注射器のピストンを押すと、中の空気はぎゅっと縮みます。
力を強めるほど体積は小さくなり、逆に力を緩めると元に戻ります。
温度を変えずに圧力と体積を変えるとき、両者には美しい反比例の関係が成り立ちます。
この関係こそが、17世紀にロバート・ボイルが発見した法則です。
密閉した容器に気体を閉じ込め、温度を一定に保つとしましょう。 このとき、気体の圧力と体積はどのような関係にあるでしょうか。
気体の分子は容器の壁に衝突し、その衝撃が圧力として観測されます。 体積を小さくすると、分子の密度が上がり、壁への衝突回数が増えます。 その結果、圧力は大きくなります。
逆に、体積を大きくすると分子の密度が下がります。 壁への衝突頻度が減り、圧力は小さくなります。 つまり、温度が一定なら圧力と体積は逆向きに変化するのです。
圧力の SI 単位はパスカル(Pa)です。 $1\,\text{Pa} = 1\,\text{N/m}^2$ と定義されます。 大気圧は約 $1.013 \times 10^5\,\text{Pa}$ であり、これを $1\,\text{atm}$ とも書きます。
気体の法則では、圧力の単位をそろえることが大前提です。
✕ 誤:$p_1 = 2\,\text{atm}$、$p_2 = 1.5 \times 10^5\,\text{Pa}$ のまま計算する
○ 正:どちらかの単位に統一してから計算する
ボイルの法則では比を扱うため、単位が同じなら換算不要です。 ただし、混在すると確実に間違えます。
1662年、イギリスの科学者ロバート・ボイルは実験によって次の法則を発見しました。 温度を一定に保ったとき、気体の圧力と体積は反比例するという法則です。
温度一定のとき、一定量の気体について、
$$pV = \text{一定}$$
すなわち、状態1と状態2の関係として、
$$p_1 V_1 = p_2 V_2$$
「圧力を2倍にすると体積は半分になる」という直感的な理解で十分です。 圧力と体積の積が常に一定値を保つことがポイントです。
ボイルの法則 $pV = \text{一定}$ は、反比例の関係を表しています。 圧力 $p$ を横軸、体積 $V$ を縦軸に取ると、グラフは双曲線になります。
分子レベルでは、体積を半分にすると分子密度が2倍になります。 壁への衝突頻度も2倍になるため、圧力が2倍になるのです。
気体分子の運動を考えます。
温度一定なら、分子1個あたりの運動エネルギーは変わりません。 つまり分子の速さは変化しません。
体積を $V$ から $\dfrac{V}{2}$ にすると、分子の数密度は2倍になります。
壁への単位時間あたりの衝突回数が2倍になるので、圧力は2倍です。
$$p \propto \frac{1}{V} \quad \Longrightarrow \quad pV = \text{一定}$$
ボイルの法則は温度が変わらない過程でのみ成り立ちます。 このような過程を等温過程(等温変化)と呼びます。
温度が変われば分子の速さが変わり、$pV$ の値も変化します。 問題文に「温度一定」の条件があるか、必ず確認してください。
ボイルの法則は一定量の気体に対して成り立ちます。
✕ 誤:ふたが開いた容器で「体積が変わったから圧力も変わる」
○ 正:ふたが開いていれば気体は出入りし、物質量が変わるため適用不可
気体の量が変わらない条件を確認することが重要です。
ボイルの法則をグラフで表現する方法は2通りあります。 どちらも入試で頻出なので、しっかり押さえておきましょう。
横軸に体積 $V$、縦軸に圧力 $p$ を取ります。 $pV = \text{一定}$ は反比例ですから、グラフは双曲線(直角双曲線)になります。
温度が高いほど $pV$ の値が大きくなり、双曲線は原点から遠い位置に描かれます。 温度が異なる複数の等温線を重ねて描くこともあります。
横軸に圧力 $p$、縦軸に $pV$ を取ると、ボイルの法則に従う気体では水平な直線になります。 $pV = \text{一定}$ ですから、$p$ を変えても $pV$ は変化しないためです。
実在気体ではこの直線からずれが生じます。 高圧・低温になるほどずれが大きくなり、理想気体との違いが顕著になります。
入試では「このグラフはどの法則を示しているか」と問われることがあります。 p-V図で双曲線ならボイルの法則、pV-p図で水平線もボイルの法則です。
グラフの軸と形状から法則を読み取る練習をしておきましょう。
