静かな水面に二つの石を同時に投げ込むと、波紋が重なり合い、水面が激しく揺れる場所と、まるで何も起きていないかのように静まり返る場所が生まれます。
光もまた波です。二つの光が出会うとき、明るく輝く場所と暗くなる場所が交互に現れる ── これが「干渉」という現象です。
この記事では、干渉が起こるための条件と、明暗を決める「光路差」の考え方を基礎から学びます。
17世紀、ニュートンは光を「粒子」だと考えました。しかし19世紀初頭、トマス・ヤングやオーギュスタン・フレネルの実験によって、光が波であることが明確に示されました。その決定的な証拠が、まさに干渉現象だったのです。
粒子であれば、二つの粒子が同じ場所に到達したとき、エネルギーは必ず増えるはずです。しかし光には、二つの光を重ねると暗くなる場所が現れます。これは粒子の描像では説明できません。波だからこそ、「山」と「谷」が打ち消し合って暗くなるのです。
干渉を理解するために、光の波としての基本量を整理しておきましょう。
可視光の波長は $10^{-7}\,\text{m}$ のオーダーです。$1\,\text{nm} = 10^{-9}\,\text{m}$ ですから、可視光は数百 nm の波長をもちます。この極めて短い波長が、日常で干渉を観察しにくい理由の一つです。しかし、シャボン玉の色やCDの虹色など、条件が整えば私たちの目にも干渉の痕跡は届いています。
二つの波が同じ場所で出会ったとき、その変位は重ね合わせの原理によって単純に足し合わされます。これが干渉の出発点です。
二つの波が同じ位相で出会うと、山と山、谷と谷が重なります。合成波の振幅は元の波の振幅の和になり、光の場合はより明るくなります。これを強め合いの干渉(建設的干渉)といいます。
一方、二つの波が逆位相(半波長分ずれた位相)で出会うと、山と谷が重なります。振幅が等しければ完全に打ち消し合い、光の場合は暗くなります。これを弱め合いの干渉(破壊的干渉)といいます。
干渉の明暗は、二つの波が出会う点での位相差で決まります。位相が揃えば明るく、半波長ずれれば暗くなる。干渉の問題は、すべて「ある点での位相差はいくらか」という問いに帰着します。
位相差を生む最も重要な要因が、次の節で学ぶ光路差です。
弱め合いの干渉で「暗い」場所があるからといって、エネルギーが消滅したわけではありません。暗い場所で失われたエネルギーは、明るい場所に集まっています。干渉は光のエネルギーを空間的に再分配する現象です。エネルギー保存則は破れていません。
直感的に「光を足したら明るくなるはず」と思いがちですが、波の性質を考えれば矛盾しません。
✕ 誤:光を重ねると必ず明るくなる
○ 正:波の位相が逆であれば打ち消し合い、暗くなる場所が生まれる
二つの光源(または一つの光源から分かれた二つの経路)から発した光が、ある点 P で出会うとき、それぞれが通った道のりの差を光路差といいます。光路差が干渉の明暗を決める鍵です。
光源 $\text{S}_1$ から点 P までの距離を $r_1$、光源 $\text{S}_2$ から点 P までの距離を $r_2$ とすると、光路差 $\delta$ は次のように定義されます。
$$\delta = |r_1 - r_2|$$
ただし、光が異なる媒質を通る場合は、幾何学的な距離ではなく光学的距離(後述)を用いる必要があります。
同位相の二つの波源から出た光について、点 P での干渉条件は次のようになります。
強め合い(明線)の条件:$$\delta = m\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \ldots)$$
弱め合い(暗線)の条件:$$\delta = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \ldots)$$
波源 $\text{S}_1$、$\text{S}_2$ が同位相で振動しているとします。点 P に到達するまでの経路差が $\delta$ のとき、位相差 $\Delta\phi$ は次のようになります。
$$\Delta\phi = \frac{2\pi}{\lambda}\delta$$
強め合いは位相差が $2\pi$ の整数倍のとき:$\Delta\phi = 2m\pi$ → $\delta = m\lambda$
弱め合いは位相差が $\pi$ の奇数倍のとき:$\Delta\phi = (2m+1)\pi$ → $\delta = (m + \frac{1}{2})\lambda$
光が屈折率 $n$ の媒質中を距離 $d$ だけ進むとき、真空中に換算した距離を光学的距離(光路長)といいます。
$$\text{光学的距離} = nd$$
屈折率 $n$ の媒質中では波長が $\lambda/n$ に短くなるため、同じ距離 $d$ でも真空中の $nd$ に相当する波の数だけ位相が進みます。干渉を考えるときは、幾何学的な距離ではなく光学的距離で光路差を求める必要があります。
真空中(空気中)では幾何学的な距離がそのまま光路差になりますが、ガラスや水など屈折率が1でない媒質が関わる場合は注意が必要です。
✕ 誤:ガラス板(屈折率 $n = 1.5$)の厚さ $d$ を通る光の光路長は $d$
○ 正:ガラス板の光路長は $nd = 1.5d$
光が屈折率の小さい媒質から大きい媒質へ入射して反射するとき、反射光の位相は $\pi$(半波長分)だけ反転します。これは弦の固定端反射と同じ原理です。
逆に、屈折率の大きい媒質から小さい媒質への反射では位相は変化しません(自由端反射に対応)。
薄膜やニュートンリングの問題では、光路差だけでなく反射時の位相変化を考慮しないと、明暗条件が逆転してしまいます。「光路差 $+$ 反射の位相変化」のセットで干渉条件を判断する習慣をつけましょう。
✕ 誤:空気中からガラスに入射して反射 → 位相変化なし
○ 正:空気中($n$ 小)からガラス($n$ 大)へ反射 → 位相が $\pi$ 反転する(固定端反射)
「疎から密」で反射すると位相が反転する、と覚えましょう。
