水道の配管を思い浮かべてください。分岐点に流れ込む水の量と、そこから出ていく水の量は必ず等しいはずです。
水がどこかで消えたり、突然湧き出したりすることはありません。
電気回路でもまったく同じことが成り立ちます。回路の接続点(節点)に流れ込む電流の総和と、流れ出る電流の総和は常に等しい
──これがキルヒホッフの第一法則です。
電荷の保存という根本原理に基づくこの法則を、しっかり身につけましょう。
電気回路の中で、3本以上の導線が交わる点を節点(ノード)と呼びます。 節点は、ちょうど水道管の分岐部分にあたります。
たとえば、1本の管から毎秒 $5\,\text{L}$ の水が流れ込み、そこから2本の管に分かれて出ていく場合、 出ていく水の合計は必ず $5\,\text{L/s}$ です。これは「水が分岐点で消えない」という直感そのものです。
電気回路でも、電流の担い手である電荷は節点で生まれたり消えたりしません。 これは電荷保存則という物理学の根本原理です。 キルヒホッフの第一法則は、この電荷保存則を回路の節点に適用したものにほかなりません。
キルヒホッフの第一法則は、電荷保存則の回路版です。 節点に流れ込む電荷の量と出ていく電荷の量が等しいという事実を、電流(単位時間あたりの電荷の流れ)で表現しています。
これは「エネルギー保存」とは別の保存則です。電荷保存は、電池が電荷を「つくる」のではなく 「押し出す」だけであることを示しています。
回路を解析するとき、電流の実際の向きがわからなくても問題ありません。 各枝に仮の電流の向きを矢印で定め、計算を進めます。 結果が正なら仮定した向きが正しく、負なら実際の向きは逆です。
✕ 誤:「電流の向きがわからないから式を立てられない」
○ 正:とりあえず仮の向きを定めて式を立てる。結果が負なら向きを逆にすればよい
キルヒホッフの法則では、電流の向きは仮定です。計算が正負の符号で正しい向きを教えてくれるので、 最初の仮定を恐れる必要はありません。
キルヒホッフの第一法則を数式で表現しましょう。 回路上の任意の節点について、次が成り立ちます。
節点に流れ込む電流の総和 = 節点から流れ出る電流の総和
$$\sum I_{\text{in}} = \sum I_{\text{out}}$$
あるいは、流れ込む電流を正、流れ出る電流を負とすると、
$$\sum_{k} I_k = 0$$
2つの書き方は等価です。 「流入 = 流出」の形が直感的に分かりやすく、 「総和 = 0」の形は式を立てるときに統一的で便利です。
「流入 = 流出」の形では、どの電流が流入でどの電流が流出かを判断する手間があります。 一方、「$\sum I_k = 0$」の形なら、すべての電流に統一的な符号規約を適用するだけで式が立ちます。
特に複雑な回路では、この統一的な書き方が圧倒的に効率的です。
節点に微小時間 $\Delta t$ の間に流入する電荷の総量を考えます。
流入する電流 $I_{\text{in},k}$ による電荷の流入量:$\sum_k I_{\text{in},k} \cdot \Delta t$
流出する電流 $I_{\text{out},j}$ による電荷の流出量:$\sum_j I_{\text{out},j} \cdot \Delta t$
電荷保存則より、節点に電荷が蓄積も消失もしないので、
$$\sum_k I_{\text{in},k} \cdot \Delta t = \sum_j I_{\text{out},j} \cdot \Delta t$$
両辺を $\Delta t$ で割ると、
$$\sum_k I_{\text{in},k} = \sum_j I_{\text{out},j}$$
これがキルヒホッフの第一法則です。
✕ 誤:直列に繋がった2つの抵抗の間の点にわざわざ第一法則を適用する
○ 正:直列の場合、電流はどこでも同じ値。第一法則を使う必要があるのは、3本以上の枝が集まる節点
