湖面に映る山の姿、鏡に映る自分の顔。私たちが「ものが見える」のは、光が物体の表面で反射して目に届くからです。
反射という現象には、驚くほどシンプルで美しい法則が潜んでいます。
この記事では、光の反射の法則を理解し、鏡による像のでき方まで掘り下げます。
光は均一な媒質中では直進します。太陽光が窓から差し込んでまっすぐ床を照らす様子は、誰もが経験的に知っていることでしょう。光がまっすぐ進む性質を利用して、影絵遊びやピンホールカメラが成り立ちます。
ところが、光が異なる物質の境界面に達すると、その一部は反射して元の媒質に戻り、残りは境界を透過して進みます。鏡に光を当てると、ほぼすべての光が反射します。ガラス窓では、光の大部分が透過しますが、夜になると窓ガラスに自分の姿が映ることからわかるように、一部は反射しています。
反射の現象を理解するために、光を光線(ray)として扱います。光線とは、光の進む方向を示す直線のことです。波としての光を考える前に、まず光線モデルを使って反射の幾何学を整理しましょう。
入射角・反射角は、境界面ではなく法線から測ります。面に対して浅い角度で光が入射する場合、入射角は大きくなります。
✕ 誤:入射角を境界面と入射光線の間の角度として測る
○ 正:入射角は法線と入射光線のなす角。面とのなす角が $20°$ なら入射角は $70°$
反射の法則は、古代ギリシャのエウクレイデス(ユークリッド)の時代から知られている、物理学で最も古い法則のひとつです。その内容は、きわめてシンプルです。
第1法則:入射光線、反射光線、法線は同一平面上にある
第2法則:入射角と反射角は等しい
$$\theta_i = \theta_r$$
この法則は、どんな角度で光が入射しても、どんな表面で反射しても、常に成り立ちます。ビリヤードの球が壁に当たって跳ね返るとき、入射角と反射角が等しくなるのと同じ幾何学です。光はこの法則に従って、最も「効率の良い」経路を選んでいると考えることもできます。
光は2点間を最短時間で結ぶ経路を通るというフェルマーの原理があります。反射面を経由してAからBへ行く最短時間の経路を数学的に求めると、入射角と反射角が等しい経路が答えになります。
反射の法則は「光が偶然そう振る舞う」のではなく、自然の最適化原理から必然的に導かれる結果なのです。
反射面上の点Pで反射して、点A$(0, a)$ から点B$(d, b)$ に至る光の経路を考えます。Pの位置を $x$ とします。
光の経路の長さは
$$L(x) = \sqrt{x^2 + a^2} + \sqrt{(d-x)^2 + b^2}$$
$L$ を最小にする $x$ を求めるため、$\dfrac{dL}{dx} = 0$ とすると、
$$\frac{x}{\sqrt{x^2 + a^2}} = \frac{d - x}{\sqrt{(d-x)^2 + b^2}}$$
左辺は $\sin\theta_i$、右辺は $\sin\theta_r$ に等しいので、
$$\sin\theta_i = \sin\theta_r \implies \theta_i = \theta_r$$
反射の法則は、光を「光線」として扱う幾何光学の法則ですが、波動として光を扱っても同じ結論に到達します。ホイヘンスの原理を使って波面の反射を作図すると、入射角と反射角が等しくなることが示せます。
つまり、反射の法則は光の本質的な性質であり、光線モデルでも波動モデルでも成立する普遍的な法則です。
曲面(球面鏡など)では、法線の方向が場所によって異なります。反射の法則は常に成り立ちますが、法線は反射点における面の接線に垂直な方向に取ります。
✕ 誤:曲面全体に一本の法線を引いて角度を計算する
○ 正:反射点ごとに法線を引き、その法線に対して入射角・反射角を考える
鏡を見ると、自分の姿が鏡の「向こう側」にあるように見えます。これが虚像です。虚像は、実際にそこに光が集まっているわけではなく、反射光線を逆方向に延長した先に像があるように見えるだけです。
物体が平面鏡の前に置かれたとき、像には次の性質があります。
鏡に映った文字が左右逆に見えるのは、鏡が左右を反転させているのではなく、鏡に垂直な方向(前後・奥行き)を反転させているからです。
鏡の前で右手を挙げると、像も「あなたから見て右側」の手を挙げています。ただし像は「こちらを向いている」ので、相手の左手に見えるのです。これは鏡の性質ではなく、「向き合った相手と自分では左右が逆に見える」という認識の問題です。
平面鏡による像の位置を求めるには、物体から出た2本以上の光線がどこから来たように見えるかを作図します。
平面鏡が作る像は虚像です。スクリーンを置いても映りません。一方、凹面鏡やレンズが作る像の中には、実際に光が集まる実像があります。
✕ 誤:「鏡に映っているから実像だ」
○ 正:平面鏡の像は虚像。光は像の位置に実際には集まっていない
全身を映すには、身長の半分の縦幅の鏡があれば十分です。これは鏡までの距離に関係なく成り立ちます。
頭頂と目の中点の高さに鏡の上端を、目と足先の中点の高さに鏡の下端を合わせれば、反射の法則により全身が映ります。鏡の大きさは身長の $\dfrac{1}{2}$ で済むのです。
鏡の表面は非常に滑らかなので、平行に入射した光線は平行に反射されます。これを正反射(鏡面反射)といいます。一方、紙やコンクリートのように表面がざらざらした物体では、微視的に見るとさまざまな方向の小さな面が存在し、光はあらゆる方向に散らばって反射します。これが乱反射(拡散反射)です。
