第7章 運動量の保存

運動量と力積
─ $mv$ と $F\Delta t$ の関係

ボウリングのボールと卓球の球が同じ速さで転がってきたら、どちらを受け止めるのが大変でしょう。
答えは明らかにボウリングのボールです。
「質量 × 速度」で表される運動量こそ、物体の運動の勢いを正しく測る物理量です。
この記事では、運動量とその変化をもたらす力積の関係を学びます。

1運動量とは何か ─ 運動の勢いを測る

走っている自動車を止めるのは大変ですが、走っている自転車なら比較的容易です。 同じ速さでも、質量が大きいほど「止めにくい」と感じます。 逆に、質量が同じでも速度が大きいほど止めにくくなります。

この「止めにくさ」を定量的に表すのが運動量です。 運動量 $p$ は、質量 $m$ と速度 $v$ の積で定義されます。

📐 運動量の定義

$$p = mv$$

※ $p$:運動量 [$\text{kg}\cdot\text{m/s}$]、$m$:質量 [$\text{kg}$]、$v$:速度 [$\text{m/s}$]。 運動量はベクトル量であり、速度と同じ向きをもちます。
💡 ここが本質:運動量はベクトル量である

運動量は速度にスカラー量の質量を掛けたものです。 したがって、運動量は速度と同じ向きのベクトルです。

向きが正反対の2つの物体の運動量は、符号が逆になります。 運動量の計算では、正の向きを決めてから符号付きで扱うことが不可欠です。

運動量の具体例

身近な物体の運動量を計算してみましょう。

物体 質量 速さ 運動量の大きさ
卓球の球 $2.7 \times 10^{-3}\,\text{kg}$ $30\,\text{m/s}$ $0.081\,\text{kg}\cdot\text{m/s}$
野球のボール $0.15\,\text{kg}$ $40\,\text{m/s}$ $6.0\,\text{kg}\cdot\text{m/s}$
自動車 $1000\,\text{kg}$ $20\,\text{m/s}$ $2.0 \times 10^4\,\text{kg}\cdot\text{m/s}$

速さが大きい卓球の球よりも、速さは小さくても質量の大きい自動車のほうが運動量は桁違いに大きいことがわかります。

⚠️ 落とし穴:運動量と運動エネルギーを混同する

運動量 $p = mv$ と運動エネルギー $K = \frac{1}{2}mv^2$ は似ていますが、全く別の物理量です。

✕ 誤:「運動量が保存されるなら運動エネルギーも保存される」

○ 正:運動量は常に保存されますが、運動エネルギーは弾性衝突でのみ保存されます

最大の違いは、運動量はベクトル量で運動エネルギーはスカラー量であるという点です。

2力積とは何か ─ 力 × 時間の効果

テニスのサーブを想像してください。 ラケットがボールに触れている時間はわずか数ミリ秒です。 この短い時間に大きな力をかけることで、ボールに大きな運動量を与えています。

力積とは、力がどれだけの時間にわたって作用したかを表す量です。 力 $F$ が時間 $\Delta t$ の間に作用したとき、力積は $F\Delta t$ です。

📐 力積の定義

$$I = F\Delta t$$

※ $I$:力積 [$\text{N}\cdot\text{s}$]、$F$:力 [$\text{N}$]、$\Delta t$:力が作用した時間 [$\text{s}$]。 力積はベクトル量で、力と同じ向きをもちます。
💡 ここが本質:同じ力積でも力と時間の配分は自由

力積 $F\Delta t$ の値が同じであれば、運動量の変化は同じです。 大きな力を短時間かけても、小さな力を長時間かけても、力積が等しければ結果は同じです。

卵をキャッチするとき手を引くのは、受け止める時間を長くして力を小さくするためです。 力積(運動量変化)は同じでも、力のピーク値を下げて卵を割らないようにしています。

⚠️ 落とし穴:力積の単位を間違える

力積の単位は $\text{N}\cdot\text{s}$(ニュートン秒)です。

✕ 誤:「力積の単位は $\text{N/s}$ だ」

○ 正:「力積の単位は $\text{N}\cdot\text{s}$ だ」

$\text{N}\cdot\text{s} = \text{kg}\cdot\text{m/s}$ ですから、運動量と同じ次元をもちます。 これは偶然ではなく、力積が運動量の変化に等しいことの反映です。

