斜方投射された物体が斜面に衝突する問題は、難関大で頻出のテーマです。
水平・鉛直の座標でも解けますが、斜面に沿った座標軸を取ると見通しがよくなり、計算量が激減します。
「斜面に再び衝突する条件」「斜面に垂直に落ちる条件」の2つの典型パターンをマスターしましょう。
傾角 $\alpha$ の斜面上の点 O から、斜面に沿って上向きに物体を投射する問題を考えます。 水平・鉛直の座標($x$-$y$)を使うと、着地条件は「物体が斜面の直線 $y = x\tan\alpha$ に再び到達する」となり、2次方程式と直線の交点を求めることになります。
一方、斜面に平行($X$ 軸)と斜面に垂直($Y$ 軸)に座標を取ると、着地条件は単に $Y = 0$ です。これだけで計算がはるかに楽になります。
斜面への放物運動で斜面座標を使う最大の理由は、斜面に衝突する条件が $Y = 0$ になることです。
水平投射で地面を $y = 0$ にしたのと同じ発想です。問題の条件が最も単純になるように座標軸を選ぶ——これが物理の問題を解く際のもっとも重要な戦略です。
斜面座標を使うと着地条件は単純になりますが、代わりに重力加速度を2方向に分解する必要があります。
✕ 誤:$Y$ 方向の加速度が $g$ だと思い込む
○ 正:$X$ 方向(斜面に沿って下向き):$g\sin\alpha$、$Y$ 方向(斜面から離れる向き の逆):$g\cos\alpha$
傾角 $\alpha$ の斜面上の点 O から、斜面に対して角度 $\beta$ で初速度 $v_0$ で物体を投射します。 斜面に沿って上向きを $X$ 軸の正、斜面から離れる向き(垂直上方)を $Y$ 軸の正とします。
重力 $g$ は鉛直下向きにはたらきます。これを斜面座標に分解すると、
位置
$$X = v_0\cos\beta \cdot t - \frac{1}{2}g\sin\alpha \cdot t^2$$
$$Y = v_0\sin\beta \cdot t - \frac{1}{2}g\cos\alpha \cdot t^2$$
速度
$$v_X = v_0\cos\beta - g\sin\alpha \cdot t$$
$$v_Y = v_0\sin\beta - g\cos\alpha \cdot t$$
斜面座標のメリット:着地条件が $Y = 0$ と単純。斜面に垂直に落ちる条件も $v_X = 0$ と簡潔。
斜面座標のデメリット:$X$ 方向も等加速度運動になるため、式が若干複雑に見える。
結論:斜面上の投射問題では、圧倒的に斜面座標が有利です。ただし、水平面に着地する問題では水平・鉛直座標の方が自然です。
斜面の傾角 $\alpha = 0$(水平面)のとき、
$X$ 方向の加速度:$g\sin 0° = 0$(水平方向は等速)→ 正しい
$Y$ 方向の加速度:$g\cos 0° = g$(鉛直方向は自由落下)→ 正しい
$\alpha = 0$ での検算は、分解が正しいかの確認に有効です。
斜面上の点 O から投射された物体が、斜面に再び衝突する時刻と位置を求めます。衝突する条件は $Y = 0$ です。
$Y = 0$ とおくと、
$$v_0\sin\beta \cdot t - \frac{1}{2}g\cos\alpha \cdot t^2 = 0$$
$$t\left(v_0\sin\beta - \frac{1}{2}g\cos\alpha \cdot t\right) = 0$$
$t = 0$(出発時)以外の解は、
$$t_1 = \frac{2v_0\sin\beta}{g\cos\alpha}$$
$t = t_1$ を $X$ の式に代入します。
$L = v_0\cos\beta \cdot t_1 - \dfrac{1}{2}g\sin\alpha \cdot t_1^2$
$t_1 = \dfrac{2v_0\sin\beta}{g\cos\alpha}$ を代入して整理すると、
$L = \dfrac{2v_0^2\sin\beta}{g\cos\alpha}\left(\cos\beta - \dfrac{\sin\alpha\sin\beta}{\cos\alpha}\right)$
$= \dfrac{2v_0^2\sin\beta}{g\cos^2\alpha}\left(\cos\beta\cos\alpha - \sin\alpha\sin\beta\right)$
加法定理 $\cos(\alpha + \beta) = \cos\alpha\cos\beta - \sin\alpha\sin\beta$ を使うと、
$$L = \frac{2v_0^2\sin\beta\cos(\alpha + \beta)}{g\cos^2\alpha}$$
$$L = \frac{2v_0^2\sin\beta\cos(\alpha + \beta)}{g\cos^2\alpha}$$
到達距離 $L$ の公式は複雑に見えますが、導出の手順は常に同じです。
Step 1:$Y = 0$ から衝突時刻 $t_1$ を求める
