第20章 電気の利用

ジュール熱と電力
─ P=VI=I²R(消費電力の計算)

電気ストーブ、ドライヤー、電気ケトル——これらはすべて電気エネルギーを熱に変換する道具です。
電流が抵抗を流れると熱が発生します。これをジュール熱と呼びます。
「1秒あたりにどれだけの電気エネルギーが消費されるか」を表す量が電力です。電力の計算は、電気回路の問題でも日常生活でも欠かせません。

1ジュール熱とは

電流が抵抗を流れると、電子が抵抗内の原子と衝突し、運動エネルギーが熱エネルギーに変わります。 この熱をジュール熱(Joule heat)といいます。

ジュール熱(ジュールの法則)

抵抗 $R\,[\Omega]$ に電流 $I\,[\text{A}]$ が時間 $t\,[\text{s}]$ 流れたとき、発生する熱量 $Q\,[\text{J}]$ は

$$Q = I^2 R t = VIt = \frac{V^2}{R}\,t$$

※ 3つの形はオームの法則 $V = IR$ で相互に変換できる。問題で与えられた量に合わせて使い分ける。
ここが本質:ジュール熱の正体

ジュール熱は、電場から電荷が得たエネルギーが、抵抗内で熱に変わったものです。

電荷 $q$ が電位差 $V$ を通過すると $W = qV$ のエネルギーを失います。1秒あたりの電荷は $I$ なので、1秒あたりに失うエネルギーは $IV$。これが電力 $P$ です。

2電力の3つの表現

電力(Power)$P$ は、単位時間(1秒)あたりに消費される電気エネルギーです。単位はワット $[\text{W}]$ です。

電力の公式

$$P = VI = I^2 R = \frac{V^2}{R}$$

※ $1\,\text{W} = 1\,\text{V} \times 1\,\text{A} = 1\,\text{J/s}$。オームの法則 $V = IR$ を代入すれば3つの形が得られる。

3つの式の使い分け

公式使う場面
$P = VI$電圧と電流の両方がわかっているとき
$P = I^2R$電流と抵抗がわかっているとき(直列回路で便利)
$P = \dfrac{V^2}{R}$電圧と抵抗がわかっているとき(並列回路で便利)
落とし穴:$P = I^2R$ と $P = V^2/R$ の混同

直列回路では電流 $I$ が共通 → $P = I^2R$ から「抵抗が大きいほど消費電力が大きい」

並列回路では電圧 $V$ が共通 → $P = V^2/R$ から「抵抗が小さいほど消費電力が大きい」

× 誤:「抵抗が大きいほど電力が大きい」と一概に言う

○ 正:直列か並列かによって結論が逆になる。何が共通かを確認してから公式を選ぶ

電力の公式の導出

電位差 $V$ の区間を電流 $I$ が流れると、時間 $t$ に運ばれる電荷は $q = It$。

消費エネルギー $W = qV = VIt$。

電力は $P = \dfrac{W}{t} = VI$。

$V = IR$ を代入すれば $P = I^2R$、$I = V/R$ を代入すれば $P = V^2/R$ が得られる。

3直列・並列での電力配分

回路全体で消費される電力は、各抵抗で消費される電力の和に等しくなります。

直列回路の場合

直列では電流 $I$ が共通なので、$P = I^2R$ を使うと便利です。 各抵抗の消費電力の比は、抵抗値の比に等しくなります。

$$P_1 : P_2 = I^2 R_1 : I^2 R_2 = R_1 : R_2$$

並列回路の場合

並列では電圧 $V$ が共通なので、$P = V^2/R$ を使うと便利です。 各抵抗の消費電力の比は、抵抗値の逆比になります。

$$P_1 : P_2 = \frac{V^2}{R_1} : \frac{V^2}{R_2} = \frac{1}{R_1} : \frac{1}{R_2} = R_2 : R_1$$

ここが本質:電力の配分は接続方法で決まる

直列では抵抗が大きいほど電力が大きい(電圧を多く受け持つため)。

並列では抵抗が小さいほど電力が大きい(電流を多く流すため)。

この逆転を理解するには、「何が共通か」を常に意識することが大切です。

4定格と安全な使い方

電気製品には定格電圧定格電力(または定格電流)が表示されています。 「100V ─ 600W」と書かれた電気ケトルは、100V の電圧をかけたときに 600W を消費するという意味です。

定格から抵抗値を求める

定格電圧 $V_0$、定格電力 $P_0$ の製品の抵抗は

$$R = \frac{V_0^2}{P_0}$$

例:100V ─ 600W の電気ケトル → $R = \dfrac{100^2}{600} \approx 16.7\,\Omega$

深掘り:定格と異なる電圧で使うとどうなるか

抵抗 $R$ は温度がほぼ一定なら変わりません。定格 100V の製品に 80V しかかけなければ、消費電力は $P = \dfrac{80^2}{R}$ となり定格電力より小さくなります。

