第11章 熱とエネルギー

物質の三態と潜熱
─ 状態変化に必要な熱

氷に熱を加えると水になり、さらに熱を加えると水蒸気になります。
しかし、氷が溶けている最中、温度計の目盛りは動きません。加えた熱はどこへ行ったのでしょうか?
温度変化に使われない「隠れた熱」──潜熱の正体を探りましょう。

1物質の三態と状態変化

すべての物質は、温度と圧力に応じて固体液体気体の3つの状態(三態)をとります。 これは分子の運動の激しさの違いに対応しています。

状態分子間の距離分子の運動形と体積
固体非常に近い定位置で振動一定の形・体積
液体やや近い比較的自由に移動形は自由・体積は一定
気体遠い激しく飛び回る形も体積も自由

状態変化の名称

状態変化には次のような名前がついています。

  • 固体 → 液体:融解(逆は凝固
  • 液体 → 気体:蒸発(気化)(逆は凝縮(液化)
  • 固体 → 気体:昇華(逆も昇華)
💡 ここが本質:状態変化は「分子間の結合の切断・形成」

温度が上がると分子の運動エネルギーが増大し、分子間の引力(分子間力)に打ち勝って配列が崩れます。

固体→液体では結晶構造が崩れ、液体→気体では分子が互いの引力から完全に離れます。 状態変化に必要な熱は、分子間の結合を切るために使われるのです。

2加熱曲線 ─ 温度と熱量の関係

氷($-20\,\text{°C}$)を一定の割合で加熱していったときの温度変化を考えましょう。 グラフにすると、温度が上がる区間と温度が一定のまま変化しない区間が交互に現れます。

加熱曲線の5つの区間

  1. 氷の温度上昇($-20\,\text{°C}$ → $0\,\text{°C}$):固体のまま温度が上がる
  2. 融解($0\,\text{°C}$ で一定):氷が水に変わる。温度は変化しない
  3. 水の温度上昇($0\,\text{°C}$ → $100\,\text{°C}$):液体のまま温度が上がる
  4. 蒸発(沸騰)($100\,\text{°C}$ で一定):水が水蒸気に変わる。温度は変化しない
  5. 水蒸気の温度上昇($100\,\text{°C}$ 以上):気体のまま温度が上がる
⚠️ 落とし穴:「温度が変わらない=熱を加えていない」ではない

融解中や沸騰中も、熱は加え続けています。しかし温度は変わりません。

✕ 誤:温度が一定だから熱が加わっていないと考える

○ 正:加えた熱は状態変化(分子間結合の切断)に使われている

加熱曲線の平坦な部分こそ、潜熱が必要とされている区間です。

🔬 深掘り:なぜ融点・沸点で温度が一定になるのか

状態変化が起きているとき、加えた熱エネルギーはすべて分子間の結合を切ることに使われます。分子の運動エネルギー(=温度の指標)は増えないので、温度は一定に保たれるのです。

すべての分子が新しい状態に移行し終わると、再び加えた熱が運動エネルギーの増加に回り、温度が上昇し始めます。

3潜熱 ─ 融解熱と蒸発熱

状態変化のときに必要な熱量を潜熱(せんねつ)と呼びます。「潜る」の字の通り、温度変化に現れない「隠れた熱」です。

📐 潜熱の公式

質量 $m$ の物質が状態変化するのに必要な熱量:

$$Q = mL$$

$Q$:熱量 [J]、$m$:質量 [kg]、$L$:比潜熱 [J/kg]
※ 融解のときの $L$ を融解熱、蒸発のときの $L$ を蒸発熱と呼ぶ。

水の潜熱の値

状態変化名称比潜熱(J/g)比潜熱(kJ/kg)
固体 → 液体(融解)融解熱$334$$334$
液体 → 気体(蒸発)蒸発熱$2260$$2260$
💡 ここが本質:蒸発熱は融解熱の約7倍

蒸発熱が融解熱よりはるかに大きいのは、液体→気体の変化では分子間の結合をほぼ完全に断ち切る必要があるからです。

固体→液体では結晶構造が崩れるだけで分子同士はまだ近くにいますが、液体→気体では分子がバラバラに飛び去ります。やけどで「水蒸気」が怖いのは、凝縮するときに大量の蒸発熱を放出するためです。

