第10章 万有引力

ケプラーの法則
─ 惑星運動の3つのルール

夜空を見上げると、惑星は星座のあいだを不規則に動いているように見えます。
しかしケプラーは、膨大な観測データから美しい3つの法則を見出しました。
その法則をニュートンが万有引力で説明した瞬間、天の力学が完成したのです。

1ケプラーの第1法則(楕円軌道の法則)

古代から「惑星は完全な円の上を動く」と信じられてきました。 しかしケプラーは、師であるティコ・ブラーエの精密な火星の観測データを分析し、驚くべき結論にたどり着きます。

📐 ケプラーの第1法則(楕円軌道の法則)

惑星は、太陽を一つの焦点とする楕円軌道上を運動する。

楕円には2つの焦点があり、太陽はそのうちの一つに位置します。 惑星が太陽に最も近い点を近日点、最も遠い点を遠日点といいます。

なお、円は楕円の特別な場合(2つの焦点が一致したもの)です。 実際の惑星の軌道は円に近い楕円が多く、地球の軌道の離心率は約0.017と非常に小さい値です。

⚠️ 落とし穴:「楕円の中心に太陽がある」と思い込む

✕ 誤:太陽は楕円の中心にある

○ 正:太陽は楕円の焦点にある。中心と焦点は異なる点です。

2ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)

惑星は楕円軌道上を一定の速さでは動きません。 太陽に近いときは速く、遠いときは遅くなります。 しかし、ここに美しい法則が隠れています。

📐 ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)

惑星と太陽を結ぶ線分が、単位時間に掃く面積(面積速度)は一定である。

たとえるなら、フィギュアスケート選手のスピンに似ています。 腕を縮めると速く回り、広げると遅く回ります。 惑星も太陽に近づくと速くなり、遠ざかると遅くなるのです。

💡 ここが本質:面積速度一定は角運動量保存の現れ

面積速度が一定であることは、物理的には角運動量が保存していることを意味します。

万有引力は常に太陽と惑星を結ぶ直線上に働く(中心力)ため、太陽まわりのトルクは $0$ です。 トルクが $0$ なら角運動量は保存されます。

⚠️ 落とし穴:「面積速度一定=速さ一定」と誤解する

✕ 誤:惑星は軌道上を一定の速さで動く

○ 正:一定なのは面積速度であり、速さは変化します。近日点で最速、遠日点で最遅です。

3ケプラーの第3法則(調和の法則)

ケプラーの3つの法則の中で、入試で最も頻繁に使うのがこの第3法則です。 惑星の公転周期と軌道の大きさの関係を定量的に示します。

📐 ケプラーの第3法則(調和の法則)

$$T^2 = k a^3$$

あるいは同値な形で、

$$\frac{T^2}{a^3} = \text{一定}$$

$T$:公転周期、$a$:楕円軌道の半長軸(円軌道の場合は軌道半径 $r$)
比例定数 $k$ は中心天体の質量のみで決まり、惑星の質量には依存しない

太陽系のすべての惑星について $\dfrac{T^2}{a^3}$ を計算すると、同じ値になります。 これこそがケプラーがデータから発見した「宇宙の調和」です。

💡 ここが本質:第3法則は中心天体が同じなら成立

ケプラーの第3法則は太陽のまわりの惑星だけでなく、同じ中心天体のまわりを回るすべての天体に成り立ちます。

たとえば、地球のまわりを回る月と人工衛星にも、$\dfrac{T^2}{r^3}$ が共通の値になるという関係が成り立ちます。 ただし、その定数の値は太陽系の惑星とは異なります(中心天体の質量が異なるため)。

