手を離した瞬間、ボールは静かに落ち始めます。最初はゆっくり、そしてみるみる速くなっていく。
この「だんだん速くなる落下」こそが自由落下です。
空気抵抗を無視すれば、羽毛もボウリング球も全く同じように落ちる——この事実は、ガリレオが見つけた自然界の驚くべき法則です。
自由落下は、これまで学んできた等加速度直線運動の最も身近で美しい実例です。
自由落下とは、物体を静かに手放して(初速度 $v_0 = 0$ で)、重力だけを受けて落下する運動のことです。 「自由」という言葉は、空気抵抗や摩擦などの余計な力がない状態——重力だけが「自由に」物体を引っ張っている状態を意味しています。
身近な例を考えてみましょう。あなたが手に持ったスマートフォンをそっと離したとき、スマートフォンは静止状態($v_0 = 0$)から落ち始めます。 最初の 0.1 秒はほとんど動いたように見えませんが、0.5 秒後にはかなりの速度になり、1 秒後には約 $4.9\,\text{m}$(約5 m)も落下しています。 この「最初はゆっくり、でもどんどん加速する」という感覚が自由落下の特徴です。
自由落下として扱うためには、次の2つの条件を満たす必要があります。
現実の世界では空気抵抗が完全にゼロになることはありませんが、重い物体を短い距離だけ落とす場合は、空気抵抗の影響がとても小さいので、自由落下として扱えます。
自由落下は、等加速度直線運動の公式で初速度 $v_0 = 0$、加速度 $a = g$ と置いたものにすぎません。
新しい物理法則が登場するわけではなく、すでに学んだ等加速度直線運動を「重力による落下」という具体的な場面に適用しただけです。 この「一般法則の特殊ケース」という見方は、物理の学び方としてとても大切です。
日常語の「落下」は、投げ下ろしや投げ上げ後の落下も含みます。しかし物理用語の「自由落下」は、初速度 $v_0 = 0$ の落下だけを指します。
✕ 誤:ボールを下向きに投げた → 自由落下
○ 正:ボールを下向きに投げた → 鉛直投げ下ろし(初速度 $v_0 \neq 0$)
問題文に「静かに手を離す」「自然に落下させる」とあれば自由落下($v_0 = 0$)。「$v_0 = 5\,\text{m/s}$ で投げ下ろす」とあれば鉛直投げ下ろしです。
自由落下する物体の加速度を重力加速度といい、記号 $g$ で表します。 地球の表面付近では、
$$g \approx 9.8\,\text{m/s}^2$$
です。これは「1秒ごとに速度が約 $9.8\,\text{m/s}$ ずつ増える」という意味です。 問題文で特に指定がなければ $g = 9.8\,\text{m/s}^2$ を使いますが、計算を簡単にするために $g = 9.8$ の代わりに $g = 10\,\text{m/s}^2$ と近似することもよくあります。
$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ という数値を「すごい」と感じるでしょうか。実感を持つために、自由落下する物体の速度を時間ごとに見てみましょう。
| 経過時間 $t\,[\text{s}]$ | 速度 $v\,[\text{m/s}]$ | 時速換算 | 落下距離 $y\,[\text{m}]$ |
|---|---|---|---|
| $0$ | $0$ | $0\,\text{km/h}$ | $0$ |
| $1$ | $9.8$ | 約 $35\,\text{km/h}$ | $4.9$ |
| $2$ | $19.6$ | 約 $71\,\text{km/h}$ | $19.6$ |
| $3$ | $29.4$ | 約 $106\,\text{km/h}$ | $44.1$ |
| $5$ | $49.0$ | 約 $176\,\text{km/h}$ | $122.5$ |
たった3秒で時速100 km を超えます。5秒では高速道路の制限速度をはるかに超える時速176 km。 もし空気抵抗がなければ、落下速度はどこまでも増え続けるのです。
重力加速度 $g$ は地球(あるいは天体)が決める値であり、落下する物体の質量や形状には依存しません。
鉄球でも木の球でも、空気抵抗を無視すれば同じ加速度 $g$ で落下します。 これがガリレオの大発見であり、自由落下の最も重要な性質です。
$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ は地球表面の平均的な値です。実際には場所によってわずかに異なります。
赤道付近では $g \approx 9.78\,\text{m/s}^2$、北極や南極付近では $g \approx 9.83\,\text{m/s}^2$ です。 これは地球の自転による遠心力と、地球が完全な球ではなく赤道方向にやや膨らんだ楕円体であることが原因です。
月面では $g_{\text{月}} \approx 1.6\,\text{m/s}^2$(地球の約 $\dfrac{1}{6}$)、木星の表面では $g_{\text{木星}} \approx 25\,\text{m/s}^2$(地球の約2.5倍)です。
