メリーゴーラウンドに乗っていると、体が外側に引っ張られるように感じます。洗濯機の脱水では水が外側に飛ばされます。
これらはすべて遠心力の仕業です。遠心力は、回転する座標系(非慣性系)で感じる慣性力の一種であり、前の記事で学んだ慣性力の概念を回転運動に適用したものです。
角速度 $\omega$ で回転する座標系(回転系)の中にいる観測者にとって、 物体が回転系で静止しているように見えるためには、向心力のほかに外向きの力が必要に見えます。 この外向きの力が遠心力です。
前の記事で学んだ慣性力 $-m\vec{a}_0$ の「$\vec{a}_0$」が向心加速度 $r\omega^2$(中心向き)の場合、慣性力は外向きに $mr\omega^2$ となります。これが遠心力です。
遠心力は実在の力ではなく、回転座標系でのみ現れる「見かけの力」です。しかし、回転系での問題を解くときには実在の力と同等に扱えます。
✕ 誤:地面(慣性系)から見て「遠心力が働くので物体は外に飛ぶ」
○ 正:慣性系では向心力が不足して直線運動しようとする(慣性の法則)だけ。遠心力は回転系でのみ登場する
「遠心力で外に飛ぶ」という表現は日常では便利ですが、物理の問題を解くときは座標系を明確にしましょう。
角速度 $\omega$ で回転する座標系で、回転中心から距離 $r$ にある質量 $m$ の物体に働く遠心力は、
$$F_{\text{遠心}} = mr\omega^2 = \frac{mv^2}{r}$$
向き:回転中心から外向き(半径方向外向き)
遠心力の大きさは以下の要因で大きくなります。
洗濯機の脱水:回転ドラムと一緒に回る水の立場では遠心力で外に押し出される。
遠心分離機:高速回転により密度の大きい物質ほど外側に集まる。
メリーゴーラウンド:乗っている人は外向きの力を感じるが、地上から見れば慣性で直線に進もうとしているだけ。
回転系で物体が静止して見えるためには、回転系でのすべての力(実在の力+遠心力)がつりあう必要があります。
水平な滑らかなテーブルの上で、糸につながれた質量 $m$ の物体が角速度 $\omega$ で等速円運動をしています。
慣性系(地面)の立場:
$$T = mr\omega^2 \quad \text{(張力が向心力を提供)}$$
回転系(物体と一緒に回る座標系)の立場:
物体は静止して見える。実在の力(張力 $T$、中心向き)と遠心力($mr\omega^2$、外向き)がつりあう。
$$T = mr\omega^2 \quad \text{(つりあいの式)}$$
慣性系で「向心方向の運動方程式」を立てた結果と、回転系で「遠心力を含むつりあいの式」を立てた結果は完全に同じ式になります。
どちらの方法を使うかは好みと問題の性質で選べますが、入試では慣性系での立式が安全です。遠心力を使う場合は「回転系で考える」と明記しましょう。
円錐振り子(糸の長さ $l$、糸と鉛直のなす角 $\theta$)を回転系から見ると、小球には重力 $mg$(下向き)、張力 $T$(糸に沿って上向き)、遠心力 $mr\omega^2$(水平外向き)の3力が働いてつりあいます。
鉛直方向:$T\cos\theta = mg$
水平方向:$T\sin\theta = mr\omega^2 = ml\sin\theta \cdot \omega^2$
$r = l\sin\theta$ を水平方向の式に代入すると、
$$T\sin\theta = ml\sin\theta \cdot \omega^2$$
$\sin\theta \neq 0$ で割ると $T = ml\omega^2$
鉛直方向の式 $T\cos\theta = mg$ に代入すると、
$$ml\omega^2 \cos\theta = mg \quad \Longrightarrow \quad \omega^2 = \frac{g}{l\cos\theta}$$
慣性系で求めた結果と完全に一致します。
向心力と遠心力は混同されやすいので、違いを整理しておきましょう。
| 向心力 | 遠心力 | |
|---|---|---|
| 座標系 | 慣性系 | 回転系(非慣性系) |
| 向き | 中心向き | 外向き |
| 大きさ | $mr\omega^2$ | $mr\omega^2$ |
| 性質 | 実在の力(の合力) | 見かけの力(慣性力) |
| 役割 | 円運動の加速度を生む | 回転系で静止して見えるための補正 |
✕ 誤:「向心力と遠心力がつりあうから物体は円運動する」
○ 正:慣性系では向心力が加速度を生む(つりあいではない)。回転系では実在の力と遠心力がつりあう(物体は静止して見える)
向心力と遠心力を同じ座標系で同時に使ってはいけません。
回転系で物体が動いている場合、遠心力に加えてコリオリ力($-2m\vec{\omega} \times \vec{v}'$)も現れます。
コリオリ力は台風の渦巻きやフーコーの振り子など、地球規模の現象に関わります。高校物理では詳しく扱いませんが、回転系の慣性力には遠心力以外もあることを知っておきましょう。
遠心力の理解は、円運動の問題を多角的に解くための重要な武器です。
Q1. 遠心力はどのような座標系で現れますか。その大きさと向きは?
