コイルではない「ただの金属板」でも、磁場が変化すれば電流が流れます。
金属板内に渦のように流れるこの電流を渦電流(eddy current)といいます。
渦電流は電磁ブレーキやIHクッキングヒーターなど、私たちの身近な技術に応用されています。
ファラデーの法則はコイルだけでなく、あらゆる導体に適用できます。 金属板(導体板)の近くで磁場が変化すると、金属板の内部に電流が誘導されます。 この電流はコイルのように決まった回路を流れるのではなく、金属板の中を渦を巻くように流れるため、渦電流と呼ばれます。
たとえば、強い磁石を銅板の上で動かすと、磁石の運動が妨げられるのを感じます。 これは銅板内に渦電流が生じ、レンツの法則により磁石の運動を妨げる力が発生するためです。
渦電流は特別な現象ではなく、ファラデーの法則が導体板に適用された結果です。
コイルの場合は電流が「回路」に沿って流れますが、金属板の場合は板の内部に無数の微小な閉じたループが形成され、 それぞれに誘導電流が流れます。これらが全体として「渦」のパターンを作るのです。
渦電流の向きはレンツの法則で決まります。原理はコイルの場合とまったく同じです。
N極を金属板に近づけると、板を貫く下向きの磁束が増加します。 レンツの法則により、増加を妨げる向き(上向きの磁場を作る向き)に渦電流が流れます。 上から見ると反時計回りの渦電流です。
金属板が磁場の領域に入っていくとき、板の中で磁場に入る部分では磁束が増加するので渦電流が流れます。 磁場から出ていく部分では磁束が減少するので逆向きの渦電流が流れます。
✕ 誤:「金属板全体に一様に渦電流が流れる」
○ 正:「渦電流は磁束が変化する領域の周辺に局所的に流れる」
磁場が一様に変化する場合でも、渦電流のパターンは一様ではありません。 磁場の変化が大きい場所ほど強い渦電流が流れます。
渦電流の最も重要な応用が電磁ブレーキ(eddy current brake)です。 新幹線やジェットコースターの制動に使われています。
金属の円板(導体円板)が回転しているところに、磁石を近づけます。 円板の回転により、磁場中を通過する部分の磁束が変化し、渦電流が発生します。 レンツの法則により、この渦電流は円板の回転を妨げる向きに力を生み、制動力として作用します。
制動力は速度に比例する:速いほどブレーキが強い
$$F_{\text{brake}} \propto v$$
電磁ブレーキの物理は、E-6-4で学んだ「自由に動く導体棒の減速」とまったく同じです。
導体棒が減速するのは、誘導電流が磁場から受ける力が運動を妨げるから。 電磁ブレーキの金属板が減速するのも、渦電流が磁場から受ける力が回転を妨げるから。
どちらもレンツの法則=エネルギー保存則の表れです。 運動エネルギーはジュール熱に変換されます。
✕ 誤:「電磁ブレーキだけで列車を完全停止できる」
○ 正:「速度がゼロに近づくと制動力もゼロに近づくため、完全停止はできない」
実際の新幹線では、高速域は電磁ブレーキ、低速域は摩擦ブレーキを併用しています。
| 応用例 | 原理 |
|---|---|
| 電磁ブレーキ | 渦電流による制動力で減速 |
| IHクッキングヒーター | 交流磁場で鍋底に渦電流を発生させ、ジュール熱で加熱 |
| 金属探知機 | コイルの交流磁場で金属中に渦電流を誘起し、その影響を検知 |
| 電力量計(積算計) | アルミ円板に流れる渦電流と磁石で回転を制動 |
渦電流はジュール熱を発生させるため、望ましくない場合もあります。 たとえば変圧器の鉄心に渦電流が流れると、エネルギー損失(鉄損)が生じます。
