電気を光に、光を電気に、運動を熱に──私たちの暮らしはエネルギー変換の連鎖で成り立っています。
しかし「熱→仕事」の変換には根本的な制約があります。なぜ、熱を100%仕事に変えられないのか?
熱効率と不可逆変化という熱力学の核心に迫ります。
エネルギーには、力学的エネルギー(運動・位置)、熱エネルギー、電気エネルギー、光エネルギー、化学エネルギー、核エネルギーなど、さまざまな形態があります。 これらは互いに変換することができます。
| 変換の例 | 元のエネルギー | 変換後 |
|---|---|---|
| 発電機 | 運動エネルギー | 電気エネルギー |
| 電熱器 | 電気エネルギー | 熱エネルギー |
| 太陽電池 | 光エネルギー | 電気エネルギー |
| エンジン | 化学エネルギー | 運動エネルギー+熱 |
| 光合成 | 光エネルギー | 化学エネルギー |
| 摩擦 | 運動エネルギー | 熱エネルギー |
すべてのエネルギー変換に共通する大原則がエネルギー保存則です。
エネルギーは新たに生まれることも、消滅することもありません。ある形態のエネルギーが減少すれば、必ず別の形態のエネルギーが同じ量だけ増加します。
エネルギー保存則(エネルギー保存の法則)は、物理学の最も基本的な法則のひとつです。
孤立した系において、エネルギーの総量は一定に保たれる。
$$E_{\text{total}} = E_1 + E_2 + E_3 + \cdots = \text{一定}$$
力学で学んだ「力学的エネルギー保存則」は、摩擦や空気抵抗がないという条件つきでした。 摩擦がある場合、力学的エネルギーの一部は熱エネルギーに変換されますが、全エネルギーの合計は保存されています。
高さ $h$ から質量 $m$ の物体を滑り落とし、水平面で摩擦により停止した場合:
$$mgh = \frac{1}{2}mv^2_{\text{途中}} + \text{(摩擦による熱)}$$
最終的にすべて停止すると:$mgh = Q_{\text{摩擦}}$
位置エネルギーが消えたのではなく、熱エネルギーに変換されたのです。
日常的には「エネルギーの損失」「エネルギーのロス」と言いますが、物理的にはエネルギーは消えていません。
✕ 誤:摩擦でエネルギーが失われた(消滅した)
○ 正:摩擦で力学的エネルギーが熱エネルギーに変換された(散逸した)
「ロス」とは、利用しにくい形態(主に熱)に変換されたことを意味します。
エネルギー変換には「行きやすい方向」があります。運動エネルギーや電気エネルギーを熱に変えることは簡単ですが、熱をすべて仕事に変えることはできません。
不可逆変化の代表例:
エネルギーの量は保存されますが、質(使いやすさ)は一方向に低下します。
力学的エネルギーや電気エネルギーは「質が高い」(100%仕事に使える)のに対し、熱エネルギーは「質が低い」(一部しか仕事に変換できない)のです。 これが熱力学第二法則の本質であり、自然には「エネルギーの質が低下する方向」に進みます。
「エネルギーの質の低下」を定量的に表す量がエントロピーです。高校物理では定量的に扱いませんが、「自然は常にエントロピーが増大する方向に進む(熱力学第二法則)」という考え方は、効率の限界を理解するための重要な基盤です。
熱機関(蒸気機関、ガソリンエンジン、火力発電所など)は、高温の熱源から熱を受け取り、その一部を仕事に変換します。 このとき、仕事に変換される割合を熱効率と呼びます。
$$\eta = \frac{W}{Q_1} = \frac{Q_1 - Q_2}{Q_1} = 1 - \frac{Q_2}{Q_1}$$
| 熱機関 | おおよその熱効率 |
|---|---|
| 蒸気機関(初期型) | 約 $5\%$ |
| ガソリンエンジン | 約 $25\text{-}35\%$ |
| ディーゼルエンジン | 約 $35\text{-}45\%$ |
| 火力発電所 | 約 $40\text{-}60\%$ |
$Q_2 = 0$(低温熱源に全く熱を捨てない)にすることは、熱力学第二法則により不可能です。
✕ 誤:技術が発展すれば熱効率100%の機関が実現できる
○ 正:$\eta < 1$ は原理的な制約であり、技術進歩で超えることはできない
