第10章 万有引力

人工衛星の軌道
─ 円軌道と楕円軌道

ISS(国際宇宙ステーション)は約90分で地球を一周し、気象衛星ひまわりは赤道上空でずっと同じ位置に留まっています。
軌道の高さが変わると周期も速さも変わります。ケプラーの第三法則 $T^2 \propto r^3$ が、その関係を美しく記述します。

1円軌道の力学

質量 $m$ の衛星が、地球の中心から距離 $r$ の円軌道上を速さ $v$ で等速円運動しているとき、万有引力が向心力を提供します。

$$\frac{GMm}{r^2} = \frac{mv^2}{r}$$

$$v = \sqrt{\frac{GM}{r}} = \sqrt{\frac{gR^2}{r}}$$

📐 円軌道の速さと周期

$$v = \sqrt{\frac{GM}{r}}, \quad T = \frac{2\pi r}{v} = 2\pi\sqrt{\frac{r^3}{GM}} = 2\pi r\sqrt{\frac{r}{gR^2}}$$

※ $r$:軌道半径(地球中心からの距離)、$R$:地球の半径。$r$ が大きいほど $v$ は小さく、$T$ は大きい。
💡 ここが本質:$r$ が決まればすべてが決まる

円軌道では、軌道半径 $r$ を指定すれば、速さ $v$、周期 $T$、角速度 $\omega$ がすべて一意に決まります。

「高い軌道 → 遅い速さ → 長い周期」というセットで覚えましょう。

2周期と軌道半径の関係

$T = 2\pi\sqrt{\dfrac{r^3}{GM}}$ の両辺を2乗すると、

📐 ケプラーの第三法則(人工衛星版)

$$T^2 = \frac{4\pi^2}{GM}\,r^3$$

※ $T^2 \propto r^3$。周期の2乗は軌道半径の3乗に比例する。比例定数は中心天体の質量 $M$ だけで決まる。
▷ 2つの衛星の比較

軌道半径 $r_1$、$r_2$ の2つの衛星について、

$$\frac{T_1^2}{T_2^2} = \frac{r_1^3}{r_2^3} = \left(\frac{r_1}{r_2}\right)^3$$

一方の衛星の $r$ と $T$ が分かっていれば、他方の衛星の $r$ または $T$ を求められます。

⚠️ 落とし穴:$r$ は地表からの高さではない

ケプラーの第三法則の $r$ は地球の中心からの距離です。

✕ 誤:高度 $h$ をそのまま $r$ に代入する

○ 正:$r = R + h$(地球の半径+高度)を代入する

3静止衛星

赤道上空で、地球の自転と同じ角速度(周期 $T = 24\,\text{h} = 86400\,\text{s}$)で周回する衛星を静止衛星(geostationary satellite)といいます。 地上から見ると空の一点に静止しているように見えるため、通信衛星や気象衛星に利用されます。

静止衛星の軌道半径

$T^2 = \dfrac{4\pi^2}{GM}\,r^3$ を $r$ について解くと、

$$r = \left(\frac{GMT^2}{4\pi^2}\right)^{1/3} = \left(\frac{gR^2T^2}{4\pi^2}\right)^{1/3}$$

$g = 9.8\,\text{m/s}^2$、$R = 6.4 \times 10^6\,\text{m}$、$T = 86400\,\text{s}$ を代入すると、

$$r \approx 4.2 \times 10^7\,\text{m} = 42000\,\text{km}$$

地表からの高度は $h = r - R \approx 36000\,\text{km}$ です。

📐 静止衛星の軌道

高度 $h \approx 36000\,\text{km}$(地球の半径の約 5.6 倍)

軌道半径 $r \approx 42000\,\text{km}$(地球の半径の約 6.6 倍)

※ 静止衛星は赤道上空にしか存在できない。日本上空(北緯 35°付近)には静止できない。
🔬 深掘り:静止衛星の速さ

$v = 2\pi r / T = 2\pi \times 4.2 \times 10^7 / 86400 \approx 3.1\,\text{km/s}$

第一宇宙速度 $7.9\,\text{km/s}$ より大幅に遅いです。高い軌道ほど遅いという法則の通りです。

4楕円軌道とケプラーの法則

衛星の速度が円軌道の速度と異なると、軌道は楕円になります。ケプラーの3法則で記述されます。

ケプラーの第一法則(楕円軌道の法則)