逆に定格を超える電圧をかけると、消費電力が増加し発熱量が過大になります。これが電気火災の原因の一つです。

落とし穴:ワット数が大きい=抵抗が大きいとは限らない

家庭のコンセント(100V)に並列に接続する場合を考えましょう。

× 誤:600W の電気ケトルは 100W の電球より抵抗が大きい

○ 正:$P = V^2/R$ より、同じ電圧なら消費電力が大きいほど抵抗は小さい

600W → $R \approx 16.7\,\Omega$、100W → $R = 100\,\Omega$。ケトルの方が抵抗は小さいのです。

5この章を俯瞰する

ジュール熱と電力は、エネルギー保存則を電気回路に適用したものです。

つながりマップ

  • ← E-1-2 オームの法則:$V = IR$ を使って電力の3形態を導出した。
  • ← E-1-3 直列・並列接続:合成抵抗がわかれば回路全体の電力が計算できる。
  • → E-1-5 電力量:電力 $\times$ 時間=電力量(電気エネルギー)。kWh の計算に繋がる。
  • → T-1-2 熱量:ジュール熱は熱力学の熱量と同じ単位 [J]。電気エネルギーと熱の変換を橋渡しする。

📋まとめ

  • ジュール熱:$Q = I^2Rt = VIt = \dfrac{V^2}{R}t$(電流が抵抗を流れると熱が発生)
  • 電力:$P = VI = I^2R = \dfrac{V^2}{R}$(1秒あたりの消費エネルギー、単位 W)
  • 直列では $P = I^2R$ が便利(抵抗大 → 電力大)
  • 並列では $P = V^2/R$ が便利(抵抗小 → 電力大)
  • 定格から抵抗値を求める:$R = V_0^2 / P_0$

確認テスト

Q1. 電力の公式を3つの形で書いてください。

▶ クリックして解答を表示$P = VI = I^2R = \dfrac{V^2}{R}$

Q2. $5\,\Omega$ の抵抗に $2\,\text{A}$ の電流が流れるとき、消費電力はいくらか。

▶ クリックして解答を表示$P = I^2R = 2^2 \times 5 = 20\,\text{W}$

Q3. 直列回路で、抵抗が大きい方と小さい方、どちらの消費電力が大きいか。

▶ クリックして解答を表示抵抗が大きい方。直列では電流が共通なので $P = I^2R$ より、$R$ が大きいほど $P$ が大きい。

Q4. 「100V ─ 500W」の電熱器の抵抗値はいくらか。

▶ クリックして解答を表示$R = \dfrac{V^2}{P} = \dfrac{100^2}{500} = 20\,\Omega$

8入試問題演習

ジュール熱と電力を入試形式で確認しましょう。

A 基礎レベル

1-4-1 A 基礎 ジュール熱計算

$10\,\Omega$ の電熱線に $3.0\,\text{A}$ の電流を $5$ 分間流した。発生するジュール熱を求めよ。

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解答

$Q = 2.7 \times 10^4\,\text{J}$($27\,\text{kJ}$)

解説

$t = 5 \times 60 = 300\,\text{s}$

$Q = I^2Rt = 3.0^2 \times 10 \times 300 = 9 \times 3000 = 27000\,\text{J} = 2.7 \times 10^4\,\text{J}$

1-4-2 A 基礎 電力計算

100V ─ 800W のドライヤーについて、次の問いに答えよ。

(1) 定格電圧で使用したとき、流れる電流を求めよ。

(2) このドライヤーの抵抗値を求めよ。

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解答

(1) $I = 8.0\,\text{A}$

(2) $R = 12.5\,\Omega$

解説

(1) $P = VI$ より $I = \dfrac{P}{V} = \dfrac{800}{100} = 8.0\,\text{A}$

(2) $R = \dfrac{V^2}{P} = \dfrac{100^2}{800} = \dfrac{10000}{800} = 12.5\,\Omega$

B 発展レベル

1-4-3 B 発展 直列・並列電力比較

$2\,\Omega$ と $3\,\Omega$ の抵抗がある。これらを次の2通りの方法で $10\,\text{V}$ の電源に接続する。

(1) 直列に接続したとき、各抵抗の消費電力をそれぞれ求めよ。

(2) 並列に接続したとき、各抵抗の消費電力をそれぞれ求めよ。

(3) (1)(2)で「抵抗が大きい方の消費電力」が異なる理由を述べよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $P_2 = 8\,\text{W}$、$P_3 = 12\,\text{W}$

