第22章 コンデンサー

誘電体を挿入したコンデンサー
─ 容量が増える仕組み

コンデンサーの極板間に誘電体(ガラスやプラスチックなどの絶縁体)を挿入すると、電気容量が増大します。
なぜ絶縁体を挟むと容量が増えるのか ── その仕組みは「分極」にあります。
誘電体の物理を理解し、入試で頻出の「部分挿入」問題にも対応できるようになりましょう。

1誘電体と分極 ─ 電場が弱まる理由

誘電体(dielectric)とは、電気を通さない物質(絶縁体)のうち、 電場の中で分極(polarization)を起こす物質のことです。 ガラス、マイカ、ポリエチレンなどが代表的な誘電体です。

分極のメカニズム

コンデンサーの極板間に誘電体を挿入すると、外部電場の影響で誘電体内部の分子が電気的に偏ります。 これが分極です。

  1. 外部電場 $E_0$ が誘電体にかかる
  2. 誘電体内の分子が分極し、正極板側の表面に負の電荷、負極板側の表面に正の電荷が現れる
  3. この分極電荷が作る電場 $E'$ は外部電場と逆向き
  4. 結果として、誘電体内部の電場は $E = E_0 - E' = E_0 / \varepsilon_r$ に弱まる
💡 ここが本質:誘電体は電場を弱める

誘電体の分極電荷が外部電場を打ち消す方向に電場を作るため、極板間の実効的な電場が弱まります

電場が弱まると、同じ電荷を蓄えるのに必要な電圧が小さくなる(あるいは同じ電圧でより多くの電荷を蓄えられる)ので、電気容量が増大するのです。

⚠️ 落とし穴:「誘電体=導体」と混同する

✕ 誤:誘電体の中を電荷が自由に移動する

○ 正:誘電体では電荷は自由に移動せず、分子レベルで偏るだけ(分極)

導体では自由電子が移動して電場を完全に打ち消しますが、誘電体では分極により電場が弱まるだけで、ゼロにはなりません。

2比誘電率と容量の変化

誘電体が電場をどれだけ弱めるかを表す量が比誘電率 $\varepsilon_r$ です。 比誘電率 $\varepsilon_r$ の誘電体を極板間に挿入すると、電気容量は $\varepsilon_r$ 倍になります。

📐 誘電体を挿入したコンデンサーの容量

$$C = \varepsilon_r C_0 = \frac{\varepsilon_r \varepsilon_0 S}{d}$$

※ $C_0 = \varepsilon_0 S / d$:誘電体なし(真空)の場合の容量、$\varepsilon_r$:比誘電率($\varepsilon_r \geq 1$)
▷ なぜ容量が $\varepsilon_r$ 倍になるか

誘電体がない場合、極板間の電場は $E_0 = V_0/d$ であり、$C_0 = Q/V_0$ です。

誘電体を挿入すると電場は $E = E_0/\varepsilon_r$ に減少します。

電池切断後($Q$ 一定)の場合、$V = Ed = E_0 d/\varepsilon_r = V_0/\varepsilon_r$ となるので、

$$C = \frac{Q}{V} = \frac{Q}{V_0/\varepsilon_r} = \varepsilon_r \cdot \frac{Q}{V_0} = \varepsilon_r C_0$$

主な誘電体の比誘電率

物質 比誘電率 $\varepsilon_r$ 用途
真空$1$(定義)理論的基準
空気$\approx 1.0006$実用上は真空と同じ
マイカ$\approx 6$高精度コンデンサー
ガラス$5 \sim 10$電子部品
チタン酸バリウム$\approx 1000 \sim 10000$セラミックコンデンサー
⚠️ 落とし穴:比誘電率は1未満にはならない

✕ 誤:ある物質の比誘電率が $0.5$ ということがある

○ 正:比誘電率は必ず $\varepsilon_r \geq 1$ であり、誘電体を入れると容量は必ず増加する

分極は電場を弱める方向にしか働かないため、$\varepsilon_r < 1$ にはなりません。

3電池接続 vs 電池切断で考える

誘電体を挿入するとき、電池が接続されているかどうかで結果が大きく異なります。 これは入試で最もよく問われるパターンです。

場合A:電池接続中に誘電体を挿入($V$ 一定)

