第29章 原子核と素粒子

素粒子
─ クォークとレプトン

原子は原子核と電子からなり、原子核は陽子と中性子からなります。
では、陽子や中性子はこれ以上分けられないのでしょうか?
現在の物理学では、物質を構成する最も基本的な粒子はクォークレプトンであることがわかっています。

1素粒子とは何か

素粒子の歴史

「物質の究極の構成要素は何か」という問いは古代ギリシャのデモクリトスにまで遡ります。20世紀初頭に電子・陽子・中性子が発見され、さらに加速器実験によって数百種類もの粒子(ハドロン)が見つかりました。これらを整理・統一するためにクォークモデルが提唱されました。

現在の標準模型

現在の素粒子物理学では、物質を構成する基本粒子を大きく2種類に分類します。

  • クォーク(quark):陽子や中性子などのハドロンを構成する粒子。6種類(フレーバー)
  • レプトン(lepton):電子やニュートリノなど、強い力を受けない粒子。6種類

これに加えて、力を媒介するゲージ粒子(光子、Wボソン、Zボソン、グルーオン)と、質量の起源に関わるヒッグス粒子があります。

本質:素粒子の全体像

現在知られている素粒子は、物質粒子(クォーク6種 + レプトン6種 = 12種)と力の媒介粒子(ゲージ粒子4種)とヒッグス粒子(1種)の合計17種(+反粒子)です。この体系を標準模型(Standard Model)といいます。

反粒子

すべての素粒子には、質量が同じで電荷の符号が反対の反粒子が存在します。電子 $e^-$ の反粒子は陽電子 $e^+$ です。粒子と反粒子が出会うと、質量がすべてエネルギーに変換される対消滅が起こります。

対消滅と対生成

対消滅:$e^- + e^+ \to 2\gamma$(電子と陽電子 → ガンマ線2個)

対生成:$\gamma \to e^- + e^+$(高エネルギーのガンマ線 → 電子と陽電子の対)

対生成には $E \geq 2m_e c^2 = 1.02\,\text{MeV}$ 以上のエネルギーが必要です。

2クォークとハドロン

6種類のクォーク

クォークは6種類あり、それぞれフレーバーと呼ばれます。高校物理で重要なのは第1世代のアップクォーク(u)とダウンクォーク(d)です。

世代 クォーク名 記号 電荷
第1世代 アップ(up) u $+\dfrac{2}{3}e$
第1世代 ダウン(down) d $-\dfrac{1}{3}e$
第2世代 チャーム(charm) c $+\dfrac{2}{3}e$
第2世代 ストレンジ(strange) s $-\dfrac{1}{3}e$
第3世代 トップ(top) t $+\dfrac{2}{3}e$
第3世代 ボトム(bottom) b $-\dfrac{1}{3}e$
注意:クォークの電荷は分数

誤:クォークの電荷は整数値をとる

正:クォークの電荷は電気素量 $e$ の $+2/3$ か $-1/3$ の分数値です。しかし単独で取り出せない(クォークの閉じ込め)ため、観測される粒子の電荷は常に整数倍になります。

ハドロン ── バリオンとメソン

クォークの組み合わせでできる粒子をハドロンといい、2種類に分けられます。

  • バリオン(baryon):クォーク3個の組み合わせ(例:陽子 = uud、中性子 = udd)
  • メソン(中間子)(meson):クォーク1個と反クォーク1個の組み合わせ(例:$\pi^+$ = $u\bar{d}$)
陽子と中性子のクォーク構成

陽子 p = uud:電荷 $= +\dfrac{2}{3} + \dfrac{2}{3} - \dfrac{1}{3} = +1$($e$ 単位)

中性子 n = udd:電荷 $= +\dfrac{2}{3} - \dfrac{1}{3} - \dfrac{1}{3} = 0$

クォークの電荷の和が、陽子(+1)や中性子(0)の電荷と一致することを確認しましょう。

本質:クォークの閉じ込め

クォークはハドロンの内部に閉じ込められており、単独で取り出すことができません。クォーク同士を引き離そうとすると、力がますます強くなり、十分なエネルギーを加えると新しいクォーク・反クォーク対が生成されて、やはりハドロンとしてしか観測されません。

