第9章 単振動

浮力による単振動
─ 液面上の物体の振動

水に浮かぶ木片を押し込んで放すと、上下に振動します。
この振動は浮力が復元力として働く単振動です。ばねが見えなくても、浮力の変化量が変位に比例すれば単振動になります。
有効ばね定数 $\rho Sg$ を導き、周期を求めましょう。

1浮力の復元力としての性質

密度 $\rho_0$ の液体に、断面積 $S$、質量 $m$ の一様な直方体の物体が浮いているとします。 つりあいの位置では、物体の沈んでいる深さを $d$ とすると、

$$mg = \rho_0 S d g$$

ここで $\rho_0 S d g$ はアルキメデスの原理による浮力です。

つりあいからずらすと何が起こるか

つりあいの位置から物体を $x$ だけ下に押し込むと、沈んでいる深さは $d + x$ になり、浮力が増加します。

増加した浮力は $\Delta F = \rho_0 S(d + x)g - \rho_0 Sdg = \rho_0 Sgx$ です。

この増加した浮力は、変位 $x$ に比例し、つりあいの位置に戻す向きに働きます。 つまり、浮力の変化分が復元力として働くのです。

💡 ここが本質:浮力の変化分 = ばねの弾性力

浮力の変化分 $\Delta F = -\rho_0 Sg \cdot x$ は、フックの法則 $F = -kx$ と同じ形です。

つまり、液体が「ばね」の役割を果たしており、有効ばね定数は $k_{\text{eff}} = \rho_0 Sg$ です。

物体の断面積が大きいほど、液体の密度が大きいほど、「ばね」は硬くなります。

2運動方程式と有効ばね定数

つりあいの位置を原点、下向きを正として運動方程式を書きます。

物体に働く力は、重力 $mg$(下向き)と浮力 $\rho_0 S(d + x)g$(上向き)です。

$$m\frac{d^2 x}{dt^2} = mg - \rho_0 S(d + x)g$$

つりあい条件 $mg = \rho_0 Sdg$ を使って整理すると、

$$m\frac{d^2 x}{dt^2} = -\rho_0 Sg \cdot x$$

📐 浮力による単振動の運動方程式

$$m\frac{d^2 x}{dt^2} = -\rho_0 Sg \cdot x$$

有効ばね定数:$k_{\text{eff}} = \rho_0 Sg$

※ $\rho_0$:液体の密度、$S$:物体の断面積、$g$:重力加速度。
▷ つりあい条件の利用

つりあい位置での力のつりあい $mg = \rho_0 Sdg$ をあらかじめ使って消去することで、変位 $x$ だけの式に整理できます。

これは鉛直ばね振り子でも使った手法です。つりあいの位置を原点にとると、重力の項と浮力の定数部分が打ち消し合い、変位に比例する部分だけが残ります。

⚠️ 落とし穴:物体が完全に沈まない条件

この単振動が成り立つためには、振動中に物体が液面から飛び出さず、かつ完全に沈まないことが必要です。

✕ 誤:振幅がいくらでも大きくてよい

○ 正:振幅 $A$ がつりあい時の沈み深さ $d$ 以下($A \leq d$)で、かつ物体が水面上に出ている部分の長さ以下

問題文に「振幅は十分小さい」という条件がある場合、この条件は満たされています。

3周期の公式と物理的意味

角振動数 $\omega = \sqrt{\dfrac{k_{\text{eff}}}{m}} = \sqrt{\dfrac{\rho_0 Sg}{m}}$ より、

📐 浮力による単振動の周期

$$T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{\rho_0 Sg}}$$

※ つりあい条件 $m = \rho_0 Sd$ を代入すると $T = 2\pi\sqrt{d/g}$ とも書ける。$d$ はつりあい時の沈み深さ。

別の表現:$T = 2\pi\sqrt{d/g}$

つりあい条件 $m = \rho_0 Sd$ を使うと、

$$T = 2\pi\sqrt{\frac{\rho_0 Sd}{\rho_0 Sg}} = 2\pi\sqrt{\frac{d}{g}}$$

この式は単振り子の周期 $T = 2\pi\sqrt{l/g}$ と同じ形をしています。 沈み深さ $d$ が振り子の糸の長さ $l$ に対応しています。

💡 ここが本質:形式的に同じ構造

浮力の単振動($T = 2\pi\sqrt{d/g}$)と単振り子($T = 2\pi\sqrt{l/g}$)は、まったく異なる物理現象ですが、数学的には同じ構造です。

これは「変位に比例する復元力が働くすべての運動は単振動になる」という一般原理の表れです。

🔬 深掘り:物体の密度で表す

物体の密度を $\rho$、高さを $h$ とすると $m = \rho Sh$、つりあい条件は $\rho h = \rho_0 d$ で $d = \rho h / \rho_0$ です。

