シャボン玉や油膜が虹色に見えるのは、薄い膜の表面と裏面で反射した光が干渉するためです。
ここで鍵となるのが光路差と固定端反射(位相反転)の考え方です。
これらを正確に理解すれば、薄膜干渉の問題は機械的に解くことができます。
薄膜に光が入射すると、膜の上面で反射する光と膜を透過して下面で反射し再び上面から出る光の2つが干渉します。
この2つの光の経路差によって、強め合い(明るい)か弱め合い(暗い)かが決まります。
薄膜干渉の条件を考えるには、次の3つを正確に把握する必要があります。
① 光路差:膜の中を往復する距離($2nt$、$t$は膜の厚さ、$n$は膜の屈折率)
② 上面での反射の位相変化:$n_{\text{外}} < n_{\text{膜}}$ なら位相が $\pi$(半波長分)ずれる
③ 下面での反射の位相変化:$n_{\text{膜}} > n_{\text{下}}$ なら位相変化なし
屈折率 $n$、厚さ $t$ の薄膜を光が垂直に入射する場合、膜の中を往復する光路差は
$$\Delta = 2nt$$
光が屈折率の小さい媒質から大きい媒質の境界面で反射するとき、位相が $\pi$(半波長分)反転します。これは波の固定端反射に対応します。
逆に、屈折率の大きい媒質から小さい媒質の境界面での反射では、位相は変化しません(自由端反射に対応)。
薄膜干渉で最も多いミスは、反射時の位相変化を考慮しないことです。
✕ 誤:光路差 $2nt$ だけで干渉条件を判定する
○ 正:各面での反射による位相変化を考慮した上で干渉条件を判定する
上面と下面の反射で位相反転の回数が異なると、半波長分の追加の経路差が生じます。
| 反射面 | 屈折率の関係 | 位相変化 |
|---|---|---|
| 上面(入射側) | $n_{\text{外}} < n_{\text{膜}}$ のとき | $\pi$(半波長反転あり) |
| 上面(入射側) | $n_{\text{外}} > n_{\text{膜}}$ のとき | なし |
| 下面(透過側) | $n_{\text{膜}} > n_{\text{下}}$ のとき | なし |
| 下面(透過側) | $n_{\text{膜}} < n_{\text{下}}$ のとき | $\pi$(半波長反転あり) |
上面で位相反転あり、下面で位相反転なし。反転回数が奇数(1回)なので、半波長分の追加経路差あり。
強め合い(明):$2nt = \left(m - \dfrac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 1, 2, 3, \ldots)$
弱め合い(暗):$2nt = m\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \ldots)$
上面でも下面でも位相反転あり。反転回数が偶数(2回)なので、半波長のずれは打ち消し合い、追加経路差なし。
強め合い(明):$2nt = m\lambda \quad (m = 1, 2, 3, \ldots)$
弱め合い(暗):$2nt = \left(m + \dfrac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \ldots)$
位相反転の回数が奇数回(片方の面だけ反転)→ 通常と逆の条件($2nt = (m-1/2)\lambda$ で強め合い)
位相反転の回数が偶数回(両面で反転 or 両面で反転なし)→ 通常の条件($2nt = m\lambda$ で強め合い)
この判定法を覚えれば、どんな薄膜でも迷わず条件を書けます。
シャボン玉の膜は空気中に浮かぶ薄い水の膜です。膜の厚さが場所によって異なるため、各場所で強め合う波長が異なり、虹色に見えます。
水面に浮かぶ油の薄膜も同じ原理です。$n_{\text{空気}} < n_{\text{油}} > n_{\text{水}}$ のパターンが多いです。
カメラレンズの表面にはMgF$_2$などの薄膜がコーティングされています。膜の厚さを $t = \lambda/(4n)$ に設定すると、反射光が弱め合って反射率が下がります。
$n_{\text{空気}} < n_{\text{膜}} < n_{\text{ガラス}}$ の場合、両面で位相反転するので、弱め合い条件は $2nt = (m + 1/2)\lambda$。
$m = 0$ のとき $t = \lambda/(4n)$ で最も薄い反射防止膜が得られます。これを4分の1波長膜と呼びます。
薄膜の干渉は光の干渉現象の中でも最も身近で、かつ入試頻出のテーマです。
Q1. 光が屈折率の小さい媒質から大きい媒質の境界面で反射するとき、位相はどうなりますか。
Q2. 空気中の薄膜(屈折率 $n$、厚さ $t$)で反射光が強め合う条件を書いてください。
Q3. シャボン玉が虹色に見える理由を簡潔に説明してください。
Q4. 反射防止膜の最小厚さはいくらですか。
空気中にある屈折率 $n = 1.40$ の薄膜に波長 $560\,\text{nm}$ の光を垂直に入射させる。反射光が強め合うための膜の最小厚さを求めよ。
$t = 100\,\text{nm}$
空気中の薄膜なので強め合い条件:$2nt = (m - 1/2)\lambda$