反比例のグラフは曲線であり、直線ではありません。
✕ 誤:p-V図で右下がりの直線を描く
○ 正:p-V図では原点に近づくが交わらない双曲線を描く
$p \to 0$ のとき $V \to \infty$、$V \to 0$ のとき $p \to \infty$ です。 グラフは軸に漸近しますが、軸とは交わりません。
実在気体はボイルの法則から少しずれます。 これは、分子自身に体積があることと、分子間力が働くことが原因です。
オランダの物理学者ファンデルワールスは、これらの効果を補正した式を提案しました。 高校の範囲では「理想気体」として扱い、ずれは無視します。
ボイルの法則を使う問題では、$p_1 V_1 = p_2 V_2$ に値を代入するだけです。 しかし、条件の読み取りや単位の扱いで差がつきます。 典型的なパターンを整理しましょう。
温度一定で体積を $V_1 = 6.0\,\text{L}$ から $V_2 = 2.0\,\text{L}$ に圧縮したとき、 初めの圧力が $p_1 = 1.0 \times 10^5\,\text{Pa}$ なら、最終圧力 $p_2$ はいくらでしょうか。
$p_1 V_1 = p_2 V_2$ より、 $1.0 \times 10^5 \times 6.0 = p_2 \times 2.0$ です。 $p_2 = 3.0 \times 10^5\,\text{Pa}$ と求まります。 体積が3分の1になったので、圧力は3倍です。
温度一定で圧力を $p_1 = 2.0\,\text{atm}$ から $p_2 = 0.50\,\text{atm}$ に下げたとき、 初めの体積が $V_1 = 3.0\,\text{L}$ なら、最終体積 $V_2$ はいくらでしょうか。
$p_1 V_1 = p_2 V_2$ より、 $2.0 \times 3.0 = 0.50 \times V_2$ です。 $V_2 = 12\,\text{L}$ と求まります。 圧力が4分の1になったので、体積は4倍です。
なめらかに動くピストンで気体を密閉した容器は、入試の定番です。 ピストンが釣り合っている条件から、気体の圧力を求めます。
ピストンの上に重りを載せると、気体にかかる圧力は大気圧に重りの圧力を加えた値です。 重りを取り除くと圧力は大気圧のみとなり、気体は膨張します。
水平でないピストンには、ピストン自身の重力が圧力に影響します。
✕ 誤:鉛直に置いた容器で気体の圧力を大気圧だけとする
○ 正:ピストンの質量 $m$、断面積 $S$ のとき、 気体の圧力 $= p_0 + \dfrac{mg}{S}$(ピストンが上にある場合)
ピストンが下向きなら $p = p_0 - \dfrac{mg}{S}$ になります。 鉛直・水平のどちらかを問題文から読み取りましょう。
ボイルはJ字管を使って実験しました。 管の閉じた側に気体を封入し、開いた側から水銀を注ぎます。
水銀の高さの差から気体の圧力を、閉じた側の管の長さから体積を読み取ります。 この実験は高校物理の実験問題としても出題されることがあります。
ボイルの法則は気体の法則の出発点です。 ここで学んだ「温度一定」の条件と反比例の関係が、今後の学習の基盤になります。
Q1. ボイルの法則が成り立つ条件を2つ答えてください。
Q2. 温度一定で、圧力を $1.0 \times 10^5\,\text{Pa}$ から $4.0 \times 10^5\,\text{Pa}$ に変えたとき、体積は何倍になりますか。
Q3. p-V図でボイルの法則を表すグラフの形状を答えてください。
Q4. 体積 $5.0\,\text{L}$、圧力 $2.0 \times 10^5\,\text{Pa}$ の気体を温度一定で $10\,\text{L}$ に膨張させたときの圧力を求めてください。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
温度一定で、体積 $8.0\,\text{L}$、圧力 $1.0 \times 10^5\,\text{Pa}$ の気体がある。この気体を体積 $2.0\,\text{L}$ に圧縮したときの圧力を求めよ。
$4.0 \times 10^5\,\text{Pa}$
方針:温度一定なのでボイルの法則 $p_1 V_1 = p_2 V_2$ を適用する。
$1.0 \times 10^5 \times 8.0 = p_2 \times 2.0$
