不安定な原子核は放射線を放出して、より安定な原子核に変わります。
いつ崩壊するかは1個1個の原子核について予測できませんが、大量の原子核を見れば「半分が崩壊するのにかかる時間」は正確に決まっています。
この時間が半減期です。放射性年代測定にも使われるこの概念を学びましょう。
不安定な原子核が放射線を放出してより安定な原子核に変わる現象を放射性崩壊(放射性壊変)と呼びます。 主な崩壊の種類は次の3つです。
原子核が$\alpha$ 粒子(${}^{4}_{2}\text{He}$)を放出する崩壊です。 質量数が $4$ 減り、原子番号が $2$ 減ります。
$${}^{A}_{Z}\text{X} \to {}^{A-4}_{Z-2}\text{Y} + {}^{4}_{2}\text{He}$$
原子核内の中性子が陽子に変わり、電子($\beta^-$ 線)と反ニュートリノを放出する崩壊です。 質量数は変わらず、原子番号が $1$ 増えます。
$${}^{A}_{Z}\text{X} \to {}^{A}_{Z+1}\text{Y} + e^- + \bar{\nu}_e$$
$\alpha$ 崩壊や $\beta$ 崩壊の後、原子核が励起状態にある場合、 $\gamma$ 線(高エネルギーの電磁波)を放出して基底状態に移ります。 質量数も原子番号も変わりません。
| 崩壊の種類 | 放出される粒子 | 質量数の変化 | 原子番号の変化 |
|---|---|---|---|
| $\alpha$ 崩壊 | ${}^{4}_{2}\text{He}$ | $-4$ | $-2$ |
| $\beta^-$ 崩壊 | $e^-$(+ $\bar{\nu}_e$) | $0$ | $+1$ |
| $\gamma$ 崩壊 | $\gamma$ 線(光子) | $0$ | $0$ |
すべての崩壊で、質量数(核子数)と電荷(原子番号の合計)が保存されます。
これは反応式の左辺と右辺で、上の数字(質量数)の合計と下の数字(原子番号)の合計がそれぞれ等しいことで確認できます。
✕ 誤:$\beta^-$ 崩壊では電子が出るから原子番号が減る
○ 正:$\beta^-$ 崩壊では中性子が陽子に変わるため、原子番号は $1$ 増える
電子が放出されるので原子番号が減ると誤解しがちですが、核の中で中性子 $\to$ 陽子 $+$ 電子 $+$ 反ニュートリノの変換が起こっているのです。
放射性崩壊は確率的な現象です。 個々の原子核がいつ崩壊するかは予測できませんが、大量の原子核について統計的な法則が成り立ちます。
時刻 $t$ における放射性原子核の数 $N(t)$ は、
$$N(t) = N_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{t/T}$$
または
$$N(t) = N_0 \, e^{-\lambda t}$$
半減期 $T$ とは、放射性原子核の数が最初の半分になるまでの時間です。 半減期が経過するたびに残りの原子核は半分ずつ減っていきます。
半減期は温度、圧力、化学的状態などの外部条件にまったく影響されません。
各放射性同位体に固有の値であり、例えば ${}^{14}\text{C}$ の半減期は約 $5730$ 年、${}^{238}\text{U}$ は約 $45$ 億年です。この性質が放射性年代測定を可能にしています。
✕ 誤:1半減期で半分、2半減期でゼロになる
○ 正:2半減期後は $1/4$ が残る。いくら時間が経っても理論上はゼロにはならない(指数関数的減少)
半減期は「残りの半分が崩壊する時間」であり、「全体の半分が崩壊する時間」ではありません。残りに対して常に半分ずつ減っていきます。
半減期の問題は、$N(t) = N_0 (1/2)^{t/T}$ の式を使って解きます。 時間が半減期の整数倍であれば、$1/2$ を繰り返し掛けるだけで済みます。
半減期 $T = 8$ 日の放射性同位体が最初 $1600$ 個あるとき、$24$ 日後に残っている個数は、
$24/8 = 3$ 半減期 → $N = 1600 \times (1/2)^3 = 1600/8 = 200$ 個
放射能(活動度)は、単位時間あたりの崩壊数で定義されます。 単位はベクレル(Bq)で、$1\,\text{Bq}$ は毎秒1回の崩壊を意味します。
$$A(t) = \lambda N(t) = A_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{t/T}$$
$N(t) = N_0 e^{-\lambda t}$ で $t = T$ のとき $N = N_0/2$ とおくと、
$N_0/2 = N_0 e^{-\lambda T}$ → $1/2 = e^{-\lambda T}$ → $\lambda T = \ln 2$