$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ は正の値です。$g$ 自体には符号はありません(加速度の「大きさ」)。
✕ 誤:$g = -9.8\,\text{m/s}^2$($g$ にマイナスを含める)
○ 正:$g = 9.8\,\text{m/s}^2$(正の値)。加速度を $a = -g$ とするかどうかは、座標軸の正の向きによる
下向きを正に取れば加速度は $+g$、上向きを正に取れば加速度は $-g$ です。符号は座標系の取り方で変わりますが、$g$ そのものは常に正です。
自由落下は等加速度直線運動の特殊ケース($v_0 = 0$、$a = g$)です。 したがって、等加速度直線運動の3公式に $v_0 = 0$、$a = g$ を代入するだけで、自由落下の公式が得られます。 ここでは下向きを正に取ります。
等加速度直線運動の3公式は、
$$v = v_0 + at \quad \cdots (1)$$
$$x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2 \quad \cdots (2)$$
$$v^2 - v_0^2 = 2ax \quad \cdots (3)$$
これに $v_0 = 0$、$a = g$、変位を $y$(鉛直方向)と書き直すと、
$$(1) \Rightarrow v = gt$$
$$(2) \Rightarrow y = \frac{1}{2}gt^2$$
$$(3) \Rightarrow v^2 = 2gy$$
これが自由落下の3公式です。新しい物理はなく、代入しただけです。
$$v = gt \quad \cdots \text{①}$$
$$y = \frac{1}{2}gt^2 \quad \cdots \text{②}$$
$$v^2 = 2gy \quad \cdots \text{③}$$
公式が3つあるのは、それぞれ含まれる変数が異なるためです。 問題文で何が与えられ、何を求めるかによって使う公式を選びます。
| 公式 | 含まれる変数 | 含まれない変数 | 使う場面 |
|---|---|---|---|
| $v = gt$ | $v, g, t$ | $y$ | 時間 → 速度を求める |
| $y = \frac{1}{2}gt^2$ | $y, g, t$ | $v$ | 時間 → 落下距離を求める |
| $v^2 = 2gy$ | $v, g, y$ | $t$ | 時間を使わずに速度と距離を結ぶ |
3番目の公式 $v^2 = 2gy$ は、①と②から $t$ を消去した式です。「何メートル落ちたら、速度は何 m/s になるか」を直接結びつけます。
たとえば「高さ 20 m のビルから落とした物体が地面に着くときの速度は?」という問題では、時間を求める必要がなく、③を使えば一発で答えが出ます。
自由落下の公式は「下向きを正」にとった場合のものです。もし上向きを正に取ると、重力加速度は負の向きになり、加速度は $a = -g$ です。
✕ 誤:上向き正で $y = \frac{1}{2}gt^2$(これだと物体が上に飛んでいくことに)
○ 正:上向き正で $y = -\frac{1}{2}gt^2$(落下距離は負の値=下向き)
問題を解くときは、最初に座標軸の正の向きを決め、図に矢印で明記する習慣をつけましょう。
「重いものほど速く落ちる」——これは古代ギリシャのアリストテレスが約2000年にわたり信じられてきた常識でした。 鉄球と羽毛を同時に落とせば、鉄球のほうが先に地面に着く。これは日常の経験とも一致するため、誰も疑いませんでした。
しかし、16世紀のイタリアの物理学者ガリレオ・ガリレイは、この常識に異を唱えました。 ガリレオは「重いものが速く落ちるなら、重い物体と軽い物体を紐で結んだらどうなるか」という思考実験で矛盾を見つけ、 空気抵抗がなければ、すべての物体は質量によらず同じ加速度で落下することを示しました。
重い石 A と軽い石 B を紐でつないで落とす場合を考えます。「重いほど速く落ちる」という仮説が正しいとすると、
同じ状況なのに「遅くなる」と「速くなる」の両方が導かれてしまいます。 この矛盾を解消する唯一の答えが、「質量に関係なく、すべての物体は同じ速さで落ちる」というものです。
1971年、アポロ15号の宇宙飛行士デイビッド・スコットは月面でハンマーと羽毛を同時に落とす実験を行いました。 月にはほとんど空気がないため、2つの物体は見事に同時に着地しました。
これはガリレオの予言が正しかったことを、目に見える形で実証した歴史的瞬間です。 地球上では空気抵抗があるために羽毛はゆっくり落ちますが、真空中では鉄球と同じ速さで落下するのです。
質量が大きいほど重力(落とそうとする力)は強くなりますが、同時に慣性(動かしにくさ)も大きくなります。
ニュートンの運動方程式 $ma = mg$ で考えると、両辺の $m$ が消えて $a = g$ となります。 重力を大きくする効果と動きにくくする効果がぴったり相殺するため、加速度は質量に依存しないのです。
日常生活で紙と石を同時に落とせば、石が先に着地します。しかしこれは自由落下の法則が間違っているのではなく、空気抵抗が紙には大きく効いているためです。
