「家庭のコンセントは100V」とよく言いますが、交流の電圧は常に変化しています。
ある瞬間は141V、次の瞬間は0V、そしてマイナス141V ── 絶えず揺れ動く電圧のどこが「100V」なのでしょうか。
その答えが実効値です。「直流に換算したら同じ仕事をする値」という、実に合理的な定義をもつ量を学びましょう。
交流の電圧は $V = V_0 \sin\omega t$ と表されます。 この電圧の1周期にわたる平均を計算すると、$\sin$ 関数の正の部分と負の部分が完全に打ち消し合い、平均値はゼロになってしまいます。
しかし、交流が実際にエネルギーを供給していることは明らかです。 電球は光り、電熱器は暖かくなります。 平均がゼロだからといって「エネルギーもゼロ」ではないのです。
問題は、電流の向きが変わってもジュール熱は常に正であることにあります。 抵抗で消費される電力は $P = I^2 R$ であり、$I^2$ は電流の向きに関係なく常に正の値をとります。 したがって、交流の「強さ」を正しく評価するには、電流や電圧を二乗してから平均をとる必要があるのです。
実効値とは、同じ抵抗に同じ時間だけ流したとき、同じジュール熱を発生させる直流の値のことです。
家庭のコンセントが「100V」というのは、「100Vの直流と同じだけの仕事をする交流」という意味です。 最大電圧は約141Vですが、エネルギー的に等価な直流が100Vなのです。
✕ 誤:交流の平均値は $\dfrac{V_0}{2}$ で、これが実効値である
○ 正:交流の1周期の平均値はゼロ。半周期の平均値は $\dfrac{2V_0}{\pi}$ だが、これは実効値ではない。実効値は $\dfrac{V_0}{\sqrt{2}}$
「平均値」「実効値」「最大値」は全て異なる量です。物理で最もよく使うのは実効値です。
実効値の定義を数式で表現しましょう。 交流電圧 $V = V_0 \sin\omega t$ に対して、実効値 $V_e$ は次のように定義されます。
$$V_e = \sqrt{\overline{V^2}}$$
ここで $\overline{V^2}$ は $V^2$ の1周期にわたる平均値です。 英語では RMS(Root Mean Square: 二乗平均平方根)と呼ばれ、「二乗して、平均して、ルートをとる」という手順を表しています。
$V^2 = V_0^2 \sin^2\omega t$ の1周期平均を求めます。
三角関数の半角公式 $\sin^2\theta = \dfrac{1 - \cos 2\theta}{2}$ を使うと、
$$V^2 = V_0^2 \cdot \frac{1 - \cos 2\omega t}{2} = \frac{V_0^2}{2} - \frac{V_0^2}{2}\cos 2\omega t$$
$\cos 2\omega t$ の1周期平均はゼロなので、
$$\overline{V^2} = \frac{V_0^2}{2}$$
したがって、
$$V_e = \sqrt{\overline{V^2}} = \sqrt{\frac{V_0^2}{2}} = \frac{V_0}{\sqrt{2}}$$
電圧の実効値:$$V_e = \frac{V_0}{\sqrt{2}} \approx 0.707 \, V_0$$
電流の実効値:$$I_e = \frac{I_0}{\sqrt{2}} \approx 0.707 \, I_0$$
実効値の計算の核心は、$\sin^2\omega t$ の1周期平均が $\dfrac{1}{2}$ であるという事実です。
これは $\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1$ から直感的に理解できます。$\sin^2$ と $\cos^2$ は位相が $\dfrac{\pi}{2}$ ずれただけの同じ形の波なので、1周期の平均は等しいはずです。 2つの平均の和が1なので、それぞれの平均は $\dfrac{1}{2}$ になります。
家庭のコンセントの電圧は実効値で $100\,\text{V}$ です。 このとき最大電圧は、
$$V_0 = \sqrt{2} \, V_e = \sqrt{2} \times 100 = 100\sqrt{2} \approx 141\,\text{V}$$
つまり、コンセントの電圧は $-141\,\text{V}$ から $+141\,\text{V}$ の間を往復しているのです。 しかしエネルギー的には、100Vの直流と同じ仕事をします。
