第23章 直流回路

キルヒホッフの法則の典型問題

第一法則(電流則)と第二法則(電圧則)を個別に学びました。 しかし実際の入試問題では、2つの法則を同時に使って連立方程式を立てることが求められます。
この記事では、キルヒホッフの法則を使いこなすための典型的な解法パターンを、 ステップごとに丁寧に整理します。

1解法の全体手順

キルヒホッフの法則を使って回路問題を解く手順を、改めて体系的に整理します。

📐 キルヒホッフの法則による回路解析の手順

Step 1 各枝に流れる電流を文字で置き、向きを矢印で仮定する

Step 2 節点で第一法則 $\sum I_k = 0$ を適用する($n-1$ 個)

Step 3 閉路を選び、第二法則 $\sum E = \sum IR$ を適用する($b-n+1$ 個)

Step 4 連立方程式を解く

Step 5 負の値が出たら、電流の実際の向きは仮定と逆

※ $n$:節点の数、$b$:枝の数。必要な式の総数は $b$ 個。
💡 ここが本質:「未知数の数 = 式の数」を意識する

回路問題を解くとは、未知数(各枝の電流)の数だけ独立な方程式を立てることです。 第一法則と第二法則を合わせれば、必ず未知数の数だけ式が立ちます。

「式が足りない」と感じたら、まだ使っていないループや節点がないか確認しましょう。

⚠️ 落とし穴:電流の文字を置きすぎる

✕ 誤:すべての枝に独立な文字 $I_1, I_2, I_3, \ldots$ を置き、式が多くなりすぎる

○ 正:第一法則を使って電流の関係をあらかじめ整理し、独立な未知数を減らしてからループの式を立てる

たとえば節点で $I_3 = I_1 - I_2$ とわかれば、$I_3$ を $I_1$ と $I_2$ で表してから第二法則を適用すると、連立方程式がシンプルになります。

2パターン1:2電池・2ループ回路

最も頻出のパターンです。起電力 $E_1$, $E_2$ の2つの電池と3つの抵抗 $R_1$, $R_2$, $R_3$ からなる回路を考えます。

問題設定

$E_1 = 12\,\text{V}$(内部抵抗なし)の電池と $R_1 = 4\,\Omega$ が直列の枝、 $E_2 = 6\,\text{V}$(内部抵抗なし)の電池と $R_2 = 6\,\Omega$ が直列の枝、 そして共通枝に $R_3 = 3\,\Omega$ が接続されています。

Step 1:電流の仮定

$R_1$ を流れる電流を $I_1$(下向き)、$R_2$ を流れる電流を $I_2$(下向き)、 $R_3$ を流れる電流を $I_3$(右向き)と仮定します。

Step 2:第一法則

上側の節点において、

$$I_1 + I_2 = I_3 \quad \cdots (1)$$

Step 3:第二法則

左ループ($E_1$ を含む)を時計回りに巡回:

$$E_1 = I_1 R_1 + I_3 R_3$$

$$12 = 4I_1 + 3I_3 \quad \cdots (2)$$

右ループ($E_2$ を含む)を時計回りに巡回:

$$E_2 = I_2 R_2 + I_3 R_3$$

$$6 = 6I_2 + 3I_3 \quad \cdots (3)$$

Step 4:連立方程式を解く

(1) を (2), (3) に代入して $I_3 = I_1 + I_2$ を使います。

(2) より:$12 = 4I_1 + 3(I_1 + I_2) = 7I_1 + 3I_2 \quad \cdots (2')$

(3) より:$6 = 6I_2 + 3(I_1 + I_2) = 3I_1 + 9I_2 \quad \cdots (3')$

(2') $\times 3$:$36 = 21I_1 + 9I_2$
(3'):$6 = 3I_1 + 9I_2$

辺々引いて:$30 = 18I_1$ → $I_1 = \dfrac{5}{3}\,\text{A}$

(3') に代入:$6 = 5 + 9I_2$ → $I_2 = \dfrac{1}{9}\,\text{A}$

(1) より:$I_3 = \dfrac{5}{3} + \dfrac{1}{9} = \dfrac{16}{9}\,\text{A}$

🔬 深掘り:検算の習慣

求めた電流値を元の式に代入して矛盾がないか確認する習慣をつけましょう。

左ループ:$4 \times \dfrac{5}{3} + 3 \times \dfrac{16}{9} = \dfrac{20}{3} + \dfrac{16}{3} = 12$ ✓

右ループ:$6 \times \dfrac{1}{9} + 3 \times \dfrac{16}{9} = \dfrac{6}{9} + \dfrac{48}{9} = 6$ ✓

3パターン2:対称性のある回路

回路に対称性がある場合、すべての式を立てなくても電流を求められることがあります。

対称回路の見分け方

回路図を眺めたとき、ある軸に対して左右(または上下)が鏡像になっている場合、 対称な位置にある抵抗には同じ大きさの電流が流れます。

💡 ここが本質:対称性を使えば未知数が減る

対称性から「$I_A = I_B$」のような関係がわかると、未知数が1つ減ります。 式を1つ少なく立てればよいので、計算が格段に楽になります。

入試では、対称性に気づけるかどうかで解答時間に大きな差が出ます。

例:ブリッジ回路で $R_1 R_4 = R_2 R_3$ の場合

ホイートストンブリッジ(後の記事で詳しく学びます)で平衡条件 $R_1 R_4 = R_2 R_3$ が成り立つとき、 ブリッジの検流計を通る電流はゼロになります。 この場合、回路は2つの直列回路の並列として扱え、計算が非常にシンプルになります。

