「熱は物質に固有の流体(カロリック)である」──かつてはそう信じられていました。
しかし19世紀、ジュールの精密な実験が「熱と仕事は同じエネルギーの異なる姿である」ことを証明しました。
$1\,\text{cal} = 4.19\,\text{J}$──この数値の背後にある物理の転換点を見ていきましょう。
日常では「熱い」「冷たい」という感覚で熱をとらえますが、物理学では熱とはエネルギーの移動の一形態です。 高温の物体から低温の物体へ移動するエネルギーを「熱」と呼びます。
18世紀まで、熱は「カロリック」と呼ばれる目に見えない流体だと考えられていました。 しかし、ランフォード伯が大砲の穴あけ作業で摩擦により無限に熱が発生することを発見し、カロリック説は疑問視されるようになりました。
最終的に、ジュームズ・プレスコット・ジュール(1818-1889)が定量的な実験で仕事と熱の間の正確な換算関係を確立し、熱がエネルギーの一形態であることを証明しました。
熱も仕事もエネルギーの移動方法です。仕事は巨視的な力と変位による移動、熱は分子レベルの微視的な運動の伝達によるエネルギー移動です。
重要なのは、一定量の仕事から必ず一定量の熱が発生すること。この換算比が一定であることが「熱=エネルギー」の証拠です。
ジュールは、力学的な仕事によって水の温度がどれだけ上昇するかを精密に測定しました。
おもりの質量 $M = 10\,\text{kg}$ を高さ $h = 2.0\,\text{m}$ から落下させる。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とすると、
仕事:$W = Mgh = 10 \times 9.8 \times 2.0 = 196\,\text{J}$
この仕事がすべて水の温度上昇に使われたとすると、水 $1.0\,\text{kg}$ の温度上昇は、
$$\Delta T = \frac{W}{mc} = \frac{196}{1000 \times 4.19} \approx 0.047\,\text{°C}$$
実際の実験では、何度もおもりを巻き上げて落下させ、温度上昇を蓄積させました。
ジュールの実験では、おもりの力学的エネルギーがすべて水の内部エネルギー(熱)に変わると仮定しています。
✕ 誤:実際には装置の摩擦や放熱で100%変換されると思い込む
○ 正:ジュールは断熱容器を使い、摩擦の影響を最小限にし、精密な測定を行った
実験精度の向上が熱の仕事当量の正確な決定につながりました。
ジュールは新婚旅行中にも滝の水温を測定し、落差による温度上昇を調べようとした逸話があります。水が高所から低所へ落下するとき、位置エネルギーが水の内部エネルギーに変わり温度がわずかに上がることを確認しようとしたのです。
実際、高さ $h$ から落下した水の温度上昇は $\Delta T = \dfrac{gh}{c} \approx \dfrac{9.8 \times h}{4190}$ °C で、100 m の滝でもわずか $0.23\,\text{°C}$ にすぎません。
ジュールの実験から得られた、熱と仕事の換算係数を熱の仕事当量と呼びます。
$$1\,\text{cal} = 4.19\,\text{J} \approx 4.2\,\text{J}$$
熱の仕事当量 $J = 4.19\,\text{J/cal}$ を使うと、カロリーとジュールの間を自由に変換できます。
この換算式は「水 $1\,\text{g}$ を $1\,\text{°C}$ 温めるのに必要な仕事は $4.19\,\text{J}$」であることを意味します。
逆に言えば、$4.19\,\text{J}$ の仕事を摩擦で熱に変換すると、水 $1\,\text{g}$ の温度を $1\,\text{°C}$ 上げることができます。熱も仕事も同じ「エネルギー」という通貨で測れるのです。
食品で使われる「カロリー」は実は $\text{kcal}$(キロカロリー)です。
✕ 誤:食品の $500\,\text{Cal}$ を $500 \times 4.19\,\text{J}$ と計算する
○ 正:$500\,\text{Cal} = 500\,\text{kcal} = 500 \times 10^3 \times 4.19 = 2.10 \times 10^6\,\text{J}$
物理の問題では $\text{cal}$(小文字)を使うことが多いので注意しましょう。
