壁を手で押してみてください。あなたが壁を押しているのに、手のひらには「壁から押し返される感覚」がありませんか。
力は決して一方通行ではありません。片方が押せば、もう片方も必ず同じ大きさで押し返す──それがニュートンの第三法則(作用・反作用の法則)です。
しかし、この法則は「力のつりあい」と混同されやすい、物理屈指の落とし穴でもあります。両者の決定的な違いを、この記事ではっきりさせましょう。
ニュートンは運動に関する3つの法則を示しました。 第一法則(慣性の法則)、第二法則($F = ma$)に続く第三法則が「作用・反作用の法則」です。
日常のたとえで考えてみましょう。 あなたが友人と向かい合い、互いの手のひらを押し合っている場面を想像してください。 あなたが相手を押す力(作用)があれば、相手からあなたへ押し返す力(反作用)が必ず同時に、同じ大きさで、逆向きに存在します。 どちらか一方だけが押すということは、物理的にありえないのです。
物体Aが物体Bに力 $\vec{F}_{A \to B}$ を及ぼすとき、物体Bは物体Aに力 $\vec{F}_{B \to A}$ を及ぼす。
$$\vec{F}_{A \to B} = -\vec{F}_{B \to A}$$
作用と反作用のペアには、次の3つの特徴があります。
3番目の「異なる物体に働く」という点こそ、この法則を理解するうえで最も重要なポイントです。
作用と反作用は、必ず異なる2つの物体の間に生じます。 ある1つの物体だけに注目したとき、作用と反作用の両方が同じ物体に見えることはありません。
「誰が誰に及ぼす力か」を常に明確にすることが、作用・反作用を正しく扱うための鍵です。
重力でも、垂直抗力でも、摩擦力でも、張力でも、弾性力でも——あらゆる力には必ず反作用が存在します。 力の種類を問わず、例外なく成り立つのがニュートンの第三法則です。
「作用があるのに反作用がない」という状況は、この宇宙には存在しません。
「作用」「反作用」という名前のせいで、先に作用があり、それに応じて反作用が生じるように聞こえます。
✕ 誤:壁を押した(作用)→ 壁が押し返してきた(反作用)。時間差がある。
○ 正:作用と反作用は完全に同時に発生し、同時に消滅する。どちらが先ということはない。
名前に惑わされず、「2つの力が同時に対で存在する」と理解しましょう。
作用・反作用の法則を、身近な例で確認していきましょう。 大切なのは「どの物体がどの物体に力を及ぼしているか」を明確にすることです。
あなたが壁を手で押しているとき、次の作用・反作用ペアが成り立っています。
手のひらに「押し返される感覚」があるのは、壁からの反作用力を実際に受けているからです。 力を強く押せば押すほど、壁からの反作用も大きくなります。
机の上にリンゴが置かれている場面を考えます。 ここには複数の力が登場するので、丁寧に整理しましょう。
リンゴに働く力は、①地球がリンゴを引く力(重力)と、②机がリンゴを支える力(垂直抗力)の2つです。 この2つは「つりあいの関係」であり、作用・反作用ではありません(理由は次のセクションで詳しく説明します)。
では、作用・反作用のペアはどこにあるのでしょうか。
ペア①に注目してください。地球がリンゴを引っ張る重力の反作用として、リンゴもまた地球を引っ張っているのです。 地球の質量があまりに巨大なので加速度はほぼゼロですが、力そのものは確かに存在しています。
AさんとBさんが綱引きをしている場面では、次のペアがあります。
同様に、Bとロープの間にも作用・反作用のペアがあります。 綱引きでは多くの力が絡みますが、「誰が誰に及ぼす力か」を1つずつ整理すれば混乱しません。
「宇宙空間には壁も地面もないのに、ロケットはどうやって進むのか?」——これは作用・反作用で説明できます。
ロケットは燃焼ガスを後方に噴射します(ロケット → ガスに力)。その反作用として、ガスがロケットを前方に押します(ガス → ロケットに力)。
押す「壁」は不要です。ガスを噴射すること自体が反作用を生むのです。 これは作用・反作用が2物体間の直接のやりとりであることを示す好例です。