3運動量と力積の関係 ─ 運動方程式から導く

ニュートンの運動方程式 $F = ma$ は、実は運動量の変化率を表す式でもあります。 ここから「力積 = 運動量の変化」という関係を導きましょう。

▷ 運動量と力積の関係の導出

運動方程式 $F = ma$ において、加速度 $a$ を定義に戻します。

$$F = ma = m\frac{\Delta v}{\Delta t} = \frac{m\Delta v}{\Delta t} = \frac{\Delta(mv)}{\Delta t}$$

(質量 $m$ は一定なので $m\Delta v = \Delta(mv)$ としてよい)

両辺に $\Delta t$ を掛けると、

$$F\Delta t = \Delta(mv) = mv' - mv$$

つまり、力積は運動量の変化に等しくなります。

📐 運動量と力積の関係(運動量-力積の定理)

$$F\Delta t = mv' - mv$$

すなわち、

$$\text{力積} = \text{運動量の変化}$$

※ $mv$:力が作用する前の運動量、$mv'$:力が作用した後の運動量。 力の向きが運動量変化の向きを決めます。
💡 ここが本質:$F = ma$ と運動量-力積の定理は同じことを言っている

$F = ma$ は「瞬間の力と加速度の関係」を表します。 一方、$F\Delta t = \Delta(mv)$ は「ある時間にわたる力の効果」を表します。

両者は同じ運動方程式を変形したもので、本質的に同じ内容です。 しかし、衝突のように力が短時間に作用する問題では、運動量と力積で考えるほうが圧倒的にシンプルです。

具体例:壁にボールを投げつける

質量 $0.15\,\text{kg}$ のボールを速さ $20\,\text{m/s}$ で壁に投げつけ、同じ速さで跳ね返ってきたとします。 正の向きを壁に向かう向きに取ると、衝突前の速度は $+20\,\text{m/s}$、衝突後の速度は $-20\,\text{m/s}$ です。

壁がボールに与えた力積は、

$$F\Delta t = mv' - mv = 0.15 \times (-20) - 0.15 \times 20 = -3.0 - 3.0 = -6.0\,\text{N}\cdot\text{s}$$

力積が負であることは、壁がボールを押し返す向きに力を加えたことを意味します。

⚠️ 落とし穴:跳ね返りで運動量変化を間違える

跳ね返る場合、速度の向きが反転するため、運動量の変化は「引き算」ではなく実質的に「足し算」になります。

✕ 誤:$\Delta p = 0.15 \times 20 - 0.15 \times 20 = 0$(速さだけで計算)

○ 正:$\Delta p = 0.15 \times (-20) - 0.15 \times 20 = -6.0\,\text{N}\cdot\text{s}$(向きを考慮)

速度はベクトルです。向きが変わるときは符号が変わります。

⚠️ 落とし穴:「力積 = 運動量」と書いてしまう

✕ 誤:$F\Delta t = mv$

○ 正:$F\Delta t = mv' - mv$(運動量の「変化」)

力積は運動量そのものではなく、運動量の変化量に等しいのです。

4力積の計算 ─ $F$-$t$ グラフの面積

衝突のように力が時間とともに変化する場合、一定の力を仮定できません。 そのとき、力積は $F$-$t$ グラフ(力-時間グラフ)の面積として求められます。

力が一定の場合、$F$-$t$ グラフは横軸に平行な直線となり、力積は長方形の面積 $F \times \Delta t$ です。 力が変化する場合でも、グラフと時間軸に囲まれた面積が力積に等しいという関係は成り立ちます。

💡 ここが本質:$F$-$t$ グラフの面積 = 力積 = 運動量の変化

$v$-$t$ グラフの面積が変位を表したのと同様に、$F$-$t$ グラフの面積は力積を表します。

力が時間的に変化しても、この関係を使えば力積を求められます。 入試では、三角形や台形のグラフが与えられることが多いです。

平均の力という考え方

衝突時間 $\Delta t$ の間に運動量が $\Delta p$ だけ変化したとき、平均の力 $\bar{F}$ は次のように定義されます。

$$\bar{F} = \frac{\Delta p}{\Delta t} = \frac{mv' - mv}{\Delta t}$$

衝突時間が短いほど、平均の力は大きくなります。 同じ運動量変化でも、コンクリートの壁にぶつかる(短時間)のと段ボールの壁にぶつかる(長時間)のとでは、受ける力が全く違うのです。

