第18章 光の性質

レンズの公式
─ 1/a+1/b=1/f

虫眼鏡で太陽光を集めたり、カメラのピントを合わせたり——レンズは日常生活で最も身近な光学素子です。
凸レンズと凹レンズの2種類があり、物体の位置によって実像か虚像か、正立か倒立かが変わります。
ここではレンズの公式倍率を学び、像の位置と大きさを定量的に求められるようになりましょう。

1凸レンズと凹レンズの基本

凸レンズ(収束レンズ)は光を集め、凹レンズ(発散レンズ)は光を広げるレンズです。

基本用語

  • 光軸:レンズの中心を通り、レンズ面に垂直な直線
  • 焦点 $F$:光軸に平行な光がレンズを通った後に集まる点(凸レンズ)、または延長線が集まるように見える点(凹レンズ)
  • 焦点距離 $f$:レンズの中心から焦点までの距離
  • 物体距離 $a$:物体からレンズまでの距離
  • 像距離 $b$:レンズから像までの距離
💡 ここが本質:実像と虚像の違い

実像:実際に光が集まってできる像。スクリーンに映せる。レンズの反対側にできる。倒立。

虚像:光線を延長した先にあるように見える像。スクリーンには映せない。レンズの物体と同じ側にできる。正立。

凸レンズでは物体が焦点より遠いと実像、焦点より近いと虚像。凹レンズでは常に虚像。

凸レンズの3本の特別な光線

  1. 光軸に平行な光 → レンズ通過後、焦点を通る
  2. レンズの中心を通る光 → そのまま直進する
  3. 焦点を通る光 → レンズ通過後、光軸に平行に進む

これらの光線のうち2本を描けば、像の位置と大きさが作図で求まります。

2レンズの公式(写像公式)

📐 レンズの公式(薄肉レンズの写像公式)

$$\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}$$

※ $a$:物体距離(物体からレンズまで、常に正)、$b$:像距離(レンズから像まで、実像なら正・虚像なら負)、$f$:焦点距離(凸レンズなら正・凹レンズなら負)
▷ レンズの公式の導出(凸レンズ・実像の場合)

物体の高さを $h$、像の高さを $h'$ とします。

光軸に平行な光がレンズを通って焦点を通る光線と、レンズの中心をまっすぐ通る光線の交点が像の位置です。

相似な三角形から次の2つの関係が得られます。

$$\frac{h'}{h} = \frac{b}{a} \quad \text{…①(中心を通る光線の相似)}$$

$$\frac{h'}{h} = \frac{b - f}{f} \quad \text{…②(平行光線の焦点通過の相似)}$$

①②から $\dfrac{b}{a} = \dfrac{b - f}{f}$ → $bf = a(b - f) = ab - af$

両辺を $abf$ で割ると $\dfrac{1}{a} + \dfrac{1}{b} = \dfrac{1}{f}$

⚠️ 落とし穴:符号の約束を忘れる

レンズの公式を使うときは、符号の約束を守ることが絶対条件です。

✕ 誤:すべての距離を正の値として代入する

○ 正:凹レンズの焦点距離は負($f < 0$)、虚像の像距離は負($b < 0$)

符号を間違えると、実像と虚像を取り違えてしまいます。

符号の約束(まとめ)

正の場合負の場合
物体距離 $a$常に正(通常は負にならない)
像距離 $b$実像(レンズの反対側)虚像(レンズの物体側)
焦点距離 $f$凸レンズ凹レンズ

3倍率と像の性質

📐 倍率(横倍率)

$$m = \frac{b}{a}$$

※ $|m| > 1$:拡大像、$|m| < 1$:縮小像、$|m| = 1$:等倍像。$m > 0$ なら正立像、$m < 0$ なら倒立像。

凸レンズ:物体位置と像の関係

物体の位置像の種類像の大きさ像の向き
$a > 2f$実像縮小($|m| < 1$)倒立
$a = 2f$実像等倍($|m| = 1$)倒立
$f < a < 2f$実像拡大($|m| > 1$)倒立
$a = f$像なし(平行光になる)
$a < f$虚像拡大($|m| > 1$)正立
💡 ここが本質:$a = 2f$ は像が等倍になる特別な点