もちろん2本の導線が繋がる点にも第一法則は成り立ちますが、 そこから得られるのは $I_1 = I_2$ という自明な情報だけです。 独立な情報を引き出せるのは、3本以上の枝が交わる節点です。
回路にキルヒホッフの第一法則を適用する手順を整理しましょう。
回路図の中で、3本以上の導線が集まる点をすべて見つけ、印をつけます。 各節点にラベル(A, B, C, ...)をつけておくと管理しやすくなります。
節点と節点を結ぶ各区間(枝)に流れる電流の大きさを文字で置き、向きを矢印で仮定します。 向きは適当で構いません。
それぞれの節点について「流入する電流の和 = 流出する電流の和」を書き下します。
たとえば、節点Aに $I_1$ が流入し、$I_2$ と $I_3$ が流出する場合は、
$$I_1 = I_2 + I_3$$
あるいは「総和 = 0」の形で書くと、
$$I_1 - I_2 - I_3 = 0$$
$n$ 個の節点がある回路では、独立な第一法則の式は $n - 1$ 個です。 最後の1つの節点の式は、他の式の和として自動的に得られます。
✕ 誤:4個の節点に対して4つの第一法則の式を立て、すべてを連立する
○ 正:4個の節点に対して $4-1 = 3$ 個の式を立てる(1つは省略してよい)
$n$ 個の節点すべてに第一法則を適用すると $n$ 個の式が得られますが、 これらをすべて足し合わせると $0 = 0$ になります(全電流が2回ずつ反対の符号で現れるため)。
したがって、$n$ 個の式のうち独立なのは $n-1$ 個です。 これはグラフ理論で「連結グラフの独立カット方程式の数は $n-1$」であることに対応しています。
抵抗 $R_1$ と $R_2$ が並列に接続され、全体に電流 $I$ が流れている回路を考えます。 並列接続の分岐点(節点A)で第一法則を適用すると、
$$I = I_1 + I_2$$
ここで $I_1$ は $R_1$ を流れる電流、$I_2$ は $R_2$ を流れる電流です。 並列回路では各抵抗にかかる電圧が等しいので、$V = R_1 I_1 = R_2 I_2$ と合わせると、 $I_1 : I_2 = R_2 : R_1$(抵抗の逆比)であることがわかります。
節点Aに3つの枝が接続されており、それぞれの電流を $I_1$, $I_2$, $I_3$ とします。 $I_1 = 3\,\text{A}$、$I_2 = 5\,\text{A}$ がともにAに流入し、$I_3$ がAから流出するとき、
$$I_1 + I_2 = I_3$$ $$3 + 5 = I_3$$ $$I_3 = 8\,\text{A}$$
節点Bに4本の枝が接続されています。$I_1 = 2\,\text{A}$(流入)、$I_2 = 7\,\text{A}$(流入)、 $I_3 = 4\,\text{A}$(流出)、$I_4$(流出)のとき、
$$I_1 + I_2 = I_3 + I_4$$ $$2 + 7 = 4 + I_4$$ $$I_4 = 5\,\text{A}$$
キルヒホッフの第一法則は「電流の関係」を与えますが、電圧の情報は含みません。 実際の回路問題を完全に解くには、第二法則(電圧則)とオームの法則を組み合わせる必要があります。
第一法則と第二法則は、回路解析の「二本柱」です。次の記事で第二法則を学びます。
コンデンサを含む過渡回路(充電・放電)では、コンデンサの極板に電荷が蓄積されます。 しかし、節点における電流の保存は依然として成り立ちます。
コンデンサに流入する電流は、一方の極板に正電荷を蓄え、他方の極板から同量の正電荷を押し出します。 したがって、コンデンサを1つの枝とみなせば、節点での電流保存は成立します。
キルヒホッフの第一法則は、直流回路解析の出発点です。 今後学ぶさまざまなテーマとの関連を確認しておきましょう。
Q1. キルヒホッフの第一法則は、どのような物理法則に基づいていますか。