3レプトンと4つの基本的力

6種類のレプトン

強い力を受けない素粒子をレプトンといい、6種類あります。

世代 荷電レプトン ニュートリノ
第1世代 電子 $e^-$ 電子ニュートリノ $\nu_e$
第2世代 ミュー粒子 $\mu^-$ ミューニュートリノ $\nu_\mu$
第3世代 タウ粒子 $\tau^-$ タウニュートリノ $\nu_\tau$

ニュートリノは電荷が0で、他の物質とほとんど相互作用しないため、検出が非常に困難です。ベータ崩壊の際にエネルギー保存則を満たすためにパウリが存在を予言しました。

自然界の4つの基本的力

現在知られている自然界の力はすべて、4つの基本的力(基本相互作用)に分類されます。

力の種類 媒介粒子 作用する対象 到達距離 相対的な強さ
強い力 グルーオン(g) クォーク $\sim 10^{-15}\,\text{m}$ 1
電磁気力 光子($\gamma$) 電荷を持つ粒子 無限大 $10^{-2}$
弱い力 $W^{\pm}$, $Z^0$ ボソン すべての素粒子 $\sim 10^{-18}\,\text{m}$ $10^{-6}$
重力 重力子(未発見) 質量を持つすべて 無限大 $10^{-39}$
発展:核力は強い力の「残り香」

核力(陽子・中性子間の引力)は、実はクォーク間に働く「強い力」の残留効果です。クォーク間の強い力はグルーオンが媒介しますが、その効果がハドロンの外にしみ出すことで、陽子や中性子の間に核力が生じます。湯川秀樹が予言した中間子は、この残留強い力を近似的に記述するものです。

ベータ崩壊と弱い力

ベータ崩壊は弱い力による反応です。クォークレベルで見ると、中性子内部のダウンクォークがアップクォークに変わり、$W^-$ ボソンを放出します。

ベータ崩壊のクォーク描像

$$\text{n}(udd) \to \text{p}(uud) + e^- + \bar{\nu}_e$$

クォークレベル:$d \to u + W^- \to u + e^- + \bar{\nu}_e$

ダウンクォーク(電荷 $-1/3$)がアップクォーク(電荷 $+2/3$)に変わり、電荷差 $-1$ を $W^-$ ボソンが運び去り、それが電子と反電子ニュートリノに崩壊します。

4湯川理論と中間子

湯川秀樹の中間子論

1935年、湯川秀樹は核力(陽子と中性子を結びつける力)を媒介する未知の粒子の存在を理論的に予言しました。この粒子は電子と陽子の中間の質量を持つことから中間子(メソン)と呼ばれました。

中間子の質量の予測

湯川は、力の到達距離 $r$ と媒介粒子の質量 $m$ の間に、不確定性原理から次の関係が成り立つと考えました。

湯川の質量推定

$$r \sim \frac{\hbar}{mc}$$

核力の到達距離 $r \approx 1.5 \times 10^{-15}\,\text{m}$ を代入すると:

$$m \sim \frac{\hbar}{rc} = \frac{1.055 \times 10^{-34}}{1.5 \times 10^{-15} \times 3.0 \times 10^8} \approx 2.3 \times 10^{-28}\,\text{kg}$$

これは電子質量の約200倍にあたり、後に発見されたパイ中間子($\pi$ 中間子、質量 $\approx 270\,m_e$)とほぼ一致しました。

パイ中間子の発見

1947年、パウエルらが宇宙線の中からパイ中間子($\pi^+$, $\pi^-$, $\pi^0$)を発見しました。湯川は1949年、日本人初のノーベル物理学賞を受賞しました。

パイ中間子 クォーク構成 電荷 質量($m_e$ 倍)
$\pi^+$ $u\bar{d}$ $+e$ 約273
$\pi^-$ $d\bar{u}$ $-e$ 約273
$\pi^0$ $u\bar{u}$, $d\bar{d}$ の重ね合わせ $0$ 約264
本質:力と媒介粒子

自然界のすべての力は媒介粒子の交換として理解されます。電磁気力は光子の交換、核力(強い力の残留効果)は中間子の交換、弱い力は $W$/$Z$ ボソンの交換です。媒介粒子の質量が大きいほど力の到達距離は短くなります。

注意:ミュー粒子と中間子の混同

誤:ミュー粒子($\mu$)は湯川が予言した中間子である

正:ミュー粒子は最初、中間子と誤認されました(質量が近いため)。しかし $\mu$ はレプトンであり核力に関与しません。湯川が予言したのはパイ中間子($\pi$)です。