惑星(衛星)は、太陽(地球)を焦点の1つとする楕円軌道上を運動する。

ケプラーの第二法則(面積速度一定の法則)

惑星と太陽を結ぶ線分が単位時間に掃く面積は一定。近地点では速く、遠地点では遅い。

ケプラーの第三法則(調和の法則)

楕円軌道の場合、$r$ を楕円の半長軸 $a$ に置き換えると、$T^2 \propto a^3$ が成り立つ。

💡 ここが本質:楕円軌道でのエネルギー保存

楕円軌道では速さが変化しますが、力学的エネルギーは保存されます。

近地点(地球に最も近い点)では速さが最大、遠地点(最も遠い点)では速さが最小になります。

$$\frac{1}{2}mv_{\text{近}}^2 - \frac{GMm}{r_{\text{近}}} = \frac{1}{2}mv_{\text{遠}}^2 - \frac{GMm}{r_{\text{遠}}}$$

⚠️ 落とし穴:衛星の中の無重量状態

衛星内の宇宙飛行士が「無重力」に見えるのは、重力がないからではありません。

✕ 誤:宇宙には重力がないので無重力

○ 正:衛星も宇宙飛行士も同じ加速度で「自由落下」しているため、相対的に力を感じない(無重量状態)

ISS の高度(約 400 km)での重力は地表の約 89% もあります。

5この章を俯瞰する

人工衛星の軌道は、万有引力の法則と円運動・ケプラーの法則を結びつける総合テーマです。

つながりマップ

  • ← M-10-5 第一宇宙速度:地表すれすれの円軌道が出発点。
  • ← M-10-6 第二宇宙速度:$v_1 < v < v_2$ で楕円軌道、$v \geq v_2$ で脱出。
  • ← M-4 円運動:円軌道の条件 $F = mv^2/r$ がベース。
  • → M-10-8 万有引力総合演習:宇宙速度・衛星軌道・ケプラー法則の複合問題。

📋まとめ

  • 円軌道の速さ:$v = \sqrt{GM/r}$。$r$ が大きいほど $v$ は小さい
  • ケプラーの第三法則:$T^2 = \dfrac{4\pi^2}{GM}r^3$($T^2 \propto r^3$)
  • 静止衛星は周期 24 時間、高度 約 36000 km、赤道上空
  • 楕円軌道では $T^2 \propto a^3$($a$ は半長軸)
  • 近地点で速く、遠地点で遅い(面積速度一定 / エネルギー保存)
  • 衛星内の「無重力」は無重量状態(自由落下)であり、重力は存在する

確認テスト

Q1. ケプラーの第三法則を式で書いてください。

▶ クリックして解答を表示$T^2 = \dfrac{4\pi^2}{GM}\,r^3$($T^2 \propto r^3$)

Q2. 静止衛星の高度はおよそいくらですか。

▶ クリックして解答を表示約 36000 km(地球の半径の約 5.6 倍)

Q3. 軌道半径が2倍になると、周期は何倍になりますか。

▶ クリックして解答を表示$T^2 \propto r^3$ より、$r$ が2倍で $T^2$ は $2^3 = 8$ 倍。$T$ は $\sqrt{8} = 2\sqrt{2} \approx 2.83$ 倍。

Q4. 衛星内の宇宙飛行士が「無重力」に見える理由を説明してください。

▶ クリックして解答を表示衛星も宇宙飛行士も同じ加速度で地球に向かって自由落下しているため、両者の間に相対的な力が働かず、無重量状態になる。

8入試問題演習

人工衛星の軌道を入試形式で確認しましょう。

A 基礎レベル

10-7-1 A 基礎 ケプラー計算

地球の半径を $R = 6.4 \times 10^6\,\text{m}$、地表すれすれの衛星の周期を $T_0 = 84\,\text{min}$ とする。軌道半径が $4R$ の衛星の周期を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$T = 8T_0 = 672\,\text{min} \approx 11.2\,\text{h}$

解説

$\dfrac{T^2}{T_0^2} = \left(\dfrac{4R}{R}\right)^3 = 64$ より $T = 8T_0 = 8 \times 84 = 672\,\text{min}$

10-7-2 A 基礎 静止衛星計算

静止衛星の軌道半径を求めよ。地表すれすれの衛星の周期を $T_0 = 84\,\text{min}$、地球の半径を $R$ とする。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$r \approx 6.6R$

