磁石を砂鉄の上にかざすと、砂鉄は美しい模様を描きます。
磁石が直接触れなくても、砂鉄は「何か」を感じ取って動くのです。
電荷にも同じことが起きます。帯電体のまわりの空間には、目には見えないけれど確かに存在する「力の場」が広がっています。
これが電場(電界)です。クーロン力を「電荷と電荷の間の力」から「電荷と空間の相互作用」へと捉え直す、物理学の重要な視点の転換を学びましょう。
クーロンの法則は、2つの電荷間にはたらく力を直接計算します。 しかし、この「遠隔作用」の見方には困難があります。 離れた電荷がどうやって瞬時に力を及ぼし合うのか、説明できないのです。
19世紀のイギリスの物理学者マイケル・ファラデーは、まったく新しい考え方を提案しました。 電荷は、そのまわりの空間に電場(electric field)という「力の場」を作り出す。 そして、別の電荷がその場に置かれると、電場から力を受ける、と考えるのです。
たとえて言えば、プールの水面にボールを落とすと波紋が広がります。 遠くにいる別のボールは、その波紋に揺らされて動きます。 ボールどうしが直接力を及ぼすのではなく、「水面の状態」が力を伝えるのです。 電場もこれと同じ発想です。空間そのものが力を伝える媒体になっているのです。
遠隔作用:電荷Aが電荷Bに直接力を及ぼす(クーロンの法則の素朴な見方)。
近接作用:電荷Aが空間に電場をつくり、電場が電荷Bに力を及ぼす(ファラデーの見方)。
「電荷 → 電場 → 力」という2段階の過程で考えることで、空間の性質を主役に据えます。 この考え方は、電磁波(光)の理解に不可欠であり、現代物理学の基礎です。
ファラデーは数学をほとんど使わず、実験と直観で電場の概念にたどり着きました。 後にマクスウェルがファラデーの直観を精密な数学(マクスウェル方程式)で定式化し、 電磁波の存在を予言しました。電場は単なる計算の便法ではなく、 エネルギーを蓄え、波として伝わる物理的な実体です。
電場は、空間の各点で定義されるベクトル量です。 ある点の電場を調べるには、正の試験電荷(十分に小さな正電荷)$q$ をその点に置き、 はたらく力 $\vec{F}$ を測定して、$q$ で割ります。
空間の点Pにおける電場 $\vec{E}$ は、
$$\vec{E} = \frac{\vec{F}}{q}$$
ここで $\vec{F}$ はその点に置いた正の試験電荷 $q$ にはたらく静電気力です。
電場の大きさ:$$E = \frac{F}{q}$$
直感的に言えば、電場とは「正の電荷1クーロンを置いたとき、どんな力がはたらくか」を表す量です。 電場が分かれば、任意の電荷 $q$ にはたらく力がすぐに計算できます。
電場は「試験電荷を置いたときの力」で定義されますが、電場自体は電荷がなくても空間に存在しています。 試験電荷は電場を「検出する」ための道具にすぎません。
✕ 誤:「電荷がないので電場もない」
○ 正:「電荷がなくても電場は存在する。電荷を置けば力がはたらく」
電場の定義では、試験電荷は必ず正電荷です。負電荷を使うと、力の向きが逆転するため、電場の向きが反対になってしまいます。
✕ 誤:負電荷 $-q$ にはたらく力の向きを電場の向きとする
○ 正:正電荷 $+q$ にはたらく力の向きが電場の向き
電場はベクトル量であるため、大きさと向きの両方をもちます。
電場の向きは、その点に正の試験電荷を置いたときに力がはたらく向きです。
正電荷は周囲に「押し出す」場を、負電荷は「引き寄せる」場をつくると考えると、イメージしやすいでしょう。
電場の大きさ $E$ は、その点にどれだけ「強い力の種」が潜んでいるかを表します。 $E$ が大きいほど、そこに置かれた電荷に強い力がはたらきます。
電場の単位 $\text{N/C}$ を言い換えると、「1クーロンあたり何ニュートンの力がはたらくか」です。 後に学ぶ電位との関係から、$\text{V/m}$(ボルト毎メートル)という単位も使われますが、$\text{N/C} = \text{V/m}$ です。
電場は、源となる電荷が空間に作り出す性質です。 電場の値は「その点に何を置くか」に依存しません。 $1\,\text{C}$ を置いても $5\,\text{C}$ を置いても、電場 $\vec{E}$ の値は同じです。 変わるのは受ける力 $\vec{F} = q\vec{E}$ だけです。
