冬の乾燥した日、セーターを脱ぐとパチパチと音がし、暗がりでは小さな火花さえ見えます。
何千年も前から人類が知っていたこの「静電気」の正体を、初めて定量的に解き明かしたのがクーロンの法則です。
電荷の間にはたらく力の大きさと向きを数式で表すこの法則は、電磁気学の出発点であり、
万有引力の法則と驚くほどよく似た構造をもっています。
物体が「帯電する」とは、その物体が電荷をもつことを意味します。 電荷には正電荷(プラス)と負電荷(マイナス)の2種類があり、 同じ種類の電荷どうしは反発し、異なる種類の電荷どうしは引き合います。
電荷の量を表す単位はクーロン(記号:$\text{C}$)です。 電子1個がもつ電荷(電気素量)は $e = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{C}$ であり、 $1\,\text{C}$ という量は日常的な静電気としては途方もなく大きな電荷量です。
物体が帯電するのは、電子が物体間を移動するためです。 電子を失った物体は正に帯電し、電子を受け取った物体は負に帯電します。 このとき、電荷保存則が成り立ちます。すなわち、孤立した系全体の電荷の総量は常に一定です。
帯電とは電子の移動です。プラスの電荷が新たに作られるのではなく、電子が抜けた分だけ正に帯電します。 電荷保存則は自然界の最も基本的な法則の一つであり、あらゆる電磁気現象の土台です。
固体中で実際に移動するのは電子(負電荷)です。 正電荷(原子核中の陽子)は原子に固定されており、通常は移動しません。
✕ 誤:「ガラス棒が正に帯電したのは、正電荷が集まったから」
○ 正:「ガラス棒が正に帯電したのは、電子が絹に移動して失われたから」
1785年、フランスの物理学者シャルル・ド・クーロンは、ねじり秤(ばかり)を用いた精密な実験によって、 帯電した2つの小さな球の間にはたらく力を測定しました。 その結果は、電荷の間にはたらく力に関する美しい法則として結実します。
真空中で距離 $r\,[\text{m}]$ だけ離れた2つの点電荷 $q_1\,[\text{C}]$、$q_2\,[\text{C}]$ の間にはたらく静電気力(クーロン力)の大きさは、
$$F = k_0 \frac{|q_1||q_2|}{r^2}$$
ここで $k_0 = 9.0 \times 10^9\,\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{C}^2$ はクーロン定数です。
この法則が教えてくれることは、次の2点に集約されます。
力が距離の2乗に反比例するのは、3次元空間における球の表面積が $4\pi r^2$ に比例することと深く関係しています。 ある点から発せられた「力の影響」が球面状に広がると考えれば、 単位面積あたりの強さは表面積に反比例、すなわち $r^2$ に反比例するのです。
万有引力の法則もまったく同じ逆2乗則に従います。これは偶然ではなく、3次元空間の幾何学的性質に由来しています。
クーロンの法則で力の大きさを求めるときは、電荷の絶対値を使います。
✕ 誤:$q_1 = +3\,\mu\text{C}$、$q_2 = -2\,\mu\text{C}$ のとき $F = k_0 \dfrac{(+3)(-2)}{r^2}$ と代入して負の値を得る
○ 正:$F = k_0 \dfrac{|q_1||q_2|}{r^2} = k_0 \dfrac{3 \times 2}{r^2}$ で大きさを求め、 引力か斥力かは符号から別途判断する
$r$ は2つの点電荷間の距離です。球体の場合は、球の中心間の距離を使います。
✕ 誤:半径 $R$ の帯電球の表面間の距離 $d$ をそのまま $r$ として使う
○ 正:$r = 2R + d$(中心間距離)を使う。球が一様に帯電していれば、全電荷が中心に集まっているとみなせる
クーロン定数 $k_0$ は、もう一つの基本定数である真空の誘電率 $\varepsilon_0$ を使って表すことができます。
$$k_0 = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}$$
ここで $\varepsilon_0 = 8.85 \times 10^{-12}\,\text{C}^2/(\text{N}\cdot\text{m}^2)$ は真空の誘電率です。
したがって、クーロンの法則は次のようにも書けます:
$$F = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\frac{|q_1||q_2|}{r^2}$$
真空中ではなく、物質(誘電体)中に電荷がある場合、クーロン力は弱くなります。 誘電体の比誘電率(誘電率の比)を $\varepsilon_r$ とすると、
$$F = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0 \varepsilon_r}\frac{|q_1||q_2|}{r^2} = \frac{k_0}{\varepsilon_r}\frac{|q_1||q_2|}{r^2}$$
