第7章 運動量の保存

反発係数(はね返り係数)
─ 衝突の激しさを表す

スーパーボールは高く弾み、粘土の球は地面にぺたりと張りつきます。
同じ「衝突」でも、跳ね返り方はまるで違います。
この違いを $0$ から $1$ の数値で表すのが反発係数です。
運動量保存則と組み合わせることで、衝突後の速度を完全に決定できるようになります。

1反発係数の定義 ─ 近づく速さと離れる速さの比

2つの物体が衝突するとき、衝突前に近づく速さと衝突後に離れる速さの比を反発係数(はね返り係数)$e$ といいます。

📐 反発係数の定義

$$e = \frac{v_2' - v_1'}{v_1 - v_2}$$

※ $v_1, v_2$:衝突前の速度(符号付き)、$v_1', v_2'$:衝突後の速度(符号付き)。 分子は「衝突後に離れる相対速度」、分母は「衝突前に近づく相対速度」です。$0 \leq e \leq 1$。
💡 ここが本質:反発係数は「相対速度の比」である

反発係数の定義式を言葉で表すと、

$e = \dfrac{\text{衝突後に離れる速さ}}{\text{衝突前に近づく速さ}}$

分母は衝突前に2物体が近づく相対速度、分子は衝突後に離れる相対速度です。 個々の物体の速度ではなく、相対速度で考えるのがポイントです。

⚠️ 落とし穴:反発係数の式で分子と分母を逆にする

✕ 誤:$e = \dfrac{v_1 - v_2}{v_2' - v_1'}$(分子分母が逆)

○ 正:$e = \dfrac{v_2' - v_1'}{v_1 - v_2}$

覚え方:分子は「ダッシュ付き(衝突後)で2が先」、分母は「ダッシュなし(衝突前)で1が先」です。

⚠️ 落とし穴:反発係数を「速度の比」で計算してしまう

✕ 誤:$e = \dfrac{v_1'}{v_1}$(1つの物体だけで計算)

○ 正:反発係数は2物体の相対速度の比で定義されます

ただし、一方が壁や床で静止している場合は、$e = \dfrac{v'}{v}$(跳ね返る速さ / ぶつかる速さ)と簡略化できます。

2反発係数の値と衝突の分類

反発係数の値によって、衝突は3種類に分類されます。

反発係数 $e$ 衝突の種類 特徴
$e = 1$ 弾性衝突 運動エネルギーが保存される
$0 < e < 1$ 非弾性衝突 運動エネルギーの一部が失われる
$e = 0$ 完全非弾性衝突 2物体が一体となり、エネルギー損失が最大
💡 ここが本質:$e = 0$ は「くっつく」、$e = 1$ は「完全に弾む」

$e = 0$ のとき、衝突後の相対速度は $0$ です。つまり2物体は同じ速度で動く、すなわち一体化します。 これが完全非弾性衝突です。

$e = 1$ のとき、衝突後の相対速度は衝突前と同じ大きさです。 このとき運動エネルギーも保存されます。これが弾性衝突です。

⚠️ 落とし穴:$e = 0$ を「動かなくなる」と勘違いする

✕ 誤:「$e = 0$ だから衝突後に止まる」

○ 正:「$e = 0$ だから2物体が同じ速度で動く(一体化する)」

$e = 0$ は相対速度が $0$ になることを意味します。2物体の速度が等しくなるだけで、必ずしも $0$ ではありません。

日常の例

  • スーパーボール:$e \approx 0.9$(弾性衝突に近い)
  • テニスボール:$e \approx 0.7$
  • 粘土:$e \approx 0$(完全非弾性衝突に近い)
  • ビリヤードの球:$e \approx 0.95$

3床・壁との衝突における反発係数

物体が床や壁に衝突する場合、壁や床の質量は物体に比べてはるかに大きく、衝突の前後で動きません。 この場合、反発係数の式は簡単になります。

📐 壁・床との衝突の反発係数

壁(床)が静止しているとき、

$$e = \frac{v'}{v}$$

※ $v$:衝突前の速さ、$v'$:衝突後の速さ。いずれも壁(床)に対する速さで、正の値として扱います。
▷ 壁との衝突で $e = v'/v$ となることの導出

