第25章 電磁誘導

渦電流
─ 電磁ブレーキ

コイルではない「ただの金属板」でも、磁場が変化すれば電流が流れます。
金属板内に渦のように流れるこの電流を渦電流(eddy current)といいます。
渦電流は電磁ブレーキやIHクッキングヒーターなど、私たちの身近な技術に応用されています。

1渦電流とは ─ 金属板に流れる誘導電流

ファラデーの法則はコイルだけでなく、あらゆる導体に適用できます。 金属板(導体板)の近くで磁場が変化すると、金属板の内部に電流が誘導されます。 この電流はコイルのように決まった回路を流れるのではなく、金属板の中を渦を巻くように流れるため、渦電流と呼ばれます。

たとえば、強い磁石を銅板の上で動かすと、磁石の運動が妨げられるのを感じます。 これは銅板内に渦電流が生じ、レンツの法則により磁石の運動を妨げる力が発生するためです。

💡 ここが本質:渦電流はファラデーの法則の一般的な適用

渦電流は特別な現象ではなく、ファラデーの法則が導体板に適用された結果です。

コイルの場合は電流が「回路」に沿って流れますが、金属板の場合は板の内部に無数の微小な閉じたループが形成され、 それぞれに誘導電流が流れます。これらが全体として「渦」のパターンを作るのです。

2渦電流の向き ─ レンツの法則の適用

渦電流の向きはレンツの法則で決まります。原理はコイルの場合とまったく同じです。

磁石を金属板に近づける場合

N極を金属板に近づけると、板を貫く下向きの磁束が増加します。 レンツの法則により、増加を妨げる向き(上向きの磁場を作る向き)に渦電流が流れます。 上から見ると反時計回りの渦電流です。

金属板が磁場中を通過する場合

金属板が磁場の領域に入っていくとき、板の中で磁場に入る部分では磁束が増加するので渦電流が流れます。 磁場から出ていく部分では磁束が減少するので逆向きの渦電流が流れます。

⚠️ 落とし穴:渦電流は板の「全体」に均一に流れるわけではない

✕ 誤:「金属板全体に一様に渦電流が流れる」

○ 正:「渦電流は磁束が変化する領域の周辺に局所的に流れる」

磁場が一様に変化する場合でも、渦電流のパターンは一様ではありません。 磁場の変化が大きい場所ほど強い渦電流が流れます。

3電磁ブレーキの原理

渦電流の最も重要な応用が電磁ブレーキ(eddy current brake)です。 新幹線やジェットコースターの制動に使われています。

仕組み

金属の円板(導体円板)が回転しているところに、磁石を近づけます。 円板の回転により、磁場中を通過する部分の磁束が変化し、渦電流が発生します。 レンツの法則により、この渦電流は円板の回転を妨げる向きに力を生み、制動力として作用します。

📐 電磁ブレーキの特徴

制動力は速度に比例する:速いほどブレーキが強い

$$F_{\text{brake}} \propto v$$

※ 速度が大きいほど磁束の変化率が大きく、渦電流が大きく、制動力が大きい
※ 速度がゼロに近づくと制動力もゼロに近づく → 完全停止にはならない
※ 摩擦ブレーキと異なり、接触がないため摩耗しない
💡 ここが本質:レール上の導体棒と同じ物理

電磁ブレーキの物理は、E-6-4で学んだ「自由に動く導体棒の減速」とまったく同じです。

導体棒が減速するのは、誘導電流が磁場から受ける力が運動を妨げるから。 電磁ブレーキの金属板が減速するのも、渦電流が磁場から受ける力が回転を妨げるから。

どちらもレンツの法則=エネルギー保存則の表れです。 運動エネルギーはジュール熱に変換されます。

⚠️ 落とし穴:電磁ブレーキは完全に止められない

✕ 誤:「電磁ブレーキだけで列車を完全停止できる」

○ 正:「速度がゼロに近づくと制動力もゼロに近づくため、完全停止はできない」

実際の新幹線では、高速域は電磁ブレーキ、低速域は摩擦ブレーキを併用しています。

4渦電流の応用と対策

渦電流を利用する例

応用例 原理
電磁ブレーキ 渦電流による制動力で減速
IHクッキングヒーター 交流磁場で鍋底に渦電流を発生させ、ジュール熱で加熱
金属探知機 コイルの交流磁場で金属中に渦電流を誘起し、その影響を検知
電力量計(積算計) アルミ円板に流れる渦電流と磁石で回転を制動

渦電流を抑制する例

渦電流はジュール熱を発生させるため、望ましくない場合もあります。 たとえば変圧器の鉄心に渦電流が流れると、エネルギー損失(鉄損)が生じます。

対策として、鉄心を薄い鉄板の積層構造にして、渦電流の経路を断ち切ります。 薄い鉄板どうしの間を絶縁することで、渦電流のループが小さくなり、損失が大幅に減少します。

🔬 深掘り:IHクッキングヒーターの仕組み

IH(Induction Heating)は「誘導加熱」の略です。コイルに高周波の交流(20~90 kHz程度)を流し、 鍋底に渦電流を発生させます。

渦電流によるジュール熱 $P = I^2 R$ で鍋自体が発熱するため、ヒーター本体は熱くなりません。

アルミや銅は抵抗が小さく渦電流のジュール熱が少ないため、IH対応の鍋には鉄やステンレスが使われます。

5この章を俯瞰する

渦電流は、ファラデーの法則とレンツの法則をコイル以外の導体に拡張したものです。

つながりマップ

  • ← E-6-1 ファラデーの法則:渦電流はファラデーの法則が導体板に適用された結果。
  • ← E-6-2 レンツの法則:渦電流の向きはレンツの法則で決まる。
  • ← E-6-3, E-6-4 導体棒:電磁ブレーキは導体棒の減速と同じ物理。
  • ← E-6-6 相互誘導:IH はコイルと鍋の間の相互誘導とも見なせる。
  • → E-6-8 総合演習:渦電流も含めた電磁誘導の総合的な理解を確認。

