第23章 直流回路

非線形素子を含む回路
─ ダイオード・電球

これまで扱ってきた抵抗は、オームの法則 $V = IR$ に従う線形素子でした。 しかし、ダイオードや電球のフィラメントは電流と電圧が比例しない非線形素子です。
非線形素子を含む回路では、V-I 特性のグラフを使ったグラフ解法が有効です。

1線形素子と非線形素子

線形素子(金属抵抗器など)は V-I グラフが原点を通る直線になります。 傾きが抵抗値 $R$ です。

一方、非線形素子は V-I グラフが直線にならない素子です。

素子V-I 特性理由
金属抵抗(一定温度)直線($V = IR$)抵抗値が一定
電球のフィラメント上に凸の曲線温度上昇で抵抗が増大
ダイオード指数関数的順方向は急増、逆方向はほぼゼロ
💡 ここが本質:オームの法則は「いつでも成り立つ」わけではない

$V = IR$ が成り立つのは、抵抗値 $R$ が電流によらず一定の場合だけです。

電球のフィラメントは温度が上がると $R$ が大きくなるため、 電流を2倍にしても電圧は2倍にならず、$V = IR$ の「$R$ が一定」が崩れます。

⚠️ 落とし穴:電球を「抵抗値一定」として計算する

✕ 誤:「$100\,\text{W}$、$100\,\text{V}$ の電球の抵抗は $100\,\Omega$」と常に使う

○ 正:$100\,\Omega$ は定格($100\,\text{V}$ 使用時)での抵抗。電圧が変わると温度が変わり、抵抗も変わる

2V-I 特性曲線

電球のフィラメント

フィラメントは金属なので、温度が上がると抵抗が増えます。 電流が大きくなるとフィラメントの温度が上がり、抵抗が増えるため、 V-I グラフは原点を通る上に凸の曲線になります。

ダイオード

ダイオードは順方向(アノード → カソード)に電圧をかけると電流が急増し、 逆方向にかけるとほとんど電流が流れません。

高校の範囲では、ダイオードを次のように近似的に扱うことが多いです:

  • 理想ダイオード:順方向で抵抗ゼロ(導線)、逆方向で抵抗無限大(断線)
  • 閾値電圧モデル:順方向で一定の電圧降下 $V_f$(シリコンなら約 $0.6\,\text{V}$)
🔬 深掘り:ダイオードの物理

ダイオードは p 型半導体と n 型半導体の接合(pn 接合)でできています。 順方向バイアスではキャリア(電子と正孔)が接合面に向かって流れ、電流が急増します。

逆方向バイアスでは空乏層が広がり、電流は微小な漏れ電流のみです。 詳しくは半導体の章で学びます。

3グラフ解法(負荷線法)

非線形素子を含む回路では、連立方程式を代数的に解くことが難しい場合があります。 そこで、V-I 特性曲線と回路方程式のグラフを重ねて交点を読み取る方法を使います。

手順

  1. 非線形素子の V-I 特性曲線を描く(問題で与えられることが多い)
  2. キルヒホッフの法則から、非線形素子の電圧 $V$ と電流 $I$ の関係式を立てる(直線になる)
  3. 2つのグラフの交点を読み取る → これが動作点
📐 負荷線の式

起電力 $E$、内部抵抗(または直列抵抗)$R$ の回路で非線形素子にかかる電圧を $V$、流れる電流を $I$ とすると、

$$V = E - IR$$

これは $V$-$I$ 平面上の直線(負荷線)です。

※ $V$ 切片:$E$($I = 0$ のとき)、$I$ 切片:$E/R$($V = 0$ のとき)。
💡 ここが本質:グラフの交点が「動作点」

V-I 特性曲線は素子の性質を、負荷線は回路の条件を表しています。 両方を同時に満たす点(交点)が、実際の電圧と電流の値です。

代数的に解けない問題でも、グラフから読み取れば答えが出ます。 入試ではグラフの読み取り精度が求められます。

⚠️ 落とし穴:非線形素子にオームの法則を無理に使う

✕ 誤:電球の V-I 特性が曲線なのに $V = IR$($R$ 一定)として方程式を立てる

○ 正:V-I 特性曲線をそのまま使い、負荷線との交点で動作点を求める

キルヒホッフの法則は常に成り立ちますが、非線形素子では $V = IR$($R$ 一定)が使えません。

4つながりマップ

  • ← オームの法則:線形素子の基本法則。非線形素子ではそのままは使えない。
  • ← E-4-2 キルヒホッフの第二法則:負荷線の式はキルヒホッフの法則そのもの。
  • → 半導体の物理:ダイオードの非線形特性は pn 接合の物理に由来する。
  • → E-4-9 総合演習:非線形素子を含む回路も総合問題で出題される。

📋まとめ

  • 非線形素子:V-I 特性が直線にならない素子(電球、ダイオードなど)
  • 電球は温度上昇により抵抗が増大 → 上に凸の V-I 曲線
  • ダイオードは順方向で導通、逆方向で遮断
  • グラフ解法:V-I 特性曲線と負荷線の交点が動作点
  • 負荷線の式:$V = E - IR$(キルヒホッフの法則から導かれる直線)
  • 非線形素子には$R$ 一定のオームの法則は使えない

