お風呂に沈むと体が軽く感じる。プールで浮き輪なしでも体が浮く。船が海に浮かぶ——これらはすべて浮力のはたらきです。
浮力は流体(液体や気体)が物体を押し上げる力であり、その大きさは約2200年前にアルキメデスが発見した原理で説明できます。
ここでは浮力の正体を理解し、力のつりあいの考え方を使って典型問題を解けるようになりましょう。
流体(液体や気体)の中にある物体には、周囲の流体からあらゆる方向から圧力がはたらきます。 流体中では深いところほど圧力が大きいので、物体の下面にはたらく上向きの圧力は、上面にはたらく下向きの圧力よりも大きくなります。
この上面と下面の圧力差によって、物体には正味の上向きの力が生じます。これが浮力です。
浮力は何か特別な力ではなく、流体の圧力が深さによって異なることから生じる力です。
浮力 = 物体の下面にはたらく上向きの力 − 物体の上面にはたらく下向きの力
水平方向の圧力は左右で打ち消し合うため、浮力は常に鉛直上向きにはたらきます。
密度 $\rho$ の流体中に、上面の深さ $h_1$、下面の深さ $h_2$($h_2 > h_1$)、断面積 $S$ の直方体の物体が沈んでいるとします。
上面にはたらく下向きの力:$F_{\text{上}} = \rho g h_1 \cdot S$
下面にはたらく上向きの力:$F_{\text{下}} = \rho g h_2 \cdot S$
したがって浮力は、
$$F = F_{\text{下}} - F_{\text{上}} = \rho g (h_2 - h_1) S = \rho g V$$
ここで $V = (h_2 - h_1) S$ は物体の流体中に沈んでいる部分の体積です。
上の導出は直方体で行いましたが、どんな形の物体でも結果は同じです。任意の形の物体に対して、表面にはたらく圧力を全面にわたって積分すると、水平成分は打ち消し合い、鉛直成分として $\rho g V$ が残ります。
これは「流体中のその部分にもともとあった流体」が周囲の圧力で支えられていたことを考えれば自然です。物体をそこに置き換えても、周囲の流体が及ぼす力は変わりません。
前節の結果をまとめたものが、約2200年前に古代ギリシャの科学者アルキメデスが発見した原理です。
流体中の物体にはたらく浮力は、その物体が排除した(押しのけた)流体の重力に等しい。
$$F = \rho_{\text{fluid}} V g$$
物体が流体中に存在すると、その物体の体積ぶんだけ流体が「押しのけられ」ます。 完全に沈んでいれば、排除した流体の体積は物体全体の体積に等しくなります。 一部だけ沈んでいる(浮いている)場合は、水面下の体積だけが排除した体積です。
浮力の公式 $F = \rho V g$ の $\rho$ は流体の密度です。物体の密度ではありません。
✕ 誤:$F = \rho_{\text{物体}} V g$ と書く
○ 正:$F = \rho_{\text{流体}} V g$(排除された流体の密度を使う)
「排除した流体の重力」という表現を思い出せば間違えません。排除されたのは流体なので、流体の密度を使います。
物体がある場所に、もともと流体があったとします。その流体は周囲の圧力によって静止していました。
つまり、その流体にはたらく浮力は、その流体自身の重力とつりあっていたのです。
$$F_{\text{浮力}} = m_{\text{流体}} g = \rho_{\text{fluid}} V g$$
物体を置き換えても、周囲の流体の圧力分布は変わりません(物体の外側だけで決まるから)。したがって浮力も変わりません。
浮力 $F = \rho_{\text{fluid}} V g$ は、物体の質量にも密度にも依存しません。依存するのは次の2つだけです。
1. 流体の密度 $\rho_{\text{fluid}}$:海水のほうが真水より浮力が大きい
2. 沈んでいる部分の体積 $V$:体積が大きいほど浮力が大きい
同じ体積の鉄球と発泡スチロールを完全に水中に沈めると、受ける浮力は同じです。
物体が流体中で浮くか沈むかは、物体の密度と流体の密度の大小関係で決まります。
物体全体の体積を $V_0$、密度を $\rho_{\text{obj}}$、流体の密度を $\rho_{\text{fluid}}$ とします。 物体を流体中に完全に沈めたとき、はたらく力は次のとおりです。
| 条件 | 力の大小関係 | 物体の運動 |
|---|---|---|
| $\rho_{\text{obj}} < \rho_{\text{fluid}}$ | 浮力 > 重力 | 浮上する(一部が水面上に出て静止) |
| $\rho_{\text{obj}} = \rho_{\text{fluid}}$ | 浮力 = 重力 | 流体中のどこでも静止できる |
| $\rho_{\text{obj}} > \rho_{\text{fluid}}$ | 浮力 < 重力 | 沈む |
物体が水面に浮いて静止しているとき、水面下の体積を $V_{\text{sub}}$ とすると、重力と浮力がつりあうので、
$$\rho_{\text{obj}} V_0 g = \rho_{\text{fluid}} V_{\text{sub}} g$$
$$\frac{V_{\text{sub}}}{V_0} = \frac{\rho_{\text{obj}}}{\rho_{\text{fluid}}}$$
