綱引きで両チームが互角のとき、綱はピクリとも動きません。
これは左右の力がちょうど打ち消し合い、合力がゼロになっているからです。
物体が静止し続けるための条件——「力のつりあい」を、一直線上の場合から丁寧に学びましょう。
机の上に置かれた本は、重力で下に引っ張られているのに落ちません。 これは机が本を上向きに押し返す力(垂直抗力)が重力とちょうど釣り合っているからです。 このように、物体に働くすべての力の合力が0のとき、「力がつりあっている」と言います。
日常のたとえで考えてみましょう。 エレベーターが止まっているとき、ケーブルが上向きに引く力と、エレベーターに働く重力がちょうど等しいので動きません。 信号待ちの車も同じです。エンジンの力はブレーキの力と釣り合い、車は停止し続けます。 いずれも「合力=0」という条件が成り立っています。
物体に $F_1, F_2, \ldots, F_n$ の力が働いているとき、つりあいの条件は次のように表されます。
$$F_1 + F_2 + \cdots + F_n = 0$$
すなわち、すべての力のベクトル和(合力)が0であること。
力がつりあっているとき、物体は静止しているか、等速直線運動をしているかのどちらかです(ニュートンの運動の第1法則)。
つりあい=静止、と思い込みがちですが、等速で動いている物体にも力のつりあいは成り立ちます。 空気抵抗と重力が釣り合った雨粒が一定速度で落下するのが、その典型例です。
つりあいの2力は同じ1つの物体に働く力どうしの関係です。 一方、作用・反作用は異なる2つの物体に働く力のペアです。
本に働く重力(地球→本)と垂直抗力(机→本)は「つりあい」の関係。 本が机を押す力(本→机)と垂直抗力(机→本)は「作用・反作用」の関係。この区別を必ず意識しましょう。
これは高校物理で最もよくある間違いの一つです。
✕ 誤:「本に働く重力と垂直抗力は作用・反作用の関係」
○ 正:「本に働く重力と垂直抗力はつりあいの関係」(同じ物体に働く2力)
作用・反作用のペアは必ず異なる2つの物体に1力ずつ働きます。同じ物体に働く2力は、つりあいの候補であって作用・反作用ではありません。
最もシンプルなつりあいは、一直線上の2力のつりあいです。 1つの物体に2つの力が働き、それらが同一直線上にあるとき、つりあいの条件は非常に簡単になります。
2力がつりあうための条件は次の2つを同時に満たすことです。
① 大きさが等しい:$|F_1| = |F_2|$
② 向きが反対:2力は逆向き
質量 $m$ の物体が糸で天井から吊るされて静止しています。 この物体に働く力は2つです。
物体が静止しているので、2力はつりあっています。つりあいの条件から、
$$T = mg$$
つまり、糸の張力は物体の重力とちょうど同じ大きさです。 たとえば質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体なら、$T = 2.0 \times 9.8 = 19.6\,\text{N} \fallingdotseq 20\,\text{N}$ です。
力のつりあいを考えるときは、まず着目する物体を1つ決めることが大切です。
✕ 誤:天井に働く力と物体に働く力を混ぜて考える
○ 正:まず「物体」だけに着目し、その物体に働く力をすべて書き出す
着目物体を明確にしないまま力を書き出すと、関係ない力まで含めてしまい、正しいつりあいの式が立てられません。
力の問題を解くときは、着目物体を取り出して、その物体に働くすべての力を矢印で書き込んだ図(自由体図)を描きましょう。
手順は次のとおりです。① 着目物体を丸や四角で描く → ② 重力を下向きに描く → ③ 接触している物体からの力(抗力・張力・摩擦力など)を描く。
自由体図を描く習慣をつけるだけで、力の見落としが劇的に減ります。
一直線上の力のつりあいでは、正の向きを1つ決めることがポイントです。 正の向きと同じ向きの力を「+」、逆向きの力を「-」として方程式を立てると、つりあいの問題が一気にすっきり解けるようになります。
力はベクトル量なので、大きさだけでなく向きも持っています。 一直線上の力は「右か左か」「上か下か」の2方向しかありませんが、これを数式で扱うには、どちらを正にするかを決めなければなりません。
たとえで言えば、数直線上で「右を正」と決めるのと同じです。 右向きの力は正の値、左向きの力は負の値として扱い、すべての力を足し合わせて0になるかどうかを確認します。
ステップ1:着目する物体を決め、自由体図を描く。
ステップ2:正の向きを1つ決める(上向き、右向きなど)。
ステップ3:正の向きと同じ向きの力を $+$、逆向きの力を $-$ として書き出す。
ステップ4:すべての力の和 $= 0$ という方程式を立てる。
ステップ5:方程式を解いて、未知の力を求める。
質量 $3.0\,\text{kg}$ の物体が糸で天井から吊るされて静止しています。 重力加速度を $g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とします。糸の張力 $T$ を求めましょう。
鉛直上向きを正とすると、物体に働く力は次の2つです。
つりあいの条件 $\sum F = 0$ より、
$$T - 29.4 = 0$$
$$T = 29.4\,\text{N} \fallingdotseq 29\,\text{N}$$
