スマートフォンの充電、部屋の照明、電子レンジ ── 私たちの生活は電気なしには成り立ちません。
これらの機器はすべて「電流が流れる」ことで動いています。
では、電流はどのように流れ、何がその大きさを決めるのでしょうか。
19世紀にゲオルク・オームが発見した「オームの法則」は、電流・電圧・抵抗という3つの量の間にある、
驚くほどシンプルで美しい関係を教えてくれます。
この法則は、電気回路のあらゆる問題を解くための最も基本的な道具です。
前の記事で、物体が帯電するのは電子の過不足であることを学びました。 静電気が「電荷がたまった状態」だとすれば、電流は「電荷が流れている状態」です。
川の水が高いところから低いところへ流れるように、電荷も高い電位から低い電位へと流れます。 導線(金属線)の中では、自由電子が一斉に動くことで電流が生じます。
電流の大きさは、ある断面を単位時間あたりに通過する電荷の量で定義されます。
$$I = \frac{Q}{t}$$
$1\,\text{A}$(アンペア)の電流が流れているとき、導線の断面を1秒間に約 $6.25 \times 10^{18}$ 個もの電子が通過しています。 想像を絶する数の電子が一斉に動いているのです。
ここで1つ、歴史的な理由から生じた約束事があります。 電流の向きは「正の電荷が流れる向き」と定義されています。 しかし実際に導線の中を移動しているのは負の電荷をもつ電子です。 つまり、電流の向きと電子の移動する向きは逆なのです。
電流は電池の正極($+$)から外部回路を通って負極($-$)へ向かうと定義されています。 しかし、電子は負極($-$)から正極($+$)へ向かって流れています。
✕ 誤:「電子は電池の正極から出て負極に戻る」
○ 正:「電子は電池の負極から出て正極に戻る。電流の向きはその逆」
これは、電流の概念が確立された時代に正の電荷が流れると考えられていたためです。 慣習的にこの向きが維持されています。
電流 $I = \dfrac{Q}{t}$ という定義式は、「電荷の流れの速さ」を表しています。 水道管を流れる水に例えると、蛇口をひねって多くの水が流れるほど「流量が大きい」のと同じです。
電流が大きいということは、より多くの電荷がより短い時間で通過しているということです。 電流の単位アンペア(A)は、クーロン毎秒(C/s)と同じです。
電流が「電荷の流れ」だとすれば、その流れを引き起こすものは何でしょうか。 水が高いところから低いところへ流れるには「高さの差」が必要であるように、 電荷を流すには電圧(電位差)が必要です。
電圧を理解するために、水の流れに例えてみましょう。
高い水槽と低い水槽をパイプでつなぐと、水位の差(高さの差)によって水が流れます。 水位の差が大きいほど勢いよく流れ、パイプが細いほど流れにくくなります。 電気回路もまったく同じです。
電圧の単位はボルト($\text{V}$)です。 電池やコンセントが「$1.5\,\text{V}$」や「$100\,\text{V}$」と表示されているのは、 その電源が生み出す電位差の大きさを示しています。
電圧とは、$1\,\text{C}$ の正電荷を低電位から高電位へ運ぶのに必要な仕事として定義されます。
$$V = \frac{W}{Q}$$
この定義は、電圧が電荷1つあたりのエネルギーの差であることを意味しています。 電池は化学エネルギーを使って電荷を「持ち上げ」、回路に電圧を与えています。
電圧がなければ電流は流れません。ちょうど水位差がなければ水が流れないのと同じです。
電池は内部の化学反応によって電位差を維持し続けます。つまり、電池は電荷にエネルギーを与えるポンプのような役割を果たしています。
「電圧が大きいと電流も大きい」は正しいですが、電圧と電流は別の物理量です。
✕ 誤:「$100\,\text{V}$ のコンセントだから $100\,\text{A}$ の電流が流れる」
○ 正:「$100\,\text{V}$ のコンセントに接続する抵抗(負荷)の大きさによって電流が決まる」
電圧は「原因」、電流は「結果」です。同じ電圧でも、抵抗が大きければ電流は小さくなります。
導線に電圧をかけると電流が流れますが、その流れやすさは物質によって異なります。 電流の流れにくさを表す量が電気抵抗(略して抵抗)です。
水道管に例えると、抵抗は「管の細さ」に相当します。 管が細いほど水は流れにくく、管が太いほど流れやすい ── これと同じように、 抵抗が大きいほど電流は流れにくくなります。
抵抗の単位はオーム(記号:$\Omega$)です。 $1\,\Omega$ は「$1\,\text{V}$ の電圧をかけたとき $1\,\text{A}$ の電流が流れる抵抗」です。
物質は電気の流れやすさによって大きく分類されます。
