第17章 波の伝わり方

ドップラー効果
─ 観測者が動く場合

前の記事では音源が動く場合を学びました。今度は音源は静止し、観測者が動く場合を考えます。
メカニズムは全く異なりますが、結果として観測振動数が変化するという点は同じです。2つのケースの違いを明確に理解することがドップラー効果を得点源にする鍵です。

1観測者が動くメカニズム

音源が静止している場合、媒質中の波長 $\lambda = V/f$ は変化しません。波面は等間隔で広がっています。

観測者が波に向かって動くと、観測者は静止しているときよりも速く波面に出会うことになります。 つまり、観測者にとっての波の相対速度が変わるのです。

💡 ここが本質:観測者の移動は「相対速度を変える」

音源が動く場合は波長が変わりました。観測者が動く場合は波長は変わらず、観測者が波面を受け取る速さ(相対速度)が変わるのです。

観測者が音源に向かって進むと、波面に「迎えに行く」ので出会う頻度が上がり、振動数が高くなります。

2観測者が音源に近づく場合

音源は静止して振動数 $f$、音速 $V$ の音を出しています。観測者が速さ $v_o$ で音源に近づく場合を考えます。

▷ 観測者が近づくときの振動数の導出

音源が静止しているので、媒質中の波長は $\lambda = V/f$ で一定です。

観測者が速さ $v_o$ で音源に向かって動くと、観測者から見た音波の相対速度

$$V_{\text{rel}} = V + v_o$$

(波は観測者に向かって速さ $V$ で進み、観測者も速さ $v_o$ で波に向かって進むため)

波長は変わらないので、観測される振動数は

$$f' = \frac{V_{\text{rel}}}{\lambda} = \frac{V + v_o}{V/f} = f \cdot \frac{V + v_o}{V}$$

📐 観測者が音源に近づく場合

$$f' = f \cdot \frac{V + v_o}{V}$$

$V + v_o > V$ なので $f' > f$(振動数が高くなる)

※ $v_o$:観測者の速さ、$V$:音速、$f$:音源の振動数。波長 $\lambda = V/f$ は変化しない。

3観測者が音源から遠ざかる場合

観測者が速さ $v_o$ で音源から遠ざかる場合、観測者は波から「逃げる」ので、波面に出会う頻度が下がります。

📐 観測者が音源から遠ざかる場合

$$f' = f \cdot \frac{V - v_o}{V}$$

$V - v_o < V$ なので $f' < f$(振動数が低くなる)

※ 観測者が波から逃げるので、相対速度は $V - v_o$ に減少する。$v_o < V$(観測者は音速未満)を前提とする。
⚠️ 落とし穴:音源移動の式と観測者移動の式を混同する

音源移動と観測者移動では、$v_s$ や $v_o$ が式の分母と分子の違う位置に入ります。

✕ 誤:音源移動 $f' = f(V + v_s)/V$

○ 正:音源移動 $f' = fV/(V \mp v_s)$(分母に $v_s$)、観測者移動 $f' = f(V \pm v_o)/V$(分子に $v_o$)

覚え方:音源は分母、観測者は分子

4音源移動と観測者移動の違い

音源が動く場合と観測者が動く場合、同じ速さであっても観測振動数は一般に異なります。これはガリレイの相対性が音波では成り立たないことを意味します。

音源が動く場合観測者が動く場合
何が変わるか媒質中の波長観測者にとっての相対速度
波長変化する変化しない
音速変化しない見かけ上変化(相対速度)
公式$f' = fV/(V - v_s)$$f' = f(V + v_o)/V$
$v$ の位置分母分子
💡 ここが本質:媒質があるから区別される

音波には媒質(空気)が存在します。音源の運動は媒質中の波長を物理的に変えますが、観測者の運動は波長を変えません。

これに対し、光(電磁波)には媒質がないため、音源と観測者の区別は本質的に存在しません。光のドップラー効果は相対論的に扱う必要があります。

🔬 深掘り:$v \ll V$ の近似

$v_s$ や $v_o$ が音速 $V$ に比べて十分小さい場合、両者の公式はほぼ同じ値を与えます。

音源移動:$f' \approx f(1 + v_s/V)$($v_s \ll V$ での1次近似)

観測者移動:$f' = f(1 + v_o/V)$

$v_s = v_o$ なら1次近似で同じ。差が現れるのは2次以降の項で、$v/V$ が大きいときに顕著になります。

5この章を俯瞰する

観測者移動のドップラー効果は、次の記事で学ぶ統一公式の「分子側」を担当します。

つながりマップ

  • ← W-3-7 音源が動く場合:音源移動は分母(波長変化)、観測者移動は分子(相対速度変化)。メカニズムが異なる。
  • → W-3-9 両方が動く場合:両方を組み合わせた統一公式 $f' = f(V + v_o)/(V - v_s)$ が完成する。
  • → W-3-10 壁での反射:壁が「動く観測者→動く音源」として働く。