熱と仕事が等価であるという認識から、熱力学第一法則が導かれます。 これはエネルギー保存則の熱力学版です。
$$\Delta U = Q + W$$
内部エネルギーとは、物体を構成する分子の運動エネルギーと分子間の位置エネルギーの総和です。 温度が高いほど分子の運動が激しく、内部エネルギーは大きくなります。
例1:断熱圧縮($Q = 0$)
気体を断熱的に圧縮する(外部が仕事をする)と $W > 0$ なので $\Delta U > 0$、温度が上がります。自転車の空気入れが熱くなるのはこの原理です。
例2:自由膨張($W = 0$)
真空中に気体が広がるとき、外部に対して仕事をしない。熱の出入りもなければ $\Delta U = 0$ で温度は変わりません。
物理の教科書では $\Delta U = Q + W$($W$ は「された仕事」)、化学の教科書では $\Delta U = Q - W$($W$ は「した仕事」)とする流派があります。
どちらも正しいですが、自分が使っている教科書の約束を確認してから問題を解きましょう。入試では問題文に符号の定義が明記されることが多いです。
熱と仕事の等価性は、エネルギー保存則という物理学の最も基本的な法則の一部です。
Q1. $1\,\text{cal}$ は何 J ですか。
Q2. ジュールの実験の装置と原理を簡潔に説明してください。
Q3. 熱力学第一法則を式で書き、各記号の意味を答えてください。
Q4. $500\,\text{cal}$ の熱量は何 J ですか。
熱と仕事の等価性を入試形式で確認しましょう。
質量 $5.0\,\text{kg}$ のおもりを高さ $3.0\,\text{m}$ から落下させて断熱容器中の羽根車を回した。発生する熱量は何 cal か。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$、$1\,\text{cal} = 4.2\,\text{J}$ とする。
$Q = 35\,\text{cal}$
おもりがする仕事:$W = mgh = 5.0 \times 9.8 \times 3.0 = 147\,\text{J}$
発生する熱量:$Q = \dfrac{W}{J} = \dfrac{147}{4.2} = 35\,\text{cal}$
断熱容器に水 $200\,\text{g}$ が入っている。質量 $10\,\text{kg}$ のおもりを高さ $5.0\,\text{m}$ から $10$ 回落下させて羽根車を回した。水の温度は何 °C 上昇するか。水の比熱を $4.2\,\text{J/(g·°C)}$、$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とし、発生した熱はすべて水の温度上昇に使われるものとする。
$\Delta T \approx 0.58\,\text{°C}$
1回あたりの仕事:$W_1 = Mgh = 10 \times 9.8 \times 5.0 = 490\,\text{J}$
10回の合計:$W = 490 \times 10 = 4900\,\text{J}$
水の温度上昇:$\Delta T = \dfrac{W}{mc} = \dfrac{4900}{200 \times 4.2} = \dfrac{4900}{840} \approx 5.83\,\text{°C}$
(修正)$\Delta T \approx 5.8\,\text{°C}$
高さ $50\,\text{m}$ の滝から水が落下する。滝つぼの水の温度は、滝の上端の水温より何 °C 高いか。落下の際に失われた位置エネルギーがすべて水の内部エネルギーに変わるものとする。水の比熱を $4.2\,\text{J/(g·°C)}$、$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。
$\Delta T \approx 0.12\,\text{°C}$
水の質量を $m$ とすると、失われた位置エネルギー $= mgh$
これがすべて温度上昇に使われるとき:$mgh = mc\Delta T$
$m$ が消去できて:$\Delta T = \dfrac{gh}{c} = \dfrac{9.8 \times 50}{4200} \approx 0.117\,\text{°C}$
水の質量に依存しないことがポイント。実際にはすべてが温度上昇に使われるわけではないので、これは上限値となる。