✕ 誤:現実では重いほうが速く落ちるから、$g$ は物体によって異なる
○ 正:$g$ はすべての物体で同じ。現実の落下速度の差は空気抵抗が原因
紙をくしゃくしゃに丸めて石と同時に落とすと、ほぼ同時に着地します。空気抵抗が減った分、自由落下に近づくからです。
自由落下の運動をグラフで見ると、前の記事(M-1-6)で学んだv-tグラフの読み方がそのまま活きてきます。
自由落下の速度は $v = gt$ なので、v-tグラフは原点を通り、傾き $g$ の直線です。 $t = 0$ で $v = 0$(静止状態から始まる)で、時間とともに速度が一定の割合で増加していきます。
このグラフの傾きが重力加速度 $g$ そのものです。 また、v-tグラフと時間軸で囲まれた面積が落下距離に等しいことも、前回学んだ通りです。 三角形の面積として $y = \frac{1}{2} \times t \times gt = \frac{1}{2}gt^2$ が得られ、公式②と一致します。
落下距離は $y = \frac{1}{2}gt^2$ ですから、y-tグラフは原点を通る放物線(下に凸の2次関数)になります。 時間が経つほど曲線が急になる——つまり、同じ1秒でも後になるほど落下距離が大きくなることがグラフの形からも読み取れます。
具体的に見てみましょう($g = 9.8\,\text{m/s}^2$)。
1秒ごとの落下距離が $4.9$、$14.7$、$24.5\,\text{m}$ と増えていきます。 これは等加速度運動の性質で、連続する等しい時間間隔での変位の差が一定($= g \times (\Delta t)^2 = 9.8\,\text{m}$)であることとも整合します。
$n$ 秒目から $(n+1)$ 秒目までの落下距離は、
$$\Delta y_n = y(n+1) - y(n) = \frac{1}{2}g(n+1)^2 - \frac{1}{2}gn^2 = \frac{1}{2}g(2n+1)$$
$\Delta y_n$ と $\Delta y_{n-1}$ の差は、
$$\Delta y_n - \Delta y_{n-1} = \frac{1}{2}g(2n+1) - \frac{1}{2}g(2n-1) = g$$
つまり、連続する1秒間の落下距離の差は常に $g\,(\approx 9.8\,\text{m})$ です。これは等加速度運動の一般的な性質です。
自由落下する物体をストロボ(一定間隔で光るフラッシュ)を使って撮影すると、物体の像の間隔が下にいくほど広くなります。 これは等時間間隔ごとの落下距離が増加していくことの視覚的な証拠です。
像の間隔の差が一定であることから、加速度が一定(等加速度運動)であることも読み取れます。 ストロボ写真の分析は、実験の定期テスト問題として頻出です。
自由落下のグラフは2種類あり、形が全く異なります。
✕ 誤:自由落下のv-tグラフは放物線
○ 正:v-tグラフは直線($v = gt$)。放物線になるのはy-tグラフ($y = \frac{1}{2}gt^2$)
「速度が一定の割合で増える → v-tグラフは直線」「距離が加速的に増える → y-tグラフは放物線」と整理しましょう。
自由落下は力学の中でも最も基本的な運動の一つです。 ここで学んだ「重力加速度 $g$」と「初速0の等加速度運動」がどのように発展していくかを見てみましょう。
Q1. 自由落下の「自由」とはどのような意味ですか。
Q2. 重力加速度 $g$ の大きさは落下する物体の質量によって変わりますか。
Q3. 自由落下で 2.0 秒後の速度と落下距離を求めなさい($g = 9.8\,\text{m/s}^2$)。
Q4. 自由落下のv-tグラフはどのような形をしていますか。また、その傾きは何を表しますか。
Q5. 高さ 44.1 m のビルの屋上から物体を静かに落としたとき、地面に達するまでの時間を求めなさい($g = 9.8\,\text{m/s}^2$)。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
高さ $19.6\,\text{m}$ のビルの屋上から、小球を静かに落とした。重力加速度を $g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とし、空気抵抗は無視する。次の問いに答えよ。
(1) 小球が地面に達するまでの時間を求めよ。
(2) 地面に達する直前の小球の速さを求めよ。
(1) $2.0\,\text{s}$
(2) $19.6\,\text{m/s}$
方針:自由落下なので $v_0 = 0$。下向きを正に取る。
(1) $y = \dfrac{1}{2}gt^2$ より、$19.6 = \dfrac{1}{2} \times 9.8 \times t^2$
$t^2 = \dfrac{19.6}{4.9} = 4.0$ → $t = 2.0\,\text{s}$
(2) $v = gt = 9.8 \times 2.0 = 19.6\,\text{m/s}$