たとえば水の比誘電率は約80なので、水中ではクーロン力は真空中の約 $\frac{1}{80}$ になります。 これは、誘電体中の分子が電場に応じて分極し、外部電場を打ち消す方向にはたらくためです。
$k_0 = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}$ の $4\pi$ は、球の立体角(全方位に広がる角度の総和)が $4\pi\,\text{sr}$ であることに対応しています。 クーロン力のような球対称な力を扱うとき、$4\pi$ を明示しておくと、ガウスの法則などの公式がすっきりした形になります。
この書き方を「有理化」といい、SI単位系では有理化された表記が標準です。
3つ以上の電荷がある場合、ある電荷にはたらくクーロン力はどうなるでしょうか。 答えは単純です。各ペアのクーロン力をベクトルとして足し合わせるだけです。 これを重ね合わせの原理といいます。
たとえば、電荷 $q_1$ にはたらく力を求めるとき、$q_2$ からの力 $\vec{F}_{12}$ と $q_3$ からの力 $\vec{F}_{13}$ をベクトル合成すれば、 合力 $\vec{F}_1 = \vec{F}_{12} + \vec{F}_{13}$ が得られます。
$q_1$ と $q_2$ の間のクーロン力は、$q_3$ が存在するかどうかに一切影響されません。 他の電荷がどこにあっても、2つの電荷間の力は変わらないのです。 だからこそ、各ペアの力を独立に計算して合成するだけでよいのです。
まず最も簡単な場合として、3つの電荷 $q_1$、$q_2$、$q_3$ が一直線上に並んでいる状況を考えます。 一直線上であれば、力の方向は直線に沿った正の向きか負の向きかの2択です。 正の向きを定めて、各力の符号(向き)を正しくつけ、足し合わせます。
電荷が一直線上にない場合は、ベクトルの成分分解が必要になります。 各クーロン力を $x$ 成分と $y$ 成分に分解し、それぞれの成分を合計して合力ベクトルを求めます。
手順は次の通りです:
力はベクトル量です。2つのクーロン力を合成するとき、大きさを単純に足してはいけません。
✕ 誤:$F_1 = 3\,\text{N}$、$F_2 = 4\,\text{N}$ が直角に作用 → 合力 $= 7\,\text{N}$
○ 正:$F = \sqrt{3^2 + 4^2} = 5\,\text{N}$(ベクトルの合成)
クーロンの法則は、ニュートンの万有引力の法則と驚くほどよく似た数学的構造をもっています。 両者を並べて比較してみましょう。
| クーロンの法則 | 万有引力の法則 | |
|---|---|---|
| 式 | $F = k_0 \dfrac{|q_1||q_2|}{r^2}$ | $F = G\dfrac{m_1 m_2}{r^2}$ |
| 源 | 電荷 $q$ | 質量 $m$ |
| 定数 | $k_0 = 9.0 \times 10^9$ | $G = 6.67 \times 10^{-11}$ |
| 距離依存性 | 逆2乗則 | 逆2乗則 |
| 引力・斥力 | 引力も斥力もある | 引力のみ |
| 相対的な強さ | 非常に強い | 非常に弱い |
$k_0$ と $G$ の値を比べると、クーロン力は万有引力に比べて桁違いに強い力です。 たとえば、電子と陽子の間では、クーロン力は万有引力の約 $10^{39}$ 倍もの大きさになります。 日常スケールで電気力の効果が際立って見えるのはこのためです。
万有引力は圧倒的に弱い力ですが、天体の運動を支配しています。 その理由は、質量は常に正であるため、万有引力は常に引力として蓄積されるからです。 一方、正と負の電荷は打ち消し合うため、巨視的な物体は通常ほぼ電気的に中性です。
「弱くても常に同じ向き」の万有引力と、「強いが打ち消し合う」クーロン力。 両者の違いが、宇宙のスケールでの現象を決定づけています。
クーロンの法則は、電磁気学の土台です。この法則を出発点として、電場、電位、そしてさまざまな電気現象の理解が広がっていきます。
Q1. クーロンの法則において、2つの電荷間の距離を3倍にすると、力の大きさはもとの何倍になりますか。
Q2. $+2\,\mu\text{C}$ と $-3\,\mu\text{C}$ の電荷が $0.1\,\text{m}$ 離れて置かれています。力の大きさと種類(引力・斥力)を答えてください。
Q3. クーロン定数 $k_0$ と真空の誘電率 $\varepsilon_0$ の関係式を書いてください。
Q4. 比誘電率 $\varepsilon_r = 4$ の誘電体中では、真空中と比べてクーロン力は何倍になりますか。
Q5. 重ね合わせの原理とは何か、簡潔に説明してください。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
真空中に $+4.0\,\mu\text{C}$ と $+9.0\,\mu\text{C}$ の点電荷が $0.30\,\text{m}$ 離れて固定されている。次の問いに答えよ。$k_0 = 9.0 \times 10^9\,\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{C}^2$ とする。