$p_2 = \dfrac{1.0 \times 10^5 \times 8.0}{2.0} = 4.0 \times 10^5\,\text{Pa}$
体積が $\frac{1}{4}$ になったので圧力は $4$ 倍。反比例の関係を確認できる。
断面積 $S = 20\,\text{cm}^2$ のなめらかに動くピストンで気体を密閉したシリンダーが鉛直に置かれている。ピストンの質量は $m = 2.0\,\text{kg}$、大気圧は $p_0 = 1.0 \times 10^5\,\text{Pa}$、重力加速度は $g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。はじめ気体の体積は $V_1 = 400\,\text{cm}^3$ であった。ピストンの上に質量 $M = 3.0\,\text{kg}$ の重りを静かに載せたところ、温度一定でピストンが下がって気体が圧縮された。
(1) 重りを載せる前の気体の圧力を求めよ。
(2) 重りを載せた後の気体の圧力を求めよ。
(3) 重りを載せた後の気体の体積を求めよ。
(1) $1.098 \times 10^5\,\text{Pa} \approx 1.1 \times 10^5\,\text{Pa}$
(2) $1.245 \times 10^5\,\text{Pa} \approx 1.2 \times 10^5\,\text{Pa}$
(3) $353\,\text{cm}^3 \approx 350\,\text{cm}^3$
方針:ピストンの力のつり合いから圧力を求め、ボイルの法則で体積を計算する。
断面積 $S = 20\,\text{cm}^2 = 20 \times 10^{-4}\,\text{m}^2$
(1) ピストンにはたらく力のつり合いより、
$$p_1 = p_0 + \frac{mg}{S} = 1.0 \times 10^5 + \frac{2.0 \times 9.8}{20 \times 10^{-4}} = 1.0 \times 10^5 + 9800 = 1.098 \times 10^5\,\text{Pa}$$
(2) 重りを載せた後、
$$p_2 = p_0 + \frac{(m + M)g}{S} = 1.0 \times 10^5 + \frac{5.0 \times 9.8}{20 \times 10^{-4}} = 1.0 \times 10^5 + 24500 = 1.245 \times 10^5\,\text{Pa}$$
(3) ボイルの法則 $p_1 V_1 = p_2 V_2$ より、
$$V_2 = \frac{p_1 V_1}{p_2} = \frac{1.098 \times 10^5 \times 400}{1.245 \times 10^5} \approx 353\,\text{cm}^3$$
体積 $V_A = 3.0\,\text{L}$ の容器Aに $2.0 \times 10^5\,\text{Pa}$ の気体、体積 $V_B = 2.0\,\text{L}$ の容器Bに $1.0 \times 10^5\,\text{Pa}$ の気体がそれぞれ密閉されている。両容器を細い管でつないでコックを開き、温度一定で気体を混合した。混合後の圧力を求めよ。ただし、管の体積は無視する。
$1.6 \times 10^5\,\text{Pa}$
方針:各容器の気体にボイルの法則を適用する。混合後の全体積は $V_A + V_B$ で、各気体の $pV$ の合計が保存される。
容器Aの気体:$p_A V_A = 2.0 \times 10^5 \times 3.0 = 6.0 \times 10^5\,\text{L·Pa}$
容器Bの気体:$p_B V_B = 1.0 \times 10^5 \times 2.0 = 2.0 \times 10^5\,\text{L·Pa}$
混合後の全体積:$V = V_A + V_B = 5.0\,\text{L}$
混合後の圧力 $p$ は、各気体の $pV$ の合計を全体積で割って、
$$p = \frac{p_A V_A + p_B V_B}{V_A + V_B} = \frac{6.0 \times 10^5 + 2.0 \times 10^5}{5.0} = \frac{8.0 \times 10^5}{5.0} = 1.6 \times 10^5\,\text{Pa}$$