壁の速度は衝突前後とも $0$ です。物体が壁に向かう向きを正にとると、

衝突前:物体の速度 $v_1 = v$、壁の速度 $v_2 = 0$

衝突後:物体の速度 $v_1' = -v'$(跳ね返るので負)、壁の速度 $v_2' = 0$

$$e = \frac{v_2' - v_1'}{v_1 - v_2} = \frac{0 - (-v')}{v - 0} = \frac{v'}{v}$$

自由落下と反発係数

高さ $h$ から自由落下させた物体が床で跳ね返り、高さ $h'$ まで上がった場合、反発係数は次のように求められます。

床に衝突する直前の速さは $v = \sqrt{2gh}$、跳ね返った直後の速さは $v' = \sqrt{2gh'}$ なので、

$$e = \frac{v'}{v} = \frac{\sqrt{2gh'}}{\sqrt{2gh}} = \sqrt{\frac{h'}{h}}$$

💡 ここが本質:高さの比から反発係数がわかる

$e = \sqrt{\dfrac{h'}{h}}$ なので、$e^2 = \dfrac{h'}{h}$ です。

反発係数 $0.8$ の球を $1.0\,\text{m}$ の高さから落とすと、跳ね返り高さは $h' = e^2 h = 0.64\,\text{m}$ になります。

⚠️ 落とし穴:$e = \sqrt{h'/h}$ を $e = h'/h$ と間違える

✕ 誤:$e = \dfrac{h'}{h}$

○ 正:$e = \sqrt{\dfrac{h'}{h}}$ すなわち $e^2 = \dfrac{h'}{h}$

反発係数は速さの比です。速さは $\sqrt{2gh}$ に比例するので、平方根がつきます。

4反発係数とエネルギー損失の関係

反発係数が $1$ 未満のとき、衝突で運動エネルギーの一部が失われます。 この失われたエネルギーは、音・熱・物体の変形などに変わっています。

▷ 反発係数とエネルギー損失の関係(等質量の場合)

等質量 $m$ の2物体が一直線上で衝突する場合を考えます。

運動量保存:$v_1 + v_2 = v_1' + v_2'$

反発係数:$e(v_1 - v_2) = v_2' - v_1'$

衝突前のエネルギー:$K = \frac{1}{2}m(v_1^2 + v_2^2)$

衝突後のエネルギー:$K' = \frac{1}{2}m(v_1'^2 + v_2'^2)$

計算すると、エネルギーの損失率は $(1 - e^2)$ に比例します。 $e = 1$ なら損失ゼロ、$e = 0$ なら損失が最大です。

🔬 深掘り:反発係数は物体の材質で決まる

反発係数は2つの物体の材質の組み合わせによって決まる固有の値です。 温度や衝突速度によっても多少変化しますが、高校物理では一定とみなします。

プロのテニス選手がラケットのガットの素材にこだわるのは、反発係数がボールの飛び方に直接影響するからです。

🔬 深掘り:$e > 1$ は起こりうるか

通常の衝突では $e \leq 1$ ですが、衝突時に内部のエネルギーが解放される場合(爆薬付きの衝突など)は $e > 1$ になりえます。 ただし、高校物理の範囲では $0 \leq e \leq 1$ として扱います。

5この章を俯瞰する

反発係数は、運動量保存則と組み合わせて衝突問題を解くための道具です。 次の記事以降で、具体的な衝突問題に取り組みます。

つながりマップ

  • ← M-7-2 運動量保存則:運動量保存は1つの式。未知数が2つあるとき、反発係数がもう1つの式を提供する。
  • → M-7-4 弾性衝突:$e = 1$ の場合。運動量保存 + エネルギー保存(= 反発係数 $1$)で解く。
  • → M-7-5 非弾性衝突:$0 < e < 1$ や $e = 0$ の場合。エネルギー損失を計算する。
  • → M-7-6 壁・床との衝突:$e = v'/v$ の簡略化された公式を使い、斜め衝突を扱う。

