リンゴが木から落ちる。月が地球のまわりを回り続ける。
この二つの現象が「同じ力」で説明できると最初に見抜いたのがニュートンでした。
宇宙のあらゆる物体のあいだに働く引力──万有引力の法則を学びましょう。
地表にいる私たちは、「重力」を日常的に感じています。 ボールを放せば下に落ち、ジャンプしても地面に戻ってきます。 この力は地球が私たちを引っ張っているからです。
では、月はなぜ地球のまわりを回り続けるのでしょうか。 ニュートンは、リンゴを落とす力と月を引き寄せる力が同じ種類の力だと考えました。 この力こそが万有引力です。
「万有」とは「すべてのものに備わっている」という意味です。 質量をもつ物体は、例外なく互いに引き合います。 あなたとこの教科書のあいだにも万有引力は働いています。 ただし、日常スケールでは極めて小さいので感じられないだけです。
電磁気力は電荷をもつ物体のあいだだけに働きます。 しかし万有引力は質量をもつすべての物体に働きます。
宇宙に完全に孤立した物体はありません。 万有引力は宇宙の構造を決める最も基本的な力の一つです。
✕ 誤:万有引力と重力は同じもの
○ 正:地表で感じる重力は、万有引力と地球の自転による遠心力の合力です。 厳密には万有引力と重力は異なります(M-10-2で詳しく扱います)。
ニュートンが発見した法則を、数式で表現しましょう。 質量 $M$ の物体と質量 $m$ の物体が距離 $r$ だけ離れているとします。
$$F = G\frac{Mm}{r^2}$$
この式が語っていることは、驚くほどシンプルです。 万有引力は、2つの物体の質量の積に比例し、距離の2乗に反比例します。 これを逆2乗の法則と呼びます。
$G$ は自然界の基本定数の一つです。 値が極めて小さい($10^{-11}$ のオーダー)ことが示すように、万有引力は非常に弱い力です。 たとえば、質量 $1\,\text{kg}$ の物体2つを $1\,\text{m}$ 離して置いた場合の引力はわずか $6.674 \times 10^{-11}\,\text{N}$ です。
$G$ の値は1798年にキャヴェンディッシュがねじり秤の実験で初めて精密に測定しました。 この実験は「地球の重さを量った実験」とも呼ばれています。
距離が2倍になれば引力は $\frac{1}{4}$ に、3倍になれば $\frac{1}{9}$ になります。 これは光の強さが距離の2乗に反比例するのと同じ数学的構造です。
イメージとしては、ある点から出る「影響」が球面状に広がると考えてください。 球の表面積は $4\pi r^2$ に比例するので、単位面積あたりの影響は $\frac{1}{r^2}$ に減ります。
万有引力の公式で使う距離 $r$ は、2つの物体の重心間の距離です。 球対称な物体であれば、その中心間の距離を使います。
たとえば、地球の半径を $R$ とすると、地表にある物体と地球中心の距離は $R$ です。 地表から高さ $h$ の位置にある物体なら、距離は $R + h$ となります。
地球と人工衛星の万有引力を計算するとき、衛星の高度をそのまま $r$ に使うのは誤りです。
✕ 誤:高度 $h = 400\,\text{km}$ → $r = 400\,\text{km}$
○ 正:$r = R + h = 6400 + 400 = 6800\,\text{km}$($R$:地球の半径)
一様な密度の球体が外部の物体に及ぼす万有引力は、全質量が中心に集中した質点と同じになります。
これを球殻定理といい、ニュートン自身が証明しました。 この定理のおかげで、地球のような巨大な球体でも公式をそのまま適用できるのです。
万有引力はニュートンの第3法則(作用反作用の法則)に従います。 地球が月を引く力と、月が地球を引く力は大きさが等しく、向きが反対です。
「地球は月を引くけれど、月も地球を引いている」と聞くと意外に感じるかもしれません。 しかし、地球は月の約81倍の質量をもつので、同じ大きさの力を受けても加速度は約 $\frac{1}{81}$ です。 そのため地球の動きは目立たないのです。
3つ以上の物体がある場合、ある物体に働く万有引力は、他の各物体からの引力のベクトル和になります。 これを万有引力の重ね合わせの原理といいます。
たとえば、太陽と月の両方から地球が受ける万有引力は、太陽からの引力と月からの引力を足し合わせたものです。
電磁気力には引力と斥力がありますが、万有引力には引力しかありません。 質量は常に正なので、万有引力は必ず2つの物体を近づける向きに働きます。
宇宙全体を見ると、この性質が星の誕生や銀河の形成に深く関わっています。
✕ 誤:ISS(国際宇宙ステーション)では無重力だから万有引力は働いていない
○ 正:ISSの高度約400 kmでも地表の約90%の万有引力が働いています。 宇宙飛行士が浮いて見えるのは、ISSと一緒に自由落下しているからです。
1687年、ニュートンは著書『プリンキピア』で万有引力の法則を発表しました。 この法則はケプラーの惑星運動の法則を理論的に説明するものでした。
ニュートンの偉大さは、「地上の物理と天上の物理を統一した」ことにあります。 リンゴが落ちるのも月が回るのも、同じ法則で記述できる。 これは当時の人々にとって革命的な考え方でした。
万有引力定数 $G$ を最初に精密に測定したのは、1798年のキャヴェンディッシュです。 彼はねじり秤を使い、鉛球どうしの微小な引力を測定しました。
この実験で $G$ の値が分かったことで、地球の質量を計算できるようになりました。 $mg = G\frac{Mm}{R^2}$ から $M = \frac{gR^2}{G}$ と求まります。 現在知られている地球の質量は約 $5.97 \times 10^{24}\,\text{kg}$ です。