Q2. 遠心力はなぜ「慣性力の一種」と言えるのですか。
Q3. 慣性系での向心力の運動方程式と、回転系での遠心力を含むつりあいの式は、どのような関係にありますか。
Q4. 「向心力と遠心力がつりあうから円運動する」は正しいですか。
遠心力を入試形式で確認しましょう。
水平な滑らかなテーブルの上で、質量 $0.50\,\text{kg}$ の物体を長さ $0.80\,\text{m}$ の糸で結び、毎秒 $2.0$ 回転($2.0\,\text{Hz}$)で等速円運動させている。回転系での遠心力の大きさを求めよ。
$F_{\text{遠心}} \approx 63\,\text{N}$
$\omega = 2\pi f = 2\pi \times 2.0 = 4\pi\,\text{rad/s}$
$F_{\text{遠心}} = mr\omega^2 = 0.50 \times 0.80 \times (4\pi)^2 = 0.40 \times 16\pi^2 \approx 0.40 \times 158 = 63\,\text{N}$
長さ $l = 1.0\,\text{m}$ の糸の先に質量 $m = 0.20\,\text{kg}$ の小球をつけ、円錐振り子として回転させたところ、糸と鉛直のなす角が $60°$ になった。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、回転系の立場から考え、角速度 $\omega$ と糸の張力 $T$ を求めよ。
$\omega \approx 4.4\,\text{rad/s}$、$T \approx 3.9\,\text{N}$
回転系で考える。小球にはたらく力:重力 $mg$(下向き)、張力 $T$(糸に沿って中心上向き)、遠心力 $mr\omega^2$(水平外向き)。
$r = l\sin 60° = 1.0 \times \dfrac{\sqrt{3}}{2} = \dfrac{\sqrt{3}}{2}\,\text{m}$
鉛直方向のつりあい:$T\cos 60° = mg$ → $T = \dfrac{mg}{\cos 60°} = \dfrac{0.20 \times 9.8}{0.50} = 3.92 \approx 3.9\,\text{N}$
水平方向のつりあい:$T\sin 60° = mr\omega^2$
$\omega^2 = \dfrac{T\sin 60°}{mr} = \dfrac{3.92 \times \frac{\sqrt{3}}{2}}{0.20 \times \frac{\sqrt{3}}{2}} = \dfrac{3.92}{0.20} = 19.6$
$\omega = \sqrt{19.6} \approx 4.4\,\text{rad/s}$
傾斜角 $\theta$ のバンク(摩擦なし、半径 $r$)を速さ $v$ で走る車を、車と一緒に回転する座標系(回転系)から考える。回転系で車が静止して見えるための条件を、遠心力を用いて導き、$\tan\theta = v^2/(rg)$ を示せ。
遠心力のつりあいから $\tan\theta = v^2/(rg)$ が導かれる。(下記解説参照)
回転系で考える。車にはたらく力は次の3つ。
・重力 $mg$(鉛直下向き)
・垂直抗力 $N$(路面に垂直、斜面に直角)
・遠心力 $\dfrac{mv^2}{r}$(水平方向外向き)
回転系で車は静止しているので、3力のつりあい条件を考える。
鉛直方向:$N\cos\theta = mg + 0$(遠心力は水平なので鉛直成分なし)…①
水平方向:$N\sin\theta = \dfrac{mv^2}{r}$(遠心力とつりあう)…②
※ ここで注意:遠心力は外向き、$N\sin\theta$ は内向き。回転系でこれらがつりあう。
②÷①:$\tan\theta = \dfrac{v^2/r}{g} = \dfrac{v^2}{rg}$
慣性系で導いた結果と完全に一致します。回転系では「運動方程式」ではなく「つりあい」として同じ結果が得られました。