氷に熱を加えると水になり、さらに熱を加えると水蒸気になります。
しかし、氷が溶けている最中、温度計の目盛りは動きません。加えた熱はどこへ行ったのでしょうか?
温度変化に使われない「隠れた熱」──潜熱の正体を探りましょう。
すべての物質は、温度と圧力に応じて固体・液体・気体の3つの状態(三態)をとります。 これは分子の運動の激しさの違いに対応しています。
| 状態 | 分子間の距離 | 分子の運動 | 形と体積 |
|---|---|---|---|
| 固体 | 非常に近い | 定位置で振動 | 一定の形・体積 |
| 液体 | やや近い | 比較的自由に移動 | 形は自由・体積は一定 |
| 気体 | 遠い | 激しく飛び回る | 形も体積も自由 |
状態変化には次のような名前がついています。
温度が上がると分子の運動エネルギーが増大し、分子間の引力(分子間力)に打ち勝って配列が崩れます。
固体→液体では結晶構造が崩れ、液体→気体では分子が互いの引力から完全に離れます。 状態変化に必要な熱は、分子間の結合を切るために使われるのです。
氷($-20\,\text{°C}$)を一定の割合で加熱していったときの温度変化を考えましょう。 グラフにすると、温度が上がる区間と温度が一定のまま変化しない区間が交互に現れます。
融解中や沸騰中も、熱は加え続けています。しかし温度は変わりません。
✕ 誤:温度が一定だから熱が加わっていないと考える
○ 正:加えた熱は状態変化(分子間結合の切断)に使われている
加熱曲線の平坦な部分こそ、潜熱が必要とされている区間です。
状態変化が起きているとき、加えた熱エネルギーはすべて分子間の結合を切ることに使われます。分子の運動エネルギー(=温度の指標)は増えないので、温度は一定に保たれるのです。
すべての分子が新しい状態に移行し終わると、再び加えた熱が運動エネルギーの増加に回り、温度が上昇し始めます。
状態変化のときに必要な熱量を潜熱(せんねつ)と呼びます。「潜る」の字の通り、温度変化に現れない「隠れた熱」です。
質量 $m$ の物質が状態変化するのに必要な熱量:
$$Q = mL$$
| 状態変化 | 名称 | 比潜熱(J/g) | 比潜熱(kJ/kg) |
|---|---|---|---|
| 固体 → 液体(融解) | 融解熱 | $334$ | $334$ |
| 液体 → 気体(蒸発) | 蒸発熱 | $2260$ | $2260$ |
蒸発熱が融解熱よりはるかに大きいのは、液体→気体の変化では分子間の結合をほぼ完全に断ち切る必要があるからです。
固体→液体では結晶構造が崩れるだけで分子同士はまだ近くにいますが、液体→気体では分子がバラバラに飛び去ります。やけどで「水蒸気」が怖いのは、凝縮するときに大量の蒸発熱を放出するためです。
問題文で潜熱の単位が J/g か kJ/kg か J/kg かに注意してください。
✕ 誤:$L = 334\,\text{J/g}$ をそのまま $Q = mL$ に代入し、$m$ を kg 単位で入れる
○ 正:$m$ と $L$ の単位を揃える。$m$ が kg なら $L$ は J/kg を使う
状態変化を含む問題では、熱量の保存(高温物体が失った熱 = 低温物体が得た熱)を使います。温度変化の部分と状態変化の部分を分けて計算するのがポイントです。
$-10\,\text{°C}$ の氷 $100\,\text{g}$ をすべて $50\,\text{°C}$ の水にするのに必要な熱量を求めます。
氷の比熱 $c_{\text{氷}} = 2.1\,\text{J/(g·°C)}$、水の比熱 $c_{\text{水}} = 4.2\,\text{J/(g·°C)}$、融解熱 $L = 334\,\text{J/g}$
① 氷を $-10\,\text{°C}$ → $0\,\text{°C}$:$Q_1 = 100 \times 2.1 \times 10 = 2100\,\text{J}$
② 氷 → 水($0\,\text{°C}$ で融解):$Q_2 = 100 \times 334 = 33400\,\text{J}$
③ 水を $0\,\text{°C}$ → $50\,\text{°C}$:$Q_3 = 100 \times 4.2 \times 50 = 21000\,\text{J}$