たとえば、氷の密度は $\rho_{\text{氷}} = 0.92 \times 10^3\,\text{kg/m}^3$、水の密度は $\rho_{\text{水}} = 1.0 \times 10^3\,\text{kg/m}^3$ なので、
$$\frac{V_{\text{sub}}}{V_0} = \frac{0.92 \times 10^3}{1.0 \times 10^3} = 0.92$$
つまり氷は体積の約92%が水面下に沈み、水面上に出ているのはわずか約8%です。「氷山の一角」という表現の通りです。
浮いている物体に対して浮力を求めるとき、$V$ は物体全体の体積ではありません。
✕ 誤:$F = \rho_{\text{fluid}} V_0 g$($V_0$ は物体全体の体積)
○ 正:$F = \rho_{\text{fluid}} V_{\text{sub}} g$($V_{\text{sub}}$ は水面下の体積)
完全に沈んでいるなら $V = V_0$ ですが、浮いている場合は $V = V_{\text{sub}} < V_0$ です。
海水の密度は約 $1.025 \times 10^3\,\text{kg/m}^3$ で真水より大きいため、同じ物体でも海水のほうが浮力が大きく、より多く浮き上がります。
死海(塩分濃度約30%)では密度が約 $1.24 \times 10^3\,\text{kg/m}^3$ にもなり、人が仰向けに浮いて本を読めるほどです。
浮力の問題は「力のつりあい」の応用です。物体にはたらく力を整理し、つりあいの式を立てれば解けます。
空気中で質量 $m$、密度 $\rho_{\text{obj}}$ の物体を、密度 $\rho_{\text{fluid}}$ の液体中に完全に沈めてばねばかりで吊るすとき、ばねばかりの示す値(見かけの重さ)を求めます。
物体には、重力 $mg$(下向き)、浮力 $F$(上向き)、ばねばかりの張力 $T$(上向き)がはたらきます。つりあいの式は、
$$T + F = mg$$
$$T = mg - F = mg - \rho_{\text{fluid}} V g = mg\left(1 - \frac{\rho_{\text{fluid}}}{\rho_{\text{obj}}}\right)$$
ここで $V = m / \rho_{\text{obj}}$ を使いました。見かけの重さは、空気中の重さから浮力を引いたものです。
氷が水に浮いているとき、水面上に出ている割合を求めるには、前節の公式をそのまま使います。
水面上の割合 $= 1 - \dfrac{V_{\text{sub}}}{V_0} = 1 - \dfrac{\rho_{\text{氷}}}{\rho_{\text{水}}}$
水槽の底にばね(ばね定数 $k$)で固定された物体(密度 $\rho_{\text{obj}} < \rho_{\text{fluid}}$、体積 $V_0$)が水中に完全に沈んでいるとき、ばねの伸びを求めます。
物体にはたらく力は、重力 $\rho_{\text{obj}} V_0 g$(下向き)、浮力 $\rho_{\text{fluid}} V_0 g$(上向き)、ばねの弾性力 $kx$(下向き、ばねは伸びている)です。
つりあいの条件:
$$\rho_{\text{fluid}} V_0 g = \rho_{\text{obj}} V_0 g + kx$$
$$x = \frac{(\rho_{\text{fluid}} - \rho_{\text{obj}}) V_0 g}{k}$$
ばねが底から物体をつないでいる場合、物体が浮こうとするのでばねは伸びて物体を下に引きます。逆に、物体が沈もうとする場合はばねが縮んで物体を上に押します。
✕ 誤:浮力の向きを考えずにばねの伸び縮みを仮定する
○ 正:浮力と重力の大小を比べてから、ばねが伸びるか縮むかを判断する
浮力の問題は特別な解法があるわけではありません。次の手順は平面上の力のつりあいと同じです。
1. 物体にはたらくすべての力を書き出す(重力、浮力、張力、弾性力…)
2. 鉛直方向のつりあいの式を立てる
3. 浮力には $F = \rho_{\text{fluid}} V g$ を代入する
4. 方程式を解く
浮力は流体力学への入口であると同時に、力のつりあいの重要な応用です。
Q1. 流体中の物体にはたらく浮力の大きさを表す式を書き、各記号の意味を説明してください。
Q2. 密度 $0.80 \times 10^3\,\text{kg/m}^3$ の木片を水($1.0 \times 10^3\,\text{kg/m}^3$)に浮かべたとき、水面下に沈む割合は何%ですか。
Q3. 同じ体積の鉄球と木球を完全に水中に沈めたとき、受ける浮力はどちらが大きいですか。
Q4. 物体が流体中で浮くための条件を、密度を使って書いてください。
浮力の問題を入試形式で確認しましょう。
体積 $5.0 \times 10^{-4}\,\text{m}^3$、質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体を水中に完全に沈めてばねばかりで吊るした。ばねばかりの示す値を求めよ。水の密度を $1.0 \times 10^3\,\text{kg/m}^3$、$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。
