第25章 電磁誘導

レール上の導体棒
─ 典型問題

2本の平行レールの上を導体棒が滑る ── 電磁誘導の入試問題で最も頻出のテーマです。
起電力・電流・力・エネルギーが一体となったこの問題は、電磁気学と力学の融合問題として、深い理解を試されます。
この記事で、レール上の導体棒問題を「解く型」として完全にマスターしましょう。

1基本設定 ─ レール・導体棒・磁場

間隔 $l$ の2本の平行な導体レールが水平面上に置かれ、一端は抵抗 $R$ でつながれています。 レールの上に質量 $m$ の導体棒をレールに垂直に置きます。 紙面に垂直で表から裏向き(下向き)に一様な磁場(磁束密度 $B$)がかかっています。 導体棒はレール上を摩擦なく滑ることができるとします。

この設定で導体棒が速度 $v$ で右に動くと、前の記事(E-6-3)で学んだように、棒には誘導起電力 $V = vBl$ が生じます。 回路は閉じているので、抵抗 $R$ に誘導電流 $I$ が流れます。

📐 レール上の導体棒の基本関係式

$$V = vBl \quad \text{(誘導起電力)}$$

$$I = \frac{V}{R} = \frac{vBl}{R} \quad \text{(誘導電流)}$$

$$F = BIl = \frac{B^2 l^2 v}{R} \quad \text{(導体棒にはたらく力)}$$

※ 導体棒の抵抗を $0$、レールの抵抗を $0$ とし、外部抵抗 $R$ のみの場合。
※ 導体棒にはたらく力は運動を妨げる向き(レンツの法則)。
💡 ここが本質:力・電流・速度の連鎖

レール上の導体棒の問題は、次のような因果の連鎖が特徴です。

速度 $v$ → 起電力 $V = vBl$ → 電流 $I = V/R$ → 力 $F = BIl$ → 速度の変化

速度が変われば起電力が変わり、電流が変わり、力が変わり、また速度が変わる……。 この「フィードバック」を正しく追跡することが、この問題の核心です。

2等速運動の場合 ─ 外力で引くとき

まず、導体棒を一定の速度 $v$ で外力を加えて引き続ける場合を考えます。 等速運動なので加速度はゼロです。

各物理量の計算

誘導起電力:$V = vBl$

回路に流れる電流:$I = \dfrac{vBl}{R}$

導体棒にはたらく電磁力(レンツの法則により運動と逆向き):$F_{\text{mag}} = BIl = \dfrac{B^2l^2v}{R}$

等速運動の条件から、外力は

$$F_{\text{ext}} = F_{\text{mag}} = \frac{B^2l^2v}{R}$$

消費電力と仕事率

外力がする仕事率は

$$P_{\text{ext}} = F_{\text{ext}} \cdot v = \frac{B^2l^2v^2}{R}$$

一方、抵抗で消費される電力は

$$P_R = I^2 R = \left(\frac{vBl}{R}\right)^2 R = \frac{B^2l^2v^2}{R}$$

💡 ここが本質:外力の仕事=ジュール熱

$P_{\text{ext}} = P_R$ が成り立ちます。つまり、外力がした仕事がすべて抵抗のジュール熱に変換されています。

これはエネルギー保存則の直接的な確認です。導体棒は「発電機」として機能し、 力学的エネルギーを電気エネルギー(最終的に熱エネルギー)に変換しているのです。

⚠️ 落とし穴:導体棒の抵抗を忘れる

問題文で「導体棒の抵抗が $r$」と与えられている場合、回路全体の抵抗は $R + r$ になります。

✕ 誤:$I = vBl/R$ と書く(導体棒の抵抗を無視)

○ 正:$I = vBl/(R + r)$ とし、棒での消費電力 $I^2 r$ と外部抵抗での消費電力 $I^2 R$ を区別する

3自由に動く導体棒 ─ 減速運動

初速度 $v_0$ を与えて手を離した場合、導体棒はどのように運動するでしょうか。 外力がなくなるので、電磁力(ブレーキ力)だけが棒に作用します。

運動方程式

棒にはたらく力は電磁力 $F = BIl = \dfrac{B^2l^2v}{R}$(運動と逆向き)なので、運動方程式は

$$m\frac{dv}{dt} = -\frac{B^2l^2}{R}v$$

これは速度に比例する抵抗力がはたらく運動方程式で、解は

📐 自由に動く導体棒の速度

$$v(t) = v_0 \, e^{-\frac{B^2l^2}{mR}t}$$

※ 速度は指数関数的に減衰し、ゼロに漸近する(有限時間では止まらない)。
※ 高校物理では微分方程式を解かずに「減速して止まる」「最終的に速度ゼロ」として扱う場合が多い。

高校物理では厳密な解を求めなくても、以下の定性的理解が重要です。

  • 棒が動くと誘導電流が流れ、電磁力(ブレーキ力)が生じる
  • 棒が減速すると誘導電流も減り、ブレーキ力も弱まる
  • 速度がゼロに近づくと力もゼロに近づく → 棒は完全には止まらない
  • 最終的に運動エネルギーはすべてジュール熱に変わる
⚠️ 落とし穴:「いつか止まる」と書く