一般的な交流用のテスター(電圧計・電流計)は、実効値を表示するように設計されています。 したがって、テスターでコンセントの電圧を測ると「100V」と表示されます。 もしオシロスコープで波形を観察すれば、$\pm 141\,\text{V}$ の振幅をもつ正弦波が見えるでしょう。
✕ 誤:実効値は最大値の半分、すなわち $V_e = \dfrac{V_0}{2}$
○ 正:実効値は $V_e = \dfrac{V_0}{\sqrt{2}}$(最大値の約 $0.707$ 倍)
$\dfrac{1}{2}$ ではなく $\dfrac{1}{\sqrt{2}}$ です。$\dfrac{1}{2}$ が出てくるのは $\sin^2$ の平均値であり、その平方根をとるので $\dfrac{1}{\sqrt{2}}$ になります。
✕ 誤:「電圧100Vの交流」と書いてあるので $V_0 = 100\,\text{V}$ として計算
○ 正:特に断りがなければ、交流の電圧・電流は実効値で表されるのが慣例。$V_e = 100\,\text{V}$、$V_0 = 100\sqrt{2}\,\text{V}$
問題文で「最大値が○○V」と明記されていれば最大値ですが、そうでなければ実効値と考えましょう。
実効値の最大の利便性は、直流と同じ公式で電力を計算できることです。 交流回路の抵抗 $R$ で消費される平均電力は、実効値を使うと次のように書けます。
$$\overline{P} = V_e I_e = I_e^2 R = \frac{V_e^2}{R}$$
抵抗での瞬時電力は $P(t) = I^2 R = I_0^2 \sin^2\omega t \cdot R$ です。
1周期の平均をとると、$\overline{\sin^2\omega t} = \dfrac{1}{2}$ なので、
$$\overline{P} = \frac{I_0^2 R}{2} = \left(\frac{I_0}{\sqrt{2}}\right)^2 R = I_e^2 R$$
同様に $\overline{P} = \dfrac{V_0^2}{2R} = \dfrac{V_e^2}{R}$、$\overline{P} = \dfrac{V_0 I_0}{2} = V_e I_e$ も成り立ちます。
100Wの電球が家庭のコンセント(実効値100V)に接続されている場合を考えましょう。
このように、実効値を使えば直流回路と全く同じ感覚で計算を進められます。
瞬時電力 $P(t) = I_0^2 R \sin^2\omega t$ をグラフに描くと、常に正の値をとる波が現れます。 この波は周波数が元の交流の2倍($2\omega$)で振動しています。
$\sin^2\omega t = \dfrac{1 - \cos 2\omega t}{2}$ なので、$P(t) = \dfrac{I_0^2 R}{2}(1 - \cos 2\omega t)$。 最大値は $I_0^2 R$、最小値は $0$、平均が $\dfrac{I_0^2 R}{2} = I_e^2 R$ です。
電力が常に正であることは、「電流の向きが変わっても抵抗は常にエネルギーを消費する」ことを意味しています。
実効値の最大のメリットは、オームの法則や電力の公式を直流と同じ形で使えることです。
$V_e = I_e R$、$\overline{P} = I_e^2 R = \dfrac{V_e^2}{R} = V_e I_e$
交流の問題を解くときは、まず最大値と実効値のどちらが与えられているかを確認し、必要に応じて変換してから計算に入りましょう。
実効値は交流回路のすべての計算の基盤です。 以降の記事では、実効値を用いてさまざまな交流回路の性質を調べていきます。
Q1. 最大電圧が $200\,\text{V}$ の交流の実効値を求めてください。
Q2. 実効値 $100\,\text{V}$ の交流電源に $50\,\Omega$ の抵抗をつないだとき、消費電力を求めてください。
Q3. $\sin^2\omega t$ の1周期平均が $\dfrac{1}{2}$ になる理由を、$\sin^2 + \cos^2 = 1$ を使って説明してください。
Q4. 家庭のコンセント(実効値100V、50Hz)の交流電圧を式で表してください。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