  • $V$ は電池により一定に保たれる
  • $C$ が $\varepsilon_r$ 倍に増加
  • $Q = CV$ より $Q$ も $\varepsilon_r$ 倍に増加(電池から電荷が追加供給される)
  • $U = \frac{1}{2}CV^2$ より $U$ も $\varepsilon_r$ 倍に増加

場合B:電池切断後に誘電体を挿入($Q$ 一定)

  • $Q$ は外部との接続がないため一定
  • $C$ が $\varepsilon_r$ 倍に増加
  • $V = Q/C$ より $V$ は $1/\varepsilon_r$ 倍に減少
  • $U = Q^2/(2C)$ より $U$ は $1/\varepsilon_r$ 倍に減少
物理量 電池接続中($V$ 一定) 電池切断後($Q$ 一定)
$C$$\varepsilon_r$ 倍$\varepsilon_r$ 倍
$V$変化なし$1/\varepsilon_r$ 倍
$Q$$\varepsilon_r$ 倍変化なし
$E$変化なし$1/\varepsilon_r$ 倍
$U$$\varepsilon_r$ 倍$1/\varepsilon_r$ 倍
💡 ここが本質:電池接続なら $V$ 固定、電池切断なら $Q$ 固定

この判断がコンデンサー問題の最重要ステップです。

電池が接続されている:電池が電圧を一定に維持するので $V$ は変わらない。電荷やエネルギーは $C$ の変化に応じて変わる。

電池が切断されている:電荷の出入りがないので $Q$ は変わらない。電圧やエネルギーは $C$ の変化に応じて変わる。

4誘電体の部分挿入 ─ 直列・並列の応用

極板間の一部だけに誘電体を挿入する問題は入試でよく出題されます。 これは直列接続や並列接続の考え方を応用して解きます。

パターン1:極板に垂直に挿入(直列型)

極板間の距離 $d$ のうち、厚さ $t$ の誘電体(比誘電率 $\varepsilon_r$)を極板に密着させて挿入する場合、 誘電体部分と空気部分が直列に接続されたとみなせます。

誘電体部分の容量:$C_1 = \varepsilon_r \varepsilon_0 S / t$

空気部分の容量:$C_2 = \varepsilon_0 S / (d - t)$

合成容量:$\dfrac{1}{C} = \dfrac{1}{C_1} + \dfrac{1}{C_2} = \dfrac{t}{\varepsilon_r \varepsilon_0 S} + \dfrac{d - t}{\varepsilon_0 S}$

パターン2:極板に平行に挿入(並列型)

極板の面積 $S$ のうち、面積 $S_1$ の部分に誘電体を挿入し、面積 $S_2 = S - S_1$ は空気のままの場合、 誘電体部分と空気部分が並列に接続されたとみなせます。

$C = \dfrac{\varepsilon_r \varepsilon_0 S_1}{d} + \dfrac{\varepsilon_0 S_2}{d} = \dfrac{\varepsilon_0}{d}\left(\varepsilon_r S_1 + S_2\right)$

⚠️ 落とし穴:直列型と並列型を取り違える

✕ 誤:極板に垂直に挿入 → 並列

○ 正:極板に垂直に挿入 → 直列(電荷が同じルートを通る)、極板に平行に挿入 → 並列(電荷が分かれて通る)

