同じ荷物を5階まで運ぶのに、エレベーターなら10秒、階段なら5分かかります。
「する仕事」は同じでも、「仕事の速さ」はまるで違います。
この「仕事の速さ」を数値化したのが仕事率です。エンジンやモーターの性能を語る言葉でもあります。
ウサギとカメが同じ坂道を上るとします。 どちらも同じ高さまで上るので、重力に逆らってする仕事の量は同じです。 しかし、ウサギの方が短時間で上るので、「単位時間あたりの仕事」はウサギの方が大きくなります。
このように、仕事をどれだけ速く行えるかを表す量を仕事率(Power)といいます。
$$P = \frac{W}{t}$$
仕事率は「1秒あたりどれだけのエネルギーを変換できるか」を表しています。
エンジンの出力が大きいほど、短い時間で多くの仕事ができます。 100 W の電球は1秒間に 100 J の電気エネルギーを光と熱に変換しています。
「仕事が大きい」ことと「仕事率が大きい」ことは別の話です。
✕ 誤:仕事率が大きいほど、する仕事の量も大きい
○ 正:仕事率が大きいほど、同じ時間内にする仕事の量が大きい。長い時間をかければ、仕事率が小さくても大きな仕事ができる
仕事の単位がジュール(J)、仕事率の単位がワット(W)です。
✕ 誤:「100 W の仕事をした」
○ 正:「100 J の仕事をした」または「100 W の仕事率で仕事をした」
記号の $W$(仕事 Work)と単位の $\text{W}$(ワット Watt)も紛らわしいので注意してください。
仕事率の定義 $P = \frac{W}{t}$ を変形すると、力と速度の関係が見えてきます。 これは、一定の力 $F$ で物体を速度 $v$ で動かしている場合に特に便利な公式です。
力 $F$ が移動方向と同じ向きに一定で、物体が速度 $v$ で等速運動しているとします。
時間 $t$ の間に移動する距離は $d = vt$ です。
仕事は $W = Fd = Fvt$ なので、
$$P = \frac{W}{t} = \frac{Fvt}{t} = Fv$$
一般に力と速度の向きが異なる場合:
$$P = Fv\cos\theta$$
$$P = Fv\cos\theta$$
力と速度が同じ向きのとき($\theta = 0$):
$$P = Fv$$
エンジンの出力(仕事率)$P$ が一定の場合、$P = Fv$ から $F = \frac{P}{v}$ です。
つまり、速度を上げると発揮できる力は小さくなり、 大きな力を出すには速度を落とす必要があります。
自動車が坂道で減速するのは、大きな力(重力に逆らう力)を出すために速度が下がるからです。 ギアを落として低速にすると、同じ出力でもタイヤに伝わる力が大きくなります。
$P = Fv$ は各瞬間の仕事率を表す瞬間の仕事率です。
物体が加速中の場合、$v$ は刻々と変化するので、 「ある瞬間の仕事率」と「平均の仕事率」は異なります。
平均の仕事率は $P_{\text{平均}} = \frac{W}{t}$ で求めましょう。
質量 $500\,\text{kg}$ の荷物を $20\,\text{s}$ で $10\,\text{m}$ 持ち上げるクレーンの仕事率を求めます。
仕事:$W = mgh = 500 \times 9.8 \times 10 = 49000\,\text{J}$
仕事率:$P = \frac{W}{t} = \frac{49000}{20} = 2450\,\text{W} = 2.45\,\text{kW}$
出力 $50\,\text{kW}$ のエンジンで等速走行する自動車が、走行抵抗 $1000\,\text{N}$ を受けている場合の速度を求めます。
等速走行なので、エンジンの力と走行抵抗がつり合っています。$F = 1000\,\text{N}$ です。
$$P = Fv \Longrightarrow v = \frac{P}{F} = \frac{50000}{1000} = 50\,\text{m/s} = 180\,\text{km/h}$$
| 対象 | 仕事率の目安 |
|---|---|
| 人間が階段を上る | 約 $200 \sim 500\,\text{W}$ |
| 自転車をこぐ | 約 $75 \sim 150\,\text{W}$ |
| 軽自動車のエンジン | 約 $50\,\text{kW}$ |
| 新幹線(1編成) | 約 $10000\,\text{kW}$ |
| LED電球 | 約 $10\,\text{W}$ |
自動車の出力表示でよく見る「馬力」は、ワットとは別の仕事率の単位です。