最小厚さは $m = 1$:$2 \times 1.40 \times t = \dfrac{1}{2} \times 560$ → $2.80t = 280$ → $t = 100\,\text{nm}$
次の各境界面での反射で、位相反転が起こるものをすべて選べ。
(ア) 空気→ガラス (イ) ガラス→空気 (ウ) 水→油($n_{\text{油}} > n_{\text{水}}$) (エ) ガラス→水
(ア) と (ウ)
位相反転は $n$ 小→大の反射で起こります。(ア) 空気(1.0)→ガラス(1.5):小→大。(ウ) 水→油:小→大。(イ)(エ)は大→小なので反転なし。
屈折率 $n_g = 1.52$ のガラス表面に、屈折率 $n_f = 1.38$ の薄膜をコーティングして反射防止膜を作る。波長 $550\,\text{nm}$ の光に対して反射を最小にする膜の最小厚さを求めよ。
$t \approx 99.6\,\text{nm} \approx 100\,\text{nm}$
$n_{\text{空気}} < n_f < n_g$ なので両面で位相反転(偶数回)。弱め合い条件:$2n_f t = (m + 1/2)\lambda$
$m = 0$:$t = \dfrac{\lambda}{4n_f} = \dfrac{550}{4 \times 1.38} = \dfrac{550}{5.52} \approx 99.6\,\text{nm}$
水面($n_w = 1.33$)上に屈折率 $n_o = 1.45$ の油の薄膜が浮いている。白色光を垂直に照射したとき、反射光で最も強く見える色の波長を求めよ。膜の厚さは $300\,\text{nm}$ とする。
$\lambda = 580\,\text{nm}$(黄色付近)と $\lambda = 348\,\text{nm}$(紫外線、不可視)
可視光では $580\,\text{nm}$(黄色)
$n_{\text{空気}} < n_o$ → 上面で位相反転あり。$n_o > n_w$ → 下面で位相反転なし。奇数回反転。
強め合い:$2n_o t = (m - 1/2)\lambda$ → $\lambda = \dfrac{2n_o t}{m - 1/2}$
$2n_o t = 2 \times 1.45 \times 300 = 870\,\text{nm}$
$m = 1$:$\lambda = 870/0.5 = 1740\,\text{nm}$(赤外線)
$m = 2$:$\lambda = 870/1.5 = 580\,\text{nm}$(黄色)
$m = 3$:$\lambda = 870/2.5 = 348\,\text{nm}$(紫外線)
空気中にある屈折率 $n = 1.50$、厚さ $t$ の薄膜に入射角 $\theta_1 = 30°$ で光(波長 $\lambda = 600\,\text{nm}$)を入射させた。反射光が強め合うための膜の最小厚さを求めよ。
$t \approx 109\,\text{nm}$
斜め入射の光路差:$\Delta = 2nt\cos\theta_r$($\theta_r$は膜内での屈折角)
スネルの法則:$\sin 30° = 1.50 \sin\theta_r$ → $\sin\theta_r = 1/3$ → $\cos\theta_r = \sqrt{1 - 1/9} = \sqrt{8/9} = \dfrac{2\sqrt{2}}{3}$
空気中の薄膜で奇数回位相反転。強め合い条件($m=1$):$2nt\cos\theta_r = \lambda/2$
$t = \dfrac{\lambda}{4n\cos\theta_r} = \dfrac{600}{4 \times 1.50 \times \frac{2\sqrt{2}}{3}} = \dfrac{600}{4\sqrt{2}} = \dfrac{150}{\sqrt{2}} \approx 106\,\text{nm}$
反射防止膜として最適な膜の屈折率の条件を考える。空気($n_0 = 1.00$)とガラス($n_g$)の間に屈折率 $n_f$ の薄膜を挟むとき、膜の上面と下面の反射光の振幅が等しくなる(完全に打ち消し合える)ための $n_f$ の条件を、$n_0$ と $n_g$ を用いて表せ。
$n_f = \sqrt{n_0 \cdot n_g} = \sqrt{n_g}$($n_0 = 1$ のとき)
境界面での反射率は屈折率の比で決まります。垂直入射のフレネル係数:$r = \dfrac{n_1 - n_2}{n_1 + n_2}$
上面:$r_1 = \dfrac{n_0 - n_f}{n_0 + n_f}$、下面:$r_2 = \dfrac{n_f - n_g}{n_f + n_g}$
$|r_1| = |r_2|$ の条件:$\dfrac{n_f - n_0}{n_f + n_0} = \dfrac{n_g - n_f}{n_g + n_f}$
交差して展開すると $n_f^2 = n_0 \cdot n_g$ → $n_f = \sqrt{n_0 n_g}$
ガラス($n_g = 1.52$)に対して $n_f = \sqrt{1.52} \approx 1.23$。MgF$_2$($n = 1.38$)は理想値には届きませんが、最もよく使われる材料です。