確認テスト

Q1. 電球のフィラメントの V-I グラフはどのような形になりますか。その理由も説明してください。

▶ クリックして解答を表示原点を通る上に凸の曲線です。電流が大きくなるとフィラメントの温度が上がり、金属の抵抗が増大するためです。

Q2. 理想ダイオードの順方向・逆方向の振る舞いを説明してください。

▶ クリックして解答を表示順方向では抵抗ゼロの導線として振る舞い、逆方向では抵抗無限大(断線)として振る舞います。

Q3. 負荷線とは何ですか。

▶ クリックして解答を表示回路のキルヒホッフの法則から得られる $V = E - IR$ の直線です。V-I 特性曲線との交点が回路の動作点になります。

8入試問題演習

非線形素子を含む回路の問題を解きましょう。

A 基礎レベル

4-8-1 A 基礎 ダイオード計算

起電力 $E = 6\,\text{V}$(内部抵抗なし)の電池に、理想ダイオードと $R = 100\,\Omega$ の抵抗が直列に接続されている。ダイオードが順方向に接続されている場合と逆方向に接続されている場合のそれぞれについて、回路に流れる電流を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

順方向:$I = 0.06\,\text{A}$($60\,\text{mA}$)

逆方向:$I = 0$

解説

順方向:理想ダイオードは抵抗ゼロなので $I = E/R = 6/100 = 0.06\,\text{A}$

逆方向:理想ダイオードは断線なので $I = 0$

B 発展レベル

4-8-2 B 発展 グラフ解法読み取り

起電力 $E = 4.0\,\text{V}$(内部抵抗なし)の電池に抵抗 $R = 20\,\Omega$ と電球が直列に接続されている。電球の V-I 特性は次のとおりである:$I = 0.05\,\text{A}$ のとき $V = 0.5\,\text{V}$、$I = 0.10\,\text{A}$ のとき $V = 1.2\,\text{V}$、$I = 0.15\,\text{A}$ のとき $V = 2.1\,\text{V}$。

(1) 負荷線の式を書き、$I = 0$ と $V = 0$ のときの値を求めよ。

(2) 電球に流れる電流と電球にかかる電圧をグラフから推定せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $V = 4.0 - 20I$。$I = 0$ のとき $V = 4.0\,\text{V}$、$V = 0$ のとき $I = 0.20\,\text{A}$

(2) $I \approx 0.10\,\text{A}$、$V \approx 2.0\,\text{V}$

解説

(1) キルヒホッフの第二法則より $E = V + IR$ → $V = E - IR = 4.0 - 20I$

$I = 0$:$V = 4.0\,\text{V}$、$V = 0$:$I = 4.0/20 = 0.20\,\text{A}$

(2) 負荷線上で $I = 0.10\,\text{A}$ のとき $V = 4.0 - 20 \times 0.10 = 2.0\,\text{V}$

電球の特性では $I = 0.10\,\text{A}$ のとき $V = 1.2\,\text{V}$ で、まだ交点ではない。

負荷線上の各点と電球特性を比較すると、$I \approx 0.10\,\text{A}$ 付近で交差するが、正確にはやや大きい $I$ で交わります。特性曲線と負荷線のグラフを描いて交点を読み取ると約 $I \approx 0.12\,\text{A}$、$V \approx 1.6\,\text{V}$ です。

採点ポイント
  • 負荷線の式を正しく書く(3点)
  • グラフの交点を正しく読み取る(4点)
  • 交点が動作点であることを説明する(1点)

C 応用レベル

4-8-3 C 応用 ダイオード回路論述

起電力 $E = 10\,\text{V}$(内部抵抗なし)の電池に、$R_1 = 200\,\Omega$ と $R_2 = 300\,\Omega$ が直列に接続されている。$R_2$ に並列に理想ダイオード D を順方向に接続した。

(1) ダイオードに電流が流れるかどうか判断せよ。

(2) $R_1$ に流れる電流と $R_1$ の両端の電圧を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) ダイオードが順方向に接続されているので電流が流れる(ダイオードが $R_2$ を短絡する)

(2) $I = 0.05\,\text{A}$、$V_{R_1} = 10\,\text{V}$

解説

(1) 理想ダイオードが $R_2$ に並列に順方向に接続されているので、ダイオードは抵抗ゼロの導線として機能します。$R_2$ は短絡されます。

(2) $R_2$ が短絡されるので、回路は $E = 10\,\text{V}$ と $R_1 = 200\,\Omega$ だけの直列回路です。

$I = \dfrac{E}{R_1} = \dfrac{10}{200} = 0.05\,\text{A}$

$V_{R_1} = IR_1 = 0.05 \times 200 = 10\,\text{V}$

$R_2$ の両端の電圧はゼロ(ダイオードで短絡)。全電圧が $R_1$ にかかります。

採点ポイント
  • 理想ダイオードが $R_2$ を短絡することを正しく認識する(4点)
  • 短絡後の回路を正しく描く(2点)
  • 電流と電圧を正しく計算する(4点)