⚠️ 落とし穴:潜熱の単位に注意

問題文で潜熱の単位が J/g か kJ/kg か J/kg かに注意してください。

✕ 誤:$L = 334\,\text{J/g}$ をそのまま $Q = mL$ に代入し、$m$ を kg 単位で入れる

○ 正:$m$ と $L$ の単位を揃える。$m$ が kg なら $L$ は J/kg を使う

4潜熱の計算 ─ 熱量の保存

状態変化を含む問題では、熱量の保存(高温物体が失った熱 = 低温物体が得た熱)を使います。温度変化の部分と状態変化の部分を分けて計算するのがポイントです。

計算の手順

  1. 温度変化の部分:$Q = mc\Delta T$(比熱を使う)
  2. 状態変化の部分:$Q = mL$(潜熱を使う)
  3. 全体の熱量を合計して、熱量の保存の式を立てる
▷ 典型計算例:氷を水にする

$-10\,\text{°C}$ の氷 $100\,\text{g}$ をすべて $50\,\text{°C}$ の水にするのに必要な熱量を求めます。

氷の比熱 $c_{\text{氷}} = 2.1\,\text{J/(g·°C)}$、水の比熱 $c_{\text{水}} = 4.2\,\text{J/(g·°C)}$、融解熱 $L = 334\,\text{J/g}$

① 氷を $-10\,\text{°C}$ → $0\,\text{°C}$:$Q_1 = 100 \times 2.1 \times 10 = 2100\,\text{J}$

② 氷 → 水($0\,\text{°C}$ で融解):$Q_2 = 100 \times 334 = 33400\,\text{J}$

③ 水を $0\,\text{°C}$ → $50\,\text{°C}$:$Q_3 = 100 \times 4.2 \times 50 = 21000\,\text{J}$

合計:$Q = 2100 + 33400 + 21000 = 56500\,\text{J} \approx 56.5\,\text{kJ}$

📐 状態変化を含む熱量計算の一般式

$$Q_{\text{total}} = mc_1 \Delta T_1 + mL + mc_2 \Delta T_2$$

$c_1$:変化前の状態の比熱、$c_2$:変化後の状態の比熱、$L$:比潜熱
※ 状態変化が起きない場合は $mL$ の項は不要。
🔬 深掘り:最終状態を見極める

氷と温水を混ぜる問題で注意すべきは、最終状態がどうなるかを先に判定することです。

温水の熱量が氷をすべて融かすのに足りない場合、最終状態は「氷+$0\,\text{°C}$ の水」になります。すべて融けると仮定して計算し、矛盾が出たら仮定を見直しましょう。

5この章を俯瞰する

物質の三態と潜熱は、熱力学全体の基礎となる重要なテーマです。

つながりマップ

  • ← T-1-3 熱量と比熱:温度変化に必要な熱量 $Q = mc\Delta T$ がここでの計算の土台になる。
  • ← T-1-4 熱量の保存:潜熱を含む問題では、高温側が失う熱=低温側が得る熱の関係を使う。
  • → T-1-6 熱と仕事の等価性:熱エネルギーが仕事に変換される関係を学ぶ。
  • → T-2 気体の法則:気体の状態(温度・圧力・体積)の関係を定量的に扱う。
  • → T-3 気体分子の運動:三態の違いを分子運動の視点から理論的に理解する。

📋まとめ

  • 物質は固体・液体・気体の三態をとり、温度と圧力で状態が変わる
  • 状態変化中は温度が変化しない。加えた熱は分子間結合の切断に使われる
  • 状態変化に必要な熱量は $Q = mL$($L$:比潜熱)
  • 水の融解熱は $334\,\text{J/g}$、蒸発熱は $2260\,\text{J/g}$。蒸発熱は融解熱の約7倍
  • 状態変化を含む問題は $mc\Delta T$(温度変化分)+ $mL$(潜熱分) に分けて計算する
  • 氷と温水の混合では最終状態の判定を最初に行う

確認テスト

Q1. 物質の三態を答え、それぞれの分子運動の特徴を簡潔に述べてください。

▶ クリックして解答を表示固体(定位置で振動)、液体(比較的自由に移動)、気体(激しく飛び回る)。温度が高いほど分子の運動エネルギーが大きく、状態変化が起こる。

Q2. 加熱曲線で温度が一定になる区間がある理由を説明してください。

▶ クリックして解答を表示状態変化中は、加えた熱がすべて分子間の結合を切る(潜熱として吸収される)ために使われ、分子の運動エネルギーが増えないため、温度は変化しない。