これは、重力場 $\vec{g}$ と同じ考え方です。 重力場は地球がつくる空間の性質であり、$1\,\text{kg}$ でも $10\,\text{kg}$ でも、 その場所の $\vec{g}$ は同じです。
重力の場合:$\vec{F} = m\vec{g}$ ⟹ $\vec{g} = \dfrac{\vec{F}}{m}$(重力場 = 力 ÷ 質量)
静電気の場合:$\vec{F} = q\vec{E}$ ⟹ $\vec{E} = \dfrac{\vec{F}}{q}$(電場 = 力 ÷ 電荷)
質量が重力場の「源」であり重力を「受ける」のと同様に、 電荷が電場の「源」であり電気力を「受ける」のです。
電場 $\vec{E}$ が分かっている点に電荷 $q$ を置くと、その電荷にはたらく力は次のように求まります。
$$\vec{F} = q\vec{E}$$
大きさ:$F = |q|E$
この関係式こそが電場の威力を示しています。 電場さえ分かっていれば、クーロンの法則に戻ることなく、任意の電荷にはたらく力を即座に計算できるのです。
電場中に正電荷を置くと、電場の向きに加速されます。 一方、負電荷は電場と逆向きに加速されます。 これは、正電荷と負電荷では力の向きが逆になるためです。
電子は負電荷($q = -e$)なので、電場と逆向きに動くことに注意しましょう。 回路中で電子が電場と逆向きに流れることが「電流は正の向き」という慣習の背景にあります。
力の大きさを求めるとき、$F = qE$ と書くと、$q$ が負のとき力が負になってしまいます。
✕ 誤:$q = -2\,\mu\text{C}$、$E = 1000\,\text{N/C}$ のとき $F = -2 \times 10^{-6} \times 1000 = -2 \times 10^{-3}\,\text{N}$
○ 正:力の大きさ $F = |q|E = 2 \times 10^{-6} \times 1000 = 2 \times 10^{-3}\,\text{N}$、向きは電場と逆向き
$\text{N/C}$ と $\text{V/m}$ は同じ量を表す異なる書き方です。
$1\,\text{V} = 1\,\text{J/C} = 1\,\text{N}\cdot\text{m/C}$ なので、 $1\,\text{V/m} = 1\,\text{N}\cdot\text{m/(C}\cdot\text{m)} = 1\,\text{N/C}$
電場の定義からは $\text{N/C}$ が、電位との関係からは $\text{V/m}$ が自然に出てきますが、同じものです。
電場 $\vec{E}$ が分かれば、どんな電荷にはたらく力も $\vec{F} = q\vec{E}$ で即座に求まります。 電荷の数や配置が複雑でも、一度電場を求めてしまえば、あとは簡単な掛け算だけで済みます。 これが「場」の概念の威力です。
電場が存在する空間にはエネルギーが蓄えられています。 単位体積あたりのエネルギー(エネルギー密度)は、
$$u = \frac{1}{2}\varepsilon_0 E^2$$
で与えられます。コンデンサに蓄えられるエネルギーは、まさにこの電場のエネルギーです。 電場は単なる「力を計算する道具」ではなく、エネルギーをもつ物理的な実体なのです。
電場の概念は、これから学ぶ電磁気学全体の土台です。 電場を理解することで、電位、電気力線、コンデンサ、さらには電磁波まで、統一的に理解できるようになります。
Q1. 電場の定義式を書き、単位を2通りで答えてください。
Q2. 電場 $E = 500\,\text{N/C}$ の点に $+3\,\mu\text{C}$ の電荷を置いたとき、はたらく力の大きさを求めてください。
Q3. 正電荷のまわりの電場の向きと、負電荷のまわりの電場の向きをそれぞれ答えてください。
Q4. 負の電荷 $-q$ を電場 $\vec{E}$ 中に置いたとき、力の向きは電場と同じですか、逆ですか。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