対策として、鉄心を薄い鉄板の積層構造にして、渦電流の経路を断ち切ります。 薄い鉄板どうしの間を絶縁することで、渦電流のループが小さくなり、損失が大幅に減少します。
IH(Induction Heating)は「誘導加熱」の略です。コイルに高周波の交流(20~90 kHz程度)を流し、 鍋底に渦電流を発生させます。
渦電流によるジュール熱 $P = I^2 R$ で鍋自体が発熱するため、ヒーター本体は熱くなりません。
アルミや銅は抵抗が小さく渦電流のジュール熱が少ないため、IH対応の鍋には鉄やステンレスが使われます。
渦電流は、ファラデーの法則とレンツの法則をコイル以外の導体に拡張したものです。
Q1. 渦電流とは何ですか。簡潔に説明してください。
Q2. 電磁ブレーキの制動力が速度に比例する理由を説明してください。
Q3. 変圧器の鉄心を積層構造にする理由を述べてください。
Q4. 電磁ブレーキだけでは列車を完全に停止できない理由を説明してください。
渦電流と電磁ブレーキについて入試形式で確認しましょう。
水平な銅板の上方から、棒磁石のN極を下にして近づけた。次の問いに答えよ。
(1) 銅板に流れる渦電流は上から見て時計回りか反時計回りか。
(2) 棒磁石は銅板から反発力を受けるか引力を受けるか。
(3) 棒磁石を静止させたとき、渦電流はどうなるか。
(1) 反時計回り
(2) 反発力
(3) 渦電流は消滅する(ゼロになる)
(1) N極を近づけると銅板を貫く下向きの磁束が増加。レンツの法則より増加を妨げる上向きの磁場を作る向き → 上から見て反時計回り。
(2) 渦電流が作る磁場は上向き(N極)なので、近づくN極と反発する。
(3) 磁石を静止させると磁束が変化しなくなるため、誘導起電力がゼロになり渦電流は消滅します。
金属の円板が水平面内で回転している。円板の一部に磁石を近づけて制動するとき、次の問いに答えよ。
(1) 渦電流が発生する理由を、ファラデーの法則を用いて説明せよ。
(2) 渦電流が制動力を生む理由を、レンツの法則を用いて説明せよ。
(3) 円板の運動エネルギーは最終的に何に変換されるか。
(1)〜(3) 下記解説参照
(1) 円板が回転すると、磁石の近くの部分では磁場を横切るため磁束が変化します。ファラデーの法則により、磁束の変化に応じた誘導起電力が生じ、金属内に渦電流が流れます。
(2) レンツの法則により、渦電流は磁束の変化を妨げる向きに流れます。これは円板の回転を妨げる方向の力を生じさせます。具体的には、磁場に入る側では反発力、出る側では吸引力がはたらき、どちらも回転を減速させます。
(3) 渦電流によるジュール熱($P = I^2 R$)に変換されます。円板がわずかに温度上昇します。
同じ材質・同じサイズの金属板 A(1枚の板)と金属板 B(くし状にスリットが入った板)を用意し、それぞれを磁場中で振り子のように揺らす実験を行った。次の問いに答えよ。
(1) A と B で揺れ方にどのような違いが見られるか。
(2) その違いが生じる理由を、渦電流の観点から説明せよ。
(1) A は速やかに減衰して止まるが、B は A より長く揺れ続ける。
(2) 下記解説参照。
(1) 1枚板の A は大きな渦電流が流れて強い制動力を受け、すぐに止まります。スリット入りの B は渦電流の経路が遮断されて小さくなり、制動力が弱いため長く揺れ続けます。
(2) 渦電流は金属内の閉ループを流れます。スリットがあるとこのループが分断され、渦電流の大きさが大幅に減少します。渦電流が小さいほど制動力($F \propto I$)も小さくなるため、B は減衰が遅くなります。
これは変圧器の積層鉄心と同じ原理です。渦電流の経路を細かく分断することで、渦電流によるエネルギー損失を抑制できます。