第27章 電子と光

光電効果
─ 光のエネルギーは振動数で決まる

金属に光を当てると電子が飛び出す──これが光電効果です。
しかし、この現象には古典的な波動論では説明できない不思議な性質がありました。光の強さを上げても飛び出す電子のエネルギーは変わらず、振動数を上げると初めてエネルギーが増す。
アインシュタインは「光はエネルギーの粒(光量子)である」という大胆な仮説でこの謎を見事に解き明かし、ノーベル賞を受賞しました。

1光電効果とは何か

金属の表面に光を当てると、金属内部の電子が光のエネルギーを受け取って飛び出してくる現象を光電効果といいます。このとき飛び出した電子を光電子と呼びます。

1887年、ヘルツが電磁波の実験中に偶然発見し、その後レーナルトが詳しい実験を行いました。光電効果は、光と物質の相互作用を理解するうえで決定的に重要な現象です。

光電効果の実験装置

真空管の中に金属板(陰極)と集電極(陽極)を向かい合わせに配置します。金属板に光を当て、飛び出した光電子が陽極に到達すると電流(光電流)が流れます。

実験から判明した事実

  • 事実1:光の振動数がある値(限界振動数 $\nu_0$)以上でなければ、光電子は飛び出さない
  • 事実2:振動数が $\nu_0$ 以上であれば、光を当てた瞬間に光電子が飛び出す(時間の遅れがない)
  • 事実3:光の強さ(明るさ)を増しても、光電子1個の最大運動エネルギーは変わらない
  • 事実4:光の強さを増すと、飛び出す光電子の数が増える(光電流が増える)
  • 事実5:光電子の最大運動エネルギーは、光の振動数に比例して増加する
💡 ここが本質:「強い光」と「振動数の高い光」は違う

日常感覚では「明るい光=エネルギーが大きい」と思いがちですが、光電効果が教える真実は異なります。

光電子1個のエネルギーを決めるのは光の振動数(色)であり、光の強さ(明るさ)ではありません。強い光は「光子の数が多い」だけであり、1個1個の光子のエネルギーは振動数で決まります。

2古典論の破綻 ─ 波では説明できない

光を古典的な波と考えると、光電効果の実験結果は全く説明できません。波動論では次のように予測されるはずです。

  • 光の強さ(振幅の2乗)が大きいほど、電子に与えるエネルギーが大きくなるはず → 事実3に矛盾
  • 弱い光でも長時間当て続ければ、電子がエネルギーを蓄積して飛び出せるはず → 事実2に矛盾
  • 振動数に関係なく、十分強い光なら電子を飛び出させられるはず → 事実1に矛盾
⚠️ 落とし穴:「光が波なら光電効果も説明できる」と思い込む

✕ 誤:光の波としてのエネルギーが十分大きければ、どんな光でも電子を飛び出させられる

○ 正:いくら強い光(赤い光など振動数が低い光)を当てても、限界振動数以下なら光電子は1個も飛び出しません

これが古典的な波動論の最大の矛盾であり、光の粒子性を認めざるを得なくなった決定的な証拠です。

阻止電圧と最大運動エネルギー

光電子の最大運動エネルギーは、阻止電圧(stopping voltage)$V_0$ を使って測定します。陽極に負の電圧をかけ、光電流がちょうど0になる電圧が阻止電圧です。

📐 阻止電圧と最大運動エネルギー

$$\frac{1}{2}mv_{\max}^2 = eV_0$$

※ $m$:電子の質量、$v_{\max}$:光電子の最大速さ、$e$:電気素量、$V_0$:阻止電圧。光電子が阻止電圧に逆らって到達できなくなる条件から導かれる。
⚠️ 落とし穴:阻止電圧は光の強さで変わると思い込む

✕ 誤:光を強くすると阻止電圧が大きくなる

○ 正:阻止電圧は光の振動数のみで決まり、光の強さ(明るさ)には依存しません

光を強くすると光電流の最大値は増えますが、阻止電圧は変わりません。

3アインシュタインの光量子仮説

1905年、アインシュタインは光電効果を説明するために、画期的な仮説を提唱しました。

光は振動数 $\nu$ に比例するエネルギー $h\nu$ をもつ粒子(光量子、のちに光子と呼ばれる)の集まりである。

📐 光子1個のエネルギー

$$E = h\nu$$

※ $h$:プランク定数($h = 6.63 \times 10^{-34}\,\text{J}\cdot\text{s}$)、$\nu$:光の振動数 [Hz]。$\nu = c/\lambda$ より $E = hc/\lambda$ とも書ける。

