第19章 光の干渉と回折

薄膜の干渉
─ シャボン玉の色

シャボン玉や油膜が虹色に見えるのは、薄い膜の表面と裏面で反射した光が干渉するためです。
ここで鍵となるのが光路差固定端反射(位相反転)の考え方です。
これらを正確に理解すれば、薄膜干渉の問題は機械的に解くことができます。

1薄膜干渉の原理

薄膜に光が入射すると、膜の上面で反射する光膜を透過して下面で反射し再び上面から出る光の2つが干渉します。

この2つの光の経路差によって、強め合い(明るい)か弱め合い(暗い)かが決まります。

💡 ここが本質:薄膜干渉の3つの要素

薄膜干渉の条件を考えるには、次の3つを正確に把握する必要があります。

光路差:膜の中を往復する距離($2nt$、$t$は膜の厚さ、$n$は膜の屈折率)

上面での反射の位相変化:$n_{\text{外}} < n_{\text{膜}}$ なら位相が $\pi$(半波長分)ずれる

下面での反射の位相変化:$n_{\text{膜}} > n_{\text{下}}$ なら位相変化なし

2光路差と位相反転

光路差

屈折率 $n$、厚さ $t$ の薄膜を光が垂直に入射する場合、膜の中を往復する光路差は

📐 薄膜内の光路差

$$\Delta = 2nt$$

※ 膜中の波長は真空中の $1/n$ 倍なので、幾何学的距離 $2t$ に屈折率 $n$ をかけて光路差とする。斜め入射の場合は $2nt\cos\theta_r$($\theta_r$は膜中での屈折角)。

固定端反射の位相反転

光が屈折率の小さい媒質から大きい媒質の境界面で反射するとき、位相が $\pi$(半波長分)反転します。これは波の固定端反射に対応します。

逆に、屈折率の大きい媒質から小さい媒質の境界面での反射では、位相は変化しません(自由端反射に対応)。

⚠️ 落とし穴:位相反転の「半波長ずれ」を忘れる

薄膜干渉で最も多いミスは、反射時の位相変化を考慮しないことです。

✕ 誤:光路差 $2nt$ だけで干渉条件を判定する

○ 正:各面での反射による位相変化を考慮した上で干渉条件を判定する

上面と下面の反射で位相反転の回数が異なると、半波長分の追加の経路差が生じます。

反射面屈折率の関係位相変化
上面(入射側)$n_{\text{外}} < n_{\text{膜}}$ のとき$\pi$(半波長反転あり)
上面(入射側)$n_{\text{外}} > n_{\text{膜}}$ のときなし
下面(透過側)$n_{\text{膜}} > n_{\text{下}}$ のときなし
下面(透過側)$n_{\text{膜}} < n_{\text{下}}$ のとき$\pi$(半波長反転あり)

3干渉条件の導出

ケース1:空気中の薄膜($n_{\text{空気}} < n_{\text{膜}} > n_{\text{空気}}$)

上面で位相反転あり、下面で位相反転なし。反転回数が奇数(1回)なので、半波長分の追加経路差あり。

📐 空気中の薄膜の干渉条件(垂直入射)

強め合い(明):$2nt = \left(m - \dfrac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 1, 2, 3, \ldots)$

弱め合い(暗):$2nt = m\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \ldots)$

※ 位相反転1回(半波長ずれ)があるため、通常の強め合い条件と逆になる。

ケース2:ガラス上の薄膜($n_{\text{空気}} < n_{\text{膜}} < n_{\text{ガラス}}$)

上面でも下面でも位相反転あり。反転回数が偶数(2回)なので、半波長のずれは打ち消し合い、追加経路差なし。

📐 ガラス上の薄膜の干渉条件(垂直入射)

強め合い(明):$2nt = m\lambda \quad (m = 1, 2, 3, \ldots)$

弱め合い(暗):$2nt = \left(m + \dfrac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \ldots)$

※ 両面で位相反転するため通常の干渉条件と同じ形になる。
💡 ここが本質:反転回数が奇数か偶数かで条件が逆転

位相反転の回数が奇数回(片方の面だけ反転)→ 通常と逆の条件($2nt = (m-1/2)\lambda$ で強め合い)

位相反転の回数が偶数回(両面で反転 or 両面で反転なし)→ 通常の条件($2nt = m\lambda$ で強め合い)