合計:$Q = 2100 + 33400 + 21000 = 56500\,\text{J} \approx 56.5\,\text{kJ}$
$$Q_{\text{total}} = mc_1 \Delta T_1 + mL + mc_2 \Delta T_2$$
氷と温水を混ぜる問題で注意すべきは、最終状態がどうなるかを先に判定することです。
温水の熱量が氷をすべて融かすのに足りない場合、最終状態は「氷+$0\,\text{°C}$ の水」になります。すべて融けると仮定して計算し、矛盾が出たら仮定を見直しましょう。
物質の三態と潜熱は、熱力学全体の基礎となる重要なテーマです。
Q1. 物質の三態を答え、それぞれの分子運動の特徴を簡潔に述べてください。
Q2. 加熱曲線で温度が一定になる区間がある理由を説明してください。
Q3. 水の融解熱と蒸発熱の値を答え、蒸発熱の方が大きい理由を述べてください。
Q4. $0\,\text{°C}$ の氷 $200\,\text{g}$ をすべて融かすのに必要な熱量を求めてください。融解熱 $L = 334\,\text{J/g}$ とします。
物質の三態と潜熱を入試形式で確認しましょう。
$0\,\text{°C}$ の氷 $50\,\text{g}$ を $0\,\text{°C}$ の水にするのに必要な熱量を求めよ。融解熱を $334\,\text{J/g}$ とする。
$Q = 16700\,\text{J} = 16.7\,\text{kJ}$
$Q = mL = 50 \times 334 = 16700\,\text{J}$
融解中は温度が $0\,\text{°C}$ のまま変化しないことに注意。
$-20\,\text{°C}$ の氷 $100\,\text{g}$ をすべて $80\,\text{°C}$ の水にするのに必要な熱量を求めよ。氷の比熱を $2.1\,\text{J/(g·°C)}$、水の比熱を $4.2\,\text{J/(g·°C)}$、融解熱を $334\,\text{J/g}$ とする。
$Q = 71100\,\text{J} \approx 71.1\,\text{kJ}$
3段階に分けて計算する。
① 氷を $-20\,\text{°C}$ → $0\,\text{°C}$:$Q_1 = 100 \times 2.1 \times 20 = 4200\,\text{J}$
② 氷を融解($0\,\text{°C}$):$Q_2 = 100 \times 334 = 33400\,\text{J}$
③ 水を $0\,\text{°C}$ → $80\,\text{°C}$:$Q_3 = 100 \times 4.2 \times 80 = 33600\,\text{J}$
合計:$Q = 4200 + 33400 + 33600 = 71200\,\text{J}$
$0\,\text{°C}$ の氷 $200\,\text{g}$ を $80\,\text{°C}$ の水 $300\,\text{g}$ に入れた。最終的な温度と状態を求めよ。水の比熱を $4.2\,\text{J/(g·°C)}$、融解熱を $334\,\text{J/g}$ とする。
最終温度 $\approx 17.9\,\text{°C}$(すべて水の状態)
方針:まず氷がすべて融けるか判定する。
氷を全て融かすのに必要な熱:$Q_{\text{融解}} = 200 \times 334 = 66800\,\text{J}$
温水が $0\,\text{°C}$ まで下がったとき放出する熱:$Q_{\text{温水}} = 300 \times 4.2 \times 80 = 100800\,\text{J}$
$Q_{\text{温水}} > Q_{\text{融解}}$ なので、氷はすべて融ける。最終温度を $t\,\text{°C}$ とする。
熱量の保存:$200 \times 334 + 200 \times 4.2 \times t = 300 \times 4.2 \times (80 - t)$
$66800 + 840t = 100800 - 1260t$
$2100t = 34000$
$t \approx 16.2\,\text{°C}$