Q2. 節点Aに $I_1 = 4\,\text{A}$ と $I_2 = 6\,\text{A}$ が流入し、$I_3$ が流出しています。$I_3$ を求めてください。
Q3. 節点Bに $I_1 = 3\,\text{A}$(流入)、$I_2 = 5\,\text{A}$(流出)、$I_3$(未知)が接続しています。$I_3$ の大きさと向きを求めてください。
Q4. 5個の節点をもつ回路で、キルヒホッフの第一法則から得られる独立な方程式はいくつですか。
キルヒホッフの第一法則を使った問題を解いてみましょう。
下図のように、節点Pに3つの導線が接続されている。導線1から $3\,\text{A}$、導線2から $5\,\text{A}$ の電流がPに流入し、導線3から電流が流出している。導線3を流れる電流 $I_3$ を求めよ。
$I_3 = 8\,\text{A}$
方針:キルヒホッフの第一法則「流入 = 流出」を適用する。
節点Pにおいて、$I_1 + I_2 = I_3$ より、
$3 + 5 = I_3$
$I_3 = 8\,\text{A}$
起電力 $12\,\text{V}$ の電池に、$6\,\Omega$ の抵抗 $R_1$ と $4\,\Omega$ の抵抗 $R_2$ が並列に接続されている。電池の内部抵抗は無視できるとする。次の問いに答えよ。
(1) $R_1$ を流れる電流 $I_1$ と $R_2$ を流れる電流 $I_2$ をそれぞれ求めよ。
(2) 電池から流れ出る全電流 $I$ を、キルヒホッフの第一法則を用いて求めよ。
(1) $I_1 = 2\,\text{A}$、$I_2 = 3\,\text{A}$
(2) $I = 5\,\text{A}$
方針:並列回路なので各抵抗にかかる電圧は $12\,\text{V}$ で等しい。オームの法則で各電流を求め、第一法則で全電流を求める。
(1) $I_1 = \dfrac{V}{R_1} = \dfrac{12}{6} = 2\,\text{A}$
$I_2 = \dfrac{V}{R_2} = \dfrac{12}{4} = 3\,\text{A}$
(2) 分岐点で第一法則を適用すると、$I = I_1 + I_2 = 2 + 3 = 5\,\text{A}$
下の回路において、節点Aに3つの枝が、節点Bに3つの枝が接続されている。枝ABには $R_1 = 4\,\Omega$、枝ACBには $R_2 = 6\,\Omega$ と $R_3 = 2\,\Omega$ が直列に接続され、枝ADBには $R_4 = 3\,\Omega$ と $R_5 = 5\,\Omega$ が直列に接続されている。電池の起電力は $E = 16\,\text{V}$(内部抵抗なし)で、A-B間に接続されている。
(1) 各枝の電流を $I_1$, $I_2$, $I_3$ とし、節点Aにおけるキルヒホッフの第一法則の式を書け。
(2) 各枝の電流をすべて求めよ。
(1) $I = I_1 + I_2 + I_3$($I$ は電池から流出する全電流)
(2) $I_1 = 4\,\text{A}$、$I_2 = 2\,\text{A}$、$I_3 = 2\,\text{A}$、$I = 8\,\text{A}$
方針:3つの枝はいずれもA-B間に接続されているので並列回路。各枝の抵抗値から電流を求める。
枝ABの抵抗:$R_1 = 4\,\Omega$ → $I_1 = \dfrac{16}{4} = 4\,\text{A}$
枝ACBの合成抵抗:$R_2 + R_3 = 6 + 2 = 8\,\Omega$ → $I_2 = \dfrac{16}{8} = 2\,\text{A}$
枝ADBの合成抵抗:$R_4 + R_5 = 3 + 5 = 8\,\Omega$ → $I_3 = \dfrac{16}{8} = 2\,\text{A}$
節点Aで第一法則を適用:$I = I_1 + I_2 + I_3 = 4 + 2 + 2 = 8\,\text{A}$