放射性崩壊は原子核が自発的に変化する現象でした。
一方、外部から粒子を衝突させることで原子核を人工的に変換することもできます。
これが核反応です。ラザフォードによる人類初の核変換から、中性子の発見、人工放射能の発見まで、核反応の基本を学びましょう。
核反応とは、原子核に他の粒子($\alpha$ 粒子、陽子、中性子、$\gamma$ 線など)を衝突させて、 別の原子核や粒子に変換する反応のことです。
放射性崩壊が自発的に起こるのに対し、核反応は外部からエネルギーを加えることで起こります。 1919年、ラザフォードが窒素に $\alpha$ 粒子を衝突させて酸素と陽子を生成したのが、人類初の人工核変換です。
$${}^{14}_{7}\text{N} + {}^{4}_{2}\text{He} \to {}^{17}_{8}\text{O} + {}^{1}_{1}\text{H}$$
核反応とは、衝突によって核子(陽子・中性子)の組み合わせが変わる現象です。化学反応が電子の組み換え(結合の変化)であるのに対し、核反応は原子核そのものが変わる点が根本的に異なります。
核反応で扱うエネルギーは化学反応の約100万倍(MeVオーダー)です。
すべての核反応で、次の量が保存されます。
1. 質量数(核子数)の保存:反応前後で質量数の合計が等しい
2. 電荷(原子番号)の保存:反応前後で原子番号の合計が等しい
3. エネルギーの保存:運動エネルギー+質量エネルギー($mc^2$)の合計が等しい
4. 運動量の保存:反応前後で運動量の合計が等しい
未知の粒子を含む核反応式が出題されたとき、質量数と原子番号の保存則を使えば、未知の粒子を特定できます。
✕ 誤:$\beta$ 崩壊で電子の電荷を無視して保存則を適用する
○ 正:電子 $e^-$ は ${}^{0}_{-1}e$ として扱い、質量数 $0$、原子番号 $-1$ として保存則に含める
$\gamma$ 線(光子)は質量数 $0$、原子番号 $0$ です。ニュートリノも同様です。
$${}^{14}_{7}\text{N} + {}^{4}_{2}\text{He} \to {}^{17}_{8}\text{O} + {}^{1}_{1}\text{H}$$
窒素に $\alpha$ 粒子を衝突させて陽子を発見。人類初の人工核変換。
$${}^{9}_{4}\text{Be} + {}^{4}_{2}\text{He} \to {}^{12}_{6}\text{C} + {}^{1}_{0}\text{n}$$
ベリリウムに $\alpha$ 粒子を衝突させて中性子を発見。
$${}^{27}_{13}\text{Al} + {}^{4}_{2}\text{He} \to {}^{30}_{15}\text{P} + {}^{1}_{0}\text{n}$$
アルミニウムに $\alpha$ 粒子を衝突させて放射性リン ${}^{30}\text{P}$ を生成。人工放射性同位体の最初の例。
核反応式は化学反応式と似ていますが、原子核レベルの変換を表します。
略記法として ${}^{14}\text{N}(\alpha, p){}^{17}\text{O}$ のように書くこともあります。括弧の前が入射粒子、後が放出粒子です。
$\alpha = {}^4_2\text{He}$、$p = {}^1_1\text{H}$(陽子)、$n = {}^1_0\text{n}$(中性子)、$d = {}^2_1\text{H}$(重陽子)と略記します。
核反応前後で運動エネルギーの合計が変化する場合があります。 この変化量をQ値と呼びます。
$$Q = (\text{反応前の質量の合計} - \text{反応後の質量の合計}) \times c^2$$
$Q > 0$:発熱反応(エネルギーが放出される)
$Q < 0$:吸熱反応(エネルギーが必要)
核反応で質量が減る($Q > 0$)場合、減った質量がエネルギーとして放出されます。逆に質量が増える反応では、外部からエネルギーを供給する必要があります。
これはアインシュタインの$E = mc^2$ の直接的な帰結であり、次の記事「質量欠損と核エネルギー」で詳しく学びます。
核反応は原子核物理学と現代技術の基盤です。
Q1. 核反応で保存される量を2つ挙げてください。
Q2. 中性子を発見したのは誰ですか。またその反応式を書いてください。
Q3. Q値が正のとき、核反応は発熱反応ですか吸熱反応ですか。
Q4. $\beta$ 崩壊で放出される電子は核反応式でどのように表記しますか。
核反応に関する入試形式の問題です。
次の核反応式の空欄 X を埋めよ。
$${}^{23}_{11}\text{Na} + {}^{1}_{1}\text{H} \to {}^{A}_{Z}\text{X} + {}^{4}_{2}\text{He}$$
${}^{20}_{10}\text{Ne}$(ネオン)
質量数の保存:$23 + 1 = A + 4$ → $A = 20$
原子番号の保存:$11 + 1 = Z + 2$ → $Z = 10$(ネオン)
${}^{238}_{92}\text{U}$ は一連の $\alpha$ 崩壊と $\beta^-$ 崩壊を経て最終的に ${}^{206}_{82}\text{Pb}$ になる。この崩壊系列全体で $\alpha$ 崩壊は何回、$\beta^-$ 崩壊は何回起こるか。
$\alpha$ 崩壊 $8$ 回、$\beta^-$ 崩壊 $6$ 回
質量数の変化:$238 - 206 = 32$。$\alpha$ 崩壊1回で質量数が $4$ 減るので、$\alpha$ 崩壊の回数 $= 32/4 = 8$ 回。
原子番号の変化:$\alpha$ 崩壊8回で原子番号は $8 \times 2 = 16$ 減る。$92 - 16 = 76$。しかし最終的な原子番号は $82$ なので、$\beta^-$ 崩壊で $82 - 76 = 6$ だけ原子番号を増やす必要がある。よって $\beta^-$ 崩壊 $6$ 回。
検算:質量数 $238 - 4 \times 8 = 206$ ✓、原子番号 $92 - 2 \times 8 + 1 \times 6 = 82$ ✓
リチウム ${}^{7}_{3}\text{Li}$ に陽子を衝突させたところ、2個の $\alpha$ 粒子が生成された。
(1) この核反応の反応式を書け。
(2) 反応前の全質量が $8.02383\,\text{u}$、反応後の全質量が $8.00520\,\text{u}$ であるとき、Q値を MeV 単位で求めよ。ただし $1\,\text{u} = 931.5\,\text{MeV}/c^2$ とする。
(3) この反応が発熱反応である理由を述べよ。
(1) ${}^{7}_{3}\text{Li} + {}^{1}_{1}\text{H} \to {}^{4}_{2}\text{He} + {}^{4}_{2}\text{He}$
(2) $Q \approx 17.3\,\text{MeV}$
(3) 反応前の質量が反応後より大きく($Q > 0$)、減った質量が運動エネルギーとして放出されるため。
(1) 保存則の確認:質量数 $7 + 1 = 4 + 4 = 8$ ✓、原子番号 $3 + 1 = 2 + 2 = 4$ ✓
(2) $\Delta m = 8.02383 - 8.00520 = 0.01863\,\text{u}$
$Q = 0.01863 \times 931.5 = 17.35\,\text{MeV} \approx 17.3\,\text{MeV}$
(3) $Q > 0$ は反応で質量が減少し、$E = mc^2$ に従ってエネルギーが放出されることを意味する。