高いところから落とした物体は速くなり、上がると遅くなる。位置エネルギーと運動エネルギーは、まるでシーソーのように入れ替わっています。
その「入れ替わりの合計が一定」——これが力学的エネルギー保存則です。
この記事では、保存則が成り立つ条件(保存力のみ)と、摩擦がある場合にどう修正されるかを学びます。
これまでに3種類のエネルギーを学びました。
これらの和を力学的エネルギー(mechanical energy)と呼びます。
$$E = K + U$$
$$E = \frac{1}{2}mv^2 + mgh + \frac{1}{2}kx^2$$
運動エネルギー、重力の位置エネルギー、弾性エネルギーは、エネルギーの「形態」が異なるだけで、互いに交換可能です。
高い場所にある静止した物体(位置エネルギー大、運動エネルギー0)が落下すると、位置エネルギーが減り、運動エネルギーが増えます。交換レートは常に1:1——減った分だけ増えるのです。
力学的エネルギー保存則を、仕事とエネルギーの関係から導出します。
物体に保存力(重力、弾性力)だけがはたらいている場合を考えます。
仕事-エネルギー定理より、合力がした仕事は運動エネルギーの変化に等しい:
$$W_{\text{合力}} = \Delta K = K_B - K_A$$
保存力がした仕事は、位置エネルギーの変化の符号反転:
$$W_{\text{保存力}} = -\Delta U = -(U_B - U_A)$$
保存力だけがはたらいているなら $W_{\text{合力}} = W_{\text{保存力}}$ なので:
$$K_B - K_A = -(U_B - U_A)$$
整理すると:
$$K_A + U_A = K_B + U_B$$
つまり、力学的エネルギー $E = K + U$ は始点 A と終点 B で等しくなります。
保存力のみがはたらくとき:
$$K_A + U_A = K_B + U_B$$
すなわち
$$\frac{1}{2}mv_A^2 + mgh_A = \frac{1}{2}mv_B^2 + mgh_B$$
垂直抗力は物体の運動方向に垂直にはたらくため、仕事をしません($W = F \cos 90° \times d = 0$)。
糸の張力も、糸の方向と運動方向が直交する場合は仕事をしません(振り子の糸など)。
✕ 誤:垂直抗力があるから保存則は使えない
○ 正:垂直抗力は仕事をしないので、保存則に影響しない
「仕事をしない力」は保存則の成立を妨げません。保存則を破るのは「仕事をする非保存力」(摩擦力など)だけです。
「運動方程式」と「エネルギー保存則」は力学の2大ツールです。どちらを使うかの判断基準を整理しましょう。
エネルギー保存則が有利:速さを求める問題、経路に依存しない問題、加速度が不要な問題
運動方程式が有利:加速度や力を求める問題、時間に関する問題、各瞬間の状態が必要な問題
エネルギー保存則は「始点と終点の2状態」だけで答えが出るため、途中の経路が複雑でも簡単に解けるのが強みです。
力学的エネルギー保存則は常に成り立つわけではありません。 成り立つ条件を理解するために、「保存力」と「非保存力」の区別を学びましょう。
保存力とは、した仕事が経路に依存せず、始点と終点の位置だけで決まる力です。
保存力に対しては位置エネルギーを定義することができ、力学的エネルギー保存則が成り立ちます。
非保存力は、した仕事が経路に依存する力です。
力学的エネルギー保存則は、物体にはたらく力が保存力だけ(または仕事をしない力を含む)のとき成り立ちます。
摩擦力や空気抵抗などの非保存力がはたらくと、力学的エネルギーの一部が熱や音に変わり、力学的エネルギーの総量は減少します。
保存力(重力、弾性力)がはたらくのは当たり前です。これらは保存則の「中」に位置エネルギーとして組み込まれています。
✕ 誤:重力がはたらいているから保存則は使えない
○ 正:重力は保存力なので、位置エネルギーを使えば保存則が成り立つ
保存則を「壊す」のは非保存力が仕事をする場合だけです。
| 力の種類 | 例 | 位置エネルギー | 保存則への影響 |
|---|---|---|---|
| 保存力 | 重力、弾性力 | 定義できる | $U$ に組み込む |
| 仕事をしない力 | 垂直抗力、張力(直交) | 不要 | 影響なし |
| 非保存力 | 摩擦力、空気抵抗 | 定義できない | 保存則を修正する必要あり |
摩擦力などの非保存力がはたらく場合、力学的エネルギーは保存しません。 しかし、非保存力がした仕事を考慮すれば、保存則を拡張して使うことができます。
$$K_A + U_A + W_{\text{非保存}} = K_B + U_B$$
すなわち
$$E_B - E_A = W_{\text{非保存}}$$
動摩擦力 $f'$ が一定で、物体が距離 $d$ だけ移動した場合、摩擦力がした仕事は:
$$W_{\text{摩擦}} = -f'd = -\mu' N d$$
(摩擦力は常に運動と逆向きなので負の仕事)
角度 $30°$、斜面の長さ $L = 2.0\,\text{m}$ の斜面を質量 $1.0\,\text{kg}$ の物体が滑り降りる。動摩擦係数 $\mu' = 0.20$、$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。
高さの変化:$h = L\sin 30° = 1.0\,\text{m}$
垂直抗力:$N = mg\cos 30° = 1.0 \times 9.8 \times \frac{\sqrt{3}}{2} \approx 8.49\,\text{N}$
摩擦力の仕事:$W_{\text{摩擦}} = -\mu' N L = -0.20 \times 8.49 \times 2.0 \approx -3.4\,\text{J}$
エネルギーの式:$0 + mgh + W_{\text{摩擦}} = \frac{1}{2}mv^2 + 0$
$9.8 - 3.4 = \frac{1}{2} \times 1.0 \times v^2$
$v = \sqrt{2 \times 6.4} \approx 3.6\,\text{m/s}$
摩擦で失われた力学的エネルギーは、消滅したのではなく熱エネルギーに変換されています。
力学的エネルギー(運動 + 位置)だけ見ると「減っている」ように見えますが、熱まで含めた「総エネルギー」は保存されています。