⚠️ 落とし穴:異なる中心天体の衛星に第3法則を適用する

✕ 誤:地球の月と木星のガニメデに同じ $\dfrac{T^2}{r^3}$ の値を使う

○ 正:$\dfrac{T^2}{r^3}$ の値は中心天体ごとに異なります。 地球の衛星どうし、または太陽の惑星どうしでのみ比較できます。

4万有引力からケプラーの第3法則を導く

ケプラーの法則は観測から導かれた経験則ですが、ニュートンの万有引力で理論的に説明できます。 ここでは円軌道の場合について、第3法則を導出します。

▷ 円軌道でのケプラーの第3法則の導出

質量 $M$ の太陽のまわりを質量 $m$ の惑星が半径 $r$ の円軌道で等速円運動するとします。

万有引力が向心力を提供するので、

$$G\frac{Mm}{r^2} = m r \omega^2 = m r \left(\frac{2\pi}{T}\right)^2$$

$m$ を消去し、$\omega = \dfrac{2\pi}{T}$ を代入すると、

$$G\frac{M}{r^2} = \frac{4\pi^2 r}{T^2}$$

$T^2$ について解くと、

$$T^2 = \frac{4\pi^2}{GM} r^3$$

$\dfrac{4\pi^2}{GM}$ は定数なので、$T^2 \propto r^3$ が示されました。

📐 ケプラーの第3法則(万有引力から導いた形)

$$T^2 = \frac{4\pi^2}{GM} r^3$$

$T$:公転周期、$r$:軌道半径(円軌道)、$M$:中心天体の質量、$G$:万有引力定数
💡 ここが本質:比例定数から中心天体の質量が分かる

$T^2 = \dfrac{4\pi^2}{GM} r^3$ の比例定数には中心天体の質量 $M$ が含まれています。

衛星の公転周期 $T$ と軌道半径 $r$ を観測すれば、$M = \dfrac{4\pi^2 r^3}{GT^2}$ で中心天体の質量を求められます。 これが太陽や木星の質量を「量る」方法です。

🔬 深掘り:楕円軌道の場合

楕円軌道でもケプラーの第3法則は成り立ちます。 その場合、$r$ の代わりに楕円の半長軸 $a$ を使います。

$$T^2 = \frac{4\pi^2}{GM} a^3$$

この証明には微積分が必要なため高校では扱いませんが、円軌道の場合の導出を理解していれば十分です。 入試問題の多くは円軌道を前提としています。

⚠️ 落とし穴:$T^2 \propto r^3$ の比例定数を惑星の質量に依存させる

導出過程で $m$ は消去されました。比例定数 $\dfrac{4\pi^2}{GM}$ は中心天体の質量 $M$ のみで決まります。

✕ 誤:重い惑星ほど公転周期が長い

○ 正:公転周期は惑星の質量には依存しません。軌道半径だけで決まります。

5この章を俯瞰する

ケプラーの法則は惑星運動を記述する道具です。 万有引力と組み合わせることで、宇宙速度や人工衛星の問題が解けるようになります。

つながりマップ

  • ← M-10-1 万有引力の法則:ケプラーの第3法則は万有引力の法則から導出できる。ニュートンの理論がケプラーの経験則を説明した。
  • ← M-10-2 重力と万有引力:$GM = gR^2$ を使えば、第3法則を $g$ と $R$ で書き換えられる。
  • → M-10-5 第一宇宙速度:地球を周回する衛星にもケプラーの第3法則が適用できる。
  • → M-10-7 人工衛星の軌道:静止衛星の高度をケプラーの第3法則から求める。
  • ← M-9 円運動:向心力の考え方を使って、万有引力と等速円運動を結びつけた。

📋まとめ

  • 第1法則:惑星は太陽を一つの焦点とする楕円軌道上を運動する
  • 第2法則:惑星と太陽を結ぶ線分が単位時間に掃く面積(面積速度)は一定
  • 第3法則:$T^2 = \dfrac{4\pi^2}{GM} r^3$(公転周期の2乗は軌道半径の3乗に比例)
  • 第3法則の比例定数は中心天体の質量のみで決まる。惑星の質量には依存しない
  • 面積速度一定は角運動量保存に対応する。万有引力が中心力であることの結果

確認テスト

Q1. ケプラーの3法則をそれぞれ簡潔に述べてください。

▶ クリックして解答を表示第1法則:惑星は太陽を焦点とする楕円軌道を描く。第2法則:面積速度は一定。第3法則:$T^2 \propto r^3$(公転周期の2乗は軌道半径の3乗に比例)。

