第18章 光の性質

光の屈折 ─ スネルの法則
─ なぜ光は曲がるのか

プールの底が実際より浅く見えたり、コップに差した箸が水面で折れ曲がって見えたりする経験はありませんか。
これらはすべて、光が異なる物質の境界で進む方向を変える「屈折」という現象によるものです。
この記事では、屈折を支配するスネルの法則と、屈折率の意味を深く理解します。

1屈折とは ─ 光が方向を変える理由

光がある媒質から異なる媒質へ進むとき、境界面で進行方向が変わる現象を屈折といいます。反射は光が「跳ね返る」現象でしたが、屈折は光が境界を「透過しつつ方向を変える」現象です。

なぜ光は方向を変えるのでしょうか。直感的に理解するには、行進する兵隊のたとえが有名です。舗装道路から砂浜へ斜めに入る行進隊を想像してください。砂浜に先に足を踏み入れた側の兵隊は速度が落ちますが、まだ道路上にいる側はそのままの速度で進みます。その結果、隊列全体の進行方向が砂浜側に曲がります。光の屈折もこれと同じ原理です。

光は媒質によって速さが異なります。真空中で最も速く、水やガラスの中では遅くなります。この速度の違いが、光の進行方向を変える原因なのです。

用語の整理

  • 入射角 $\theta_1$:入射光線と法線のなす角
  • 屈折角 $\theta_2$:屈折光線と法線のなす角
  • 屈折率 $n$:物質ごとに決まる光の曲がりやすさを表す量
⚠️ 落とし穴:屈折角の方向を間違える

光が速い媒質から遅い媒質に入るとき(空気→ガラスなど)、屈折角は入射角より小さくなります。光は法線に近づく方向に曲がります。

✕ 誤:「屈折率が大きい物質に入ると、光は法線から遠ざかる」

○ 正:「屈折率が大きい物質に入ると、光は法線に近づく(屈折角が小さくなる)」

逆に、遅い媒質から速い媒質に入るとき(ガラス→空気)は、光は法線から遠ざかります。

2屈折率とスネルの法則

屈折を定量的に記述する法則がスネルの法則(屈折の法則)です。17世紀にオランダのスネル(Snellius)が発見し、その後デカルトが独立に定式化しました。

📐 スネルの法則(屈折の法則)

$$n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2$$

※ $n_1$:入射側の媒質の屈折率、$n_2$:屈折側の媒質の屈折率、$\theta_1$:入射角、$\theta_2$:屈折角

この式は、光が2つの媒質の境界面を通過するとき、$n \sin\theta$ の値が一定に保たれることを意味しています。

絶対屈折率と相対屈折率

絶対屈折率とは、真空に対する屈折率のことです。真空の屈折率を $n = 1$ とし、各物質の屈折率はこれを基準に定義されます。空気の屈折率は $n \approx 1.0003$ ですが、通常は $n = 1$ として扱います。

物質 絶対屈折率 $n$
真空$1$(定義)
空気$1.0003 \approx 1$
$1.33$
ガラス(クラウンガラス)$1.52$
ダイヤモンド$2.42$

2つの媒質間の相対屈折率 $n_{12}$ は、絶対屈折率の比で表されます。

📐 相対屈折率

媒質1から媒質2への相対屈折率:

$$n_{12} = \frac{n_2}{n_1} = \frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2}$$

※ スネルの法則 $n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2$ を変形した式
💡 ここが本質:スネルの法則は「光の速度の比」を反映している

屈折率 $n$ は、真空中の光速 $c$ とその媒質中の光速 $v$ の比です:$n = \dfrac{c}{v}$。

スネルの法則 $n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2$ は、光が遅い媒質に入ると法線に近づき、速い媒質に入ると法線から遠ざかることを数式で表しています。屈折率が大きいほど光は遅く、より大きく曲がります。