この判定法を覚えれば、どんな薄膜でも迷わず条件を書けます。

4身近な薄膜干渉

シャボン玉

シャボン玉の膜は空気中に浮かぶ薄い水の膜です。膜の厚さが場所によって異なるため、各場所で強め合う波長が異なり、虹色に見えます。

油膜

水面に浮かぶ油の薄膜も同じ原理です。$n_{\text{空気}} < n_{\text{油}} > n_{\text{水}}$ のパターンが多いです。

反射防止膜(ARコート)

カメラレンズの表面にはMgF$_2$などの薄膜がコーティングされています。膜の厚さを $t = \lambda/(4n)$ に設定すると、反射光が弱め合って反射率が下がります。

🔬 深掘り:反射防止の条件

$n_{\text{空気}} < n_{\text{膜}} < n_{\text{ガラス}}$ の場合、両面で位相反転するので、弱め合い条件は $2nt = (m + 1/2)\lambda$。

$m = 0$ のとき $t = \lambda/(4n)$ で最も薄い反射防止膜が得られます。これを4分の1波長膜と呼びます。

5この章を俯瞰する

薄膜の干渉は光の干渉現象の中でも最も身近で、かつ入試頻出のテーマです。

つながりマップ

  • ← W-5-1 ヤングの実験:2光波の干渉条件の基本が薄膜にも適用される。
  • ← W-4-3 全反射と臨界角:反射の位相変化は固定端・自由端反射に対応。
  • → W-5-5 ニュートンリング:空気層の薄膜干渉の具体例。
  • → W-5-6 くさび形空気層:厚さが変化する薄膜の干渉。

📋まとめ

  • 薄膜内の光路差:$2nt$(垂直入射の場合)
  • 固定端反射($n$ 小→大)で位相が $\pi$ 反転(半波長ずれ)
  • 位相反転が奇数回で条件が逆転、偶数回で通常通り
  • 空気中の薄膜:強め合い $2nt = (m - 1/2)\lambda$
  • ガラス上の薄膜:強め合い $2nt = m\lambda$
  • 反射防止膜は$t = \lambda/(4n)$(4分の1波長膜)

確認テスト

Q1. 光が屈折率の小さい媒質から大きい媒質の境界面で反射するとき、位相はどうなりますか。

▶ クリックして解答を表示位相が $\pi$(半波長分)反転します(固定端反射)。

Q2. 空気中の薄膜(屈折率 $n$、厚さ $t$)で反射光が強め合う条件を書いてください。

▶ クリックして解答を表示$2nt = (m - 1/2)\lambda$($m = 1, 2, 3, \ldots$)。上面で位相反転あり、下面でなしのため。

Q3. シャボン玉が虹色に見える理由を簡潔に説明してください。

▶ クリックして解答を表示膜の厚さが場所によって異なるため、各場所で強め合う波長(色)が異なり、虹色に見えます。

Q4. 反射防止膜の最小厚さはいくらですか。

▶ クリックして解答を表示$t = \lambda/(4n)$。この厚さで反射光が弱め合い、反射率が最小になります(4分の1波長膜)。

8入試問題演習

A 基礎レベル

5-4-1A 基礎薄膜計算

空気中にある屈折率 $n = 1.40$ の薄膜に波長 $560\,\text{nm}$ の光を垂直に入射させる。反射光が強め合うための膜の最小厚さを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$t = 100\,\text{nm}$

解説

空気中の薄膜なので強め合い条件:$2nt = (m - 1/2)\lambda$

最小厚さは $m = 1$:$2 \times 1.40 \times t = \dfrac{1}{2} \times 560$ → $2.80t = 280$ → $t = 100\,\text{nm}$

5-4-2A 基礎位相反転選択

次の各境界面での反射で、位相反転が起こるものをすべて選べ。

(ア) 空気→ガラス (イ) ガラス→空気 (ウ) 水→油($n_{\text{油}} > n_{\text{水}}$) (エ) ガラス→水

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(ア) と (ウ)

解説

位相反転は $n$ 小→大の反射で起こります。(ア) 空気(1.0)→ガラス(1.5):小→大。(ウ) 水→油:小→大。(イ)(エ)は大→小なので反転なし。

B 発展レベル

5-4-3B 発展反射防止膜計算

屈折率 $n_g = 1.52$ のガラス表面に、屈折率 $n_f = 1.38$ の薄膜をコーティングして反射防止膜を作る。波長 $550\,\text{nm}$ の光に対して反射を最小にする膜の最小厚さを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$t \approx 99.6\,\text{nm} \approx 100\,\text{nm}$

解説

$n_{\text{空気}} < n_f < n_g$ なので両面で位相反転(偶数回)。弱め合い条件:$2n_f t = (m + 1/2)\lambda$

$m = 0$:$t = \dfrac{\lambda}{4n_f} = \dfrac{550}{4 \times 1.38} = \dfrac{550}{5.52} \approx 99.6\,\text{nm}$