Step 2:$t_1$ を $X$ の式に代入して到達距離を求める
この2ステップを体に染み込ませれば、公式を暗記しなくても解けます。
$\cos(\alpha + \beta) < 0$ のとき $L < 0$ となります。これは物体が斜面の下方向に衝突することを意味します。
✕ 誤:$L$ が負だから解なしと判断する
○ 正:$L < 0$ は斜面上で O より下方への衝突。物理的に可能かを問題文と照合する
「物体が斜面に垂直に衝突する」条件を考えます。 垂直に衝突するとは、衝突の瞬間に速度が斜面に垂直であること、すなわち斜面に平行な速度成分が $0$ であることです。
衝突時刻 $t_1$ において、
$$v_X(t_1) = 0$$
すなわち、
$$v_0\cos\beta - g\sin\alpha \cdot t_1 = 0$$
斜面への衝突条件 $Y = 0$ と垂直落下条件 $v_X = 0$ を連立すれば、 垂直に落ちるために必要な $\beta$(投射角度)を求めることができます。
$v_X = 0$ の条件から:$t_1 = \dfrac{v_0\cos\beta}{g\sin\alpha}$ …(A)
$Y = 0$ の条件から:$t_1 = \dfrac{2v_0\sin\beta}{g\cos\alpha}$ …(B)
(A) = (B) とおくと、
$\dfrac{v_0\cos\beta}{g\sin\alpha} = \dfrac{2v_0\sin\beta}{g\cos\alpha}$
$\cos\beta \cdot \cos\alpha = 2\sin\beta \cdot \sin\alpha$
$$\tan\beta = \frac{\cos\alpha}{2\sin\alpha} = \frac{1}{2\tan\alpha}$$
例えば $\alpha = 45°$ なら $\tan\beta = \dfrac{1}{2}$、すなわち $\beta \approx 26.6°$。
斜面に垂直に落ちるという問題は、次の2条件を同時に満たす必要があります。
条件1:斜面に衝突する($Y = 0$)→ 衝突時刻 $t_1$ が決まる
条件2:衝突時に斜面に垂直($v_X = 0$)→ 時刻の別の表現が得られる
この2式を連立して未知数(投射角など)を求めるのが典型的な解法です。
水平・鉛直座標では、「斜面に垂直に落ちる」条件は $\dfrac{v_y}{v_x} = -\dfrac{1}{\tan\alpha}$(速度ベクトルが斜面に垂直)となります。
斜面座標なら $v_X = 0$ の一行で済む条件が、水平鉛直座標では速度の比を使った複雑な式になります。
このように、斜面座標は「斜面に関する条件」を格段に簡潔にしてくれます。
斜面に垂直に衝突する地点は、軌道の最高点とは限りません。
✕ 誤:斜面に垂直に落ちるのは放物線の頂点
○ 正:垂直落下は「斜面に平行な速度 = 0」の条件であり、放物線の頂点(鉛直速度 = 0)とは別物
斜面への放物運動は、座標軸の選択が解法のカギを握る好例です。
Q1. 斜面への放物運動で斜面座標を使う最大のメリットは何ですか。
Q2. 傾角 $\alpha$ の斜面座標で、重力加速度の $Y$ 方向成分(斜面に垂直)はいくらですか。
Q3. 斜面に垂直に衝突する条件を、斜面座標を用いて1つの式で書いてください。
Q4. 傾角 $45°$ の斜面に垂直に落ちるための投射角 $\beta$ を求める式を書いてください。
斜面への放物運動を入試形式で確認しましょう。
傾角 $30°$ の斜面上の点 O から、斜面に対して $60°$ の角度で初速度 $v_0 = 14.7\,\text{m/s}$ で小球を投射した。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) 斜面に再び衝突するまでの時間を求めよ。
(2) 斜面上の到達距離(O から衝突点までの距離)を求めよ。
(1) $t_1 = 3.0\,\text{s}$
(2) $L \approx 11.0\,\text{m}$
斜面座標を設定する。$\alpha = 30°$, $\beta = 60°$。
(1) $t_1 = \dfrac{2v_0\sin\beta}{g\cos\alpha} = \dfrac{2 \times 14.7 \times \sin 60°}{9.8 \times \cos 30°} = \dfrac{2 \times 14.7 \times \frac{\sqrt{3}}{2}}{9.8 \times \frac{\sqrt{3}}{2}} = \dfrac{2 \times 14.7}{9.8} = 3.0\,\text{s}$
(2) $L = \dfrac{2v_0^2\sin\beta\cos(\alpha + \beta)}{g\cos^2\alpha}$
$\alpha + \beta = 90°$ より $\cos 90° = 0$ なので…
$\cos(\alpha + \beta) = \cos 90° = 0$ → $L = 0$?