⚠️ 落とし穴:$n_1$ と $n_2$ の添字を取り違える

スネルの法則で $n_1$ は入射側、$n_2$ は屈折側の屈折率です。問題によって光がどちら側から入るかが異なるため、添字を機械的に覚えるのは危険です。

✕ 誤:「$n_1$ が必ず空気で $n_2$ が必ずガラス」と決めつける

○ 正:「$n_1$ は光が来る側、$n_2$ は光が進む側」として毎回確認する

▷ ホイヘンスの原理からスネルの法則を導く

ホイヘンスの原理によれば、波面上の各点が新たな球面波の波源となり、その包絡面が新しい波面を形成します。

境界面に波面が斜めに到達するとき、媒質1での波面の端から端までの時間 $\Delta t$ の間に、媒質1では $v_1 \Delta t$ 進み、媒質2では $v_2 \Delta t$ 進みます。

幾何学的な関係から、

$$\sin\theta_1 = \frac{v_1 \Delta t}{d}, \quad \sin\theta_2 = \frac{v_2 \Delta t}{d}$$

($d$ は境界面上での波面の幅)

割り算すると、

$$\frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2} = \frac{v_1}{v_2} = \frac{c/n_1}{c/n_2} = \frac{n_2}{n_1}$$

整理すると、$n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2$ が得られます。

3屈折率と光の速さの関係

屈折率の物理的な意味をさらに掘り下げましょう。屈折率は、光が媒質中でどれだけ遅くなるかを表す量です。

📐 屈折率と光速の関係

$$n = \frac{c}{v}$$

※ $c = 3.0 \times 10^8\,\text{m/s}$(真空中の光速)、$v$:媒質中の光速。$n \geq 1$ であり、$n = 1$ は真空

たとえば、水の屈折率 $n = 1.33$ は、水中の光速が真空中の $\dfrac{1}{1.33} \approx 0.75$ 倍、すなわち約 $2.3 \times 10^8\,\text{m/s}$ であることを意味します。ダイヤモンドでは $n = 2.42$ なので、光速は真空の約 $41\%$ にまで遅くなります。

屈折率と波長・振動数の関係

光が媒質に入ると速さが変わりますが、振動数 $f$ は変化しません。これは、境界面で光の振動が途切れないためです。光の波長 $\lambda$ と速さ $v$ の関係 $v = f\lambda$ から、速さが遅くなれば波長も短くなります。

📐 媒質中の波長

$$\lambda_n = \frac{\lambda_0}{n}$$

※ $\lambda_0$:真空中の波長、$\lambda_n$:屈折率 $n$ の媒質中の波長
💡 ここが本質:屈折で変わるもの・変わらないもの

光が異なる媒質に入るとき、変わるものは「速さ」と「波長」です。変わらないものは「振動数」です。

これは、波源の振動が境界で途切れないことに由来します。振動数が変わらず速さが変わるので、$v = f\lambda$ の関係から波長が変わるのです。

⚠️ 落とし穴:「屈折すると振動数が変わる」と思ってしまう

屈折で光の色が変わらないのは、振動数が保存されるからです。

✕ 誤:「ガラスに入ると光の振動数が変わるから屈折する」

○ 正:「振動数は変わらない。速さと波長が変わることで屈折が起こる」

🔬 深掘り:フェルマーの原理と屈折

反射の法則と同様に、スネルの法則もフェルマーの原理(最短時間の原理)から導けます。光は2点間を最短時間で結ぶ経路を選びますが、媒質によって速さが異なるため、直線経路が最短時間とは限りません。

速い媒質ではなるべく長く走り、遅い媒質ではなるべく短く走るような経路が最速となり、その条件を数学的に求めるとスネルの法則が得られます。これは、海岸でおぼれた人を助けに行くライフセーバーの最速経路の問題と同じ構造です。

4屈折による見え方の変化

屈折は日常生活で多くの視覚的な錯覚を引き起こします。これらを物理的に理解しましょう。

水中の物体が浅く見える

水中にある物体を上から見ると、実際の深さより浅い位置にあるように見えます。これは、水中から空気中に出る光が法線から遠ざかる方向に屈折するためです。

屈折光線を延長した先に見かけの像ができます。実際の深さを $d$、見かけの深さを $d'$ とすると、真上から見た場合の近似式は、

📐 見かけの深さ

$$d' = \frac{d}{n}$$

※ $d$:実際の深さ、$d'$:見かけの深さ、$n$:水の屈折率。真上から見た場合の近似

水の屈折率が $n = 1.33$ なので、深さ $2\,\text{m}$ のプールの底は約 $\dfrac{2}{1.33} \approx 1.5\,\text{m}$ の深さに見えます。