Q3. 水の融解熱と蒸発熱の値を答え、蒸発熱の方が大きい理由を述べてください。

▶ クリックして解答を表示融解熱は $334\,\text{J/g}$、蒸発熱は $2260\,\text{J/g}$。蒸発では分子間の結合をほぼ完全に断ち切る必要があるため、融解(結晶構造を崩すだけ)より多くのエネルギーが必要。

Q4. $0\,\text{°C}$ の氷 $200\,\text{g}$ をすべて融かすのに必要な熱量を求めてください。融解熱 $L = 334\,\text{J/g}$ とします。

▶ クリックして解答を表示$Q = mL = 200 \times 334 = 66800\,\text{J} = 66.8\,\text{kJ}$

8入試問題演習

物質の三態と潜熱を入試形式で確認しましょう。

A 基礎レベル

1-5-1 A 基礎 潜熱計算

$0\,\text{°C}$ の氷 $50\,\text{g}$ を $0\,\text{°C}$ の水にするのに必要な熱量を求めよ。融解熱を $334\,\text{J/g}$ とする。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$Q = 16700\,\text{J} = 16.7\,\text{kJ}$

解説

$Q = mL = 50 \times 334 = 16700\,\text{J}$

融解中は温度が $0\,\text{°C}$ のまま変化しないことに注意。

B 発展レベル

1-5-2 B 発展 加熱曲線計算

$-20\,\text{°C}$ の氷 $100\,\text{g}$ をすべて $80\,\text{°C}$ の水にするのに必要な熱量を求めよ。氷の比熱を $2.1\,\text{J/(g·°C)}$、水の比熱を $4.2\,\text{J/(g·°C)}$、融解熱を $334\,\text{J/g}$ とする。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$Q = 71100\,\text{J} \approx 71.1\,\text{kJ}$

解説

3段階に分けて計算する。

① 氷を $-20\,\text{°C}$ → $0\,\text{°C}$:$Q_1 = 100 \times 2.1 \times 20 = 4200\,\text{J}$

② 氷を融解($0\,\text{°C}$):$Q_2 = 100 \times 334 = 33400\,\text{J}$

③ 水を $0\,\text{°C}$ → $80\,\text{°C}$:$Q_3 = 100 \times 4.2 \times 80 = 33600\,\text{J}$

合計:$Q = 4200 + 33400 + 33600 = 71200\,\text{J}$

採点ポイント
  • 3段階に分けて計算する方針(2点)
  • 各段階の計算が正しい(各2点)
  • 合計が正しい(2点)

C 応用レベル

1-5-3 C 応用 混合最終状態

$0\,\text{°C}$ の氷 $200\,\text{g}$ を $80\,\text{°C}$ の水 $300\,\text{g}$ に入れた。最終的な温度と状態を求めよ。水の比熱を $4.2\,\text{J/(g·°C)}$、融解熱を $334\,\text{J/g}$ とする。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

最終温度 $\approx 17.9\,\text{°C}$(すべて水の状態)

解説

方針:まず氷がすべて融けるか判定する。

氷を全て融かすのに必要な熱:$Q_{\text{融解}} = 200 \times 334 = 66800\,\text{J}$

温水が $0\,\text{°C}$ まで下がったとき放出する熱:$Q_{\text{温水}} = 300 \times 4.2 \times 80 = 100800\,\text{J}$

$Q_{\text{温水}} > Q_{\text{融解}}$ なので、氷はすべて融ける。最終温度を $t\,\text{°C}$ とする。

熱量の保存:$200 \times 334 + 200 \times 4.2 \times t = 300 \times 4.2 \times (80 - t)$

$66800 + 840t = 100800 - 1260t$

$2100t = 34000$

$t \approx 16.2\,\text{°C}$

採点ポイント
  • 氷がすべて融けるかの判定(3点)
  • 熱量の保存の式を正しく立てる(3点)
  • 最終温度を正しく求める(2点)
  • 最終状態が「すべて水」であることの記述(2点)