ニュートンの万有引力の法則は、アインシュタインの一般相対性理論(1915年)によってより深く理解されるようになりました。 一般相対性理論では、質量が時空を曲げ、その曲がりに沿って物体が運動すると考えます。
しかし、高校物理で扱う範囲ではニュートンの理論で十分な精度が得られます。 ニュートンの法則は、一般相対性理論の「弱い重力場・低速」での近似と見なせます。
$G$ と $g$ は記号が似ていますが、全く異なる物理量です。
$G$(大文字):万有引力定数。宇宙のどこでも一定の普遍定数。$6.674 \times 10^{-11}\,\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^2$
$g$(小文字):重力加速度。天体や場所によって異なる量。地表で約 $9.8\,\text{m/s}^2$
両者の関係は M-10-2 で詳しく学びます。
万有引力の法則は、この第10章全体の土台となる法則です。 ここから先の記事で、この法則がどう展開していくかを確認しておきましょう。
Q1. 万有引力の法則の式を書いてください。各記号の意味も答えなさい。
Q2. 2つの物体間の距離を3倍にすると、万有引力は何倍になりますか。
Q3. 万有引力定数 $G$ と重力加速度 $g$ の違いを説明してください。
Q4. ISSの宇宙飛行士が浮いて見えるのはなぜですか。「万有引力がないから」は正しいですか。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
地球の質量を $M = 5.97 \times 10^{24}\,\text{kg}$、月の質量を $m = 7.35 \times 10^{22}\,\text{kg}$、地球と月の中心間距離を $r = 3.84 \times 10^{8}\,\text{m}$、万有引力定数を $G = 6.67 \times 10^{-11}\,\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^2$ として、地球と月の間に働く万有引力の大きさを求めよ。
$F \approx 1.98 \times 10^{20}\,\text{N}$
方針:万有引力の法則 $F = G\dfrac{Mm}{r^2}$ にそのまま代入する。
$$F = 6.67 \times 10^{-11} \times \frac{5.97 \times 10^{24} \times 7.35 \times 10^{22}}{(3.84 \times 10^{8})^2}$$
分子:$6.67 \times 5.97 \times 7.35 = 292.5$、指数部:$10^{-11+24+22} = 10^{35}$
分母:$3.84^2 = 14.75$、指数部:$10^{16}$
$$F = \frac{292.5 \times 10^{35}}{14.75 \times 10^{16}} \approx 19.8 \times 10^{19} = 1.98 \times 10^{20}\,\text{N}$$
質量 $m$ の物体が地球の中心から距離 $r$ の位置にある。地球の質量を $M$、地球の半径を $R$ とする。
(1) 地表($r = R$)における万有引力の大きさ $F_0$ を求めよ。
(2) $r = 2R$ の位置における万有引力の大きさ $F_1$ を $F_0$ を用いて表せ。
(3) 万有引力が地表の $\frac{1}{100}$ になる距離 $r$ を $R$ を用いて表せ。
(1) $F_0 = G\dfrac{Mm}{R^2}$
(2) $F_1 = \dfrac{F_0}{4}$
(3) $r = 10R$
(1) $r = R$ を代入して $F_0 = G\dfrac{Mm}{R^2}$
(2) $r = 2R$ を代入すると $F_1 = G\dfrac{Mm}{(2R)^2} = G\dfrac{Mm}{4R^2} = \dfrac{F_0}{4}$
(3) $\dfrac{F_0}{100} = G\dfrac{Mm}{r^2}$ より $\dfrac{G\frac{Mm}{R^2}}{100} = G\dfrac{Mm}{r^2}$
整理すると $r^2 = 100R^2$ → $r = 10R$
質量 $M$ の物体Aと質量 $M$ の物体Bが距離 $2d$ 離れて固定されている。その中点に質量 $m$ の物体Cを置いた場合と、中点から垂直方向に距離 $d$ だけ離れた点Pに置いた場合について、物体Cに働く万有引力の合力をそれぞれ求めよ。
中点に置いた場合:合力は $0$
点Pに置いた場合:合力は $\dfrac{GMm}{d^2\sqrt{2}}$(AB中点に向かう向き)
中点の場合:CはA, Bから等距離 $d$ にあり、AからCへの引力とBからCへの引力は大きさが等しく向きが反対。よって合力は $0$。
点Pの場合:PからA, Bまでの距離はともに $\sqrt{d^2 + d^2} = d\sqrt{2}$
各引力の大きさは $F = G\dfrac{Mm}{2d^2}$
AB方向の成分は互いに打ち消し合い、垂直方向(中点へ向かう向き)の成分が残る。
各引力の垂直成分は $F\cos 45° = F \times \dfrac{1}{\sqrt{2}}$
合力 $= 2F\cos 45° = 2 \times G\dfrac{Mm}{2d^2} \times \dfrac{1}{\sqrt{2}} = \dfrac{GMm}{d^2\sqrt{2}}$