✕ 誤:「導体棒はいつか停止する」

○ 正:「速度は指数関数的に減衰し、$t \to \infty$ でゼロに漸近するが、有限時間では止まらない」

入試の論述問題で「十分時間が経つと」と聞かれたら「速度はほぼゼロになる」と答えるのが安全です。

🔬 深掘り:時定数

$v(t) = v_0 e^{-t/\tau}$ において、$\tau = \dfrac{mR}{B^2l^2}$ を時定数といいます。

$t = \tau$ のとき $v = v_0/e \approx 0.37\,v_0$ です。時定数が小さいほど速く減速します。

$B$ や $l$ が大きいほど、$R$ が小さいほど時定数は小さく(減速が速く)なります。 これは直感に合います ── 磁場が強く、棒が長く、抵抗が小さいほどブレーキが強くかかります。

4エネルギー保存の確認

自由に動く導体棒の場合、エネルギー保存則を確認しましょう。

初期運動エネルギーと全ジュール熱

初速 $v_0$ の導体棒が最終的に(十分時間が経過して)停止すると、失われた運動エネルギーはすべて抵抗のジュール熱になります。

$$Q = \frac{1}{2}mv_0^2$$

▷ エネルギー保存の確認

初期状態:運動エネルギー $K_0 = \dfrac{1}{2}mv_0^2$、ジュール熱 $Q = 0$

最終状態:運動エネルギー $K = 0$(棒は停止)、ジュール熱 $Q = ?$

エネルギー保存則より、$K_0 = Q$

$$Q = \frac{1}{2}mv_0^2$$

この関係は、厳密な $v(t)$ の式を積分して $Q = \int_0^\infty I^2 R\,dt$ を計算しても確認できますが、 エネルギー保存則を使えば積分なしで結果が得られます。

💡 ここが本質:エネルギー保存で計算を省略する

入試問題で「全ジュール熱を求めよ」と問われたとき、積分をする必要はありません。

エネルギー保存則を使えば、初めの運動エネルギー=全ジュール熱とすぐにわかります。

これは力学のエネルギー保存と同じ考え方で、電磁気の問題でも非常に強力な武器です。

⚠️ 落とし穴:導体棒の抵抗がある場合のジュール熱配分

導体棒の抵抗 $r$ がある場合、全ジュール熱は同じく $\dfrac{1}{2}mv_0^2$ ですが、その配分は次のようになります。

✕ 誤:外部抵抗 $R$ で全ジュール熱が発生

○ 正:外部抵抗で $Q_R = \dfrac{R}{R+r} \cdot \dfrac{1}{2}mv_0^2$、棒で $Q_r = \dfrac{r}{R+r} \cdot \dfrac{1}{2}mv_0^2$

電流が同じなので、ジュール熱は抵抗の比で配分されます。

5この章を俯瞰する

レール上の導体棒は、電磁誘導・力学・エネルギーの3分野を統合するテーマです。

つながりマップ

  • ← E-6-3 導体棒の運動:$V = vBl$ の導出。本記事ではこれを回路に適用。
  • ← E-6-2 レンツの法則:電磁力が運動を妨げる向きにはたらく根拠。
  • ← 運動方程式:力学の運動方程式と電磁力を組み合わせて棒の運動を記述。
  • ← エネルギー保存則:力学的エネルギー → 電気エネルギー → 熱エネルギーの変換を追跡。
  • → E-6-7 渦電流:導体板中の誘導電流。電磁ブレーキはこの応用。
  • → 第26章 交流:レール上の導体棒は直流発電機。コイルの回転は交流発電機。

📋まとめ

  • レール上の導体棒の基本:起電力 $V = vBl$、電流 $I = vBl/R$、電磁力 $F = B^2l^2v/R$
  • 等速で引く場合:外力の仕事率=抵抗の消費電力(エネルギー保存)
  • 自由に動く場合:速度は指数関数的に減衰し、初期運動エネルギーがすべてジュール熱に変わる
  • 全ジュール熱はエネルギー保存則から $Q = \dfrac{1}{2}mv_0^2$ で求められる(積分不要)
  • 導体棒の抵抗がある場合、ジュール熱は抵抗の比で配分される
  • 速度→起電力→電流→力→速度変化のフィードバックが問題の本質

確認テスト

Q1. 間隔 $l$、抵抗 $R$ のレール上で、磁束密度 $B$ の磁場中を速度 $v$ で動く導体棒に流れる電流を書いてください。

▶ クリックして解答を表示$I = \dfrac{vBl}{R}$

Q2. 等速運動で導体棒を引くとき、外力がする仕事は何に変換されますか。

▶ クリックして解答を表示抵抗で発生するジュール熱に変換されます。外力の仕事率と抵抗の消費電力が等しくなります。

Q3. 初速 $v_0$ で手を離した導体棒が最終的に失うエネルギーはいくらですか。

▶ クリックして解答を表示$\dfrac{1}{2}mv_0^2$(初期運動エネルギーのすべて)。これがジュール熱として放出されます。

Q4. 導体棒にはたらく電磁力の向きはなぜ運動と逆向きなのですか。

▶ クリックして解答を表示レンツの法則により、誘導電流は磁束の変化を妨げる向きに流れます。その電流が磁場から受ける力は棒の運動を減速させる向きになります。もし加速方向に力がはたらくとエネルギー保存則に矛盾します。