$a = 2f$ のとき、レンズの公式から $b = 2f$ となり、$m = b/a = 1$(等倍)です。

物体と像がともに焦点距離の2倍の位置にあり、左右対称な配置になります。これはカメラの1:1マクロ撮影に対応します。

🔬 深掘り:凸レンズが虫眼鏡になるとき

物体を凸レンズの焦点より内側($a < f$)に置くと、正立拡大の虚像ができます。これが虫眼鏡のしくみです。

倍率は $m = \dfrac{b}{a}$ ですが、虚像の場合 $b < 0$ なので実際に見える大きさは $|m| = \dfrac{|b|}{a}$ で評価します。物体を焦点に近づけるほど倍率は大きくなりますが、像がぼやけてきます。

4凹レンズの場合

凹レンズの焦点距離は負($f < 0$)です。レンズの公式はそのまま使えます。

凹レンズでは、物体がどこにあっても常に正立縮小の虚像ができます。 像はレンズと物体の間にでき、$b$ は常に負になります。

凹レンズの作図法

  1. 光軸に平行な光 → レンズ通過後、反対側の焦点から発散するように進む(焦点からの延長線上)
  2. レンズの中心を通る光 → そのまま直進
  3. 反対側の焦点に向かう光 → レンズ通過後、光軸に平行に進む
⚠️ 落とし穴:凹レンズで実像ができると思い込む

単独の凹レンズでは実像はできません。

✕ 誤:凹レンズでも物体を遠くに置けば実像ができる

○ 正:凹レンズ単独では常に虚像(正立縮小)。ただし、凸レンズと組み合わせれば実像を作れる。

🔬 深掘り:近視と遠視の矯正

近視:眼球のレンズ(水晶体)の焦点距離が短すぎて、像が網膜の手前にできる。凹レンズで発散させて焦点を後ろにずらす。

遠視:焦点距離が長すぎて、像が網膜の後ろにできる。凸レンズで収束させて焦点を手前にずらす。

眼鏡やコンタクトレンズのレンズの度数は「ディオプター」($D = 1/f$、$f$ はメートル単位)で表されます。

5この章を俯瞰する

レンズの公式は光学の基本ツールであり、カメラ・眼鏡・顕微鏡・望遠鏡など広範な応用があります。

つながりマップ

  • ← W-4-1 光の屈折とスネルの法則:レンズの屈折はスネルの法則に基づく。
  • ← W-4-4 プリズムと分散:レンズの色収差は分散の結果。
  • → W-4-6 レンズの典型問題:公式を使って像の位置・大きさを具体的に求める。
  • → W-4-7 球面鏡:鏡の公式もレンズの公式と同形。
  • → 光学機器:顕微鏡・望遠鏡はレンズの組み合わせ。

📋まとめ

  • レンズの公式:$\dfrac{1}{a} + \dfrac{1}{b} = \dfrac{1}{f}$
  • 倍率:$m = \dfrac{b}{a}$($|m|>1$ で拡大、$|m|<1$ で縮小)
  • 凸レンズ:$a > f$ で倒立実像、$a < f$ で正立拡大虚像
  • 凹レンズ:常に正立縮小の虚像($f < 0$、$b < 0$)
  • 符号の約束が重要:凹レンズの $f$ は負、虚像の $b$ は負
  • $a = 2f$ のとき等倍の実像($b = 2f$)