机の上のリンゴに働く重力と垂直抗力は、大きさが等しく逆向きです。 しかし、これは作用・反作用のペアではありません。
✕ 誤:重力(地球→リンゴ)の反作用 = 垂直抗力(机→リンゴ)
○ 正:重力(地球→リンゴ)の反作用 = リンゴが地球を引く力(リンゴ→地球)
作用・反作用は「同じ2物体の間」で対になる力です。重力は地球とリンゴの間、垂直抗力は机とリンゴの間——登場する物体が異なるので、作用・反作用のペアにはなりえません。
ここがこの記事の最重要ポイントです。 「つりあい」と「作用・反作用」はどちらも「大きさが等しく逆向きの2力」なので混同しやすいのですが、物理的な意味は全く異なります。
力のつりあいとは、同じ1つの物体に働く複数の力の合力がゼロになる状態です。 つりあっているとき、その物体は加速度ゼロ(静止または等速直線運動)の状態にあります。
作用・反作用とは、異なる2つの物体の間で対になって働く力のペアです。 物体の運動状態に関係なく、常に成り立ちます。
| 力のつりあい | 作用・反作用 | |
|---|---|---|
| 力が働く対象 | 同じ1つの物体 | 異なる2つの物体 |
| 力の大きさ | 合力がゼロ | 大きさが等しい |
| 力の向き | 逆向き(2力の場合) | 逆向き |
| 成立条件 | 加速度がゼロのときのみ | 常に成り立つ(例外なし) |
| 力の種類 | 異なる種類でもよい | 同じ種類の力のペア |
リンゴに働く力を整理します。
つりあいの関係(同じ物体=リンゴに働く2力):
・地球がリンゴを引く力(重力 $mg$、下向き)
・机がリンゴを押す力(垂直抗力 $N$、上向き)
→ $N = mg$ となり、合力ゼロ。リンゴは静止。
作用・反作用の関係(異なる2物体間の力のペア):
・ペアA:地球→リンゴの重力 $mg$ ⟷ リンゴ→地球の引力 $mg$
・ペアB:机→リンゴの垂直抗力 $N$ ⟷ リンゴ→机を押す力 $N$
つりあいの2力(重力と垂直抗力)はたまたま大きさが等しいだけであり、作用・反作用のペアではありません。
2つの力が「つりあい」か「作用・反作用」かを見分ける方法はシンプルです。
同じ1つの物体に働いている → つりあい(合力ゼロなら)
異なる2つの物体に1つずつ働いている → 作用・反作用
問題を解くときは、まず「この力はどの物体に働いているか」を必ず明確にしましょう。
大きさが等しく逆向きの2力は、つりあいの場合も作用・反作用の場合もあります。 大きさと向きだけでは区別できません。
✕ 誤:大きさが等しく逆向きだから作用・反作用だ。
○ 正:「同じ物体に働く力か?」「異なる物体に働く力か?」で判断する。
見た目の「大きさ・向き」ではなく、「どの物体に働くか」で判断することが正解への近道です。
これは非常に多い誤解です。作用と反作用は別の物体に働くので、1つの物体の運動を考えるとき両方を足すことはありません。
✕ 誤:作用 $F$ と反作用 $-F$ を足すと合力ゼロ。だから物体は動かない。
○ 正:作用と反作用は別の物体に働くので、合力を計算するときに足してはいけない。
もし作用・反作用が打ち消し合うなら、この世界では何も動かないはずです。 物体の運動を考えるときは、その物体に働く力だけを集めて合力を求めましょう。
作用・反作用の法則が最もドラマチックに感じられるのは、万有引力の場面かもしれません。 りんごが木から落ちるとき、地球がりんごを引いている——これは誰もが知っています。 しかし同時に、りんごもまた地球を引いているのです。
地球がりんごに及ぼす重力(万有引力)を $F$ とします。 作用・反作用の法則により、りんごが地球に及ぼす引力も同じ大きさ $F$ です。
しかし、加速度は全く異なります。ニュートンの第二法則 $F = ma$ から考えましょう。
力は同じでも、質量が圧倒的に異なるため、地球の加速度はほぼゼロです。 これが「りんごは落ちるのに地球は動かない」ように見える理由です。