これを代入すると $T = 2\pi\sqrt{\dfrac{\rho h}{\rho_0 g}}$ とも書けます。

物体が軽い($\rho$ が小さい)ほど沈みが浅く、$d$ が小さくなるので周期が短くなります。

4具体例と応用

例題:水に浮かぶ角材

密度 $\rho = 600\,\text{kg/m}^3$、断面積 $S = 0.010\,\text{m}^2$、高さ $h = 0.20\,\text{m}$ の角材が、密度 $\rho_0 = 1000\,\text{kg/m}^3$ の水に浮いています。

つりあい時の沈み深さ:$d = \dfrac{\rho h}{\rho_0} = \dfrac{600 \times 0.20}{1000} = 0.12\,\text{m}$

周期:$T = 2\pi\sqrt{\dfrac{d}{g}} = 2\pi\sqrt{\dfrac{0.12}{9.8}} \approx 0.70\,\text{s}$

U字管の液体の振動

U字管に入った液体を片方だけ押し下げて放すと、液体は左右に振動します。 これも同様に、液柱の高さの差が復元力を生む単振動です。

液体全体の質量を $m = \rho SL$($L$:液柱の全長)、変位を $x$ とすると、復元力は $\rho S \cdot 2x \cdot g$(左右の液面差が $2x$ になるため)です。

📐 U字管内の液体の振動の周期

$$T = 2\pi\sqrt{\frac{L}{2g}}$$

※ $L$:U字管中の液柱の全長。液面差が $2x$ になるため、有効ばね定数は $k = 2\rho Sg$。
⚠️ 落とし穴:U字管の液面差は変位の2倍

U字管で片方を $x$ だけ押し下げると、もう片方は $x$ だけ上がるので、液面差は $2x$ になります。

✕ 誤:復元力を $\rho Sg \cdot x$ とする

○ 正:復元力を $\rho Sg \cdot 2x = 2\rho Sg \cdot x$ とする

片方だけの変位を $x$ とするか、液面差を $x$ とするかで式が変わるので、変位の定義を明確にしましょう。

5この章を俯瞰する

浮力による単振動は、ばねのないところにも単振動が現れる好例です。

つながりマップ

  • ← M-9-1 単振動の基礎:「変位に比例する復元力」→「単振動」の判定法がそのまま使える。
  • ← 第7章 浮力:アルキメデスの原理がここで動的に適用される。
  • ← M-9-6 単振動のエネルギー:エネルギー保存則も同様に成り立つ。
  • → M-9-8 直列・並列ばね:有効ばね定数の考え方は、合成ばね定数と同じ発想。
  • → M-9-9 単振動総合演習:浮力の単振動は総合問題でも頻出テーマ。

📋まとめ

  • 液面に浮かぶ物体を上下にずらすと、浮力の変化分 $\Delta F = -\rho_0 Sgx$ が復元力になる
  • 有効ばね定数は $k_{\text{eff}} = \rho_0 Sg$(液体の密度 $\times$ 断面積 $\times$ 重力加速度)
  • 周期は $T = 2\pi\sqrt{m/(\rho_0 Sg)} = 2\pi\sqrt{d/g}$
  • $T = 2\pi\sqrt{d/g}$ は単振り子の周期と同じ形($d$:沈み深さ)
  • U字管の液体振動では液面差が変位の2倍になることに注意
  • 振幅が沈み深さ $d$ を超えないことが単振動の条件

確認テスト

Q1. 浮力による単振動の有効ばね定数を書いてください。

▶ クリックして解答を表示$k_{\text{eff}} = \rho_0 Sg$($\rho_0$:液体の密度、$S$:物体の断面積、$g$:重力加速度)

Q2. 浮力による単振動の周期を、つりあい時の沈み深さ $d$ を使って表してください。

▶ クリックして解答を表示$T = 2\pi\sqrt{d/g}$

Q3. 物体の断面積を2倍にすると、周期はどうなりますか。(質量が一定の場合)

▶ クリックして解答を表示$T = 2\pi\sqrt{m/(\rho_0 Sg)}$ より、$S$ が2倍で $T$ は $1/\sqrt{2}$ 倍に短くなる。

Q4. U字管の液体振動で、片方を $x$ だけ押し下げたとき、液面差はいくらですか。

▶ クリックして解答を表示$2x$。片方が $x$ 下がると、もう片方が $x$ 上がるため。

8入試問題演習

浮力による単振動を入試形式で確認しましょう。

A 基礎レベル

9-7-1 A 基礎 浮力計算

断面積 $S = 0.020\,\text{m}^2$、質量 $m = 2.0\,\text{kg}$ の一様な直方体が、密度 $\rho_0 = 1.0 \times 10^3\,\text{kg/m}^3$ の水に浮いている。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。

(1) つりあい時の沈み深さ $d$ を求めよ。

(2) この物体を少し押し込んで放したときの振動の周期を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $d = 0.10\,\text{m}$

(2) $T \approx 0.63\,\text{s}$

解説

(1) つりあい条件 $mg = \rho_0 Sdg$ より $d = \dfrac{m}{\rho_0 S} = \dfrac{2.0}{1000 \times 0.020} = 0.10\,\text{m}$