8入試問題演習

レール上の導体棒の典型問題を入試形式で演習しましょう。

A 基礎レベル

6-4-1 A 基礎 等速運動計算

間隔 $l = 0.50\,\text{m}$ の2本の平行レールが抵抗 $R = 2.0\,\Omega$ でつながれている。鉛直下向きの一様な磁場($B = 0.40\,\text{T}$)の中で、質量 $m$ の導体棒(抵抗は無視)をレールに垂直に置き、外力で一定の速さ $v = 3.0\,\text{m/s}$ で引いている。次の問いに答えよ。

(1) 誘導起電力の大きさを求めよ。

(2) 回路に流れる電流を求めよ。

(3) 外力の大きさを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $0.60\,\text{V}$

(2) $0.30\,\text{A}$

(3) $0.060\,\text{N}$

解説

(1) $V = vBl = 3.0 \times 0.40 \times 0.50 = 0.60\,\text{V}$

(2) $I = V/R = 0.60/2.0 = 0.30\,\text{A}$

(3) 等速運動より、外力 $=$ 電磁力 $= BIl = 0.40 \times 0.30 \times 0.50 = 0.060\,\text{N}$

B 発展レベル

6-4-2 B 発展 エネルギー計算

上記と同じ設定($l = 0.50\,\text{m}$、$R = 2.0\,\Omega$、$B = 0.40\,\text{T}$)で、質量 $m = 0.10\,\text{kg}$ の導体棒に初速 $v_0 = 5.0\,\text{m/s}$ を与えて手を離した。次の問いに答えよ。

(1) 手を離した直後の誘導電流を求めよ。

(2) 手を離した直後の導体棒の加速度の大きさを求めよ。

(3) 十分時間が経過した後、抵抗 $R$ で発生した全ジュール熱を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $0.50\,\text{A}$

(2) $1.0\,\text{m/s}^2$

(3) $1.25\,\text{J}$

解説

(1) $I_0 = v_0 Bl/R = 5.0 \times 0.40 \times 0.50 / 2.0 = 0.50\,\text{A}$

(2) 導体棒に働く電磁力(制動力):$F = BI_0 l = 0.40 \times 0.50 \times 0.50 = 0.10\,\text{N}$

加速度:$a = \dfrac{F}{m} = \dfrac{0.10}{0.10} = 1.0\,\text{m/s}^2$(運動と逆向き=減速)

(3) エネルギー保存則より、$Q = \dfrac{1}{2}mv_0^2 = \dfrac{1}{2} \times 0.10 \times 5.0^2 = 1.25\,\text{J}$

採点ポイント
  • $I_0 = v_0Bl/R$ を正しく計算(2点)
  • 電磁力 $F = BI_0 l$ を正しく計算(2点)
  • 運動方程式で加速度を求める(2点)
  • エネルギー保存で全ジュール熱を導出(4点)

C 応用レベル

6-4-3 C 応用 2本の導体棒論述

間隔 $l$ の平行レール上に、同じ質量 $m$、抵抗無視の2本の導体棒 A, B がある。レールの抵抗は無視でき、A と B の間に抵抗 $R$ が接続されている。磁束密度 $B$ の一様な磁場が鉛直下向きにかかっている。棒 A を速度 $v_0$ で右に押し出し、棒 B は静止している。十分時間が経った後の2本の棒の速度をそれぞれ求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$v_A = v_B = \dfrac{v_0}{2}$

解説

方針:運動量保存則とエネルギーの関係を使う。

棒 A が動くと誘導電流が流れ、A には減速する力、B には加速する力がはたらきます(レンツの法則)。

外力がないので、系全体の運動量は保存されます。
$mv_0 = mv_A + mv_B$ → $v_A + v_B = v_0$ …①

十分時間が経つと、2本の棒の相対速度がゼロになります(相対速度があると誘導電流が流れ続け、力が作用し続ける)。
$v_A = v_B$ …②

①②より $v_A = v_B = \dfrac{v_0}{2}$

失われた運動エネルギー $\Delta K = \dfrac{1}{2}mv_0^2 - 2 \times \dfrac{1}{2}m\left(\dfrac{v_0}{2}\right)^2 = \dfrac{1}{4}mv_0^2$ はジュール熱として抵抗 $R$ で消費されます。

採点ポイント
  • 運動量保存則を正しく適用(3点)
  • 最終状態で相対速度ゼロを正しく論じる(3点)
  • $v_A = v_B = v_0/2$ を導出(2点)
  • ジュール熱 $\dfrac{1}{4}mv_0^2$ を正しく求める(2点)