(1) 2つの電荷間にはたらくクーロン力の大きさを求めよ。
(2) この力は引力か斥力か、理由とともに答えよ。
(3) 距離を $0.60\,\text{m}$ に変えたとき、力の大きさは (1) の何倍になるか。
(1) $3.6\,\text{N}$
(2) 斥力。両方とも正電荷(同符号)であるため。
(3) $\dfrac{1}{4}$ 倍
方針:クーロンの法則 $F = k_0 \dfrac{|q_1||q_2|}{r^2}$ に値を代入する。
(1) $F = 9.0 \times 10^9 \times \dfrac{4.0 \times 10^{-6} \times 9.0 \times 10^{-6}}{(0.30)^2}$ $= 9.0 \times 10^9 \times \dfrac{36 \times 10^{-12}}{0.09} = 9.0 \times 10^9 \times 4.0 \times 10^{-10} = 3.6\,\text{N}$
(2) 同符号の電荷どうしは反発するので斥力です。
(3) 距離が $0.30\,\text{m}$ から $0.60\,\text{m}$ に2倍になるので、力は $\dfrac{1}{2^2} = \dfrac{1}{4}$ 倍になります。
真空中の $x$ 軸上で、原点に $+Q\,[\text{C}]$ の電荷が、$x = d\,[\text{m}]$ に $+4Q\,[\text{C}]$ の電荷が固定されている。$x$ 軸上のある点に正の点電荷 $+q$ を置いたとき、$+q$ にはたらく静電気力の合力が $0$ になる位置 $x$ を求めよ。
$x = \dfrac{d}{3}$
方針:合力が $0$ になるには、$+Q$ からの斥力と $+4Q$ からの斥力が大きさが等しく逆向きでなければなりません。すべて同符号なので、つり合い点は2電荷の間($0 < x < d$)にあります。
$+q$ が位置 $x$($0 < x < d$)にあるとき、$+Q$ からの斥力($+x$ 方向)と $+4Q$ からの斥力($-x$ 方向)の大きさが等しいので:
$$k_0 \frac{Qq}{x^2} = k_0 \frac{4Qq}{(d - x)^2}$$
$k_0$, $q$ を消去すると $\dfrac{Q}{x^2} = \dfrac{4Q}{(d - x)^2}$
$(d - x)^2 = 4x^2$ → $d - x = 2x$($d - x > 0$ なので正の根をとる)
$d = 3x$ → $x = \dfrac{d}{3}$
真空中で、一辺の長さ $a = 0.10\,\text{m}$ の正三角形の各頂点 A, B, C にそれぞれ $q_A = +2.0\,\mu\text{C}$、$q_B = +2.0\,\mu\text{C}$、$q_C = -2.0\,\mu\text{C}$ の点電荷が固定されている。頂点 A の電荷にはたらく静電気力の合力の大きさと向きを求めよ。$k_0 = 9.0 \times 10^9\,\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{C}^2$ とする。
合力の大きさ:$3.6\,\text{N}$、向き:辺 BC に平行で C の方向
方針:A にはたらく力は、B からの斥力 $F_{AB}$ と C からの引力 $F_{AC}$ の2つ。それぞれの大きさは等しく、ベクトル合成する。
各力の大きさ:$F_{AB} = F_{AC} = k_0 \dfrac{|q_A||q_B|}{a^2} = 9.0 \times 10^9 \times \dfrac{(2.0 \times 10^{-6})^2}{(0.10)^2} = 3.6\,\text{N}$
$F_{AB}$ は B から A に向かう方向(斥力)、$F_{AC}$ は A から C に向かう方向(引力)。
正三角形なので、B→A方向と A→C方向のなす角は $60°$ です。
合力の大きさ:$F = \sqrt{F_{AB}^2 + F_{AC}^2 + 2F_{AB}F_{AC}\cos 60°}$ $= \sqrt{3.6^2 + 3.6^2 + 2 \times 3.6 \times 3.6 \times 0.5} = \sqrt{3 \times 3.6^2} = 3.6\sqrt{3} \approx 6.2\,\text{N}$
対称性より、合力は辺 BC に平行で C の側を向きます。
(注:対称性から考えると、$F_{AB}$ のBC方向成分は $F_{AB}\sin 30° = 1.8\,\text{N}$(C方向)、$F_{AC}$ のBC方向成分も $F_{AC}\sin 30° = 1.8\,\text{N}$(C方向)。BC垂直方向の成分は打ち消し合います。合力 $= 2 \times 3.6 \times \cos 30° = 3.6\sqrt{3} \approx 6.2\,\text{N}$)