(2) $T = 2\pi\sqrt{\dfrac{d}{g}} = 2\pi\sqrt{\dfrac{0.10}{9.8}} \approx 0.63\,\text{s}$

9-7-2 A 基礎 有効ばね定数論述

浮力による単振動において、有効ばね定数が $k_{\text{eff}} = \rho_0 Sg$ となることを導け。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

つりあいの位置から $x$ だけ下に変位すると、沈み深さが $d + x$ になり、浮力は $\rho_0 S(d+x)g$ となる。重力 $mg = \rho_0 Sdg$ を引くと、合力は $-\rho_0 Sgx$。よってフックの法則 $F = -kx$ と比較して $k_{\text{eff}} = \rho_0 Sg$。

解説

つりあい条件を利用して定数部分を消去することがポイントです。この手法は鉛直ばね振り子でも使います。

B 発展レベル

9-7-3 B 発展 U字管計算

断面積 $S$ のU字管に、密度 $\rho$ の液体が全長 $L = 0.80\,\text{m}$ だけ入っている。片方の液面を少し押し下げて放したとき、液体の振動の周期を求めよ。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$T \approx 1.3\,\text{s}$

解説

片方を $x$ だけ押し下げると液面差は $2x$。復元力 $F = \rho S \cdot 2x \cdot g = 2\rho Sgx$

全質量 $m = \rho SL$ なので、$m\ddot{x} = -2\rho Sgx$

$$T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{2\rho Sg}} = 2\pi\sqrt{\frac{\rho SL}{2\rho Sg}} = 2\pi\sqrt{\frac{L}{2g}}$$

$$= 2\pi\sqrt{\frac{0.80}{2 \times 9.8}} = 2\pi\sqrt{0.0408} \approx 2\pi \times 0.202 \approx 1.3\,\text{s}$$

採点ポイント
  • 液面差が $2x$ であることを正しく設定(3点)
  • 運動方程式を正しく立てる(4点)
  • 周期を正しく計算(3点)
9-7-4 B 発展 密度計算

密度 $\rho = 800\,\text{kg/m}^3$、高さ $h = 0.30\,\text{m}$、断面積 $S$ の角材が密度 $\rho_0 = 1.0 \times 10^3\,\text{kg/m}^3$ の水に浮いている。この物体を少し沈めて放したときの振動の周期を求めよ。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$T \approx 0.98\,\text{s}$

解説

沈み深さ $d = \dfrac{\rho h}{\rho_0} = \dfrac{800 \times 0.30}{1000} = 0.24\,\text{m}$

$T = 2\pi\sqrt{\dfrac{d}{g}} = 2\pi\sqrt{\dfrac{0.24}{9.8}} \approx 2\pi \times 0.156 \approx 0.98\,\text{s}$

採点ポイント
  • 沈み深さを正しく求める(4点)
  • $T = 2\pi\sqrt{d/g}$ を正しく適用(3点)
  • 計算が正しい(3点)

C 応用レベル

9-7-5 C 応用 おもり追加計算

断面積 $S = 0.010\,\text{m}^2$、質量 $M = 1.0\,\text{kg}$ の直方体が水(密度 $\rho_0 = 1.0 \times 10^3\,\text{kg/m}^3$)に浮いている。この物体の上に質量 $m = 0.50\,\text{kg}$ のおもりを静かに載せた。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。

(1) おもりを載せた後の新しいつりあいの位置での沈み深さを求めよ。

(2) おもりを載せた瞬間の振動の振幅を求めよ。

(3) 振動の周期を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $d' = 0.15\,\text{m}$

(2) $A = 0.050\,\text{m}$

(3) $T \approx 0.78\,\text{s}$

解説

(1) 新しいつりあい:$(M + m)g = \rho_0 Sd'g$ より $d' = \dfrac{M+m}{\rho_0 S} = \dfrac{1.5}{1000 \times 0.010} = 0.15\,\text{m}$

(2) 元の沈み深さ $d = M/(\rho_0 S) = 1.0/10 = 0.10\,\text{m}$

おもりを載せた瞬間は元の位置にいるので、新しいつりあいの位置との差 $A = d' - d = 0.050\,\text{m}$ が振幅。

(3) $T = 2\pi\sqrt{\dfrac{M+m}{\rho_0 Sg}} = 2\pi\sqrt{\dfrac{1.5}{1000 \times 0.010 \times 9.8}} = 2\pi\sqrt{\dfrac{1.5}{98}} \approx 0.78\,\text{s}$

(別解:$T = 2\pi\sqrt{d'/g} = 2\pi\sqrt{0.15/9.8} \approx 0.78\,\text{s}$)

採点ポイント
  • 新しいつりあいの位置を正しく求める(3点)
  • 振幅が旧つりあい位置と新つりあい位置の差であることを理解(4点)
  • 周期を正しく求める(3点)