5この章を俯瞰する

  • A-3-1 原子核の構成:陽子・中性子が核力で結合 → クォークと強い力の残留効果として理解される
  • A-3-3 放射性崩壊:ベータ崩壊 → 弱い力によるクォークのフレーバー変換($d \to u$)
  • A-3-5 質量欠損:核力による結合エネルギー → 中間子交換ポテンシャルのエネルギー
  • A-3-6 核分裂と核融合:$B/A$ 曲線の物理的起源 → 核力(強い力)と電磁気力の競合
  • A-2-1 ラザフォードの原子模型:原子核の発見 → 原子核の内部構造を探る素粒子物理への道

Sまとめ

  • 素粒子:物質の最小構成要素。クォーク(6種)とレプトン(6種)に分類される
  • クォーク:u, d, c, s, t, b の6種。3個でバリオン(陽子 = uud, 中性子 = udd)、クォーク + 反クォークでメソンを構成。電荷は $+2/3e$ または $-1/3e$
  • レプトン:電子・ミュー粒子・タウ粒子と、それぞれに対応するニュートリノの計6種。強い力を受けない
  • 4つの基本的力:強い力(グルーオン)、電磁気力(光子)、弱い力($W$/$Z$ボソン)、重力(重力子)
  • 湯川理論:核力を媒介する中間子(パイ中間子、質量 $\approx 270\,m_e$)の存在を予言。$m \sim \hbar/(rc)$ から質量を推定

確認テスト

Q1. 陽子はどのクォークの組み合わせで構成されるか。電荷が +1 になることを確認せよ。

▶ クリックして解答を表示 陽子 = uud。電荷 $= (+2/3) + (+2/3) + (-1/3) = +1$($e$ 単位)。

Q2. バリオンとメソンの違いをクォークの数で説明せよ。

▶ クリックして解答を表示 バリオンはクォーク3個の組み合わせ(例:陽子 uud、中性子 udd)。メソンはクォーク1個と反クォーク1個の組み合わせ(例:$\pi^+ = u\bar{d}$)。両者をまとめてハドロンといいます。

Q3. 自然界の4つの基本的力を挙げ、それぞれの媒介粒子を答えよ。

▶ クリックして解答を表示 強い力(グルーオン)、電磁気力(光子)、弱い力($W^{\pm}$/$Z^0$ ボソン)、重力(重力子、未発見)。

Q4. 湯川秀樹が中間子の質量を推定した式を書き、その根拠を簡潔に述べよ。

▶ クリックして解答を表示 $m \sim \hbar/(rc)$。不確定性原理より、到達距離 $r$ の力を媒介する仮想粒子の質量は $r$ に反比例します。核力の到達距離 $r \approx 1.5 \times 10^{-15}\,\text{m}$ から $m \approx 200\,m_e$ と推定しました。

E入試問題演習

問題 1 Level A クォーク

アップクォーク(u)の電荷は $+\dfrac{2}{3}e$、ダウンクォーク(d)の電荷は $-\dfrac{1}{3}e$ である($e$ は電気素量)。

(1) 中性子のクォーク構成を示し、電荷が0になることを確認せよ。

(2) $\pi^+$ 中間子は $u\bar{d}$ で構成される。反ダウンクォーク $\bar{d}$ の電荷を求め、$\pi^+$ の電荷が $+e$ であることを示せ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 中性子 = udd

電荷 $= +\dfrac{2}{3} + \left(-\dfrac{1}{3}\right) + \left(-\dfrac{1}{3}\right) = 0$

(2) 反粒子の電荷は元の粒子の符号を反転させたものなので、$\bar{d}$ の電荷は $+\dfrac{1}{3}e$

$\pi^+$ の電荷 $= +\dfrac{2}{3} + \dfrac{1}{3} = +1$($e$ 単位)

解説

クォークの電荷は分数値ですが、ハドロンとしての電荷は常に整数になります。反クォークの電荷符号が反転することを忘れないようにしましょう。

採点ポイント
  • 中性子のクォーク構成 udd の記述(2点)
  • 電荷計算の明示(2点)
  • 反クォークの電荷の導出(2点)
  • $\pi^+$ の電荷の確認(2点)
問題 2 Level B 湯川理論