正の向きを上にとっても下にとっても、最終的な答えは同じです。 たとえば上の例で「鉛直下向きを正」としても、$mg - T = 0$ となり $T = mg$ が得られます。
大切なのは、一度決めた正の向きを途中で変えないこと。 向きの設定に「正解」はないので、自分が計算しやすい方向を選べばOKです。
正の向きを設定したのに、方程式を立てるときに符号をつけ忘れるミスが非常に多いです。
✕ 誤:$T + mg = 0$(張力と重力を同じ符号にしてしまう)
○ 正:$T - mg = 0$(上向きを正なら、上向きの $T$ が正、下向きの $mg$ が負)
力を書き出すときは必ず「正の向きと同じか逆か」を確認して符号を決めましょう。
一直線上に3つ以上の力が働く場合も、考え方は同じです。 正の向きを決めて、すべての力に符号をつけ、合計が0になるように方程式を立てます。
質量 $5.0\,\text{kg}$ の物体が水平な床の上に置かれ、右から糸Aで $30\,\text{N}$、左から糸Bで引かれて静止しています。 床との摩擦力は $8.0\,\text{N}$ で、右向きに引く力に抵抗する方向に働きます。 糸Bの張力 $T_B$ を求めましょう。
着目物体は床の上の物体です。右向きを正とします。水平方向に働く力は3つです。
つりあいの条件より、
$$30 - T_B - 8.0 = 0$$
$$T_B = 22\,\text{N}$$
質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体が1本の糸で天井から吊るされています。 さらに、この物体の下面に下向きに $5.0\,\text{N}$ の力を加えたところ、物体は静止したままでした。 糸の張力 $T$ を求めましょう。重力加速度 $g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とします。
鉛直上向きを正とします。物体に働く力は3つです。
つりあいの条件より、
$$T - 19.6 - 5.0 = 0$$
$$T = 24.6\,\text{N} \fallingdotseq 25\,\text{N}$$
このように、力が何本増えても方程式は1本のままです。 「すべての力を符号付きで足して0」——このシンプルなルールを守れば、一直線上のつりあいは必ず解けます。
天井から糸1で物体Aが吊るされ、物体Aの下に糸2で物体Bが吊るされています。 物体Aの質量 $m_A = 1.0\,\text{kg}$、物体Bの質量 $m_B = 2.0\,\text{kg}$ とします。 糸1の張力 $T_1$ と糸2の張力 $T_2$ を求めましょう。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とします。
このような問題では、着目物体を変えて2つの方程式を立てるのがコツです。
まず物体Bに着目します。鉛直上向きを正とすると、
$$T_2 - 19.6 = 0 \quad \therefore \; T_2 = 19.6\,\text{N} \fallingdotseq 20\,\text{N}$$
次に物体Aに着目します。物体Aには3つの力が働きます。
$$T_1 - 9.8 - 19.6 = 0 \quad \therefore \; T_1 = 29.4\,\text{N} \fallingdotseq 29\,\text{N}$$
糸1の張力は物体AとBの重力の合計に等しくなっています。 これは直感的にも納得できる結果です。糸1は物体AとBの両方を支えているのですから。
物体Aに着目するとき、糸2が物体Aを下に引く力を忘れるミスがよくあります。
✕ 誤:$T_1 - m_A g = 0$ → $T_1 = 9.8\,\text{N}$
○ 正:$T_1 - m_A g - T_2 = 0$ → $T_1 = 29.4\,\text{N}$
自由体図を描けば、物体Aに働く力が3つあることがはっきり見えます。力の見落としを防ぐには、自由体図が最善の方法です。
問題文に「軽い糸」「質量の無視できる糸」と書かれている場合、糸の質量は0として扱います。
✕ 誤:糸自体にも重力が働くから、糸の上端と下端で張力が異なる
○ 正:質量の無視できる糸では、糸のどの点でも張力は同じ値
「軽い糸」という条件は、糸の各部分に働く重力が0であることを意味します。これにより、糸の両端の張力が等しくなります。
一直線上の力のつりあいでは、1つの物体から方程式が1本得られます。 未知数が2つあるなら、着目物体を変えて2本の方程式を立てます。
連立方程式で解く必要があるとき、「下の物体から攻める」のが鉄則です。 下の物体のつりあいの式はシンプルなので、まず $T_2$ を求め、次に上の物体で $T_1$ を求める——この順序が計算ミスを減らします。
| 状況 | 力の数 | つりあいの式 |
|---|---|---|
| 天井から吊るされた物体 | 2力(張力・重力) | $T - mg = 0$ |
| 糸で水平に引く物体(摩擦あり) | 3力(張力・摩擦力・もう一方の張力など) | $F_1 - F_2 - f = 0$ |
| 2物体を糸でつなぐ(鉛直) | 各物体ごとに2~3力 | 物体ごとに方程式を立てる |
一直線上の力のつりあいは、力学の問題を解くための基本中の基本です。 ここで身につけた「正の向きを決めて方程式を立てる」という手法は、今後あらゆる場面で使うことになります。
