第9章 単振動

単振動の基礎
─ 変位・速度・加速度の関係

ブランコに揺られたあの日の感覚を思い出してください。
真ん中を通り過ぎるとき一番速く、端で一瞬止まる。
この「行ったり来たり」の運動を、物理は単振動と呼びます。
ここでは、変位・速度・加速度がどう結びつくかを丁寧に見ていきましょう。

1単振動とは ─ 「復元力」が生む往復運動

物体がある位置を中心に、同じ動きを繰り返す運動を振動といいます。 そのなかでも最もシンプルな形を単振動(Simple Harmonic Motion, SHM)と呼びます。

単振動の本質は、復元力にあります。 物体がつりあいの位置からずれると、「元に戻そう」とする力がはたらきます。 この復元力が変位に比例するとき、物体は単振動をします。

日常の中の単振動

身のまわりにも単振動の例はたくさんあります。

  • ばねにつけたおもり:引っ張って手を離すと、つりあいの位置を中心に往復します
  • 振り子時計:振れ角が小さければ、おもりは単振動に近い動きをします
  • ギターの弦:弾かれた弦が細かく振動して音を生みます
  • 水面の波:水面の各点が上下に単振動しています
💡 ここが本質:単振動 = 変位に比例する復元力

単振動が成り立つ条件はただ一つ。 つりあいの位置からの変位に比例し、変位と逆向きの力がはたらくことです。

式で書くと $F = -kx$($k$ は正の定数)。 マイナスの符号が「逆向き」を意味します。 この形の力がはたらけば、物体は必ず単振動します。

つりあいの位置と変位

単振動を考えるとき、まずつりあいの位置を定めます。 これは、復元力がゼロになる位置のことです。 変位 $x$ は、このつりあいの位置からのずれを表します。

つりあいの位置を原点にとると、右へのずれを $x > 0$、左へのずれを $x < 0$ とします。 復元力は常に「つりあいの位置に向かう向き」にはたらきます。

⚠️ 落とし穴:つりあいの位置と自然長の位置を混同する

鉛直ばね振り子の場合、自然長の位置とつりあいの位置は異なります。

✕ 誤:「ばねの自然長の位置が振動の中心」

○ 正:「おもりが静止する位置(重力とばねの力がつりあう位置)が振動の中心」

水平ばねでは自然長の位置とつりあいの位置が一致しますが、 鉛直ばねでは重力のぶんだけずれます。M-9-4 で詳しく扱います。

2変位・速度・加速度の関係

単振動では、変位・速度・加速度の3つが密接に関わり合います。 この関係を直感的に理解するために、ばねにつけたおもりの動きを追ってみましょう。

おもりの1往復を追跡する

右端($x = A$)からスタートするとしましょう。 $A$ を振幅と呼びます。

位置 変位 $x$ 速度 $v$ 加速度 $a$
右端(折り返し点) $+A$(最大) $0$(一瞬停止) 最大(左向き)
中心を左向きに通過 $0$ 最大(左向き) $0$
左端(折り返し点) $-A$(最小) $0$(一瞬停止) 最大(右向き)
中心を右向きに通過 $0$ 最大(右向き) $0$
💡 ここが本質:変位最大のとき速度ゼロ、変位ゼロのとき速度最大

端で折り返すとき、速度はゼロで加速度は最大。 中心を通過するとき、速度は最大で加速度はゼロ。

変位と速度は「ずれた」タイミングで変化します。 これは位相が $\frac{\pi}{2}$(90度)ずれていることに対応します。 M-9-2 で三角関数を使って正確に表現します。

加速度と変位の向きは常に逆

復元力 $F = -kx$ にニュートンの第二法則 $F = ma$ を適用すると、 $ma = -kx$ すなわち $a = -\dfrac{k}{m}x$ が得られます。

変位 $x$ が正(右にずれている)のとき加速度は負(左向き)。 変位 $x$ が負(左にずれている)のとき加速度は正(右向き)。 加速度は常に変位と逆向きで、つりあいの位置に向かっています。

⚠️ 落とし穴:速度と加速度の向きを混同する

速度と加速度は、同じ向きのこともあれば逆向きのこともあります。

✕ 誤:「加速度が右向きだから、物体は右に動いている」

○ 正:「加速度が右向きでも、物体は左に動いていることがある(減速中)」

左端から中心に向かう区間では、速度は右向き、加速度も右向き(加速中)。 中心から右端に向かう区間では、速度は右向き、加速度は左向き(減速中)。

3単振動の条件 ─ $a = -\omega^2 x$

ここまでの議論を整理すると、単振動の条件は1本の式にまとまります。 $\dfrac{k}{m}$ をまとめて $\omega^2$ と書くのが物理の慣例です。

📐 単振動の運動方程式

$$a = -\omega^2 x$$

※ $a$:加速度 [$\text{m/s}^2$]、$\omega$:角振動数 [$\text{rad/s}$]、$x$:つりあいの位置からの変位 [$\text{m}$]
▷ $\omega^2 = \dfrac{k}{m}$ の導出