この仮説によれば、光電効果は次のように説明されます。

  1. 光子1個が金属内の電子1個にエネルギー $h\nu$ を丸ごと渡す(1対1の相互作用)
  2. 電子が金属表面から飛び出すには、最低限の仕事(仕事関数 $W$)が必要
  3. $h\nu < W$ なら光電子は飛び出せない → 限界振動数の存在(事実1)を説明
  4. 光子との衝突は瞬間的 → 時間遅れなし(事実2)を説明
  5. 光の強さを上げても光子1個のエネルギーは $h\nu$ のまま → 最大運動エネルギー不変(事実3)を説明
  6. 光を強くすると光子の数が増える → 光電子の数が増える(事実4)を説明
💡 ここが本質:光は「粒」でもあり「波」でもある

光電効果は、光が波としてだけでなく粒子としての性質をもつことを示す決定的な証拠です。

光の干渉・回折は波の性質、光電効果は粒子の性質を示します。光は波と粒子の二重性(光の粒子・波動二重性)をもっているのです。これは日常的な感覚では理解しがたいですが、ミクロの世界を支配する量子力学の根幹をなす考え方です。

🔬 深掘り:プランク定数 $h$ の起源

プランク定数は1900年にマックス・プランクが黒体放射の理論で導入した定数です。プランクは「物質がエネルギーを放出・吸収するとき、$h\nu$ の整数倍で行う」と仮定しましたが、光そのものが粒子であるとまでは考えませんでした。

アインシュタインはこれを一歩進め、光自体がエネルギー $h\nu$ の粒子であると主張しました。プランクの量子仮説をより本質的な形で発展させたのです。

4光電効果の式と限界振動数

光子のエネルギー $h\nu$ の一部が仕事関数 $W$ として金属から電子を引き離すのに使われ、残りが光電子の運動エネルギーになります。

📐 アインシュタインの光電効果の式

$$\frac{1}{2}mv_{\max}^2 = h\nu - W$$

※ $\frac{1}{2}mv_{\max}^2$:光電子の最大運動エネルギー、$h\nu$:入射光子のエネルギー、$W$:仕事関数(金属から電子を取り出すのに必要な最小エネルギー)。

限界振動数と限界波長

光電子がぎりぎり飛び出す条件は、最大運動エネルギーが0になるときです。このとき、

$$0 = h\nu_0 - W \quad \Longrightarrow \quad \nu_0 = \frac{W}{h}$$

この $\nu_0$ を限界振動数といいます。対応する波長 $\lambda_0 = c/\nu_0$ を限界波長といいます。

📐 限界振動数・限界波長

$$\nu_0 = \frac{W}{h}, \qquad \lambda_0 = \frac{hc}{W}$$

※ $\nu < \nu_0$($\lambda > \lambda_0$)の光では光電効果は起こらない。
▷ 光電効果の式を限界振動数で書き直す

$W = h\nu_0$ を光電効果の式に代入すると、

$$\frac{1}{2}mv_{\max}^2 = h\nu - h\nu_0 = h(\nu - \nu_0)$$

つまり、光電子の最大運動エネルギーは、入射光の振動数と限界振動数の差に比例します。

阻止電圧 $V_0$ を使うと、

$$eV_0 = h\nu - W$$

$$V_0 = \frac{h}{e}\nu - \frac{W}{e}$$

これは $V_0$ と $\nu$ の関係が一次関数であることを示しています。グラフの傾きは $h/e$ で、$\nu$ 切片が $\nu_0$ です。

⚠️ 落とし穴:限界波長と限界振動数の大小関係

✕ 誤:限界振動数以上 → 限界波長以上の光が必要

○ 正:限界振動数以上 → 限界波長以下の光が必要

$\nu = c/\lambda$ より、振動数が大きいほど波長は短くなります。限界振動数 $\nu_0$ 以上とは、限界波長 $\lambda_0$ 以下を意味します。不等号の向きが逆転することに注意しましょう。

