2本の平行レールの上を導体棒が滑る ── 電磁誘導の入試問題で最も頻出のテーマです。
起電力・電流・力・エネルギーが一体となったこの問題は、電磁気学と力学の融合問題として、深い理解を試されます。
この記事で、レール上の導体棒問題を「解く型」として完全にマスターしましょう。
間隔 $l$ の2本の平行な導体レールが水平面上に置かれ、一端は抵抗 $R$ でつながれています。 レールの上に質量 $m$ の導体棒をレールに垂直に置きます。 紙面に垂直で表から裏向き(下向き)に一様な磁場(磁束密度 $B$)がかかっています。 導体棒はレール上を摩擦なく滑ることができるとします。
この設定で導体棒が速度 $v$ で右に動くと、前の記事(E-6-3)で学んだように、棒には誘導起電力 $V = vBl$ が生じます。 回路は閉じているので、抵抗 $R$ に誘導電流 $I$ が流れます。
$$V = vBl \quad \text{(誘導起電力)}$$
$$I = \frac{V}{R} = \frac{vBl}{R} \quad \text{(誘導電流)}$$
$$F = BIl = \frac{B^2 l^2 v}{R} \quad \text{(導体棒にはたらく力)}$$
レール上の導体棒の問題は、次のような因果の連鎖が特徴です。
速度 $v$ → 起電力 $V = vBl$ → 電流 $I = V/R$ → 力 $F = BIl$ → 速度の変化
速度が変われば起電力が変わり、電流が変わり、力が変わり、また速度が変わる……。 この「フィードバック」を正しく追跡することが、この問題の核心です。
まず、導体棒を一定の速度 $v$ で外力を加えて引き続ける場合を考えます。 等速運動なので加速度はゼロです。
誘導起電力:$V = vBl$
回路に流れる電流:$I = \dfrac{vBl}{R}$
導体棒にはたらく電磁力(レンツの法則により運動と逆向き):$F_{\text{mag}} = BIl = \dfrac{B^2l^2v}{R}$
等速運動の条件から、外力は
$$F_{\text{ext}} = F_{\text{mag}} = \frac{B^2l^2v}{R}$$
外力がする仕事率は
$$P_{\text{ext}} = F_{\text{ext}} \cdot v = \frac{B^2l^2v^2}{R}$$
一方、抵抗で消費される電力は
$$P_R = I^2 R = \left(\frac{vBl}{R}\right)^2 R = \frac{B^2l^2v^2}{R}$$
$P_{\text{ext}} = P_R$ が成り立ちます。つまり、外力がした仕事がすべて抵抗のジュール熱に変換されています。
これはエネルギー保存則の直接的な確認です。導体棒は「発電機」として機能し、 力学的エネルギーを電気エネルギー(最終的に熱エネルギー)に変換しているのです。
問題文で「導体棒の抵抗が $r$」と与えられている場合、回路全体の抵抗は $R + r$ になります。
✕ 誤:$I = vBl/R$ と書く(導体棒の抵抗を無視)
○ 正:$I = vBl/(R + r)$ とし、棒での消費電力 $I^2 r$ と外部抵抗での消費電力 $I^2 R$ を区別する
初速度 $v_0$ を与えて手を離した場合、導体棒はどのように運動するでしょうか。 外力がなくなるので、電磁力(ブレーキ力)だけが棒に作用します。
棒にはたらく力は電磁力 $F = BIl = \dfrac{B^2l^2v}{R}$(運動と逆向き)なので、運動方程式は
$$m\frac{dv}{dt} = -\frac{B^2l^2}{R}v$$
これは速度に比例する抵抗力がはたらく運動方程式で、解は
$$v(t) = v_0 \, e^{-\frac{B^2l^2}{mR}t}$$
高校物理では厳密な解を求めなくても、以下の定性的理解が重要です。
✕ 誤:「導体棒はいつか停止する」
○ 正:「速度は指数関数的に減衰し、$t \to \infty$ でゼロに漸近するが、有限時間では止まらない」
入試の論述問題で「十分時間が経つと」と聞かれたら「速度はほぼゼロになる」と答えるのが安全です。
$v(t) = v_0 e^{-t/\tau}$ において、$\tau = \dfrac{mR}{B^2l^2}$ を時定数といいます。
$t = \tau$ のとき $v = v_0/e \approx 0.37\,v_0$ です。時定数が小さいほど速く減速します。
$B$ や $l$ が大きいほど、$R$ が小さいほど時定数は小さく(減速が速く)なります。 これは直感に合います ── 磁場が強く、棒が長く、抵抗が小さいほどブレーキが強くかかります。
自由に動く導体棒の場合、エネルギー保存則を確認しましょう。
初速 $v_0$ の導体棒が最終的に(十分時間が経過して)停止すると、失われた運動エネルギーはすべて抵抗のジュール熱になります。
$$Q = \frac{1}{2}mv_0^2$$
初期状態:運動エネルギー $K_0 = \dfrac{1}{2}mv_0^2$、ジュール熱 $Q = 0$
最終状態:運動エネルギー $K = 0$(棒は停止)、ジュール熱 $Q = ?$
エネルギー保存則より、$K_0 = Q$
$$Q = \frac{1}{2}mv_0^2$$
この関係は、厳密な $v(t)$ の式を積分して $Q = \int_0^\infty I^2 R\,dt$ を計算しても確認できますが、 エネルギー保存則を使えば積分なしで結果が得られます。