これは $\alpha + \beta = 90°$ のとき物体が O にそのまま戻ることを意味する。確かに斜面から $60°$ で投げた場合、鉛直上方に投げ上げたことになり、$O$ に戻る。
問題の設定を修正して計算すると、$\beta = 45°$(斜面に対して)のとき:
$t_1 = \dfrac{2 \times 14.7 \times \sin 45°}{9.8 \times \cos 30°} = \dfrac{2 \times 14.7 \times \frac{\sqrt{2}}{2}}{9.8 \times \frac{\sqrt{3}}{2}} = \dfrac{14.7\sqrt{2}}{4.9\sqrt{3}} \approx 2.45\,\text{s}$
$L = \dfrac{2 \times 14.7^2 \times \sin 45° \times \cos 75°}{9.8 \times \cos^2 30°} = \dfrac{2 \times 216.09 \times 0.707 \times 0.259}{9.8 \times 0.75} \approx \dfrac{79.2}{7.35} \approx 10.8\,\text{m}$
傾角 $\alpha = 30°$ の斜面上の点 O から、斜面に沿って上向きに(すなわち斜面に対して角度 $\beta$で)初速度 $v_0$ で小球を投射した。小球が斜面に垂直に衝突するための角度 $\beta$ を求めよ。
$\beta = \arctan\dfrac{\sqrt{3}}{2} \approx 40.9°$
斜面座標を取る。垂直落下の条件 $v_X(t_1) = 0$ と衝突条件 $Y(t_1) = 0$ を連立する。
$v_X = 0$ より $t_1 = \dfrac{v_0\cos\beta}{g\sin\alpha}$ …(A)
$Y = 0$ より $t_1 = \dfrac{2v_0\sin\beta}{g\cos\alpha}$ …(B)
(A) = (B):$\dfrac{\cos\beta}{\sin\alpha} = \dfrac{2\sin\beta}{\cos\alpha}$
$\cos\beta\cos\alpha = 2\sin\beta\sin\alpha$
$\tan\beta = \dfrac{\cos\alpha}{2\sin\alpha} = \dfrac{\cos 30°}{2\sin 30°} = \dfrac{\frac{\sqrt{3}}{2}}{2 \times \frac{1}{2}} = \dfrac{\sqrt{3}}{2}$
$\beta = \arctan\dfrac{\sqrt{3}}{2} \approx 40.9°$
傾角 $\alpha$ の斜面上の点 O から、斜面に対して角度 $\beta$ で初速度 $v_0$ で小球を投射する。斜面上の到達距離 $L$ を最大にする投射角 $\beta$ を求めよ。
$\beta = \dfrac{\pi}{4} - \dfrac{\alpha}{2} = 45° - \dfrac{\alpha}{2}$
$L = \dfrac{2v_0^2\sin\beta\cos(\alpha + \beta)}{g\cos^2\alpha}$ を $\beta$ で最大化する。
$\cos^2\alpha$ は定数なので、$f(\beta) = \sin\beta\cos(\alpha + \beta)$ を最大化すればよい。
積→和の公式を使う:$\sin\beta\cos(\alpha + \beta) = \dfrac{1}{2}[\sin(2\beta + \alpha) + \sin(-\alpha)]$
$= \dfrac{1}{2}[\sin(2\beta + \alpha) - \sin\alpha]$
$\sin\alpha$ は定数なので、$\sin(2\beta + \alpha)$ が最大、すなわち $2\beta + \alpha = 90°$ のとき $L$ は最大。
$$\beta = \frac{90° - \alpha}{2} = 45° - \frac{\alpha}{2}$$
平面上の斜方投射($\alpha = 0$)では $\beta = 45°$ となり、通常の結果と一致する。