復元力 $F = -kx$ と運動方程式 $F = ma$ より、

$$ma = -kx$$

$$a = -\frac{k}{m}x$$

ここで $\omega^2 = \dfrac{k}{m}$ と定義すると、

$$a = -\omega^2 x$$

$\omega$ は角振動数と呼ばれ、振動の速さを表す量です。

この式の意味を言葉にすると、こうなります。 「加速度は、変位に比例し、変位と逆向き」。 この条件を満たす運動はすべて単振動です。

💡 ここが本質:$a = -\omega^2 x$ が単振動の「判定式」

ある物体の運動方程式を立てて、加速度が $a = -(\text{正の定数}) \times x$ の形になれば、 その物体は必ず単振動しています。

「正の定数」の部分が $\omega^2$ に対応し、そこから周期や振動数が求まります。 入試では、この式の形を見抜くことが最大のポイントです。

⚠️ 落とし穴:$\omega^2$ の $\omega$ を忘れて $\omega = \dfrac{k}{m}$ と書く

✕ 誤:$\omega = \dfrac{k}{m}$

○ 正:$\omega^2 = \dfrac{k}{m}$、すなわち $\omega = \sqrt{\dfrac{k}{m}}$

定義されているのは $\omega^2$ です。 $\omega$ を求めるには平方根を取る必要があります。

4振幅・周期・振動数・角振動数

単振動を記述するための基本量を整理しておきましょう。 これらの量の関係をしっかり押さえることが、計算ミスを防ぐ第一歩です。

記号 単位 意味
振幅 $A$ $\text{m}$ つりあいの位置からの最大変位
周期 $T$ $\text{s}$ 1往復にかかる時間
振動数 $f$ $\text{Hz}$ 1秒あたりの振動回数
角振動数 $\omega$ $\text{rad/s}$ 1秒あたりに進む位相の角度
📐 基本量の関係式

$$T = \frac{1}{f} = \frac{2\pi}{\omega}$$

$$\omega = 2\pi f = \frac{2\pi}{T}$$

※ $T$:周期 [$\text{s}$]、$f$:振動数 [$\text{Hz}$]、$\omega$:角振動数 [$\text{rad/s}$]
⚠️ 落とし穴:$2\pi$ を付け忘れる

周期 $T$ と角振動数 $\omega$ の関係には $2\pi$ が入ります。

✕ 誤:$T = \dfrac{1}{\omega}$

○ 正:$T = \dfrac{2\pi}{\omega}$

角振動数はラジアン毎秒なので、1周期($2\pi$ ラジアン)分を考える必要があります。 $T = \dfrac{1}{f}$ と $\omega = 2\pi f$ を組み合わせれば間違えません。

🔬 深掘り:なぜ「角」振動数なのか

単振動は等速円運動の「影」として理解できます。 半径 $A$ の円上を角速度 $\omega$ で回る点を、直径に射影したものが単振動です。

円運動の角速度をそのまま振動の世界に持ち込んだのが「角振動数」です。 M-9-2 で三角関数を使って式にすると、この対応がはっきり見えてきます。

5この章を俯瞰する

単振動は力学の集大成であり、波動の出発点でもあります。 この章で学ぶ内容が、どのようにつながっているかを確認しましょう。

つながりマップ

  • ← M-8-10 円運動と万有引力のまとめ:等速円運動の正射影が単振動。角速度 $\omega$ がそのまま角振動数になる。
  • → M-9-2 単振動の式:$a = -\omega^2 x$ を解いて、$x$・$v$・$a$ を三角関数で表す。
  • → M-9-3 水平ばね振り子:最も基本的な単振動系。復元力 $F = -kx$ をそのまま使える。
  • → M-9-6 単振動のエネルギー:運動エネルギーと位置エネルギーの交換を定量的に扱う。
  • → 波動の章:媒質の各点が単振動する現象が「波」。振動の理解が波の理解の土台になる。

📋まとめ

  • 単振動とは、つりあいの位置を中心とした規則的な往復運動のこと
  • 単振動の条件:復元力が変位に比例し、逆向き($F = -kx$)
  • 運動方程式は $a = -\omega^2 x$。この形になれば単振動と判定できる
  • 端で速度ゼロ・加速度最大、中心で速度最大・加速度ゼロ
  • 基本量の関係:$T = \dfrac{2\pi}{\omega}$、$f = \dfrac{1}{T}$、$\omega = 2\pi f$
  • 角振動数は $\omega = \sqrt{\dfrac{k}{m}}$。$\omega^2 = \dfrac{k}{m}$ と混同しないこと