箸が折れて見える現象

コップの水に箸を入れると、水面の位置で箸が折れ曲がって見えます。これも屈折によるものです。水中にある箸の部分からの光が水面で屈折し、実際とは異なる位置から来たように目に届くためです。

⚠️ 落とし穴:見かけの深さの公式を斜めから見た場合にも適用してしまう

$d' = \dfrac{d}{n}$ は真上から見た場合の近似式です。斜めから観察する場合は、入射角に応じた正確な計算が必要です。

✕ 誤:どの角度から見ても $d' = d/n$ が成り立つと思い込む

○ 正:$d' = d/n$ は真上から見た場合の近似。斜めから見る場合はスネルの法則に基づいて個別に計算する

🔬 深掘り:蜃気楼と屈折

蜃気楼は、空気の温度差によって屈折率が連続的に変化することで起こります。地面近くの空気が熱せられると屈折率が下がり、光が徐々に曲がって上向きに進むようになります。すると、遠くの景色が地面の下にも映っているかのように見えるのです。

これは「連続的な屈折」であり、スネルの法則が微小な層ごとに繰り返し適用された結果と考えることができます。

5この単元を俯瞰する

スネルの法則は光学の柱となる法則です。ここで学んだ内容が今後どのように展開するか確認しましょう。

つながりマップ

  • ← W-4-1 光の反射の法則:反射と屈折は同時に起こる。境界面での光の振る舞いの「もう半分」を学んだ。
  • → W-4-3 全反射と臨界角:屈折角が $90°$ に達するとどうなるか。スネルの法則から臨界角を導く。
  • → W-4-4 プリズムと分散:屈折率が波長によって異なることから、白色光が虹色に分かれる。
  • → W-4-5 レンズの公式:レンズは2回の屈折を利用して光を集める。スネルの法則がレンズの基礎。
  • → 干渉・回折:媒質中で波長が変わることは、薄膜干渉の理解に不可欠。

📋まとめ

  • 光が異なる媒質の境界で方向を変える現象が屈折。原因は媒質ごとの光速の違い
  • スネルの法則:$n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2$。境界面で $n\sin\theta$ が保存される
  • 屈折率 $n = c/v$。屈折率が大きい媒質ほど光速が遅く、光は法線に近づく方向に曲がる
  • 屈折で変わるのは速さと波長振動数は不変。媒質中の波長 $\lambda_n = \lambda_0 / n$
  • 真上から見た見かけの深さは $d' = d/n$。水中の物体は実際より浅く見える
  • スネルの法則はフェルマーの原理やホイヘンスの原理から導ける普遍的法則

確認テスト

Q1. 屈折率 $n = 1.5$ のガラス中での光速はいくらですか。真空中の光速を $3.0 \times 10^8\,\text{m/s}$ とします。

▶ クリックして解答を表示$v = \dfrac{c}{n} = \dfrac{3.0 \times 10^8}{1.5} = 2.0 \times 10^8\,\text{m/s}$

Q2. 空気中から屈折率 $1.5$ のガラスに入射角 $30°$ で光が入射したとき、屈折角を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$1.0 \times \sin 30° = 1.5 \times \sin\theta_2$ より $\sin\theta_2 = \dfrac{0.5}{1.5} = \dfrac{1}{3} \approx 0.333$。$\theta_2 \approx 19.5°$

Q3. 光が屈折するとき、振動数は変化しますか。理由とともに答えてください。

▶ クリックして解答を表示変化しません。境界面で波の振動が途切れないため、振動数は保存されます。代わりに速さと波長が変化します。

Q4. 真空中で波長 $600\,\text{nm}$ の光が屈折率 $1.5$ の媒質に入ったとき、波長はいくらになりますか。

▶ クリックして解答を表示$\lambda_n = \dfrac{\lambda_0}{n} = \dfrac{600}{1.5} = 400\,\text{nm}$

8入試問題演習

この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

4-2-1 A 基礎 スネルの法則 計算

空気中から水(屈折率 $n = 1.33$)に光が入射角 $45°$ で入射した。次の問いに答えよ。$\sin 45° = \dfrac{\sqrt{2}}{2} = 0.707$ とする。