📋まとめ

  • 渦電流:金属板内に渦状に流れる誘導電流。磁束の変化があれば発生する
  • 渦電流の向きはレンツの法則で決まる(磁束の変化を妨げる向き)
  • 電磁ブレーキ:渦電流が運動を妨げる力を生む。制動力は速度に比例する
  • 電磁ブレーキは接触なし・摩耗なしだが、完全停止には別のブレーキが必要
  • IHクッキングヒーターは渦電流のジュール熱を利用した加熱技術
  • 変圧器では渦電流は損失(鉄損)となるため、積層鉄心で抑制する

確認テスト

Q1. 渦電流とは何ですか。簡潔に説明してください。

▶ クリックして解答を表示金属板(導体板)の内部に、磁束の変化によって渦状に流れる誘導電流のことです。

Q2. 電磁ブレーキの制動力が速度に比例する理由を説明してください。

▶ クリックして解答を表示速度が大きいほど磁束の変化率が大きくなり、誘導起電力と渦電流が大きくなります。渦電流が大きいほど磁場から受ける力(制動力)も大きくなるため、制動力は速度に比例します。

Q3. 変圧器の鉄心を積層構造にする理由を述べてください。

▶ クリックして解答を表示薄い鉄板を絶縁して重ねることで渦電流の経路を分断し、渦電流を小さくしてジュール熱(鉄損)によるエネルギー損失を低減するためです。

Q4. 電磁ブレーキだけでは列車を完全に停止できない理由を説明してください。

▶ クリックして解答を表示制動力は速度に比例するため、速度がゼロに近づくと制動力もゼロに近づきます。有限時間では完全に停止できないため、低速域では摩擦ブレーキを併用する必要があります。

8入試問題演習

渦電流と電磁ブレーキについて入試形式で確認しましょう。

A 基礎レベル

6-7-1 A 基礎 渦電流定性

水平な銅板の上方から、棒磁石のN極を下にして近づけた。次の問いに答えよ。

(1) 銅板に流れる渦電流は上から見て時計回りか反時計回りか。

(2) 棒磁石は銅板から反発力を受けるか引力を受けるか。

(3) 棒磁石を静止させたとき、渦電流はどうなるか。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 反時計回り

(2) 反発力

(3) 渦電流は消滅する(ゼロになる)

解説

(1) N極を近づけると銅板を貫く下向きの磁束が増加。レンツの法則より増加を妨げる上向きの磁場を作る向き → 上から見て反時計回り。

(2) 渦電流が作る磁場は上向き(N極)なので、近づくN極と反発する。

(3) 磁石を静止させると磁束が変化しなくなるため、誘導起電力がゼロになり渦電流は消滅します。

B 発展レベル

6-7-2 B 発展 電磁ブレーキ論述

金属の円板が水平面内で回転している。円板の一部に磁石を近づけて制動するとき、次の問いに答えよ。

(1) 渦電流が発生する理由を、ファラデーの法則を用いて説明せよ。

(2) 渦電流が制動力を生む理由を、レンツの法則を用いて説明せよ。

(3) 円板の運動エネルギーは最終的に何に変換されるか。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1)〜(3) 下記解説参照

解説

(1) 円板が回転すると、磁石の近くの部分では磁場を横切るため磁束が変化します。ファラデーの法則により、磁束の変化に応じた誘導起電力が生じ、金属内に渦電流が流れます。

(2) レンツの法則により、渦電流は磁束の変化を妨げる向きに流れます。これは円板の回転を妨げる方向の力を生じさせます。具体的には、磁場に入る側では反発力、出る側では吸引力がはたらき、どちらも回転を減速させます。

(3) 渦電流によるジュール熱($P = I^2 R$)に変換されます。円板がわずかに温度上昇します。

採点ポイント
  • ファラデーの法則と磁束変化を正しく結びつける(3点)
  • レンツの法則で制動力の方向を説明(4点)
  • エネルギー変換をジュール熱と正しく答える(3点)

C 応用レベル

6-7-3 C 応用 スリット板論述

同じ材質・同じサイズの金属板 A(1枚の板)と金属板 B(くし状にスリットが入った板)を用意し、それぞれを磁場中で振り子のように揺らす実験を行った。次の問いに答えよ。

(1) A と B で揺れ方にどのような違いが見られるか。

(2) その違いが生じる理由を、渦電流の観点から説明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) A は速やかに減衰して止まるが、B は A より長く揺れ続ける。

(2) 下記解説参照。

解説

(1) 1枚板の A は大きな渦電流が流れて強い制動力を受け、すぐに止まります。スリット入りの B は渦電流の経路が遮断されて小さくなり、制動力が弱いため長く揺れ続けます。

(2) 渦電流は金属内の閉ループを流れます。スリットがあるとこのループが分断され、渦電流の大きさが大幅に減少します。渦電流が小さいほど制動力($F \propto I$)も小さくなるため、B は減衰が遅くなります。

これは変圧器の積層鉄心と同じ原理です。渦電流の経路を細かく分断することで、渦電流によるエネルギー損失を抑制できます。

採点ポイント
  • A が速く止まり B が長く揺れることを正しく述べる(2点)
  • スリットが渦電流の経路を遮断することを説明(4点)
  • 渦電流の減少が制動力の減少につながることを論理的に説明(4点)