$1\,\text{HP}$(英馬力)$\approx 746\,\text{W}$ です。
もともとは、蒸気機関の発明者ジェームズ・ワットが、馬の仕事能力と比較するために導入しました。 現在の物理学では SI 単位のワット(W)を使いますが、自動車業界では今でも馬力が使われます。
電力の単位もワット(W)です。これは偶然ではなく、電力は電気的な仕事率そのものだからです。
$P = VI$(電圧×電流)は、電気回路における仕事率の式です。
電気料金でよく見る $\text{kWh}$(キロワット時)はエネルギー(仕事)の単位で、 $1\,\text{kWh} = 1000\,\text{W} \times 3600\,\text{s} = 3.6 \times 10^6\,\text{J}$ です。
仕事率は仕事の「速さ」を表す量であり、機械や人間の能力を評価する指標です。 次の記事では、仕事が運動エネルギーとどう関係するかを学びます。
Q1. $600\,\text{J}$ の仕事を $30\,\text{s}$ で行った。仕事率はいくらですか。
Q2. 出力 $200\,\text{W}$ のモーターが $1$ 分間に行う仕事はいくらですか。
Q3. $500\,\text{N}$ の力で物体を速度 $4\,\text{m/s}$ で等速移動させている。仕事率はいくらですか。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
質量 $60\,\text{kg}$ の人が、高さ $15\,\text{m}$ の建物の階段を $30\,\text{s}$ で上った。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。この人の平均の仕事率を求めよ。
$P = \frac{mgh}{t} = \frac{60 \times 9.8 \times 15}{30} = 294\,\text{W}$
重力に逆らってする仕事 $W = mgh = 8820\,\text{J}$。これを時間 $30\,\text{s}$ で割る。
出力 $60\,\text{kW}$ の自動車が水平な道路を等速直線運動している。走行抵抗が $1500\,\text{N}$ のとき、次の問いに答えよ。
(1) この自動車の速度を求めよ。
(2) 同じ出力で走行抵抗が $2000\,\text{N}$ になったとき(上り坂など)、等速で走れる速度を求めよ。
(1) $v = \frac{P}{F} = \frac{60000}{1500} = 40\,\text{m/s} = 144\,\text{km/h}$
(2) $v = \frac{60000}{2000} = 30\,\text{m/s} = 108\,\text{km/h}$
等速直線運動では、エンジンの駆動力と走行抵抗がつり合う。$P = Fv$ より $v = P/F$。
抵抗が大きくなると同じ出力では速度が下がる。坂道で速度が落ちるのはこの理由。
質量 $1000\,\text{kg}$ の自動車がエンジン出力 $40\,\text{kW}$ 一定で、水平面上を走行抵抗 $800\,\text{N}$(一定)を受けながら加速している。
(1) 速度が $10\,\text{m/s}$ のとき、加速度を求めよ。
(2) 最終的に到達する速度(最高速度)を求めよ。
(3) 加速中に加速度が徐々に小さくなる理由を説明せよ。
(1) $a = 3.2\,\text{m/s}^2$
(2) $v_{\max} = 50\,\text{m/s}$
(3) 下記参照
(1) $v = 10\,\text{m/s}$ のとき、エンジンの駆動力は $F = \frac{P}{v} = \frac{40000}{10} = 4000\,\text{N}$
合力 $= F - f = 4000 - 800 = 3200\,\text{N}$
$a = \frac{3200}{1000} = 3.2\,\text{m/s}^2$
(2) 最高速度では加速度が $0$(等速)。$F = f$ つまり $\frac{P}{v} = 800$。$v = \frac{40000}{800} = 50\,\text{m/s}$
(3) 出力が一定なので、速度が上がると駆動力 $F = P/v$ が小さくなる。しかし走行抵抗は一定なので、合力(= 駆動力 $-$ 抵抗力)が小さくなり、加速度 $= $ 合力$/m$ も小さくなる。