💡 ここが本質:グラフから $h$ と $W$ が求まる

阻止電圧 $V_0$ を縦軸、振動数 $\nu$ を横軸にとってグラフを描くと、直線になります。

傾き = $h/e$ → プランク定数 $h$ が求まる

$\nu$ 切片 = $\nu_0$ → 限界振動数、すなわち仕事関数 $W = h\nu_0$ が求まる

ミリカンは1916年にこの方法でプランク定数を精密に測定し、アインシュタインの理論を実験的に確認しました。

🔬 深掘り:仕事関数は金属によって異なる

仕事関数 $W$ は金属の種類によって異なります。代表的な値を示します。

金属 仕事関数 $W$ [eV] 限界波長 $\lambda_0$ [nm]
セシウム(Cs) $2.1$ $590$(可視光・黄色)
ナトリウム(Na) $2.3$ $540$(可視光・緑)
亜鉛(Zn) $3.6$ $340$(紫外線)
白金(Pt) $5.6$ $220$(紫外線)

5つながりマップ

光電効果は、光の粒子性を初めて明確に示した現象であり、量子力学の出発点の一つです。

  • ← A-1-1 電子の発見:光電効果で飛び出す粒子が電子であることは、トムソンの発見を前提としている。
  • ← A-1-2 ミリカンの実験:電気素量 $e$ の値を使って阻止電圧からエネルギーを求める。ミリカン自身が光電効果でプランク定数を測定した。
  • → A-1-4 光子のエネルギーと運動量:$E = h\nu$ に加えて光子の運動量 $p = h/\lambda$ を学ぶ。
  • → A-1-5 コンプトン効果:光子が粒子として電子と衝突する現象。光の粒子性のさらなる証拠。
  • → A-1-8 物質波:光に粒子性があるなら、逆に粒子にも波動性があるのでは?という発想へ。

📋まとめ

  • 光電効果とは、金属に光を当てると電子(光電子)が飛び出す現象である
  • 光電子の最大運動エネルギーは光の振動数で決まり、光の強さ(明るさ)には依存しない
  • アインシュタインの光電効果の式:$\dfrac{1}{2}mv_{\max}^2 = h\nu - W$
  • 仕事関数 $W$ は金属から電子を取り出すのに必要な最小エネルギーで、金属の種類により異なる
  • 限界振動数 $\nu_0 = W/h$ 未満の光では光電効果は起こらない
  • 阻止電圧 $V_0$ と振動数 $\nu$ のグラフは直線になり、傾きからプランク定数 $h$ が求まる

確認テスト

Q1. 光電効果とは何ですか。簡潔に説明してください。

▶ クリックして解答を表示金属に光を当てると、金属表面から電子(光電子)が飛び出す現象です。

Q2. 光電子の最大運動エネルギーを大きくするには、光のどの量を変えればよいですか。

▶ クリックして解答を表示光の振動数を高くします(波長を短くする)。光の強さを増しても最大運動エネルギーは変わりません。

Q3. アインシュタインの光電効果の式を書いてください。各記号の意味も述べてください。

▶ クリックして解答を表示$\frac{1}{2}mv_{\max}^2 = h\nu - W$。$m$:電子の質量、$v_{\max}$:光電子の最大速さ、$h$:プランク定数、$\nu$:入射光の振動数、$W$:仕事関数。

Q4. 限界振動数 $\nu_0$ とは何ですか。光電効果の式を使って $\nu_0$ を表してください。

▶ クリックして解答を表示光電子がぎりぎり飛び出せる振動数の最小値。$\nu_0 = W/h$。$\nu < \nu_0$ の光では光電効果は起こりません。

8入試問題演習

光電効果に関する入試レベルの問題で理解を確認しましょう。

A 基礎レベル

27-3-1 A 基礎 光電効果の式計算

仕事関数 $W = 4.0\,\text{eV}$ の金属に、振動数 $\nu = 1.5 \times 10^{15}\,\text{Hz}$ の光を照射した。プランク定数を $h = 6.6 \times 10^{-34}\,\text{J}\cdot\text{s}$、$1\,\text{eV} = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{J}$ として、次の問いに答えよ。

(1) 入射光子1個のエネルギーを eV で求めよ。

(2) 光電子の最大運動エネルギーを eV で求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 約 $6.2\,\text{eV}$

(2) 約 $2.2\,\text{eV}$

解説

(1) $E = h\nu = 6.6 \times 10^{-34} \times 1.5 \times 10^{15} = 9.9 \times 10^{-19}\,\text{J}$