🔬 深掘り:自動車のエアバッグと力積

自動車事故でエアバッグが開くのは、衝突時間を延ばすためです。 運動量の変化量(つまり力積)は同じでも、身体に加わる力のピーク値を下げることができます。

同じ原理は、柔道の受け身やバンジージャンプのゴム紐にも使われています。 力積を変えずに、力の最大値を下げるという発想は工学の基本です。

🔬 深掘り:ニュートンの原形は運動量の変化率

実は、ニュートンが『プリンキピア』で記した運動の第2法則の原形は $F = ma$ ではなく、「力は運動量の時間変化率に等しい」というものでした。

$$F = \frac{dp}{dt} = \frac{d(mv)}{dt}$$

質量が一定のときは $F = m\frac{dv}{dt} = ma$ となり、おなじみの形になります。 ロケットのように質量が変化する系では、$F = ma$ ではなく $F = \frac{dp}{dt}$ を使う必要があります。

5この章を俯瞰する

運動量と力積は、衝突や分裂を扱うための土台です。 この記事で学んだ概念が、今後どのように発展するかを確認しましょう。

つながりマップ

  • ← M-6-8 力学的エネルギー保存則の応用:エネルギーの視点から運動を見た。運動量はそれとは別の保存量として衝突問題を解く鍵となる。
  • → M-7-2 運動量保存則:2物体の間に働く力は作用反作用の関係にある。このことから運動量の保存が導かれる。
  • → M-7-3 反発係数:衝突の「はね返りやすさ」を数値化する。運動量保存則と組み合わせて衝突後の速度を求める。
  • → M-7-8 分裂と合体:爆発やロケットの噴射も運動量保存で扱える。力積の考え方が役立つ。
  • → M-7-9 重心の運動:外力が0なら重心の運動量(速度)は一定。運動量保存の帰結として理解できる。

📋まとめ

  • 運動量 $p = mv$ は、質量と速度の積で定義されるベクトル量である
  • 力積 $I = F\Delta t$ は、力と作用時間の積で定義されるベクトル量である
  • 運動量-力積の定理:$F\Delta t = mv' - mv$(力積 = 運動量の変化)
  • $F$-$t$ グラフの面積が力積を表す。力が変化する場合にも使える
  • 同じ力積でも、作用時間が短いほど力は大きくなる(エアバッグの原理)
  • 運動量と運動エネルギーは別の物理量。混同しないこと

確認テスト

Q1. 質量 $0.50\,\text{kg}$ の物体が速さ $4.0\,\text{m/s}$ で運動しています。運動量の大きさを求めてください。

▶ クリックして解答を表示$p = mv = 0.50 \times 4.0 = 2.0\,\text{kg}\cdot\text{m/s}$

Q2. $5.0\,\text{N}$ の力を $3.0\,\text{s}$ 間加えたとき、力積の大きさを求めてください。

▶ クリックして解答を表示$I = F\Delta t = 5.0 \times 3.0 = 15\,\text{N}\cdot\text{s}$

Q3. 質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体が静止状態から $10\,\text{N}\cdot\text{s}$ の力積を受けました。力積を受けた後の速度を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$F\Delta t = mv' - mv$ より $10 = 2.0 \times v' - 0$ → $v' = 5.0\,\text{m/s}$

Q4. 運動量と力積の単位が同じであることを、SI基本単位で確認してください。

▶ クリックして解答を表示運動量:$\text{kg}\cdot\text{m/s}$。力積:$\text{N}\cdot\text{s} = \text{kg}\cdot\text{m/s}^2 \times \text{s} = \text{kg}\cdot\text{m/s}$。一致します。

Q5. 質量 $0.10\,\text{kg}$ のボールが速さ $15\,\text{m/s}$ で壁に当たり、同じ速さで跳ね返りました。壁がボールに与えた力積の大きさを求めてください。

▶ クリックして解答を表示$|F\Delta t| = |mv' - mv| = |0.10 \times (-15) - 0.10 \times 15| = |-1.5 - 1.5| = 3.0\,\text{N}\cdot\text{s}$