Q2. ケプラーの第3法則 $T^2 = \dfrac{4\pi^2}{GM}r^3$ の $M$ は何の質量ですか。

▶ クリックして解答を表示中心天体の質量(太陽のまわりの惑星なら太陽の質量、地球のまわりの衛星なら地球の質量)。

Q3. 惑星Aの軌道半径が惑星Bの2倍のとき、Aの公転周期はBの何倍ですか。

▶ クリックして解答を表示$T^2 \propto r^3$ より $\dfrac{T_A^2}{T_B^2} = \left(\dfrac{2r}{r}\right)^3 = 8$。$T_A = 2\sqrt{2}\,T_B \approx 2.83\,T_B$。

8入試問題演習

この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

10-3-1 A 基礎 第3法則の適用

地球の公転周期は1年、軌道半径は $1.50 \times 10^{11}\,\text{m}$ である。火星の軌道半径が $2.28 \times 10^{11}\,\text{m}$ のとき、火星の公転周期を年単位で求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

約 $1.88$ 年

解説

ケプラーの第3法則より $\dfrac{T_{\text{火}}^2}{T_{\text{地}}^2} = \dfrac{r_{\text{火}}^3}{r_{\text{地}}^3}$

$T_{\text{火}}^2 = 1^2 \times \left(\dfrac{2.28}{1.50}\right)^3 = (1.52)^3 = 3.51$

$T_{\text{火}} = \sqrt{3.51} \approx 1.88$ 年

B 発展レベル

10-3-2 B 発展 中心天体の質量 導出

ある衛星が中心天体のまわりを半径 $r$ の円軌道で周期 $T$ で公転している。万有引力定数を $G$ として、中心天体の質量 $M$ を $r$、$T$、$G$ を用いて表せ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$M = \dfrac{4\pi^2 r^3}{GT^2}$

解説

$T^2 = \dfrac{4\pi^2}{GM}r^3$ を $M$ について解くと、

$M = \dfrac{4\pi^2 r^3}{GT^2}$

採点ポイント
  • ケプラーの第3法則を正しく書く(3点)
  • $M$ について正しく解く(3点)
  • 式変形の過程を明示する(2点)

C 応用レベル

10-3-3 C 応用 静止衛星 計算

地球の半径を $R = 6.4 \times 10^3\,\text{km}$、地表の重力加速度を $g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。地球の自転周期と同じ周期で公転する静止衛星の、地表からの高度 $h$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$h \approx 3.6 \times 10^4\,\text{km}$

解説

方針:$GM = gR^2$ を利用してケプラーの第3法則から軌道半径 $r$ を求め、$h = r - R$ とする。

$T^2 = \dfrac{4\pi^2}{GM}r^3 = \dfrac{4\pi^2}{gR^2}r^3$

$r^3 = \dfrac{gR^2 T^2}{4\pi^2}$

$T = 24 \times 3600 = 86400\,\text{s}$、$R = 6.4 \times 10^6\,\text{m}$

$r^3 = \dfrac{9.8 \times (6.4 \times 10^6)^2 \times (86400)^2}{4\pi^2}$

$= \dfrac{9.8 \times 4.10 \times 10^{13} \times 7.46 \times 10^{9}}{39.5}$

$\approx 7.57 \times 10^{22}$

$r = (7.57 \times 10^{22})^{1/3} \approx 4.23 \times 10^7\,\text{m} = 4.23 \times 10^4\,\text{km}$

$h = r - R = 4.23 \times 10^4 - 6.4 \times 10^3 \approx 3.6 \times 10^4\,\text{km}$

採点ポイント
  • $GM = gR^2$ の変換を使う(2点)
  • ケプラーの第3法則を正しく立式(2点)
  • $T = 86400\,\text{s}$ を正しく使う(2点)
  • $r^3$ から $r$ を求め、$h = r - R$ とする(2点)
  • 数値計算の結果(2点)