確認テスト

Q1. レンズの公式を書いてください。

▶ クリックして解答を表示$\dfrac{1}{a} + \dfrac{1}{b} = \dfrac{1}{f}$

Q2. 焦点距離 $20\,\text{cm}$ の凸レンズの焦点距離の2倍の位置に物体を置いたとき、像の位置と倍率を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$a = 40\,\text{cm}$。$\dfrac{1}{40} + \dfrac{1}{b} = \dfrac{1}{20}$ → $b = 40\,\text{cm}$。$m = 40/40 = 1$(等倍の倒立実像)

Q3. 凹レンズで実像はできますか。

▶ クリックして解答を表示単独の凹レンズでは実像はできません。常に正立縮小の虚像になります。

Q4. 凸レンズで虚像ができるのは、物体をどこに置いた場合ですか。

▶ クリックして解答を表示物体を焦点の内側($a < f$)に置いた場合。このとき正立拡大の虚像ができます(虫眼鏡の原理)。

8入試問題演習

レンズの公式を使いこなす練習をしましょう。

A 基礎レベル

4-5-1 A 基礎 凸レンズ計算

焦点距離 $f = 10\,\text{cm}$ の凸レンズから $30\,\text{cm}$ の位置に物体を置いた。像の位置と倍率を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$b = 15\,\text{cm}$(レンズの反対側、実像)、$m = 0.50$(縮小倒立)

解説

$\dfrac{1}{30} + \dfrac{1}{b} = \dfrac{1}{10}$

$\dfrac{1}{b} = \dfrac{1}{10} - \dfrac{1}{30} = \dfrac{3-1}{30} = \dfrac{2}{30}$

$b = 15\,\text{cm}$(正なので実像)

$m = \dfrac{b}{a} = \dfrac{15}{30} = 0.50$($|m| < 1$ なので縮小、正なので倒立実像)

4-5-2 A 基礎 虚像計算

焦点距離 $f = 15\,\text{cm}$ の凸レンズから $10\,\text{cm}$ の位置に物体を置いた。像の位置と種類を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$b = -30\,\text{cm}$(虚像)、$m = -3.0$(正立拡大の虚像、像の大きさは3倍)

解説

$a = 10 < f = 15$ なので虚像になることが予測されます。

$\dfrac{1}{10} + \dfrac{1}{b} = \dfrac{1}{15}$

$\dfrac{1}{b} = \dfrac{1}{15} - \dfrac{1}{10} = \dfrac{2-3}{30} = -\dfrac{1}{30}$

$b = -30\,\text{cm}$(負なので虚像)

$m = \dfrac{-30}{10} = -3.0$。像の大きさは物体の3倍で、正立の虚像です。

B 発展レベル

4-5-3 B 発展 凹レンズ計算

焦点距離の大きさが $20\,\text{cm}$ の凹レンズから $60\,\text{cm}$ の位置に物体を置いた。像の位置、倍率、像の種類を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$b = -15\,\text{cm}$(虚像)、$m = -0.25$(正立縮小)

解説

凹レンズなので $f = -20\,\text{cm}$

$\dfrac{1}{60} + \dfrac{1}{b} = \dfrac{1}{-20}$

$\dfrac{1}{b} = -\dfrac{1}{20} - \dfrac{1}{60} = \dfrac{-3-1}{60} = -\dfrac{4}{60}$

$b = -15\,\text{cm}$(負なので虚像。物体と同じ側にできる。)

$m = \dfrac{-15}{60} = -0.25$(正立縮小の虚像)

採点ポイント
  • 凹レンズの焦点距離を負に設定する(3点)
  • レンズの公式を正しく適用する(4点)
  • 像の種類を正しく判定する(3点)
4-5-4 B 発展 焦点距離の決定計算

ある凸レンズから $24\,\text{cm}$ の位置に物体を置いたところ、レンズの反対側 $40\,\text{cm}$ の位置に実像ができた。このレンズの焦点距離を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$f = 15\,\text{cm}$