解説

静止衛星の周期 $T = 24\,\text{h} = 1440\,\text{min}$

$\left(\dfrac{r}{R}\right)^3 = \left(\dfrac{T}{T_0}\right)^2 = \left(\dfrac{1440}{84}\right)^2 = 17.14^2 \approx 294$

$\dfrac{r}{R} = 294^{1/3} \approx 6.6$

$r \approx 6.6R \approx 6.6 \times 6400 \approx 42000\,\text{km}$

B 発展レベル

10-7-3 B 発展 重力計算

静止衛星の軌道($r = 6.6R$)での重力加速度は、地表の何倍か求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

地表の約 $0.023$ 倍(約 $1/44$)

解説

$g(r) = \dfrac{GM}{r^2} = g\left(\dfrac{R}{r}\right)^2 = g\left(\dfrac{1}{6.6}\right)^2 = \dfrac{g}{43.6} \approx 0.023g$

静止衛星の位置でも地表の約 2.3% の重力が残っています。「無重力」ではありません。

採点ポイント
  • $g \propto 1/r^2$ を正しく適用(5点)
  • 計算が正しい(3点)
  • 重力がゼロではないことに言及(2点)
10-7-4 B 発展 楕円軌道エネルギー

地球の中心からの距離が近地点 $r_1 = 2R$、遠地点 $r_2 = 6R$ の楕円軌道を周回する衛星がある。近地点での速さ $v_1$ を求めよ。$R$、$g$ を用いて答えよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$v_1 = \sqrt{\dfrac{3gR}{2}}$

解説

楕円軌道では近地点と遠地点で、エネルギー保存と角運動量保存が使えます。

角運動量保存:$mv_1 r_1 = mv_2 r_2$ → $v_2 = v_1 \dfrac{r_1}{r_2} = \dfrac{v_1}{3}$

エネルギー保存:$\dfrac{1}{2}v_1^2 - \dfrac{GM}{r_1} = \dfrac{1}{2}v_2^2 - \dfrac{GM}{r_2}$

$\dfrac{1}{2}v_1^2 - \dfrac{gR^2}{2R} = \dfrac{1}{2}\cdot\dfrac{v_1^2}{9} - \dfrac{gR^2}{6R}$

$\dfrac{1}{2}v_1^2 - \dfrac{gR}{2} = \dfrac{v_1^2}{18} - \dfrac{gR}{6}$

$v_1^2\left(\dfrac{1}{2} - \dfrac{1}{18}\right) = gR\left(\dfrac{1}{2} - \dfrac{1}{6}\right) = \dfrac{gR}{3}$

$v_1^2 \cdot \dfrac{8}{18} = \dfrac{gR}{3}$ → $v_1^2 = \dfrac{gR}{3} \cdot \dfrac{18}{8} = \dfrac{3gR}{4} \cdot 2 = \dfrac{3gR}{2}$

$v_1 = \sqrt{\dfrac{3gR}{2}}$

採点ポイント
  • 角運動量保存を正しく適用(3点)
  • エネルギー保存の式を正しく立てる(4点)
  • $v_1$ を正しく求める(3点)

C 応用レベル

10-7-5 C 応用 地球の質量論述

月は地球のまわりを周期 $T = 27.3$ 日、軌道半径 $r = 3.84 \times 10^8\,\text{m}$ で公転している。万有引力定数 $G = 6.67 \times 10^{-11}\,\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^2$ を用いて、地球の質量 $M$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$M \approx 6.0 \times 10^{24}\,\text{kg}$

解説

$T^2 = \dfrac{4\pi^2}{GM}\,r^3$ より $M = \dfrac{4\pi^2 r^3}{GT^2}$

$T = 27.3 \times 24 \times 3600 = 2.36 \times 10^6\,\text{s}$

$M = \dfrac{4\pi^2 \times (3.84 \times 10^8)^3}{6.67 \times 10^{-11} \times (2.36 \times 10^6)^2}$

$= \dfrac{4\pi^2 \times 5.66 \times 10^{25}}{6.67 \times 10^{-11} \times 5.57 \times 10^{12}}$

$= \dfrac{2.24 \times 10^{27}}{3.71 \times 10^{2}} \approx 6.0 \times 10^{24}\,\text{kg}$

採点ポイント
  • ケプラーの第三法則を $M$ について解く(3点)
  • $T$ の単位変換(2点)
  • 数値計算が正しい(3点)
  • 有効数字が適切(2点)