8入試問題演習

この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

7-1-1 A 基礎 運動量 力積

質量 $0.50\,\text{kg}$ の物体が、速度 $8.0\,\text{m/s}$ で右向きに運動している。この物体に左向きに $6.0\,\text{N}$ の力を $2.0\,\text{s}$ 間加えた。次の問いに答えよ。

(1) 力を加える前の運動量を求めよ。

(2) 物体が受けた力積を求めよ。

(3) 力を加えた後の速度を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 右向きに $4.0\,\text{kg}\cdot\text{m/s}$

(2) 左向きに $12\,\text{N}\cdot\text{s}$

(3) 左向きに $16\,\text{m/s}$

解説

方針:右向きを正とする。$F\Delta t = mv' - mv$ を使う。

(1) $p = mv = 0.50 \times 8.0 = 4.0\,\text{kg}\cdot\text{m/s}$(右向き)

(2) $I = F\Delta t = (-6.0) \times 2.0 = -12\,\text{N}\cdot\text{s}$。大きさ $12\,\text{N}\cdot\text{s}$、向きは左向き。

(3) $F\Delta t = mv' - mv$ より $-12 = 0.50 \times v' - 4.0$。$0.50v' = -8.0$。$v' = -16\,\text{m/s}$。負なので左向きに $16\,\text{m/s}$。

B 発展レベル

7-1-2 B 発展 跳ね返り 平均の力

質量 $0.060\,\text{kg}$ のテニスボールが速さ $30\,\text{m/s}$ で壁に垂直に当たり、速さ $20\,\text{m/s}$ で跳ね返った。衝突時間を $5.0 \times 10^{-3}\,\text{s}$ として、次の問いに答えよ。

(1) 壁がボールに与えた力積の大きさを求めよ。

(2) 壁がボールに加えた平均の力の大きさを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $3.0\,\text{N}\cdot\text{s}$

(2) $6.0 \times 10^2\,\text{N}$

解説

方針:壁に向かう向きを正にとる。衝突前 $v = +30\,\text{m/s}$、衝突後 $v' = -20\,\text{m/s}$。

(1) $I = mv' - mv = 0.060 \times (-20) - 0.060 \times 30 = -1.2 - 1.8 = -3.0\,\text{N}\cdot\text{s}$。大きさは $3.0\,\text{N}\cdot\text{s}$。

(2) $\bar{F} = \frac{|I|}{\Delta t} = \frac{3.0}{5.0 \times 10^{-3}} = 6.0 \times 10^2\,\text{N}$

採点ポイント
  • 正の向きを定め、衝突前後の速度に正しい符号をつける(3点)
  • 力積 = 運動量の変化として正しく計算する(3点)
  • 平均の力を力積 ÷ 衝突時間で求める(4点)

C 応用レベル

7-1-3 C 応用 F-tグラフ 論述

質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体が静止している。この物体に右向きの力を加えたところ、力は $0$ から一定の割合で増加し、$t = 4.0\,\text{s}$ で最大値 $12\,\text{N}$ に達した。その後、力は瞬時に $0$ になった。$F$-$t$ グラフは三角形である。

(1) 物体が受けた力積を求めよ。

(2) $t = 4.0\,\text{s}$ における物体の速度を求めよ。

(3) 同じ力積を一定の力で $4.0\,\text{s}$ 間に与える場合、その力の大きさを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $24\,\text{N}\cdot\text{s}$(右向き)

(2) $12\,\text{m/s}$(右向き)

(3) $6.0\,\text{N}$

解説

方針:$F$-$t$ グラフの面積(三角形の面積)が力積に等しい。

(1) $I = \frac{1}{2} \times 4.0 \times 12 = 24\,\text{N}\cdot\text{s}$(右向き)

(2) $I = mv' - mv$ より $24 = 2.0 \times v' - 0$。$v' = 12\,\text{m/s}$(右向き)

(3) $I = F \times \Delta t$ より $24 = F \times 4.0$。$F = 6.0\,\text{N}$。これは平均の力に等しい。

採点ポイント
  • $F$-$t$ グラフの三角形の面積から力積を求める(3点)
  • 力積 = 運動量の変化から速度を求める(3点)
  • 一定の力 = 平均の力であることを理解する(4点)