解説

$\dfrac{1}{f} = \dfrac{1}{a} + \dfrac{1}{b} = \dfrac{1}{24} + \dfrac{1}{40}$

$= \dfrac{5 + 3}{120} = \dfrac{8}{120} = \dfrac{1}{15}$

$f = 15\,\text{cm}$

採点ポイント
  • レンズの公式を正しく使う(5点)
  • 通分の計算が正確(3点)
  • 答えが正しい(2点)

C 応用レベル

4-5-5 C 応用 レンズの組み合わせ計算

焦点距離 $f_1 = 20\,\text{cm}$ の凸レンズと焦点距離 $f_2 = -30\,\text{cm}$ の凹レンズが $10\,\text{cm}$ の間隔で並んでいる。凸レンズから $60\,\text{cm}$ の位置に物体を置いたとき、最終的な像の位置を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

凹レンズから $60\,\text{cm}$ の位置に実像ができる。

解説

Step1:凸レンズによる像

$\dfrac{1}{60} + \dfrac{1}{b_1} = \dfrac{1}{20}$ → $b_1 = 30\,\text{cm}$

凸レンズの反対側 $30\,\text{cm}$ の位置に実像。

Step2:この像が凹レンズの物体になる

凹レンズは凸レンズから $10\,\text{cm}$ 先なので、凸レンズの作った像は凹レンズの $30 - 10 = 20\,\text{cm}$ 先。

$\dfrac{1}{20} + \dfrac{1}{b_2} = \dfrac{1}{-30}$

$\dfrac{1}{b_2} = -\dfrac{1}{30} - \dfrac{1}{20} = \dfrac{-2-3}{60} = -\dfrac{5}{60}$

$b_2 = -12\,\text{cm}$

...おっと、$b_2$ が負ということは虚像です。凹レンズの物体側 $12\,\text{cm}$(凸レンズと凹レンズの間)に虚像ができます。

(計算を見直し)実際には凸レンズが作る実像は凹レンズの先(反対側)にあるので、凹レンズにとっては虚物体($a_2 = -20\,\text{cm}$)として扱うべきです。

$\dfrac{1}{-20} + \dfrac{1}{b_2} = \dfrac{1}{-30}$

$\dfrac{1}{b_2} = -\dfrac{1}{30} + \dfrac{1}{20} = \dfrac{-2+3}{60} = \dfrac{1}{60}$

$b_2 = 60\,\text{cm}$(正なので実像。凹レンズから $60\,\text{cm}$ 先に実像ができる。)

採点ポイント
  • 凸レンズの像を正しく求める(3点)
  • 凹レンズへの物体距離を正しく設定する(4点)
  • 最終像を正しく求める(3点)
4-5-6 C 応用 レンズメーカーの式論述

屈折率 $n$ のガラスで作られた薄い凸レンズの曲率半径が、一方の面で $R_1$(凸面)、他方の面で $R_2$(凸面)であるとき、レンズメーカーの式 $\dfrac{1}{f} = (n-1)\left(\dfrac{1}{R_1} + \dfrac{1}{R_2}\right)$ が成り立つ。$n = 1.50$、$R_1 = 20\,\text{cm}$、$R_2 = 30\,\text{cm}$ のとき焦点距離を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$f = 24\,\text{cm}$

解説

$\dfrac{1}{f} = (1.50 - 1)\left(\dfrac{1}{20} + \dfrac{1}{30}\right) = 0.50 \times \dfrac{3+2}{60} = 0.50 \times \dfrac{5}{60} = \dfrac{5}{120} = \dfrac{1}{24}$

$f = 24\,\text{cm}$

レンズメーカーの式は、レンズの形状(曲率半径)と材質(屈折率)から焦点距離を決定する式です。屈折率が大きいほど、曲率半径が小さいほど焦点距離が短く(レンズの度数が強く)なります。

採点ポイント
  • レンズメーカーの式に正しく代入(5点)
  • 計算が正確(3点)
  • 焦点距離の物理的意味に言及(2点)