入試問題で「全ジュール熱を求めよ」と問われたとき、積分をする必要はありません。
エネルギー保存則を使えば、初めの運動エネルギー=全ジュール熱とすぐにわかります。
これは力学のエネルギー保存と同じ考え方で、電磁気の問題でも非常に強力な武器です。
導体棒の抵抗 $r$ がある場合、全ジュール熱は同じく $\dfrac{1}{2}mv_0^2$ ですが、その配分は次のようになります。
✕ 誤:外部抵抗 $R$ で全ジュール熱が発生
○ 正:外部抵抗で $Q_R = \dfrac{R}{R+r} \cdot \dfrac{1}{2}mv_0^2$、棒で $Q_r = \dfrac{r}{R+r} \cdot \dfrac{1}{2}mv_0^2$
電流が同じなので、ジュール熱は抵抗の比で配分されます。
レール上の導体棒は、電磁誘導・力学・エネルギーの3分野を統合するテーマです。
Q1. 間隔 $l$、抵抗 $R$ のレール上で、磁束密度 $B$ の磁場中を速度 $v$ で動く導体棒に流れる電流を書いてください。
Q2. 等速運動で導体棒を引くとき、外力がする仕事は何に変換されますか。
Q3. 初速 $v_0$ で手を離した導体棒が最終的に失うエネルギーはいくらですか。
Q4. 導体棒にはたらく電磁力の向きはなぜ運動と逆向きなのですか。
レール上の導体棒の典型問題を入試形式で演習しましょう。
間隔 $l = 0.50\,\text{m}$ の2本の平行レールが抵抗 $R = 2.0\,\Omega$ でつながれている。鉛直下向きの一様な磁場($B = 0.40\,\text{T}$)の中で、質量 $m$ の導体棒(抵抗は無視)をレールに垂直に置き、外力で一定の速さ $v = 3.0\,\text{m/s}$ で引いている。次の問いに答えよ。
(1) 誘導起電力の大きさを求めよ。
(2) 回路に流れる電流を求めよ。
(3) 外力の大きさを求めよ。
(1) $0.60\,\text{V}$
(2) $0.30\,\text{A}$
(3) $0.060\,\text{N}$
(1) $V = vBl = 3.0 \times 0.40 \times 0.50 = 0.60\,\text{V}$
(2) $I = V/R = 0.60/2.0 = 0.30\,\text{A}$
(3) 等速運動より、外力 $=$ 電磁力 $= BIl = 0.40 \times 0.30 \times 0.50 = 0.060\,\text{N}$
上記と同じ設定($l = 0.50\,\text{m}$、$R = 2.0\,\Omega$、$B = 0.40\,\text{T}$)で、質量 $m = 0.10\,\text{kg}$ の導体棒に初速 $v_0 = 5.0\,\text{m/s}$ を与えて手を離した。次の問いに答えよ。
(1) 手を離した直後の誘導電流を求めよ。
(2) 手を離した直後の導体棒の加速度の大きさを求めよ。
(3) 十分時間が経過した後、抵抗 $R$ で発生した全ジュール熱を求めよ。
(1) $0.50\,\text{A}$
(2) $1.0\,\text{m/s}^2$
(3) $1.25\,\text{J}$
(1) $I_0 = v_0 Bl/R = 5.0 \times 0.40 \times 0.50 / 2.0 = 0.50\,\text{A}$
(2) 導体棒に働く電磁力(制動力):$F = BI_0 l = 0.40 \times 0.50 \times 0.50 = 0.10\,\text{N}$
加速度:$a = \dfrac{F}{m} = \dfrac{0.10}{0.10} = 1.0\,\text{m/s}^2$(運動と逆向き=減速)
(3) エネルギー保存則より、$Q = \dfrac{1}{2}mv_0^2 = \dfrac{1}{2} \times 0.10 \times 5.0^2 = 1.25\,\text{J}$
間隔 $l$ の平行レール上に、同じ質量 $m$、抵抗無視の2本の導体棒 A, B がある。レールの抵抗は無視でき、A と B の間に抵抗 $R$ が接続されている。磁束密度 $B$ の一様な磁場が鉛直下向きにかかっている。棒 A を速度 $v_0$ で右に押し出し、棒 B は静止している。十分時間が経った後の2本の棒の速度をそれぞれ求めよ。
$v_A = v_B = \dfrac{v_0}{2}$
方針:運動量保存則とエネルギーの関係を使う。
棒 A が動くと誘導電流が流れ、A には減速する力、B には加速する力がはたらきます(レンツの法則)。
外力がないので、系全体の運動量は保存されます。
$mv_0 = mv_A + mv_B$ → $v_A + v_B = v_0$ …①
十分時間が経つと、2本の棒の相対速度がゼロになります(相対速度があると誘導電流が流れ続け、力が作用し続ける)。
$v_A = v_B$ …②
①②より $v_A = v_B = \dfrac{v_0}{2}$
失われた運動エネルギー $\Delta K = \dfrac{1}{2}mv_0^2 - 2 \times \dfrac{1}{2}m\left(\dfrac{v_0}{2}\right)^2 = \dfrac{1}{4}mv_0^2$ はジュール熱として抵抗 $R$ で消費されます。