電荷が「一本道で順に通過するか(直列)」「分かれて通過するか(並列)」で判断しましょう。

🔬 深掘り:金属板の挿入は特殊ケース

誘電体ではなく金属板(厚さ $t$)を挿入する問題も頻出です。金属板の内部では電場はゼロなので、 実質的に極板間の距離が $d - t$ に縮まったのと同じ効果があります。

$$C = \frac{\varepsilon_0 S}{d - t}$$

これは $\varepsilon_r \to \infty$ の極限として理解できます。

5この章を俯瞰する

誘電体の問題は、電気容量・直列並列・静電エネルギーの知識を総合的に使う応用的なテーマです。

つながりマップ

  • ← E-3-2 電気容量:$C = \varepsilon S/d$ の $\varepsilon$ が変わると $C$ がどう変わるか。
  • ← E-3-3 直列・並列接続:部分挿入の問題は直列・並列の応用として解ける。
  • ← E-3-4 静電エネルギー:誘電体挿入前後のエネルギー変化を考えるのに使う。
  • → E-3-6 充放電とスイッチ切替:誘電体を含むコンデンサーの充放電問題。
  • → 電場と電位:分極と電場の関係をより深く理解できる。

📋まとめ

  • 誘電体の分極によって極板間の電場が弱まり、電気容量が $\varepsilon_r$ 倍に増大する
  • 比誘電率 $\varepsilon_r \geq 1$ であり、誘電体挿入で容量は必ず増加する
  • 電池接続中($V$ 一定):$Q$ と $U$ が $\varepsilon_r$ 倍に増加
  • 電池切断後($Q$ 一定):$V$ と $U$ が $1/\varepsilon_r$ 倍に減少
  • 部分挿入は、極板に垂直なら直列、極板に平行なら並列として解く
  • 金属板の挿入は、実質的に極板間の距離が縮まる効果をもつ

確認テスト

Q1. 誘電体を挿入すると電気容量が増大する理由を簡潔に述べてください。

▶ クリックして解答を表示誘電体の分極により極板間の電場が弱まるため、同じ電荷を蓄えるのに必要な電圧が小さくなり(あるいは同じ電圧でより多くの電荷を蓄えられ)、$C = Q/V$ が増大する。

Q2. 比誘電率 $\varepsilon_r = 5$ の誘電体を挿入すると、電気容量は何倍になりますか。

▶ クリックして解答を表示$5$ 倍になる。$C = \varepsilon_r C_0$

Q3. 電池を外した後に誘電体($\varepsilon_r = 3$)を挿入すると、極板間の電位差はどうなりますか。

▶ クリックして解答を表示$1/3$ 倍になる。電池切断後は $Q$ 一定。$C$ が3倍になるので $V = Q/C$ は $1/3$ に減少する。

Q4. 極板間の距離 $d$ のコンデンサーに厚さ $d/2$ の誘電体($\varepsilon_r = 4$)を極板に垂直に挿入したとき、これは直列接続と並列接続のどちらで考えますか。

▶ クリックして解答を表示直列接続として考える。極板に垂直な方向に誘電体が入るため、電荷は誘電体部分と空気部分を順に通過する。

8入試問題演習

誘電体に関する理解を入試形式で確認しましょう。

A 基礎レベル

3-5-1 A 基礎 誘電体全挿入計算

電気容量 $C_0 = 10\,\mu\text{F}$ の平行板コンデンサーに $50\,\text{V}$ の電池をつないで充電した後、電池を外してから比誘電率 $\varepsilon_r = 5$ の誘電体を極板間全体に挿入した。次の問いに答えよ。

(1) 挿入後の電気容量を求めよ。

(2) 挿入後の極板間の電位差を求めよ。

(3) 挿入前後の静電エネルギーをそれぞれ求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $50\,\mu\text{F}$

(2) $10\,\text{V}$

(3) 挿入前 $12.5\,\text{mJ}$、挿入後 $2.5\,\text{mJ}$

解説

(1) $C = \varepsilon_r C_0 = 5 \times 10 = 50\,\mu\text{F}$

(2) $Q$ 一定:$Q = C_0 V_0 = 10 \times 50 = 500\,\mu\text{C}$。$V = Q/C = 500/50 = 10\,\text{V}$

(3) 挿入前:$U_i = \frac{1}{2}C_0 V_0^2 = \frac{1}{2} \times 10 \times 10^{-6} \times 50^2 = 12.5 \times 10^{-3}\,\text{J}$

挿入後:$U_f = \frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2} \times 50 \times 10^{-6} \times 10^2 = 2.5 \times 10^{-3}\,\text{J}$