干渉条件で次数 $m$ は $0, 1, 2, \ldots$ と非負整数をとります。光路差は距離なので負にはなりません。
✕ 誤:$m = -1$ として $\delta = -\lambda$
○ 正:$m = 0, 1, 2, \ldots$ の非負整数。光路差 $\delta \geq 0$
白色光はさまざまな波長を含むため、光路差が大きくなると各波長の明暗がずれて干渉縞が不鮮明になります。鮮明な干渉を観察するには、単色光(レーザーなど)を使うか、光路差を小さく保つ必要があります。光が干渉を示す最大の光路差をコヒーレント長といいます。
実際に干渉を観察するためには、二つの光がコヒーレント(可干渉)である必要があります。コヒーレントとは、位相関係が時間的に安定していることを意味します。
太陽光や白熱灯の光は、原子一つ一つがばらばらに光を放出しています。各原子の出す波は短い波連(波束)で、位相はランダムです。このような光をインコヒーレント光と呼びます。
二つの独立した光源から出た光は位相がランダムに変化するため、ある瞬間の干渉パターンが次の瞬間には消えてしまい、時間平均すると明暗の差がなくなります。
干渉を観察する最も基本的な方法は、1つの光源から出た光を2つに分けることです。同じ光源から分かれた光は互いにコヒーレントであり、位相関係が安定しています。
レーザー光は誘導放出によって生成されるため、非常に高いコヒーレンスをもちます。コヒーレント長が数十 cm から数 km にも達するため、大きな光路差でも干渉縞を観察できます。ヤングの実験やマイケルソン干渉計は、レーザーを使うと鮮明な干渉パターンが得られます。
光の干渉の原理は、この章で学ぶすべての干渉現象の基礎です。ここで理解した「光路差」と「干渉条件」が、具体的な実験や応用にどうつながるか確認しましょう。
Q1. 波長 $600\,\text{nm}$ の光について、光路差が $1200\,\text{nm}$ のとき、その点は明線か暗線か答えてください。
Q2. 屈折率 $n = 1.5$ のガラス板の厚さが $0.4\,\text{mm}$ のとき、光学的距離を求めてください。
Q3. 光が空気中($n \approx 1$)からガラス($n = 1.5$)の表面で反射するとき、位相はどうなりますか。
Q4. 二つの独立した光源の光が干渉縞を作りにくい理由を簡潔に述べてください。
Q5. 光路差が $\frac{3}{2}\lambda$ のとき、強め合いか弱め合いか答えてください。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
波長 $500\,\text{nm}$ の単色光を用いた干渉実験において、ある点での光路差が $1750\,\text{nm}$ であった。この点は明線か暗線か答え、その理由を述べよ。
暗線(弱め合いの干渉)
方針:光路差を波長で割り、整数か半整数かを判定する。
$\dfrac{\delta}{\lambda} = \dfrac{1750}{500} = 3.5 = 3 + \dfrac{1}{2}$
光路差が波長の半整数倍($m = 3$)なので、弱め合いの干渉が起こり暗線となる。
波長 $600\,\text{nm}$ の単色光が空気中を進んでいる。この光が屈折率 $n = 1.5$ の透明なガラス板(厚さ $d = 0.80\,\text{mm}$)を通過する場合と、同じ距離を空気中だけで進む場合とで、光学的距離の差はいくらか。また、その差は波長の何倍にあたるか求めよ。
光学的距離の差:$0.40\,\text{mm} = 4.0 \times 10^5\,\text{nm}$
波長の約 $667$ 倍
方針:ガラス板を通過する光の光学的距離と空気中を進む光の光学的距離の差を求める。
ガラスの光学的距離:$nd = 1.5 \times 0.80 = 1.20\,\text{mm}$
空気中の光学的距離:$1.0 \times 0.80 = 0.80\,\text{mm}$
差:$1.20 - 0.80 = 0.40\,\text{mm} = 4.0 \times 10^5\,\text{nm}$
波長の倍数:$\dfrac{4.0 \times 10^5}{600} \approx 667$ 倍
空気中(屈折率 $1.0$)に置かれた屈折率 $n = 1.4$ のガラス板の上面と下面で反射した光が干渉する場合を考える。ガラス板の厚さを $d$、入射光の波長(空気中)を $\lambda$ とする。次の問いに答えよ。
(1) 上面での反射光と下面での反射光について、反射時の位相変化をそれぞれ述べよ。
(2) 強め合いの干渉が起こる条件を、$d$、$\lambda$、$n$ を用いて表せ。ただし、光は垂直に入射するものとする。
(1) 上面反射:位相が $\pi$ 反転(空気→ガラスで $n$ 増大)。下面反射:位相変化なし(ガラス→空気で $n$ 減少)。
(2) $2nd = \left(m + \dfrac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \ldots)$
方針:まず各反射での位相変化を判定し、光路差と合わせて干渉条件を立てる。
(1) 上面:空気($n = 1.0$、小)→ ガラス($n = 1.4$、大)への反射なので、位相が $\pi$ 反転。下面:ガラス($n = 1.4$、大)→ 空気($n = 1.0$、小)への反射なので、位相変化なし。
(2) 垂直入射のとき、下面反射光はガラス中を往復するので光路差は $2nd$。さらに上面反射で位相が $\pi$ 反転しているため、実効的に $\frac{\lambda}{2}$ の光路差が加わる。
強め合いの条件は「全体の光路差が波長の整数倍」なので、
$$2nd + \frac{\lambda}{2} = (m+1)\lambda$$
整理すると、
$$2nd = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \ldots)$$