別解:$v^2 = 2gy = 2 \times 9.8 \times 19.6 = 384.16$ → $v = 19.6\,\text{m/s}$
地上 $78.4\,\text{m}$ の高さから小球 A を静かに落とした。A を落としてから $1.0\,\text{s}$ 後に、同じ高さから小球 B を静かに落とした。重力加速度を $g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とし、空気抵抗は無視する。次の問いに答えよ。
(1) 小球 A が地面に達するまでの時間を求めよ。
(2) 小球 A が地面に達した瞬間、小球 B は地面から何 m の高さにあるか。
(3) 小球 A が地面に達した瞬間の、A と B の速度の差を求めよ。
(1) $4.0\,\text{s}$
(2) $34.3\,\text{m}$
(3) $9.8\,\text{m/s}$
方針:A を落とした瞬間を $t = 0$ とする。B は $t = 1.0\,\text{s}$ から落下を開始。
(1) A について $y_A = \dfrac{1}{2}gt^2$ で $y_A = 78.4\,\text{m}$ を代入。
$78.4 = \dfrac{1}{2} \times 9.8 \times t^2$ → $t^2 = 16.0$ → $t = 4.0\,\text{s}$
(2) $t = 4.0\,\text{s}$ のとき、B は落下開始から $4.0 - 1.0 = 3.0\,\text{s}$ 経過。
B の落下距離:$y_B = \dfrac{1}{2} \times 9.8 \times 3.0^2 = 44.1\,\text{m}$
地面からの高さ:$78.4 - 44.1 = 34.3\,\text{m}$
(3) A の速度:$v_A = g \times 4.0 = 39.2\,\text{m/s}$
B の速度:$v_B = g \times 3.0 = 29.4\,\text{m/s}$
速度の差:$v_A - v_B = 39.2 - 29.4 = 9.8\,\text{m/s}$
(補足:自由落下では $v = gt$ なので、時間差 $\Delta t$ だけ遅れて落下を始めた2物体の速度差は常に $g \Delta t$ で一定です。)
深い井戸の上端から小石を静かに落としたところ、手を離してから $3.0\,\text{s}$ 後に水面に衝突する音が聞こえた。音速を $V = 340\,\text{m/s}$、重力加速度を $g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とし、空気抵抗は無視する。次の問いに答えよ。
(1) 井戸の深さを $h\,[\text{m}]$ とする。小石が水面に達するまでの時間 $t_1$ と、音が井戸の上端に届くまでの時間 $t_2$ を、$h$ を用いて表せ。
(2) $t_1 + t_2 = 3.0$ の条件を用いて、井戸の深さ $h$ を求めよ。
(1) $t_1 = \sqrt{\dfrac{2h}{g}}$、$t_2 = \dfrac{h}{V}$
(2) $h \approx 40\,\text{m}$
方針:小石の落下時間と音の伝播時間を分けて考え、合計が $3.0\,\text{s}$ となる条件を立てる。
(1) 小石の落下(自由落下):$h = \dfrac{1}{2}gt_1^2$ → $t_1 = \sqrt{\dfrac{2h}{g}}$
音の伝播(等速):$h = V t_2$ → $t_2 = \dfrac{h}{V}$
(2) 条件:$t_1 + t_2 = 3.0$ すなわち
$$\sqrt{\frac{2h}{g}} + \frac{h}{V} = 3.0$$
$\sqrt{\dfrac{2h}{g}} = T$ と置くと $h = \dfrac{1}{2}gT^2$ なので、
$$T + \frac{gT^2}{2V} = 3.0$$
$g = 9.8$、$V = 340$ を代入すると、
$$T + \frac{9.8}{680}T^2 = 3.0 \quad \Rightarrow \quad 0.01441\,T^2 + T - 3.0 = 0$$
2次方程式の解の公式より、
$$T = \frac{-1 + \sqrt{1 + 4 \times 0.01441 \times 3.0}}{2 \times 0.01441} = \frac{-1 + \sqrt{1.1729}}{0.02882}$$
$$T = \frac{-1 + 1.0830}{0.02882} \approx 2.88\,\text{s}$$
$$h = \frac{1}{2} \times 9.8 \times 2.88^2 \approx 40.6\,\text{m} \approx 40\,\text{m}$$
(検算:$t_1 \approx 2.88\,\text{s}$、$t_2 = \dfrac{40.6}{340} \approx 0.12\,\text{s}$、$t_1 + t_2 \approx 3.0\,\text{s}$ ✓)