ゆるやかに曲がる)のはどちらか。理由を述べよ。
(1) 上向き
(2) 下向き
(3) α線の方が曲率半径が大きい
(1) α線は正電荷 $+2e$ をもつ。フレミングの左手の法則で、速度(右向き)と磁場(手前向き)から、力は上向きになる。
(2) β線は負電荷 $-e$ をもつので、力の向きは正電荷の場合と逆になり、下向きに曲がる。
(3) 曲率半径 $r = \frac{mv}{qB}$ において、α粒子は質量 $m$ が電子の約7000倍と大きいため、運動量 $mv$ が大きい。したがって曲率半径が大きく、ゆるやかに曲がる。
磁場をかけた霧箱の中で、ある放射性物質からの放射線の軌跡を観察した。軌跡Aは太く短い直線状で、軌跡Bは細く長く曲がりくねっていた。次の問いに答えよ。
(1) 軌跡Aと軌跡Bは、それぞれα線・β線のどちらによるものか。理由とともに答えよ。
(2) 軌跡Aが太い理由を、電離作用の観点から説明せよ。
(3) 軌跡Bが曲がりくねっている理由を説明せよ。
(1) 軌跡A:α線、軌跡B:β線
(2) α線は電離作用が強く、飛跡に沿って大量のイオン対を生成するため、多くの霧粒が凝結して太い軌跡になる。
(3) β線(電子)は質量が小さいため、空気中の原子と衝突するたびに大きく方向が変わるから。
(1) α線は質量が大きく電離作用が強いため、太く短い軌跡を残す。β線は質量が小さく電離作用は弱いが、飛程が長いため細く長い軌跡になる。
(2) 霧箱では、放射線が生成したイオンを核として過飽和蒸気が凝結し、飛跡が可視化される。α線は単位長さあたりの電離数(比電離)が大きいため、多数の凝結核が生じ、太い軌跡となる。
(3) β線の正体は電子であり、質量が空気中の原子に比べて非常に小さい。そのため1回の衝突で運動方向が大きく変化し、曲がりくねった軌跡になる。α線は質量が大きいため衝突しても方向がほとんど変わらず、直線的に進む。