$T = 14.7\,\text{N}$
物体にはたらく力は、重力 $mg$(下向き)、浮力 $F$(上向き)、張力 $T$(上向き)。
つりあいの式:$T + F = mg$
浮力:$F = \rho_{\text{水}} V g = 1.0 \times 10^3 \times 5.0 \times 10^{-4} \times 9.8 = 4.9\,\text{N}$
重力:$mg = 2.0 \times 9.8 = 19.6\,\text{N}$
$T = mg - F = 19.6 - 4.9 = 14.7\,\text{N}$
質量 $0.46\,\text{kg}$ の氷が水に浮いている。氷の密度を $0.92 \times 10^3\,\text{kg/m}^3$、水の密度を $1.0 \times 10^3\,\text{kg/m}^3$、$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) 氷全体の体積を求めよ。
(2) 水面上に出ている氷の体積を求めよ。
(3) この氷が完全に溶けたとき、水面の高さはどうなるか。理由とともに答えよ。
(1) $V_0 = 5.0 \times 10^{-4}\,\text{m}^3$
(2) $V_{\text{上}} = 4.0 \times 10^{-5}\,\text{m}^3$
(3) 水面の高さは変わらない。
(1) $V_0 = \dfrac{m}{\rho_{\text{氷}}} = \dfrac{0.46}{0.92 \times 10^3} = 5.0 \times 10^{-4}\,\text{m}^3$
(2) 沈んでいる割合:$\dfrac{V_{\text{sub}}}{V_0} = \dfrac{\rho_{\text{氷}}}{\rho_{\text{水}}} = \dfrac{0.92}{1.0} = 0.92$
$V_{\text{sub}} = 0.92 \times 5.0 \times 10^{-4} = 4.6 \times 10^{-4}\,\text{m}^3$
$V_{\text{上}} = V_0 - V_{\text{sub}} = 5.0 \times 10^{-4} - 4.6 \times 10^{-4} = 4.0 \times 10^{-5}\,\text{m}^3$
(3) 氷が溶けてできる水の体積は $\dfrac{m}{\rho_{\text{水}}} = \dfrac{0.46}{1.0 \times 10^3} = 4.6 \times 10^{-4}\,\text{m}^3$。これは氷が沈んでいた体積 $V_{\text{sub}} = 4.6 \times 10^{-4}\,\text{m}^3$ と等しい。したがって、溶けた水がちょうど水面下の空間を埋めるので、水面の高さは変わらない。
水槽の底にばね定数 $k = 50\,\text{N/m}$ のばねを鉛直に立て、その上端に密度 $\rho_{\text{obj}} = 0.60 \times 10^3\,\text{kg/m}^3$、体積 $V_0 = 1.0 \times 10^{-3}\,\text{m}^3$ の物体を取り付けた。水槽に水(密度 $\rho_{\text{水}} = 1.0 \times 10^3\,\text{kg/m}^3$)を入れ、物体が完全に水中に沈んだ状態で静止した。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) 物体にはたらく力をすべて挙げ、それぞれの向きを答えよ。
(2) ばねは自然長から伸びているか、縮んでいるか。理由とともに答えよ。
(3) ばねの自然長からの変化量を求めよ。
(1) 重力(下向き)、浮力(上向き)、ばねの弾性力(下向き)
(2) 伸びている
(3) $x = 0.078\,\text{m}$($7.8\,\text{cm}$)
(1) 物体にはたらく力:
・重力 $W = \rho_{\text{obj}} V_0 g = 0.60 \times 10^3 \times 1.0 \times 10^{-3} \times 9.8 = 5.88\,\text{N}$(下向き)
・浮力 $F = \rho_{\text{水}} V_0 g = 1.0 \times 10^3 \times 1.0 \times 10^{-3} \times 9.8 = 9.8\,\text{N}$(上向き)
・ばねの弾性力 $kx$(向きは後で決定)
(2) 浮力 $9.8\,\text{N}$ > 重力 $5.88\,\text{N}$ なので、物体は浮き上がろうとする。ばねは物体を引き留めるために伸びて、下向きの弾性力 $kx$ を及ぼす。
(3) つりあいの式(上向きを正):
$$F = W + kx$$
$$9.8 = 5.88 + 50x$$
$$x = \frac{9.8 - 5.88}{50} = \frac{3.92}{50} = 0.0784\,\text{m} \approx 0.078\,\text{m}$$