りんごの質量を $m = 0.20\,\text{kg}$、地球の質量を $M = 6.0 \times 10^{24}\,\text{kg}$ とします。
りんごに働く重力:$F = mg = 0.20 \times 9.8 = 1.96\,\text{N}$
りんごの加速度:$a_{\text{りんご}} = \dfrac{F}{m} = \dfrac{1.96}{0.20} = 9.8\,\text{m/s}^2$
地球の加速度:$a_{\text{地球}} = \dfrac{F}{M} = \dfrac{1.96}{6.0 \times 10^{24}} \approx 3.3 \times 10^{-25}\,\text{m/s}^2$
地球の加速度はりんごの加速度の約 $3 \times 10^{-26}$ 倍。事実上ゼロであり、測定不可能なレベルです。
作用・反作用で「力の大きさが等しい」ことと「動きが等しい」ことは全く別です。
$F = ma$ において、同じ力 $F$ でも質量 $m$ が異なれば加速度 $a$ は異なります。 軽い物体は大きく加速し、重い物体はほとんど動きません。
作用・反作用が保証するのは「力の大きさが等しい」ことだけであり、「結果が等しい」ことではないのです。
金属球が並んだ「ニュートンのゆりかご」は、作用・反作用と運動量保存の法則を美しく示す装置です。
端の球が衝突すると、反対側の球だけが飛び出します。 衝突の瞬間、球どうしの間で作用・反作用の力が働き、運動量とエネルギーが伝達されます。
力の大きさが等しいからこそ、運動量が正確に受け渡され、この美しい現象が生まれるのです。
トラックと軽自動車が衝突したとき、トラックのほうが「強い力」を及ぼすように感じます。
✕ 誤:トラックが軽自動車に及ぼす力のほうが大きい。
○ 正:トラックが軽自動車に及ぼす力と、軽自動車がトラックに及ぼす力は大きさが等しい。
軽自動車のほうが大破するのは、同じ力を受けたとき質量が小さい方が加速度(減速度)が大きくなるためです。 「被害が大きい = 受けた力が大きい」ではありません。
作用・反作用の法則は、力学の基本法則であると同時に、力のつりあいの理解を深めるための重要な対比項目です。 ここまで学んだことが、今後の学習とどのようにつながっていくかを確認しましょう。
Q1. 作用・反作用の法則(ニュートンの第三法則)を簡潔に述べてください。
Q2. 「力のつりあい」と「作用・反作用」の最も重要な違いは何ですか。
Q3. 机の上に本が置かれています。本に働く重力の反作用は何ですか。
Q4. トラックと軽自動車が正面衝突しました。衝突の瞬間、どちらがより大きな力を受けますか。
Q5. 「作用と反作用が打ち消し合って物体は動かない」という説明は正しいですか。理由とともに答えてください。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
水平な床の上に質量 $m$ の物体が静止している。重力加速度の大きさを $g$ とする。次の問いに答えよ。
(1) 物体に働く力をすべて挙げ、それぞれ「何が何に及ぼす力か」を明記せよ。
(2) (1)で挙げた力のうち、つりあいの関係にあるペアを答えよ。
(3) 物体に働く重力の反作用を答えよ。「何が何に及ぼす力か」を明記すること。
(1) ①地球が物体に及ぼす力(重力)$mg$(鉛直下向き)、②床が物体に及ぼす力(垂直抗力)$N$(鉛直上向き)
(2) 重力と垂直抗力(ともに物体に働き、$mg = N$ で合力ゼロ)
(3) 物体が地球に及ぼす力(万有引力)。大きさ $mg$、鉛直上向き(地球に向かう向き)。
方針:「何が何に及ぼす力か」を1つずつ明確にし、つりあいと作用・反作用を区別する。
(1) 物体に働く力は2つだけ。重力(地球→物体)と垂直抗力(床→物体)。
(2) 重力と垂直抗力はどちらも「物体に働く力」であり、物体が静止しているので合力ゼロ。よってつりあいの関係。