$E = \dfrac{9.9 \times 10^{-19}}{1.6 \times 10^{-19}} \approx 6.2\,\text{eV}$

(2) $\dfrac{1}{2}mv_{\max}^2 = h\nu - W = 6.2 - 4.0 = 2.2\,\text{eV}$

B 発展レベル

27-3-2 B 発展 阻止電圧グラフ

ある金属に種々の振動数の光を照射し、阻止電圧 $V_0$ を測定したところ、$V_0$ と $\nu$ の関係は直線になった。この直線は $\nu = 5.0 \times 10^{14}\,\text{Hz}$ で $V_0 = 0$ となり、$\nu = 1.0 \times 10^{15}\,\text{Hz}$ で $V_0 = 2.1\,\text{V}$ であった。$e = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{C}$ として、次の問いに答えよ。

(1) この金属の限界振動数と仕事関数を求めよ。

(2) グラフの傾きからプランク定数 $h$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $\nu_0 = 5.0 \times 10^{14}\,\text{Hz}$、$W \approx 2.1\,\text{eV}$

(2) $h \approx 6.7 \times 10^{-34}\,\text{J}\cdot\text{s}$

解説

方針:$eV_0 = h\nu - W$ より $V_0 = (h/e)\nu - W/e$。

(1) $V_0 = 0$ となる振動数が限界振動数。$\nu_0 = 5.0 \times 10^{14}\,\text{Hz}$。

$W = h\nu_0$ は (2) で $h$ を求めてから計算。

(2) 傾き $= \dfrac{\Delta V_0}{\Delta \nu} = \dfrac{2.1 - 0}{(1.0 - 0.50) \times 10^{15}} = \dfrac{2.1}{5.0 \times 10^{14}} = 4.2 \times 10^{-15}\,\text{V}\cdot\text{s}$

$\dfrac{h}{e} = 4.2 \times 10^{-15}$ より $h = 4.2 \times 10^{-15} \times 1.6 \times 10^{-19} = 6.7 \times 10^{-34}\,\text{J}\cdot\text{s}$

$W = h\nu_0 = 6.7 \times 10^{-34} \times 5.0 \times 10^{14} = 3.4 \times 10^{-19}\,\text{J} \approx 2.1\,\text{eV}$

採点ポイント
  • $V_0 = 0$ の振動数が限界振動数であることを理解している(2点)
  • グラフの傾きが $h/e$ であることを利用する(3点)
  • プランク定数を正しく計算する(3点)
  • 仕事関数を正しく求める(2点)

C 応用レベル

27-3-3 C 応用 光電効果論述

仕事関数 $W$ の金属に波長 $\lambda$ の単色光を照射したところ、光電効果が起こった。光速を $c$、プランク定数を $h$、電気素量を $e$ として、次の問いに答えよ。

(1) 光電子の最大運動エネルギーを $h$、$c$、$\lambda$、$W$ を用いて表せ。

(2) この光の強度を2倍にしたとき、光電子の最大運動エネルギーと光電流はどのように変化するか。理由とともに述べよ。

(3) 光電子を阻止するために必要な電圧 $V_0$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $K_{\max} = \dfrac{hc}{\lambda} - W$

(2) 最大運動エネルギーは変化しない。光電流は2倍になる。

(3) $V_0 = \dfrac{1}{e}\!\left(\dfrac{hc}{\lambda} - W\right)$

解説

(1) 光子のエネルギーは $E = h\nu = hc/\lambda$。光電効果の式より、

$$K_{\max} = \frac{hc}{\lambda} - W$$

(2) 光の強度を2倍にしても、光子1個のエネルギー $hc/\lambda$ は変わらないので、光電子の最大運動エネルギーは変化しません。一方、強度が2倍になると単位時間あたりの光子の数が2倍になるので、飛び出す光電子の数も2倍になり、光電流は2倍になります。

(3) 阻止電圧の条件 $eV_0 = K_{\max}$ より、

$$V_0 = \frac{K_{\max}}{e} = \frac{1}{e}\!\left(\frac{hc}{\lambda} - W\right)$$

採点ポイント
  • $h\nu = hc/\lambda$ の変換を正しく行う(2点)
  • 最大運動エネルギーが光の強さに依存しない理由を説明する(3点)
  • 光電流が2倍になる理由を光子の数で説明する(3点)
  • 阻止電圧を正しく導出する(2点)