(2) $P_2 = 50\,\text{W}$、$P_3 \approx 33\,\text{W}$

(3) 下記解説参照

解説

(1) 直列の合成抵抗 $R = 5\,\Omega$、$I = 10/5 = 2\,\text{A}$

$P_2 = I^2 \times 2 = 4 \times 2 = 8\,\text{W}$、$P_3 = I^2 \times 3 = 4 \times 3 = 12\,\text{W}$

(2) 並列では各抵抗に 10V がかかる。$P_2 = 10^2/2 = 50\,\text{W}$、$P_3 = 10^2/3 \approx 33\,\text{W}$

(3) 直列では電流が共通なので $P = I^2R$ より抵抗が大きいほど電力が大きい。並列では電圧が共通なので $P = V^2/R$ より抵抗が小さいほど電力が大きい。「何が共通か」によって電力と抵抗の関係が逆転する。

採点ポイント
  • 直列・並列それぞれの電力を正しく計算する(各3点)
  • 理由を「共通な量」に着目して説明する(4点)
1-4-4 B 発展 水の加熱計算

$20\,\Omega$ の電熱線を $100\,\text{V}$ の電源につなぎ、$500\,\text{g}$ の水(比熱 $4.2\,\text{J/(g}\cdot\text{K)}$)を加熱する。水の温度を $20°\text{C}$ から $100°\text{C}$ にするのに必要な時間を求めよ。ただし、熱の損失はないものとする。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$t = 336\,\text{s}$(約 5 分 36 秒)

解説

必要な熱量:$Q = mc\Delta T = 500 \times 4.2 \times (100 - 20) = 500 \times 4.2 \times 80 = 168000\,\text{J}$

電力:$P = \dfrac{V^2}{R} = \dfrac{100^2}{20} = 500\,\text{W}$

$Q = Pt$ より $t = \dfrac{Q}{P} = \dfrac{168000}{500} = 336\,\text{s}$

採点ポイント
  • 必要な熱量を正しく計算する(3点)
  • 電力を正しく求める(2点)
  • $Q = Pt$ から時間を求める(3点)

C 応用レベル

1-4-5 C 応用 内部抵抗最大電力

起電力 $E = 12\,\text{V}$、内部抵抗 $r = 2\,\Omega$ の電池に外部抵抗 $R$ を接続する。外部抵抗 $R$ で消費される電力が最大になるときの $R$ の値と、そのときの最大電力を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$R = 2\,\Omega$($R = r$ のとき最大)、最大電力 $P_{\max} = 18\,\text{W}$

解説

回路の電流:$I = \dfrac{E}{R + r}$

外部抵抗での電力:$P = I^2R = \dfrac{E^2 R}{(R + r)^2}$

$P$ を最大にする $R$ を求める。相加相乗平均の不等式を用いる。

$\dfrac{(R + r)^2}{R} = R + 2r + \dfrac{r^2}{R} \geq 2r + 2\sqrt{R \cdot \dfrac{r^2}{R}} = 2r + 2r = 4r$

等号成立条件は $R = r^2/R$、すなわち $R = r$。

$R = r = 2\,\Omega$ のとき、$P_{\max} = \dfrac{E^2}{4r} = \dfrac{144}{8} = 18\,\text{W}$

採点ポイント
  • 外部抵抗の電力を $R$ の関数として表す(3点)
  • $R = r$ で最大となることを示す(4点)
  • 最大電力を正しく求める(3点)
1-4-6 C 応用 定格論述

100V ─ 40W と 100V ─ 60W の白熱電球を直列に接続し、100V の電源につないだ。

(1) 各電球の抵抗値を求めよ。

(2) 各電球の消費電力を求めよ。

(3) どちらの電球がより明るく光るか、理由とともに答えよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $R_{40} = 250\,\Omega$、$R_{60} \approx 167\,\Omega$

(2) $P_{40} \approx 14.4\,\text{W}$、$P_{60} \approx 9.6\,\text{W}$

(3) 40W の電球がより明るい

解説

(1) $R_{40} = \dfrac{100^2}{40} = 250\,\Omega$、$R_{60} = \dfrac{100^2}{60} \approx 167\,\Omega$

(2) 合成抵抗 $R = 250 + 167 = 417\,\Omega$、$I = \dfrac{100}{417} \approx 0.240\,\text{A}$

$P_{40} = I^2 \times 250 \approx 14.4\,\text{W}$、$P_{60} = I^2 \times 167 \approx 9.6\,\text{W}$

(3) 直列接続では電流が共通なので $P = I^2R$ より抵抗が大きい 40W の電球($250\,\Omega$)の方が消費電力が大きく、より明るく光る。定格ワット数が小さい電球ほど抵抗が大きいため、直列にすると逆転が起こる。

採点ポイント
  • 各電球の抵抗値を正しく求める(各2点)
  • 直列での消費電力を正しく求める(各2点)
  • 逆転の理由を論理的に説明する(2点)