(3) 重力は「地球が物体に及ぼす力」なので、反作用は「物体が地球に及ぼす力」。力が働く相手が入れ替わることに注目。垂直抗力は「床が物体に及ぼす力」なので、重力の反作用ではない。
質量 $M$ の台の上に質量 $m$ の物体が置かれ、台は水平な床の上に静止している。重力加速度の大きさを $g$ とする。次の問いに答えよ。
(1) 物体に働く力をすべて挙げよ。
(2) 台に働く力をすべて挙げよ。
(3) 台が床から受ける垂直抗力の大きさを求めよ。
(4) 「台が物体を支える垂直抗力」の反作用を答えよ。
(1) ①地球が物体に及ぼす重力 $mg$(下向き)、②台が物体に及ぼす垂直抗力 $N_1$(上向き)
(2) ①地球が台に及ぼす重力 $Mg$(下向き)、②物体が台に及ぼす力 $N_1$(下向き)、③床が台に及ぼす垂直抗力 $N_2$(上向き)
(3) $N_2 = (M + m)g$
(4) 物体が台を押す力(大きさ $N_1 = mg$、下向き)
方針:物体と台を別々に注目し、それぞれに働く力を整理する。
(1) 物体に働く力:重力 $mg$(下向き)と台からの垂直抗力 $N_1$(上向き)。物体は静止しているので $N_1 = mg$。
(2) 台に働く力は3つ。台自身の重力 $Mg$(下向き)、物体から受ける力 $N_1$(下向き)、床からの垂直抗力 $N_2$(上向き)。 ここで「物体が台に及ぼす力 $N_1$」は、「台が物体に及ぼす垂直抗力 $N_1$」の反作用です。
(3) 台は静止しているので、上向きの力と下向きの力がつりあいます。$N_2 = Mg + N_1 = Mg + mg = (M + m)g$
(4) 「台→物体の垂直抗力」の反作用は「物体→台を押す力」。同じ2物体(台と物体)の間で対になる力です。
質量 $60\,\text{kg}$ の人がスケートリンク上で、質量 $40\,\text{kg}$ の人を水平に $F = 120\,\text{N}$ の力で押した。 摩擦は無視できるものとする。次の問いに答えよ。
(1) 質量 $40\,\text{kg}$ の人が受ける力の大きさと向きを答えよ。
(2) 質量 $60\,\text{kg}$ の人が受ける力の大きさと向きを答えよ。
(3) それぞれの加速度の大きさを求めよ。
(4) 「大きい人のほうが強い力を及ぼすから、小さい人だけが動く」という主張は正しいか。理由とともに答えよ。
(1) $120\,\text{N}$、$60\,\text{kg}$ の人から離れる向き
(2) $120\,\text{N}$、$40\,\text{kg}$ の人から離れる向き((1)と逆向き)
(3) $40\,\text{kg}$ の人:$3.0\,\text{m/s}^2$、$60\,\text{kg}$ の人:$2.0\,\text{m/s}^2$
(4) 正しくない。(理由は解説参照)
方針:作用・反作用の法則から力を求め、$F = ma$ で加速度を求める。
(1) $60\,\text{kg}$ の人が $40\,\text{kg}$ の人を押す力は $120\,\text{N}$。押される向きに力を受ける。
(2) 作用・反作用の法則により、$40\,\text{kg}$ の人が $60\,\text{kg}$ の人を押し返す力も $120\,\text{N}$。向きは(1)と逆向き。
(3) $40\,\text{kg}$ の人:$a = \dfrac{F}{m} = \dfrac{120}{40} = 3.0\,\text{m/s}^2$
$60\,\text{kg}$ の人:$a = \dfrac{F}{m} = \dfrac{120}{60} = 2.0\,\text{m/s}^2$
(4) 正しくない。作用・反作用の法則により、互いに及ぼし合う力の大きさは等しい($120\,\text{N}$)。 $60\,\text{kg}$ の人も反作用により力を受け、$2.0\,\text{m/s}^2$ の加速度で後ろに動く。 加速度に差が出るのは質量が異なるためであり、力の大きさに差があるためではない。