B 発展レベル

3-5-2 B 発展 部分挿入直列型

極板の面積 $S$、極板間の距離 $d$ の平行板コンデンサーの極板間に、比誘電率 $\varepsilon_r$、厚さ $d/2$ の誘電体を極板の一方に密着させて挿入した。極板間は真空(空気)とし、真空の誘電率を $\varepsilon_0$ とする。

(1) 合成容量を $\varepsilon_0$、$\varepsilon_r$、$S$、$d$ を用いて表せ。

(2) $\varepsilon_r = 4$ のとき、合成容量は誘電体なしの場合の何倍か。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $C = \dfrac{2\varepsilon_r \varepsilon_0 S}{(\varepsilon_r + 1)d}$

(2) $1.6$ 倍

解説

誘電体部分と空気部分が直列接続とみなせる。

誘電体部分:$C_1 = \varepsilon_r \varepsilon_0 S / (d/2) = 2\varepsilon_r \varepsilon_0 S / d$

空気部分:$C_2 = \varepsilon_0 S / (d/2) = 2\varepsilon_0 S / d$

(1) $\dfrac{1}{C} = \dfrac{1}{C_1} + \dfrac{1}{C_2} = \dfrac{d}{2\varepsilon_r \varepsilon_0 S} + \dfrac{d}{2\varepsilon_0 S} = \dfrac{d}{2\varepsilon_0 S}\left(\dfrac{1}{\varepsilon_r} + 1\right) = \dfrac{d(\varepsilon_r + 1)}{2\varepsilon_r \varepsilon_0 S}$

よって $C = \dfrac{2\varepsilon_r \varepsilon_0 S}{(\varepsilon_r + 1)d}$

(2) $C_0 = \varepsilon_0 S / d$ なので、$C/C_0 = \dfrac{2\varepsilon_r}{\varepsilon_r + 1} = \dfrac{2 \times 4}{4 + 1} = \dfrac{8}{5} = 1.6$

採点ポイント
  • 直列接続として扱うことを正しく判断する(2点)
  • 各部分の容量を正しく求める(各2点)
  • 合成容量を正しく導出する(3点)
  • 数値計算(1点)

C 応用レベル

3-5-3 C 応用 電池接続比較論述

電気容量 $C_0$ の平行板コンデンサーに起電力 $V_0$ の電池をつないで十分に充電した。次の2つの操作について、挿入後の電荷 $Q$、電位差 $V$、静電エネルギー $U$ をそれぞれ $C_0$、$V_0$、$\varepsilon_r$ を用いて表せ。

操作A:電池をつないだまま、比誘電率 $\varepsilon_r$ の誘電体を極板間全体に挿入する。

操作B:電池を外してから、比誘電率 $\varepsilon_r$ の誘電体を極板間全体に挿入する。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

操作A:$Q = \varepsilon_r C_0 V_0$、$V = V_0$、$U = \frac{1}{2}\varepsilon_r C_0 V_0^2$

操作B:$Q = C_0 V_0$、$V = V_0/\varepsilon_r$、$U = \frac{C_0 V_0^2}{2\varepsilon_r}$

解説

両操作とも $C = \varepsilon_r C_0$

操作A(電池接続:$V$ 一定):

$V = V_0$(電池により固定)、$Q = CV = \varepsilon_r C_0 V_0$、$U = \frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}\varepsilon_r C_0 V_0^2$

操作B(電池切断:$Q$ 一定):

$Q = C_0 V_0$(変化なし)、$V = Q/C = C_0 V_0 / (\varepsilon_r C_0) = V_0/\varepsilon_r$

$U = Q^2/(2C) = (C_0 V_0)^2/(2\varepsilon_r C_0) = C_0 V_0^2/(2\varepsilon_r)$

採点ポイント
  • 操作A:$V$ 一定を明記し、$Q$ と $U$ を正しく求める(各2点)
  • 操作B:$Q$ 一定を明記し、$V$ と $U$ を正しく求める(各2点)
  • 両操作の対比を適切に行う(2点)