これがエネルギー保存の法則(熱力学第一法則)であり、物理学の最も基本的な法則の一つです。
Step 1:非保存力(摩擦、空気抵抗)がはたらいているか確認する
Step 2a:非保存力なし → $K_A + U_A = K_B + U_B$ をそのまま使う
Step 2b:非保存力あり → $K_A + U_A + W_{\text{非保存}} = K_B + U_B$ を使う
問題文に「滑らかな面」とあれば摩擦なし、「粗い面」とあれば摩擦ありです。この1語で使う式が変わります。
力学的エネルギー保存則は、力学のあらゆる場面で活躍する最強のツールの一つです。
Q1. 力学的エネルギーの定義を式で書け。
Q2. 力学的エネルギー保存則が成り立つ条件を述べよ。
Q3. 保存力を2つ挙げ、非保存力を1つ挙げよ。
Q4. 摩擦力がはたらく場合、力学的エネルギーの保存則はどのように修正されるか。
力学的エネルギー保存則を入試形式で確認しましょう。
質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体を高さ $5.0\,\text{m}$ から静かに落とす。地面を基準として、$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。
(1) 地面に到達する直前の速さを、エネルギー保存則を使って求めよ。
(2) 高さ $2.0\,\text{m}$ の地点での速さを求めよ。
(1) $v \approx 9.9\,\text{m/s}$
(2) $v \approx 7.7\,\text{m/s}$
(1) 保存則:$mgh = \frac{1}{2}mv^2$($m$ は両辺から消える)
$v = \sqrt{2gh} = \sqrt{2 \times 9.8 \times 5.0} = \sqrt{98} \approx 9.9\,\text{m/s}$
(2) 保存則:$mgh_1 = \frac{1}{2}mv^2 + mgh_2$
$v = \sqrt{2g(h_1 - h_2)} = \sqrt{2 \times 9.8 \times 3.0} = \sqrt{58.8} \approx 7.7\,\text{m/s}$
角度 $30°$、長さ $4.0\,\text{m}$ の粗い斜面の頂上から質量 $0.50\,\text{kg}$ の物体を静かに滑らせる。動摩擦係数 $\mu' = 0.30$、$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。
(1) 斜面の最下端に到達したときの速さを求めよ。
(2) 摩擦によって失われた力学的エネルギーは何 J か。
(1) $v \approx 3.7\,\text{m/s}$
(2) 約 $5.1\,\text{J}$
高さ:$h = L\sin 30° = 4.0 \times 0.50 = 2.0\,\text{m}$
垂直抗力:$N = mg\cos 30° = 0.50 \times 9.8 \times \frac{\sqrt{3}}{2} \approx 4.24\,\text{N}$
摩擦力の仕事:$W_f = -\mu' NL = -0.30 \times 4.24 \times 4.0 \approx -5.1\,\text{J}$
(1) $mgh + W_f = \frac{1}{2}mv^2$
$0.50 \times 9.8 \times 2.0 - 5.1 = \frac{1}{2} \times 0.50 \times v^2$
$9.8 - 5.1 = 0.25v^2$ → $v^2 = 18.8$ → $v \approx 3.7\,\text{m/s} \approx 4.3\,\text{m/s}$
(計算を精密にすると $v \approx 4.3\,\text{m/s}$)
(2) 失われた力学的エネルギー $= |W_f| \approx 5.1\,\text{J}$(熱エネルギーに変換された)
鉛直に立てたばね(ばね定数 $k = 800\,\text{N/m}$)の上に質量 $0.40\,\text{kg}$ の物体を置き、ばねを自然長から $d = 0.10\,\text{m}$ 縮めた状態で手を離す。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。ばねから離れた後の物体について、以下を求めよ。
(1) 物体がばねから離れる瞬間の速さを求めよ。
(2) 物体が到達する最高点の、ばねの自然長の位置からの高さを求めよ。
(1) $v \approx 4.0\,\text{m/s}$
(2) $H \approx 0.82\,\text{m}$
状態A:ばねを $d$ だけ縮めた位置(速度 $0$)
状態B:ばねの自然長の位置(速度 $v$)
ばねの自然長の位置を位置エネルギーの基準とすると、状態 A は基準より $d$ だけ下にある。
保存則(A → B):$\frac{1}{2}kd^2 + mg \cdot 0 = \frac{1}{2}mv^2 + mg \cdot d$
注意:状態 A は基準より下なので重力の位置エネルギーは $-mgd$。修正すると:
$\frac{1}{2}kd^2 - mgd = \frac{1}{2}mv^2$
$\frac{1}{2} \times 800 \times 0.01 - 0.40 \times 9.8 \times 0.10 = \frac{1}{2} \times 0.40 \times v^2$
$4.0 - 0.392 = 0.20v^2$ → $v^2 = 18.04$ → $v \approx 4.2\,\text{m/s}$
(2) 状態 B → 最高点 C(速度 $0$):$\frac{1}{2}mv^2 = mgH$
$H = \frac{v^2}{2g} = \frac{18.04}{19.6} \approx 0.92\,\text{m}$
または一気に A → C で計算:$\frac{1}{2}kd^2 = mg(H + d)$
$4.0 = 0.40 \times 9.8 \times (H + 0.10)$ → $H + 0.10 = 1.02$ → $H \approx 0.92\,\text{m}$