湯川秀樹は核力を媒介する粒子の質量を不確定性原理から推定した。核力の到達距離を $r = 1.5 \times 10^{-15}\,\text{m}$ とし、$\hbar = 1.055 \times 10^{-34}\,\text{J}\cdot\text{s}$、光速 $c = 3.0 \times 10^8\,\text{m/s}$、電子の質量 $m_e = 9.1 \times 10^{-31}\,\text{kg}$ とする。

(1) 媒介粒子の質量 $m$ を求めよ。

(2) その質量は電子質量の何倍か。

(3) 電磁気力の到達距離が無限大であることを、媒介粒子(光子)の質量から説明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $m \sim \dfrac{\hbar}{rc} = \dfrac{1.055 \times 10^{-34}}{1.5 \times 10^{-15} \times 3.0 \times 10^8}$

$= \dfrac{1.055 \times 10^{-34}}{4.5 \times 10^{-7}} = \boldsymbol{2.3 \times 10^{-28}\,\textbf{kg}}$

(2) $\dfrac{m}{m_e} = \dfrac{2.3 \times 10^{-28}}{9.1 \times 10^{-31}} \approx \boldsymbol{250}$ 倍

(3) 光子の質量は0であるから、$r \sim \hbar/(mc) \to \infty$。すなわち媒介粒子の質量が0の場合、力の到達距離は無限大になります。

解説

湯川の理論は $r \sim \hbar/(mc)$ という、力の到達距離と媒介粒子の質量の反比例関係に基づいています。実際に発見されたパイ中間子の質量は約 $270\,m_e$ で、この推定値とよく一致しました。

採点ポイント
  • 質量の数値計算(3点)
  • 電子質量との比の計算(2点)
  • 光子の質量0と到達距離無限大の関係の説明(3点)
問題 3 Level C 対消滅・対生成

電子(質量 $m_e = 9.11 \times 10^{-31}\,\text{kg}$)と陽電子が対消滅し、2個のガンマ線光子が放出される。$c = 3.00 \times 10^8\,\text{m/s}$、$h = 6.63 \times 10^{-34}\,\text{J}\cdot\text{s}$ とする。

(1) 対消滅で放出される全エネルギーを J と MeV で求めよ($1\,\text{eV} = 1.60 \times 10^{-19}\,\text{J}$)。

(2) 放出されるガンマ線1個のエネルギーと波長を求めよ。

(3) 逆に、対生成に必要なガンマ線の最小エネルギーを MeV で求め、これがどの程度の波長に対応するか答えよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $E = 2m_e c^2 = 2 \times 9.11 \times 10^{-31} \times (3.00 \times 10^8)^2$

$= 2 \times 9.11 \times 10^{-31} \times 9.00 \times 10^{16} = 1.64 \times 10^{-13}\,\text{J}$

MeV換算:$\dfrac{1.64 \times 10^{-13}}{1.60 \times 10^{-19} \times 10^6} = \dfrac{1.64 \times 10^{-13}}{1.60 \times 10^{-13}} \approx \boldsymbol{1.02\,\textbf{MeV}}$

(2) ガンマ線1個のエネルギー:$E_\gamma = \dfrac{1.64 \times 10^{-13}}{2} = 8.20 \times 10^{-14}\,\text{J}$($\approx 0.511\,\text{MeV}$)

波長:$\lambda = \dfrac{hc}{E_\gamma} = \dfrac{6.63 \times 10^{-34} \times 3.00 \times 10^8}{8.20 \times 10^{-14}} = \boldsymbol{2.43 \times 10^{-12}\,\textbf{m}}$

(3) 対生成の最小エネルギーは対消滅と同じ $\boldsymbol{1.02\,\textbf{MeV}}$。対応する波長は $2.43 \times 10^{-12}\,\text{m} = 2.43\,\text{pm}$ で、極めて短い波長のガンマ線です。

解説

対消滅では電子と陽電子の静止質量エネルギーがすべてガンマ線に変換されます。運動量保存のため、ガンマ線は2個放出され反対方向に飛びます。対生成はその逆過程で、ガンマ線のエネルギーが $2m_e c^2 = 1.02\,\text{MeV}$ 以上であることが必要です。

採点ポイント
  • 全エネルギーの計算(J と MeV)(3点)
  • 1個あたりのエネルギーと波長の計算(3点)
  • 対生成の最小エネルギーの議論(2点)
  • 波長の物理的意味(ガンマ線領域)の記述(2点)