Q1. 力のつりあいの条件を一言で述べてください。
Q2. 力がつりあっているとき、物体はどのような運動をしていますか。
Q3. 質量 $4.0\,\text{kg}$ の物体が糸で天井から吊るされて静止しています。糸の張力はいくらですか($g = 9.8\,\text{m/s}^2$)。
Q4. つりあいの2力と作用・反作用の2力の違いは何ですか。
Q5. 一直線上の力のつりあいの式を立てるとき、最初にすべきことは何ですか。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
質量 $500\,\text{g}$ の物体が軽い糸で天井から吊るされて静止している。重力加速度を $g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) 物体に働く力をすべて答え、その向きと大きさを求めよ。
(2) 糸の張力を求めよ。
(1) 重力 $4.9\,\text{N}$(鉛直下向き)、糸の張力 $4.9\,\text{N}$(鉛直上向き)
(2) $T = 4.9\,\text{N}$
方針:着目物体に働く力を書き出し、つりあいの式を立てる。
(1) 物体に働く力は2つ。重力 $W = mg = 0.500 \times 9.8 = 4.9\,\text{N}$(下向き)と、糸の張力 $T$(上向き)。
(2) 鉛直上向きを正として、つりあいの条件 $T - mg = 0$ より、
$$T = mg = 0.500 \times 9.8 = 4.9\,\text{N}$$
天井から軽い糸1で物体A(質量 $1.0\,\text{kg}$)が吊るされ、物体Aの下面から軽い糸2で物体B(質量 $3.0\,\text{kg}$)が吊るされて、全体が静止している。重力加速度を $g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) 糸2の張力 $T_2$ を求めよ。
(2) 糸1の張力 $T_1$ を求めよ。
(3) 糸1が耐えられる最大の張力が $50\,\text{N}$ であるとき、物体Bの質量を最大いくらまで増やすことができるか。
(1) $T_2 = 29.4\,\text{N} \fallingdotseq 29\,\text{N}$
(2) $T_1 = 39.2\,\text{N} \fallingdotseq 39\,\text{N}$
(3) $m_B \fallingdotseq 4.1\,\text{kg}$
方針:下の物体Bから先につりあいの式を立てる。
(1) 物体Bに着目。鉛直上向きを正とする。
$$T_2 - m_B g = 0$$
$$T_2 = 3.0 \times 9.8 = 29.4\,\text{N}$$
(2) 物体Aに着目。物体Aには糸1の張力(上向き)、重力(下向き)、糸2が引く力(下向き)の3力が働く。
$$T_1 - m_A g - T_2 = 0$$
$$T_1 = 1.0 \times 9.8 + 29.4 = 39.2\,\text{N}$$
(3) 糸1に $T_1 = 50\,\text{N}$ がかかるとき、物体Aのつりあいの式から
$$50 - 1.0 \times 9.8 - m_B \times 9.8 = 0$$
$$m_B = \frac{50 - 9.8}{9.8} = \frac{40.2}{9.8} \fallingdotseq 4.1\,\text{kg}$$
天井に固定した軽いばね(ばね定数 $k = 49\,\text{N/m}$)の下端に質量 $m_A = 1.0\,\text{kg}$ の物体Aを取り付け、さらに物体Aの下面から軽い糸で質量 $m_B = 1.0\,\text{kg}$ の物体Bを吊り下げた。全体が静止しているとき、重力加速度を $g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) 糸の張力 $T$ を求めよ。
(2) ばねの伸び $x$ を求めよ。
(3) 糸を切った瞬間の物体Aの加速度の大きさと向きを求めよ。
(1) $T = 9.8\,\text{N}$
(2) $x = 0.40\,\text{m}$
(3) 大きさ $9.8\,\text{m/s}^2$、鉛直上向き
方針:(1)(2)はつりあいの式、(3)は糸を切った瞬間の力の変化に注目。
(1) 物体Bに着目。鉛直上向きを正とする。
$$T - m_B g = 0 \quad \therefore \; T = 1.0 \times 9.8 = 9.8\,\text{N}$$
(2) 物体Aに着目。ばねの弾性力を $F = kx$(上向き)、重力 $m_A g$(下向き)、糸の張力 $T$(下向き)とする。
$$kx - m_A g - T = 0$$
$$49x = 9.8 + 9.8 = 19.6$$
$$x = 0.40\,\text{m}$$
(3) 糸を切った瞬間、$T = 0$ になるが、ばねの伸びは瞬間的には変わらないので弾性力は $kx = 19.6\,\text{N}$ のまま。
物体Aに働く合力は、
$$F_\text{合} = kx - m_A g = 19.6 - 9.8 = 9.8\,\text{N}$$(上向き)
$$a = \frac{F_\text{合}}{m_A} = \frac{9.8}{1.0} = 9.8\,\text{m/s}^2$$(鉛直上向き)