交流電圧が $V = 200\sin(100\pi t)\,[\text{V}]$ で表されるとき、次の問いに答えよ。
(1) 電圧の最大値を求めよ。
(2) 電圧の実効値を求めよ。
(3) 交流の周波数を求めよ。
(1) $V_0 = 200\,\text{V}$
(2) $V_e = 100\sqrt{2} \approx 141\,\text{V}$
(3) $f = 50\,\text{Hz}$
(1) $V = V_0\sin\omega t$ の形から $V_0 = 200\,\text{V}$
(2) $V_e = \dfrac{V_0}{\sqrt{2}} = \dfrac{200}{\sqrt{2}} = 100\sqrt{2} \approx 141\,\text{V}$
(3) $\omega = 100\pi$ より $f = \dfrac{\omega}{2\pi} = \dfrac{100\pi}{2\pi} = 50\,\text{Hz}$
実効値 $100\,\text{V}$、$50\,\text{Hz}$ の交流電源に $200\,\Omega$ の抵抗を接続した。次の問いに答えよ。
(1) 抵抗を流れる電流の実効値を求めよ。
(2) 抵抗を流れる電流の最大値を求めよ。
(3) 抵抗で消費される平均電力を求めよ。
(4) 抵抗で消費される瞬時電力の最大値を求めよ。
(1) $I_e = 0.50\,\text{A}$
(2) $I_0 = 0.50\sqrt{2} \approx 0.71\,\text{A}$
(3) $\overline{P} = 50\,\text{W}$
(4) $P_{\max} = 100\,\text{W}$
(1) $I_e = \dfrac{V_e}{R} = \dfrac{100}{200} = 0.50\,\text{A}$
(2) $I_0 = \sqrt{2} \, I_e = 0.50\sqrt{2} \approx 0.71\,\text{A}$
(3) $\overline{P} = I_e^2 R = 0.50^2 \times 200 = 50\,\text{W}$
(4) 瞬時電力の最大値は $P_{\max} = I_0^2 R = (0.50\sqrt{2})^2 \times 200 = 0.50 \times 200 = 100\,\text{W}$。平均電力の2倍。
ある電熱器に $V_0\,[\text{V}]$ の直流電圧を加えたとき、$t\,[\text{s}]$ 間に発生するジュール熱を $Q_1$ とする。同じ電熱器に最大電圧 $V_0\,[\text{V}]$ の交流電圧を加えたとき、同じ $t\,[\text{s}]$ 間に発生するジュール熱を $Q_2$ とする。電熱器の抵抗を $R$ とし、次の問いに答えよ。
(1) $Q_1$ を $V_0$、$R$、$t$ で表せ。
(2) $Q_2$ を $V_0$、$R$、$t$ で表せ。
(3) $\dfrac{Q_2}{Q_1}$ を求めよ。
(4) 交流電圧の最大値を直流電圧の何倍にすれば、同じ時間に同じジュール熱が発生するか。
(1) $Q_1 = \dfrac{V_0^2}{R} t$
(2) $Q_2 = \dfrac{V_0^2}{2R} t$
(3) $\dfrac{Q_2}{Q_1} = \dfrac{1}{2}$
(4) $\sqrt{2}$ 倍
(1) 直流の場合、$P_1 = \dfrac{V_0^2}{R}$ より $Q_1 = P_1 t = \dfrac{V_0^2}{R} t$
(2) 交流の場合、実効値は $V_e = \dfrac{V_0}{\sqrt{2}}$ なので、平均電力 $\overline{P_2} = \dfrac{V_e^2}{R} = \dfrac{V_0^2}{2R}$。よって $Q_2 = \overline{P_2} \cdot t = \dfrac{V_0^2}{2R} t$
(3) $\dfrac{Q_2}{Q_1} = \dfrac{V_0^2/(2R) \cdot t}{V_0^2/R \cdot t} = \dfrac{1}{2}$
(4) $Q_2 = Q_1$ とするには $\dfrac{V_0'^2}{2R} = \dfrac{V_0^2}{R}$ より $V_0'^2 = 2V_0^2$、$V_0' = \sqrt{2}V_0$。交流の最大値を直流の $\sqrt{2}$ 倍にすればよい。