確認テスト

Q1. 単振動する物体の加速度が最大になるのは、どの位置にいるときですか。

▶ クリックして解答を表示振動の端(変位が最大の位置)。$a = -\omega^2 x$ より、$|x|$ が最大のとき $|a|$ も最大になります。

Q2. ばね定数 $k = 200\,\text{N/m}$ のばねに質量 $m = 0.50\,\text{kg}$ のおもりをつけて単振動させるとき、角振動数 $\omega$ を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$\omega = \sqrt{\dfrac{k}{m}} = \sqrt{\dfrac{200}{0.50}} = \sqrt{400} = 20\,\text{rad/s}$

Q3. 角振動数 $\omega = 10\,\text{rad/s}$ の単振動の周期 $T$ を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$T = \dfrac{2\pi}{\omega} = \dfrac{2\pi}{10} = \dfrac{\pi}{5} \approx 0.63\,\text{s}$

Q4. 単振動する物体が中心を通過するときの加速度はいくらですか。

▶ クリックして解答を表示$0$。中心では $x = 0$ なので、$a = -\omega^2 \times 0 = 0$ です。

8入試問題演習

この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

9-1-1 A 基礎 定義の確認 計算

ばね定数 $k = 80\,\text{N/m}$ のばねに質量 $m = 0.20\,\text{kg}$ のおもりをつけて水平面上で単振動させた。次の問いに答えよ。

(1) 角振動数 $\omega$ を求めよ。

(2) 周期 $T$ を求めよ。

(3) 振幅が $0.10\,\text{m}$ のとき、端での加速度の大きさを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $\omega = 20\,\text{rad/s}$

(2) $T = \dfrac{\pi}{10} \approx 0.31\,\text{s}$

(3) $40\,\text{m/s}^2$

解説

(1) $\omega = \sqrt{\dfrac{k}{m}} = \sqrt{\dfrac{80}{0.20}} = \sqrt{400} = 20\,\text{rad/s}$

(2) $T = \dfrac{2\pi}{\omega} = \dfrac{2\pi}{20} = \dfrac{\pi}{10} \approx 0.31\,\text{s}$

(3) 端では $|x| = A = 0.10\,\text{m}$ なので、$|a| = \omega^2 A = 20^2 \times 0.10 = 40\,\text{m/s}^2$

B 発展レベル

9-1-2 B 発展 復元力の判定 論述

質量 $m$ の物体に力 $F$ がはたらき、つりあいの位置からの変位を $x$ としたとき、次の各場合について単振動するかどうかを判定し、単振動する場合は角振動数を求めよ。

(1) $F = -5x$

(2) $F = -3x^2$

(3) $F = -12x + 4$(ただし $x$ はつりあいの位置からの変位ではなく座標)

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 単振動する。$\omega = \sqrt{\dfrac{5}{m}}$

(2) 単振動しない

(3) 座標の変換が必要(下記解説参照)

解説

(1) $ma = -5x$ より $a = -\dfrac{5}{m}x$。$a = -\omega^2 x$ の形なので単振動。$\omega = \sqrt{\dfrac{5}{m}}$

(2) $F = -3x^2$ は変位の2乗に比例しており、$F = -kx$ の形ではない。したがって単振動しない。

(3) $F = 0$ となる点を求めると $x_0 = \dfrac{1}{3}$。$X = x - x_0$ と置くと $F = -12X$ となる。$a = -\dfrac{12}{m}X$ の形なので、$x_0$ を中心に単振動する。$\omega = \sqrt{\dfrac{12}{m}}$

採点ポイント
  • $a = -\omega^2 x$ の形との比較で判定すること(3点)
  • (2) で「$x$ の1乗に比例しない」を明示すること(2点)
  • (3) でつりあい位置の座標変換を行うこと(3点)

C 応用レベル

9-1-3 C 応用 v-x関係 思考力

振幅 $A = 0.20\,\text{m}$、角振動数 $\omega = 5.0\,\text{rad/s}$ で単振動する物体について、次の問いに答えよ。

(1) 振動の端での加速度の大きさを求めよ。

(2) この物体の最大速度を $v_{\max} = A\omega$ として求めよ(M-9-2 で導出)。

(3) 中心から $0.10\,\text{m}$ の位置での加速度の大きさを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $5.0\,\text{m/s}^2$

(2) $1.0\,\text{m/s}$

(3) $2.5\,\text{m/s}^2$

解説

(1) 端では $|x| = A$ なので $|a| = \omega^2 A = 5.0^2 \times 0.20 = 5.0\,\text{m/s}^2$

(2) $v_{\max} = A\omega = 0.20 \times 5.0 = 1.0\,\text{m/s}$

(3) $|a| = \omega^2 |x| = 5.0^2 \times 0.10 = 2.5\,\text{m/s}^2$

加速度は変位に比例するので、変位が振幅の半分なら加速度も最大値の半分になります。

採点ポイント
  • $|a| = \omega^2 |x|$ を正しく適用する(各2点)
  • $v_{\max} = A\omega$ の公式を正しく使う(2点)
  • 加速度と変位の比例関係に言及する(2点)