📋まとめ

  • 反発係数 $e = \dfrac{v_2' - v_1'}{v_1 - v_2}$ は衝突前後の相対速度の比
  • $e = 1$:弾性衝突(運動エネルギー保存)、$0 < e < 1$:非弾性衝突、$e = 0$:完全非弾性衝突(一体化)
  • 壁・床との衝突では $e = v'/v$(跳ね返る速さ / ぶつかる速さ)
  • 自由落下の跳ね返り:$e = \sqrt{h'/h}$($e^2 = h'/h$)
  • エネルギー損失は $(1 - e^2)$ に比例する。$e$ が小さいほど損失が大きい

確認テスト

Q1. 反発係数 $e = 1$ のとき、衝突を何と呼びますか。

▶ クリックして解答を表示弾性衝突。運動エネルギーが保存される衝突です。

Q2. 高さ $1.25\,\text{m}$ から落としたボールが、床で跳ね返って $0.80\,\text{m}$ まで上がりました。反発係数を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$e = \sqrt{\dfrac{h'}{h}} = \sqrt{\dfrac{0.80}{1.25}} = \sqrt{0.64} = 0.80$

Q3. 反発係数 $e = 0$ のとき、衝突後の2物体はどうなりますか。

▶ クリックして解答を表示2物体は一体となって同じ速度で動きます(完全非弾性衝突)。ただし必ずしも静止するわけではありません。

8入試問題演習

この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

7-3-1 A 基礎 反発係数 計算

速度 $6.0\,\text{m/s}$ で右向きに進む物体Aが、速度 $2.0\,\text{m/s}$ で右向きに進む物体Bに追突した。衝突後、Aの速度は $3.0\,\text{m/s}$(右向き)、Bの速度は $5.0\,\text{m/s}$(右向き)であった。反発係数を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$e = 0.50$

解説

右向きを正とする。$v_1 = 6.0$, $v_2 = 2.0$, $v_1' = 3.0$, $v_2' = 5.0$

$e = \dfrac{v_2' - v_1'}{v_1 - v_2} = \dfrac{5.0 - 3.0}{6.0 - 2.0} = \dfrac{2.0}{4.0} = 0.50$

B 発展レベル

7-3-2 B 発展 自由落下 反発係数

反発係数 $e = 0.70$ の球を高さ $2.0\,\text{m}$ から自由落下させた。重力加速度を $g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として次の問いに答えよ。

(1) 1回目の跳ね返り後に到達する最高点の高さを求めよ。

(2) 2回目の跳ね返り後に到達する最高点の高さを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $0.98\,\text{m}$

(2) $0.48\,\text{m}$

解説

$h' = e^2 h$ を繰り返し使います。

(1) $h_1 = e^2 \times h = 0.70^2 \times 2.0 = 0.49 \times 2.0 = 0.98\,\text{m}$

(2) $h_2 = e^2 \times h_1 = 0.49 \times 0.98 = 0.48\,\text{m}$(有効数字2桁)

採点ポイント
  • $e^2 = h'/h$ の関係を正しく使う(4点)
  • 2回目も同じ反発係数を使って繰り返し計算する(3点)
  • 有効数字を適切に処理する(3点)

C 応用レベル

7-3-3 C 応用 運動量保存 反発係数

なめらかな水平面上で、質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体Aが速度 $5.0\,\text{m/s}$ で右向きに進み、静止している質量 $3.0\,\text{kg}$ の物体Bに衝突した。反発係数を $e = 0.60$ として、衝突後のA、Bの速度をそれぞれ求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

A:右向きに $0.20\,\text{m/s}$、B:右向きに $3.2\,\text{m/s}$

解説

右向きを正とする。運動量保存則と反発係数の式を連立します。

運動量保存:$2.0 \times 5.0 + 3.0 \times 0 = 2.0 v_A' + 3.0 v_B'$ → $10 = 2v_A' + 3v_B'$ ...

反発係数:$e = \dfrac{v_B' - v_A'}{5.0 - 0} = 0.60$ → $v_B' - v_A' = 3.0$ ...

②より $v_B' = v_A' + 3.0$。①に代入:$10 = 2v_A' + 3(v_A' + 3.0) = 5v_A' + 9.0$

$v_A' = 0.20\,\text{m/s}$、$v_B' = 3.2\,\text{m/s}$

採点ポイント
  • 運動量保存則を正しく立式する(3点)
  • 反発係数の式を正しく立式する(3点)
  • 連立方程式を解いて正しい速度を求める(4点)