(1) 屈折角を求めよ。

(2) 水中での光の速さを求めよ。真空中の光速を $3.0 \times 10^8\,\text{m/s}$ とする。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 約 $32°$

(2) $2.26 \times 10^8\,\text{m/s}$

解説

(1) スネルの法則 $n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2$ より、

$1.0 \times 0.707 = 1.33 \times \sin\theta_2$

$\sin\theta_2 = \dfrac{0.707}{1.33} = 0.531$

$\theta_2 = \arcsin(0.531) \approx 32.1°$

(2) $v = \dfrac{c}{n} = \dfrac{3.0 \times 10^8}{1.33} \approx 2.26 \times 10^8\,\text{m/s}$

B 発展レベル

4-2-2 B 発展 見かけの深さ 論述

深さ $3.0\,\text{m}$ のプールの底に硬貨が沈んでいる。水の屈折率を $1.33$ として、次の問いに答えよ。

(1) プールの縁から真上を見下ろしたとき、硬貨は水面から何 $\text{m}$ の深さに見えるか。

(2) なぜ水中の物体は実際より浅く見えるのか、屈折の法則を用いて簡潔に説明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 約 $2.3\,\text{m}$

(2) 下記解説参照

解説

(1) $d' = \dfrac{d}{n} = \dfrac{3.0}{1.33} \approx 2.3\,\text{m}$

(2) 水中の硬貨から出た光は、水面で空気中に出る際にスネルの法則に従い屈折する。水(屈折率大)から空気(屈折率小)に出るので、光は法線から遠ざかる方向に曲がる。観測者の目には屈折した光が届くが、人間の目は光が直進してきたものとして認識するため、屈折光線を逆に延長した位置(実際より浅い位置)に像が見える。

採点ポイント
  • 見かけの深さの公式を正しく適用する(2点)
  • 光が法線から遠ざかる方向に屈折することを述べる(3点)
  • 屈折光線の延長と像の位置の関係を説明する(3点)

C 応用レベル

4-2-3 C 応用 多層屈折 論述

屈折率がそれぞれ $n_1 = 1.0$(空気)、$n_2 = 1.5$(ガラスA)、$n_3 = 1.8$(ガラスB)の3層の媒質が平行に並んでいる。空気中から入射角 $\theta_1 = 60°$ で光を入射させた。$\sin 60° = \dfrac{\sqrt{3}}{2}$ とする。

(1) ガラスA中での屈折角 $\theta_2$ を求めよ。

(2) ガラスB中での屈折角 $\theta_3$ を求めよ。

(3) 一般に、平行な $N$ 層の媒質を光が通過するとき、最終層での屈折角が最初の入射角と最終層の屈折率だけで決まることを示せ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $\theta_2 = \arcsin\left(\dfrac{\sqrt{3}}{3}\right) \approx 35.3°$

(2) $\theta_3 = \arcsin\left(\dfrac{\sqrt{3}}{3.6}\right) \approx 28.9°$

(3) 下記解説参照

解説

(1) $n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2$ より $1.0 \times \dfrac{\sqrt{3}}{2} = 1.5 \sin\theta_2$。$\sin\theta_2 = \dfrac{\sqrt{3}}{3} \approx 0.577$、$\theta_2 \approx 35.3°$

(2) $n_2 \sin\theta_2 = n_3 \sin\theta_3$ より $1.5 \times \dfrac{\sqrt{3}}{3} = 1.8 \sin\theta_3$。$\sin\theta_3 = \dfrac{\sqrt{3}}{3.6} \approx 0.481$、$\theta_3 \approx 28.9°$

(3) 各境界でスネルの法則を適用すると、$n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2 = n_3 \sin\theta_3 = \cdots = n_N \sin\theta_N$。これは $n\sin\theta$ が全ての層で保存されることを意味する。したがって、$\sin\theta_N = \dfrac{n_1}{n_N}\sin\theta_1$ であり、最終層での屈折角は中間層の屈折率に依存せず、最初と最後の屈折率だけで決まる。

採点ポイント
  • 各境界でスネルの法則を正しく適用する(3点)
  • $n\sin\theta$ の保存を明記する(3点)
  • 中間層の屈折率に依存しないことを論理的に示す(4点)