ある点に $+5.0\,\mu\text{C}$ の試験電荷を置いたところ、東向きに $0.020\,\text{N}$ の力を受けた。次の問いに答えよ。
(1) この点の電場の大きさと向きを求めよ。
(2) 同じ点に $-2.0\,\mu\text{C}$ の電荷を置いたとき、はたらく力の大きさと向きを求めよ。
(1) $4.0 \times 10^3\,\text{N/C}$($4000\,\text{V/m}$)、東向き
(2) $8.0 \times 10^{-3}\,\text{N}$、西向き
(1) $E = \dfrac{F}{q} = \dfrac{0.020}{5.0 \times 10^{-6}} = 4.0 \times 10^3\,\text{N/C}$。正電荷が東向きの力を受けるので、電場も東向き。
(2) $F = |q|E = 2.0 \times 10^{-6} \times 4.0 \times 10^3 = 8.0 \times 10^{-3}\,\text{N}$。負電荷なので力の向きは電場と逆の西向き。
鉛直下向きに大きさ $E$ の一様な電場が存在する空間中で、質量 $m$、電荷 $+q$ の小球が静止している。次の問いに答えよ。重力加速度を $g$ とする。
(1) 小球にはたらく力をすべて図示し、つり合いの式を書け。
(2) 電場の大きさ $E$ を $m$, $g$, $q$ で表せ。
(3) 電荷が $-q$ の場合、小球が静止するためには電場の向きをどうすべきか。
(1) 重力 $mg$(下向き)と静電気力 $qE$(下向き)… ではつり合わない。正電荷なら電場(下向き)と同じ向きに力を受ける。静止するには、電場が上向きでなければならない。
問題文を「鉛直下向き電場」と再確認すると、正電荷は下向きの力を受けるため、重力とも下向きになり静止できません。よって題意から、電場は鉛直上向きに修正して考えます。
上向き電場 $E$ の場合:重力 $mg$(下向き)、静電気力 $qE$(上向き)のつり合い。
$qE = mg$
(2) $E = \dfrac{mg}{q}$
(3) 電荷が $-q$ なら、電場と逆向きに力を受ける。下向きの電場にすると上向きの力を受け、重力とつり合う。したがって電場の向きは鉛直下向き。
方針:静止の条件は力のつり合い。重力と静電気力の向きを正しく把握することが鍵です。
正電荷が静止するには、重力(下向き)を打ち消す上向きの力が必要。正電荷は電場と同じ向きに力を受けるので、電場は上向き。
負電荷なら電場と逆向きに力を受けるので、上向きの力を得るには下向きの電場が必要。
水平方向に大きさ $E = 2.0 \times 10^4\,\text{N/C}$ の一様な電場がある空間に、質量 $m = 1.0 \times 10^{-3}\,\text{kg}$、電荷 $q = +5.0\,\mu\text{C}$ の小球を静かに置いた。重力を無視し、次の問いに答えよ。
(1) 小球にはたらく力の大きさを求めよ。
(2) 小球の加速度の大きさを求めよ。
(3) $2.0\,\text{s}$ 後の速度と移動距離を求めよ。
(1) $0.10\,\text{N}$
(2) $100\,\text{m/s}^2$
(3) 速度 $200\,\text{m/s}$、移動距離 $200\,\text{m}$
(1) $F = qE = 5.0 \times 10^{-6} \times 2.0 \times 10^4 = 0.10\,\text{N}$
(2) $a = \dfrac{F}{m} = \dfrac{0.10}{1.0 \times 10^{-3}} = 100\,\text{m/s}^2$
(3) 静かに置いた($v_0 = 0$)ので、等加速度直線運動。
$v = v_0 + at = 0 + 100 \times 2.0 = 200\,\text{m/s}$
$x = v_0 t + \dfrac{1}{2}at^2 = 0 + \dfrac{1}{2} \times 100 \times 2.0^2 = 200\,\text{m}$