カルノーの定理により、理想的な熱機関でも $\eta_{\text{max}} = 1 - \dfrac{T_2}{T_1}$($T$ は絶対温度)が上限です。
ある熱機関が高温熱源から $Q_1 = 1000\,\text{J}$ を吸収し、低温熱源に $Q_2 = 600\,\text{J}$ を放出した。
外部にした仕事:$W = Q_1 - Q_2 = 1000 - 600 = 400\,\text{J}$
熱効率:$\eta = \dfrac{W}{Q_1} = \dfrac{400}{1000} = 0.40 = 40\%$
$$\eta_{\text{max}} = 1 - \frac{T_2}{T_1}$$
熱機関は「温度差」を利用して仕事をします。水車が高所から低所への水の流れを利用するように、熱機関は高温から低温への熱の流れを利用します。低温熱源がなければ「流れ」が生まれず、仕事を取り出せないのです。
地球上の多くの熱機関では、大気や河川の水(約 $300\,\text{K}$)が低温熱源の役割を果たしています。
エネルギーの変換と保存は、物理学を貫く大原則であり、「熱とエネルギー」の章の総まとめです。
Q1. エネルギー保存則を簡潔に説明してください。
Q2. 不可逆変化の例を2つ挙げてください。
Q3. 熱効率の公式を書き、各記号の意味を答えてください。
Q4. 熱効率が100%にならない理由を簡潔に述べてください。
エネルギーの変換と保存を入試形式で確認しましょう。
ある熱機関が高温熱源から $800\,\text{J}$ の熱を吸収し、$500\,\text{J}$ を低温熱源に放出した。この熱機関の熱効率を求めよ。
$\eta = 37.5\%$
外部にした仕事:$W = Q_1 - Q_2 = 800 - 500 = 300\,\text{J}$
熱効率:$\eta = \dfrac{W}{Q_1} = \dfrac{300}{800} = 0.375 = 37.5\%$
高温熱源の温度が $627\,\text{°C}$、低温熱源の温度が $27\,\text{°C}$ のとき、理想的な熱機関(カルノー機関)の熱効率の上限を求めよ。
$\eta_{\text{max}} \approx 66.7\%$
まず絶対温度に換算する。
$T_1 = 627 + 273 = 900\,\text{K}$、$T_2 = 27 + 273 = 300\,\text{K}$
$\eta_{\text{max}} = 1 - \dfrac{T_2}{T_1} = 1 - \dfrac{300}{900} = 1 - \dfrac{1}{3} = \dfrac{2}{3} \approx 66.7\%$
ある火力発電所は、1秒あたり $5.0 \times 10^8\,\text{J}$ の熱を燃料から得て、$2.0 \times 10^8\,\text{J}$ の電気エネルギーを出力している。
(1) この発電所の熱効率を求めよ。
(2) 1秒あたり低温熱源(冷却水)に放出される熱量を求めよ。
(3) 冷却水が $5.0\,\text{°C}$ 温度上昇するとして、1秒あたりに必要な冷却水の質量を求めよ。水の比熱を $4.2\,\text{J/(g·°C)}$ とする。
(1) $\eta = 40\%$
(2) $Q_2 = 3.0 \times 10^8\,\text{J}$
(3) $m \approx 1.4 \times 10^7\,\text{g} = 14\,\text{t(トン)}$
(1) $\eta = \dfrac{W}{Q_1} = \dfrac{2.0 \times 10^8}{5.0 \times 10^8} = 0.40 = 40\%$
(2) $Q_2 = Q_1 - W = 5.0 \times 10^8 - 2.0 \times 10^8 = 3.0 \times 10^8\,\text{J}$
(3) $Q_2 = mc\Delta T$ より $m = \dfrac{Q_2}{c\Delta T} = \dfrac{3.0 \times 10^8}{4.2 \times 5.0} = \dfrac{3.0 \times 10^8}{21} \approx 1.4 \times 10^7\,\text{g}$
毎秒14トンもの冷却水が必要であり、火力発電所が大量の冷却水を使う理由がわかります。