| 分類 | 特徴 | 代表例 |
|---|---|---|
| 導体 | 自由電子が多く、電流がよく流れる(抵抗が小さい) | 銅、アルミニウム、鉄、金 |
| 絶縁体(不導体) | 自由電子がほとんどなく、電流が流れない(抵抗が非常に大きい) | ゴム、ガラス、プラスチック |
| 半導体 | 導体と絶縁体の中間的性質 | シリコン、ゲルマニウム |
導体の抵抗は、その材質、長さ、断面積によって決まります。
$$R = \rho \frac{L}{S}$$
この式から、次のことが分かります。
抵抗が「大きい」ということは、電流が「流れにくい」ということです。電流は小さくなります。
✕ 誤:「抵抗が大きいので電流がたくさん流れる」
○ 正:「抵抗が大きいので電流は小さくなる(同じ電圧の場合)」
一部の物質は、極低温に冷却すると電気抵抗が完全にゼロになります。 この現象を超伝導といいます。1911年にカマリング・オンネスが水銀で発見しました。
超伝導状態では電流が抵抗を受けないため、一度流し始めた電流は半永久的に流れ続けます。 MRI(磁気共鳴画像装置)やリニアモーターカーの超伝導磁石に応用されています。
いよいよこの記事の主役、オームの法則です。 1827年、ドイツの物理学者ゲオルク・ジーモン・オームは、 導体に流れる電流が電圧に比例し、抵抗に反比例することを実験で確かめました。
$$V = IR$$
この式の意味を水流モデルで整理しましょう。
$V = IR$ を「$V$ が $I$ と $R$ で決まる」と読むと混乱します。 物理的な因果関係は次の通りです。
原因:電圧 $V$(電池が電荷にエネルギーを与える)
条件:抵抗 $R$(回路の性質、電流の流れにくさ)
結果:電流 $I = \dfrac{V}{R}$(原因と条件から決まる)
電圧という「原因」が、抵抗という「条件」のもとで、電流という「結果」を生み出します。
オームの法則 $V = IR$ は、3つの量のうち2つが分かれば残り1つが求まる、非常に便利な式です。
| 求めたい量 | 使う式 | 具体例 |
|---|---|---|
| 電圧 $V$ | $V = IR$ | $I = 2\,\text{A}$、$R = 5\,\Omega$ → $V = 2 \times 5 = 10\,\text{V}$ |
| 電流 $I$ | $I = \dfrac{V}{R}$ | $V = 12\,\text{V}$、$R = 4\,\Omega$ → $I = \dfrac{12}{4} = 3\,\text{A}$ |
| 抵抗 $R$ | $R = \dfrac{V}{I}$ | $V = 6\,\text{V}$、$I = 0.5\,\text{A}$ → $R = \dfrac{6}{0.5} = 12\,\Omega$ |
$V = IR$ の単位を確認します。
$$[\text{V}] = [\text{A}] \times [\Omega]$$
$1\,\text{V} = 1\,\text{A} \times 1\,\Omega$ が成り立ちます。 つまり $1\,\Omega = 1\,\text{V}/\text{A}$ であり、「$1\,\text{V}$ あたり $1\,\text{A}$ 流れる」抵抗が $1\,\Omega$ です。
オームの法則を使うとき、$V$ がどの部分の電圧かを明確にする必要があります。
✕ 誤:「電池の電圧が $12\,\text{V}$ だから、どの抵抗にも $12\,\text{V}$ かかっている」
○ 正:「各抵抗にかかる電圧は、その抵抗の大きさと流れる電流に応じて決まる。直列回路では電圧は分配される」
オームの法則は「着目している部分」に対して成り立ちます。 $V$ はその部分の両端の電位差、$I$ はその部分を流れる電流、$R$ はその部分の抵抗です。
オームの法則は、回路の特定の抵抗に対して使うことも、回路全体に対して使うこともできます。
1つの抵抗に対して:$V_R = IR$($V_R$ はその抵抗の両端の電圧)
回路全体に対して:$V_{\text{total}} = I \times R_{\text{total}}$($R_{\text{total}}$ は合成抵抗)
どの範囲に適用するかを常に意識することが、回路問題を解く鍵です。
オームの法則は金属の導体では非常によく成り立ちますが、すべての物質で成り立つわけではありません。
ダイオードは一方向にしか電流を流さない素子で、電圧と電流の関係は直線(比例)になりません。 電球のフィラメントも、温度上昇に伴って抵抗が変化するため、厳密には比例関係が成り立ちません。
オームの法則に従う素子を「オーミック(線形)素子」、従わない素子を「非オーミック(非線形)素子」と呼びます。 物理基礎では、特に断りがなければ抵抗はオーミックとして扱います。