注意すべきは、乱反射でも個々の微小な面では反射の法則が成り立っているということです。乱反射は法則の破れではなく、表面の凹凸によって法線の向きがばらばらであることの結果です。
私たちがさまざまな角度から物体を見ることができるのは、乱反射のおかげです。もしすべての面が正反射しかしなければ、特定の角度からしか物体が見えないことになります。
乱反射では光がさまざまな方向に散らばるため、反射の法則が成り立たないように見えることがあります。
✕ 誤:「ざらざらした面では反射の法則が破れる」
○ 正:「ざらざらした面でも、微小な各面ごとに見れば入射角 = 反射角は成立している。法線の方向がばらばらなだけ」
物体の色は、どの波長の光をよく反射するかで決まります。赤い物体は赤色の光(波長 $620 \sim 750\,\text{nm}$)を主に反射し、他の色を吸収しています。白い物体はほぼすべての可視光を反射し、黒い物体はほぼすべてを吸収します。
鏡はアルミニウムや銀の薄膜を使っており、可視光のほぼ全域で反射率が $90\%$ 以上あります。だからこそ、色を変えずに忠実に像を映すことができるのです。
光の反射は、光学の最も基本的な現象です。ここで学んだ法則と考え方が、今後どのように発展していくかを確認しましょう。
Q1. 入射角・反射角は何に対して測る角度ですか。
Q2. 光が平面鏡に入射角 $35°$ で入射したとき、反射角は何度ですか。
Q3. 平面鏡から $50\,\text{cm}$ の距離に物体を置いたとき、像は鏡面からどこにできますか。
Q4. 乱反射では反射の法則は成り立ちませんか。理由とともに答えてください。
Q5. 自分の全身を平面鏡に映すために最低限必要な鏡の縦幅は、身長の何倍ですか。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
平面鏡に光線が入射角 $40°$ で入射した。次の問いに答えよ。
(1) 反射角を求めよ。
(2) 入射光線と反射光線のなす角を求めよ。
(3) 鏡を入射光線の方向はそのままに $10°$ 傾けた場合、反射光線の方向は元の方向から何度変化するか。
(1) $40°$
(2) $80°$
(3) $20°$
方針:反射の法則 $\theta_i = \theta_r$ を適用する。
(1) 反射の法則より $\theta_r = \theta_i = 40°$
(2) 入射光線と反射光線のなす角は $\theta_i + \theta_r = 40° + 40° = 80°$
(3) 鏡を $10°$ 傾けると法線も $10°$ 傾く。入射角は $40° + 10° = 50°$ に変化し、反射角も $50°$ になる。元の反射光線の方向との差は $2 \times 10° = 20°$。一般に、鏡を $\alpha$ 傾けると反射光線は $2\alpha$ 回転する。
身長 $170\,\text{cm}$ の人が、目の高さが床から $160\,\text{cm}$ の位置にあるとき、壁に取り付けた平面鏡で全身を映したい。次の問いに答えよ。
(1) 鏡の縦幅は最低何 $\text{cm}$ 必要か。
(2) 鏡の下端は床から何 $\text{cm}$ の位置に取り付ければよいか。
(3) 鏡までの距離を2倍に離れた場合、必要な鏡の縦幅は変わるか。理由とともに答えよ。
(1) $85\,\text{cm}$
(2) 床から $80\,\text{cm}$
(3) 変わらない
方針:反射の法則を使い、足先からの光と頭頂からの光が目に届くための鏡の範囲を求める。
(1) 鏡に必要な縦幅は身長の半分:$170 \div 2 = 85\,\text{cm}$
(2) 足先からの光が目に届くためには、鏡の下端は目と足先の中点の高さ:$160 \div 2 = 80\,\text{cm}$
(3) 鏡までの距離に関係なく、必要な鏡の縦幅は身長の半分で一定。光の経路を相似な三角形で考えると、鏡に映る範囲と距離は比例するが、目から鏡までの距離と鏡から像までの距離も比例するため、結果的に鏡の大きさは変わらない。
2枚の平面鏡を角度 $\theta$ をなすように向かい合わせて置き、その間に小さな物体を置いた。鏡にできる像の数について、次の問いに答えよ。
(1) $\theta = 90°$ のとき、見える像の数を求めよ。各像がどのようにできるか説明せよ。
(2) $\theta = 60°$ のとき、見える像の数を求めよ。
(3) 一般に角度 $\theta$ のとき、像の数を $\theta$ を用いた式で表せ。ただし $\dfrac{360°}{\theta}$ が整数になる場合を考えよ。
(1) $3$ 個
(2) $5$ 個
(3) $\dfrac{360°}{\theta} - 1$ 個
方針:各鏡に映る像が、さらにもう一方の鏡に映ることで多重像が生じる。
(1) $\theta = 90°$ のとき、$\dfrac{360°}{90°} = 4$ より、像の数は $4 - 1 = 3$ 個。鏡Aに映る像、鏡Bに映る像、さらにAの像がBに映った像(またはBの像がAに映った像)の3つができる。
(2) $\theta = 60°$ のとき、$\dfrac{360°}{60°} = 6$ より、像の数は $6 - 1 = 5$ 個。
(3) $n = \dfrac{360°}{\theta}$ とすると、像の数は $n - 1$ 個。2枚の鏡が作る多重反射により、物体を含めた $n$ 個の点が $\theta$ ずつ離れて円周上に並ぶ。物体自身を除くと $n - 1$ 個の像が見える。