採点ポイント
  • 位相反転の回数を正しく判定(3点)
  • 弱め合い条件を正しく立てる(4点)
  • 計算が正確(3点)
5-4-4B 発展油膜計算

水面($n_w = 1.33$)上に屈折率 $n_o = 1.45$ の油の薄膜が浮いている。白色光を垂直に照射したとき、反射光で最も強く見える色の波長を求めよ。膜の厚さは $300\,\text{nm}$ とする。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$\lambda = 580\,\text{nm}$(黄色付近)と $\lambda = 348\,\text{nm}$(紫外線、不可視)

可視光では $580\,\text{nm}$(黄色)

解説

$n_{\text{空気}} < n_o$ → 上面で位相反転あり。$n_o > n_w$ → 下面で位相反転なし。奇数回反転。

強め合い:$2n_o t = (m - 1/2)\lambda$ → $\lambda = \dfrac{2n_o t}{m - 1/2}$

$2n_o t = 2 \times 1.45 \times 300 = 870\,\text{nm}$

$m = 1$:$\lambda = 870/0.5 = 1740\,\text{nm}$(赤外線)

$m = 2$:$\lambda = 870/1.5 = 580\,\text{nm}$(黄色)

$m = 3$:$\lambda = 870/2.5 = 348\,\text{nm}$(紫外線)

採点ポイント
  • 位相反転の判定(3点)
  • 強め合い条件の適用(3点)
  • 可視光範囲の波長を正しく求める(4点)

C 応用レベル

5-4-5C 応用斜め入射計算

空気中にある屈折率 $n = 1.50$、厚さ $t$ の薄膜に入射角 $\theta_1 = 30°$ で光(波長 $\lambda = 600\,\text{nm}$)を入射させた。反射光が強め合うための膜の最小厚さを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$t \approx 109\,\text{nm}$

解説

斜め入射の光路差:$\Delta = 2nt\cos\theta_r$($\theta_r$は膜内での屈折角)

スネルの法則:$\sin 30° = 1.50 \sin\theta_r$ → $\sin\theta_r = 1/3$ → $\cos\theta_r = \sqrt{1 - 1/9} = \sqrt{8/9} = \dfrac{2\sqrt{2}}{3}$

空気中の薄膜で奇数回位相反転。強め合い条件($m=1$):$2nt\cos\theta_r = \lambda/2$

$t = \dfrac{\lambda}{4n\cos\theta_r} = \dfrac{600}{4 \times 1.50 \times \frac{2\sqrt{2}}{3}} = \dfrac{600}{4\sqrt{2}} = \dfrac{150}{\sqrt{2}} \approx 106\,\text{nm}$

採点ポイント
  • 斜め入射の光路差公式を正しく使う(4点)
  • 屈折角を正しく求める(3点)
  • 最小厚さを正しく求める(3点)
5-4-6C 応用多層膜論述

反射防止膜として最適な膜の屈折率の条件を考える。空気($n_0 = 1.00$)とガラス($n_g$)の間に屈折率 $n_f$ の薄膜を挟むとき、膜の上面と下面の反射光の振幅が等しくなる(完全に打ち消し合える)ための $n_f$ の条件を、$n_0$ と $n_g$ を用いて表せ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$n_f = \sqrt{n_0 \cdot n_g} = \sqrt{n_g}$($n_0 = 1$ のとき)

解説

境界面での反射率は屈折率の比で決まります。垂直入射のフレネル係数:$r = \dfrac{n_1 - n_2}{n_1 + n_2}$

上面:$r_1 = \dfrac{n_0 - n_f}{n_0 + n_f}$、下面:$r_2 = \dfrac{n_f - n_g}{n_f + n_g}$

$|r_1| = |r_2|$ の条件:$\dfrac{n_f - n_0}{n_f + n_0} = \dfrac{n_g - n_f}{n_g + n_f}$

交差して展開すると $n_f^2 = n_0 \cdot n_g$ → $n_f = \sqrt{n_0 n_g}$

ガラス($n_g = 1.52$)に対して $n_f = \sqrt{1.52} \approx 1.23$。MgF$_2$($n = 1.38$)は理想値には届きませんが、最もよく使われる材料です。

採点ポイント
  • フレネル係数を用いて反射率を表す(3点)
  • 等振幅条件を立式する(4点)
  • $n_f = \sqrt{n_0 n_g}$ を導く(3点)