よって $\lambda = \dfrac{\ln 2}{T} \approx \dfrac{0.693}{T}$ です。崩壊定数 $\lambda$ が大きいほど崩壊が速く、半減期が短くなります。
半減期が既知の放射性同位体を利用して、岩石や有機物の年代を推定する方法を放射性年代測定と呼びます。
生きている生物は大気中の ${}^{14}\text{C}$ を常に取り込んでいるため、体内の ${}^{14}\text{C}$ の割合は大気と同じです。 しかし生物が死ぬと ${}^{14}\text{C}$ の取り込みが止まり、$\beta$ 崩壊により減少していきます。 ${}^{14}\text{C}$ の半減期は約 $5730$ 年なので、現在の ${}^{14}\text{C}$ の残存割合から、 その生物が死んだ時期を推定できます。
たとえば、${}^{14}\text{C}$ の量が生きている状態の $1/4$ なら、2半減期(約 $11460$ 年)前に死んだことがわかります。
数十億年のスケールでは ${}^{238}\text{U}$(半減期 $45$ 億年)が使われます。${}^{238}\text{U}$ は一連の崩壊を経て最終的に ${}^{206}\text{Pb}$(鉛)になります。
岩石中の ${}^{238}\text{U}$ と ${}^{206}\text{Pb}$ の比率を測定することで、岩石の生成年代がわかります。地球の年齢(約 $46$ 億年)もこの方法で求められました。
放射性崩壊は原子核物理学の中心的なテーマです。
Q1. $\alpha$ 崩壊で質量数と原子番号はそれぞれいくつ変化しますか。
Q2. 半減期 $T = 10$ 日の放射性物質が最初 $800$ 個あるとき、$30$ 日後に残る個数は。
Q3. $\beta^-$ 崩壊で原子番号が増えるのはなぜですか。
Q4. 放射性炭素年代測定で ${}^{14}\text{C}$ の残存量が $1/8$ だったとき、何年前のものですか。
放射性崩壊と半減期に関する入試形式の問題です。
${}^{238}_{92}\text{U}$ が $\alpha$ 崩壊したあとの原子核の質量数と原子番号を求め、元素記号を答えよ。($Z = 90$ はトリウム Th)
${}^{234}_{90}\text{Th}$
$\alpha$ 崩壊では質量数が4減り原子番号が2減る。
${}^{238}_{92}\text{U} \to {}^{234}_{90}\text{Th} + {}^{4}_{2}\text{He}$
質量数:$238 = 234 + 4$ ✓、原子番号:$92 = 90 + 2$ ✓
ある放射性同位体の半減期は $6.0$ 時間である。最初の放射能が $3.2 \times 10^6\,\text{Bq}$ であったとき、$24$ 時間後の放射能を求めよ。
$2.0 \times 10^5\,\text{Bq}$
$24/6.0 = 4$ 半減期
$A = 3.2 \times 10^6 \times (1/2)^4 = 3.2 \times 10^6 / 16 = 2.0 \times 10^5\,\text{Bq}$
放射能は原子核数に比例するので、同じ崩壊則に従います。
ある遺跡から出土した木片に含まれる ${}^{14}\text{C}$ の量を測定したところ、現在の生きた木材に含まれる ${}^{14}\text{C}$ の量の $\dfrac{1}{4}$ であった。${}^{14}\text{C}$ の半減期を $5730$ 年として、次の問いに答えよ。
(1) この木片がいつごろ作られたか(何年前か)を求めよ。
(2) ${}^{14}\text{C}$ が $\beta^-$ 崩壊する反応式を書け。($Z = 7$:窒素 N)
(3) 半減期が温度や圧力に依存しない理由を簡潔に述べよ。
(1) 約 $11460$ 年前
(2) ${}^{14}_{6}\text{C} \to {}^{14}_{7}\text{N} + e^- + \bar{\nu}_e$
(3) 放射性崩壊は原子核内部の現象であり、原子核の外側の環境(温度、圧力、化学的状態)の影響を受けないため。
(1) $1/4 = (1/2)^2$ なので2半減期が経過。$2 \times 5730 = 11460$ 年前。
(2) $\beta^-$ 崩壊では質量数不変、原子番号 $+1$。${}^{14}_{6}\text{C}$ → ${}^{14}_{7}\text{N}$。
(3) 原子核の崩壊は核力と弱い相互作用に支配され、外部の熱エネルギーや圧力は核の内部状態にまったく影響しない。化学反応と根本的に異なる点。