オームの法則は、電気回路の問題を解くための最も基本的なツールです。 次の記事以降では、この法則を直列・並列回路に応用していきます。
Q1. $3\,\text{A}$ の電流が流れている導線の断面を、$10\,\text{s}$ 間に通過する電荷の量を求めてください。
Q2. $6\,\text{V}$ の電池に $3\,\Omega$ の抵抗をつないだとき、流れる電流はいくらですか。
Q3. ある抵抗に $4\,\text{A}$ の電流が流れており、抵抗の両端の電圧は $20\,\text{V}$ です。抵抗値を求めてください。
Q4. 電流の向きと電子の移動方向の関係を説明してください。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
$12\,\text{V}$ の電池に抵抗をつないだところ、$0.50\,\text{A}$ の電流が流れた。次の問いに答えよ。
(1) 抵抗の値を求めよ。
(2) この回路に流れる電流を $0.30\,\text{A}$ にしたい。抵抗の値をいくらにすればよいか。
(1) $24\,\Omega$
(2) $40\,\Omega$
方針:オームの法則 $V = IR$ を変形して使う。
(1) $R = \dfrac{V}{I} = \dfrac{12}{0.50} = 24\,\Omega$
(2) $R = \dfrac{V}{I} = \dfrac{12}{0.30} = 40\,\Omega$
電流を小さくするには、抵抗を大きくすればよいことが確認できます。
ある導線に $2.0\,\text{A}$ の電流が $5.0$ 分間流れた。次の問いに答えよ。
(1) この間に導線の断面を通過した電荷の総量を求めよ。
(2) 通過した電子の個数を求めよ。ただし、電気素量 $e = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{C}$ とする。
(1) $600\,\text{C}$
(2) $3.75 \times 10^{21}$ 個
方針:時間を秒に変換してから電流の定義式を使う。電子の個数は電荷を電気素量で割る。
(1) $t = 5.0\,\text{min} = 5.0 \times 60 = 300\,\text{s}$
$Q = It = 2.0 \times 300 = 600\,\text{C}$
(2) 電子1個の電荷の大きさは $e = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{C}$ なので、
$n = \dfrac{Q}{e} = \dfrac{600}{1.6 \times 10^{-19}} = 3.75 \times 10^{21}$ 個
断面積 $S = 1.0 \times 10^{-6}\,\text{m}^2$、長さ $L = 2.0\,\text{m}$ の銅線がある。銅の抵抗率を $\rho = 1.7 \times 10^{-8}\,\Omega\cdot\text{m}$ として、次の問いに答えよ。
(1) この銅線の抵抗を求めよ。
(2) この銅線に $3.0\,\text{V}$ の電圧をかけたとき、流れる電流を求めよ。
(3) 同じ材質で、長さが $2$ 倍、断面積が $\dfrac{1}{2}$ 倍の銅線に同じ電圧をかけたとき、流れる電流は(2)の何倍になるか。
(1) $3.4 \times 10^{-2}\,\Omega$
(2) $88\,\text{A}$(有効数字2桁で $88\,\text{A}$)
(3) $\dfrac{1}{4}$ 倍
方針:$R = \rho\dfrac{L}{S}$ で抵抗を求め、オームの法則で電流を計算する。(3) は抵抗の式の比例関係を考える。
(1) $R = \rho\dfrac{L}{S} = 1.7 \times 10^{-8} \times \dfrac{2.0}{1.0 \times 10^{-6}} = 3.4 \times 10^{-2}\,\Omega$
(2) $I = \dfrac{V}{R} = \dfrac{3.0}{3.4 \times 10^{-2}} = 88\,\text{A}$
(3) 長さが $2$ 倍になると $R$ は $2$ 倍に、断面積が $\dfrac{1}{2}$ 倍になると $R$ は $2$ 倍になります。合わせて $R$ は $4$ 倍になります。
オームの法則 $I = \dfrac{V}{R}$ より、$R$ が $4$ 倍になると $I$ は $\dfrac{1}{4}$ 倍になります。