📋まとめ

  • 観測者が近づく:$f' = f \cdot \dfrac{V + v_o}{V}$($f' > f$)
  • 観測者が遠ざかる:$f' = f \cdot \dfrac{V - v_o}{V}$($f' < f$)
  • 観測者移動の本質:波長は変わらず、相対速度が変わる
  • 音源移動は分母に $v_s$、観測者移動は分子に $v_o$
  • 音波は媒質があるため、音源移動と観測者移動は物理的に異なる現象

確認テスト

Q1. 観測者が音源に近づくとき、観測振動数の公式を書いてください。

▶ クリックして解答を表示$f' = f(V + v_o)/V$。観測者が波面に「迎えに行く」ため、相対速度が $V + v_o$ になる。

Q2. 観測者が動く場合、媒質中の波長は変化しますか。

▶ クリックして解答を表示変化しない。音源が静止しているので波長 $\lambda = V/f$ は一定。変化するのは観測者にとっての波の相対速度。

Q3. 音源移動と観測者移動で、速さ $v$ が式のどこに入るか述べてください。

▶ クリックして解答を表示音源の速さ $v_s$ は分母に入る($V - v_s$)。観測者の速さ $v_o$ は分子に入る($V + v_o$)。

Q4. 音源移動と観測者移動で同じ速さのとき、観測振動数は同じになりますか。

▶ クリックして解答を表示一般には異なる。$fV/(V-v)$ と $f(V+v)/V$ は $v \neq 0$ のとき等しくない。$v \ll V$ の近似では1次の項まで一致するが、厳密には異なる。

8入試問題演習

観測者が動く場合のドップラー効果を入試形式で確認しましょう。

A 基礎レベル

3-8-1 A 基礎 観測者接近計算

静止した音源が振動数 $f = 440\,\text{Hz}$ の音を出している。観測者が速さ $v_o = 17\,\text{m/s}$ で音源に近づくとき、観測者が聞く振動数を求めよ。音速を $V = 340\,\text{m/s}$ とする。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$f' = 462\,\text{Hz}$

解説

$$f' = f \cdot \frac{V + v_o}{V} = 440 \times \frac{340 + 17}{340} = 440 \times \frac{357}{340} = 462\,\text{Hz}$$

3-8-2 A 基礎 観測者後退計算

上の条件で、観測者が同じ速さ $v_o = 17\,\text{m/s}$ で音源から遠ざかる場合の振動数を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$f' = 418\,\text{Hz}$

解説

$$f' = f \cdot \frac{V - v_o}{V} = 440 \times \frac{340 - 17}{340} = 440 \times \frac{323}{340} = 418\,\text{Hz}$$

B 発展レベル

3-8-3 B 発展 比較論述

音速 $V = 340\,\text{m/s}$、振動数 $f = 1000\,\text{Hz}$ のとき、次の2つの場合の観測振動数をそれぞれ求めよ。

(1) 音源が速さ $34\,\text{m/s}$ で静止した観測者に近づく場合

(2) 観測者が速さ $34\,\text{m/s}$ で静止した音源に近づく場合

(3) 両者の振動数が異なる理由を説明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $f_1 \approx 1111\,\text{Hz}$

(2) $f_2 = 1100\,\text{Hz}$

(3) 解説参照

解説

(1) $f_1 = 1000 \times \dfrac{340}{340 - 34} = 1000 \times \dfrac{340}{306} \approx 1111\,\text{Hz}$

(2) $f_2 = 1000 \times \dfrac{340 + 34}{340} = 1000 \times \dfrac{374}{340} = 1100\,\text{Hz}$

(3) 音源移動では波長が物理的に変化するため $f' = fV/(V-v_s)$、観測者移動では相対速度が変化するため $f' = f(V+v_o)/V$。式の構造が異なるため、同じ速さでも結果が異なる。これは音波に媒質(空気)が存在し、音源と観測者で「誰が動いているか」を媒質が区別できるためである。

採点ポイント
  • 各公式を正しく適用する(各2点)
  • 媒質の存在により区別されることを説明する(3点)

C 応用レベル

3-8-4 C 応用 観測者の速さ逆問題

静止した音源が振動数 $f = 680\,\text{Hz}$ の音を出している。観測者が音源に向かって走ると、音の振動数が $f' = 700\,\text{Hz}$ に聞こえた。音速を $V = 340\,\text{m/s}$ として、観測者の速さ $v_o$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$v_o = 10\,\text{m/s}$

解説

$f' = f \cdot \dfrac{V + v_o}{V}$ より

$700 = 680 \times \dfrac{340 + v_o}{340}$

$\dfrac{700}{680} = \dfrac{340 + v_o}{340}$

$\dfrac{35}{34} = \dfrac{340 + v_o}{340}$

$340 + v_o = 340 \times \dfrac{35}{34} = 350$

$v_o = 10\,\text{m/s}$

採点ポイント
  • 正しい公式を選択する(2点)
  • $v_o$ について解く(3点)
  • 正しい答え(2点)