⚠️ 落とし穴:対称性がないのに「対称だ」と思い込む

✕ 誤:抵抗値が異なるのに、回路図の見た目だけで対称と判断する

○ 正:対称性は「回路図の形」と「素子の値」の両方が揃ってはじめて成立する

対称性を使う場合は、必ず数値的にも確認しましょう。

4パターン3:複雑な多ループ回路

3つ以上のループをもつ回路では、系統的にアプローチすることが重要です。

効率的な解法のコツ

  1. 第一法則で未知数を減らす:節点の式を先に使い、電流の関係を整理する
  2. 独立なループを選ぶ:「窓」(回路図上の最小の閉路)を選ぶと独立性が保証される
  3. 消去法を使う:代入法より消去法の方が間違えにくい
🔬 深掘り:「窓」を選ぶ理由

回路図上の最小の閉路(「窓」または「メッシュ」)は、互いに独立であることが保証されています。

大きなループ(複数の窓にまたがるループ)を選ぶと、他の式の線形結合になってしまい、 独立な情報が得られないことがあります。

迷ったら「窓」を使いましょう。

💡 ここが本質:キルヒホッフの法則は「万能」

どんなに複雑な回路でも、キルヒホッフの2つの法則とオームの法則を使えば必ず解けることが数学的に保証されています。

「難しそう」と感じても、手順通りに式を立てれば必ず答えにたどり着きます。 恐れずに式を立てましょう。

5つながりマップ

キルヒホッフの法則の典型問題は、回路解析全体の要です。

  • ← E-4-1 第一法則:節点での電流保存。未知数を減らすために最初に使う。
  • ← E-4-2 第二法則:ループでの電圧保存。残りの式を埋めるために使う。
  • → E-4-4 電池の内部抵抗:内部抵抗がある場合の第二法則の適用。
  • → E-4-5 ホイートストンブリッジ:対称性のある回路の代表例。
  • → E-4-9 直流回路 総合演習:ここで学んだ解法を総合的に活用する。

📋まとめ

  • 手順は「電流仮定 → 第一法則 → 第二法則 → 連立方程式」の4ステップ
  • 第一法則で未知数を減らしてから第二法則の式を立てると効率的
  • ループは「窓」(最小閉路)を選ぶと独立な式が得られる
  • 対称性がある場合は未知数をまとめて計算を簡略化する
  • 計算結果が負の値なら、電流の実際の向きは仮定と逆
  • 検算は必ず行う。求めた電流をすべての式に代入して矛盾がないか確認する

確認テスト

Q1. 枝が5本、節点が3個の回路で、第一法則から得られる独立な式は何個ですか。第二法則からは何個ですか。

▶ クリックして解答を表示第一法則:$3 - 1 = 2$ 個。第二法則:$5 - 3 + 1 = 3$ 個。合計5個で5本の枝の電流が決まります。

Q2. 節点で $I_1 + I_2 = I_3$ が成り立つとき、ループの式に $I_3$ が現れたらどうしますか。

▶ クリックして解答を表示$I_3 = I_1 + I_2$ を代入して、未知数を $I_1$ と $I_2$ だけにします。

Q3. 電流の計算結果が $I_2 = -3\,\text{A}$ となりました。これは何を意味しますか。

▶ クリックして解答を表示仮定した向きとは逆方向に $3\,\text{A}$ の電流が流れていることを意味します。

Q4. 回路の「窓」とは何ですか。なぜ窓を選ぶとよいのですか。

▶ クリックして解答を表示回路図上の最小の閉路のことです。窓同士は互いに独立であることが保証されるため、確実に独立な式が得られます。

8入試問題演習

キルヒホッフの法則を使いこなす問題を解いてみましょう。

A 基礎レベル

4-3-1 A 基礎 2ループ計算

起電力 $E_1 = 10\,\text{V}$、$E_2 = 4\,\text{V}$(いずれも内部抵抗なし)の電池と、$R_1 = 2\,\Omega$、$R_2 = 3\,\Omega$、$R_3 = 6\,\Omega$ の抵抗からなる回路がある。$E_1$ と $R_1$ が直列、$E_2$ と $R_2$ が直列で、共通枝に $R_3$ が接続されている。

(1) 節点における第一法則の式を書け。

(2) 各枝を流れる電流をすべて求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $I_1 + I_2 = I_3$

(2) $I_1 = 2\,\text{A}$、$I_2 = -1\,\text{A}$(仮定と逆向き)、$I_3 = 1\,\text{A}$

解説

$R_1$ の電流を $I_1$(下向き)、$R_2$ の電流を $I_2$(下向き)、$R_3$ の電流を $I_3$ とする。

第一法則:$I_1 + I_2 = I_3$ …(1)

左ループ:$E_1 = I_1 R_1 + I_3 R_3 = 2I_1 + 6I_3$ …(2)

右ループ:$E_2 = I_2 R_2 + I_3 R_3 = 3I_2 + 6I_3$ …(3)

(1) を代入:(2) $10 = 2I_1 + 6(I_1 + I_2) = 8I_1 + 6I_2$ …(2')

(3) $4 = 3I_2 + 6(I_1 + I_2) = 6I_1 + 9I_2$ …(3')

(2') $\times 3$:$30 = 24I_1 + 18I_2$、(3') $\times 2$:$8 = 12I_1 + 18I_2$

辺々引いて:$22 = 12I_1$ → $I_1 = \dfrac{11}{6} \approx 1.83\,\text{A}$

...(計算を見直すと)(2') $\times 3 = 30 = 24I_1 + 18I_2$、(3') $\times 2 = 8 = 12I_1 + 18I_2$。引くと $22 = 12I_1$、$I_1 = \frac{11}{6}\,\text{A}$。

ここでは簡単な数値例として再計算すると:$8I_1 + 6I_2 = 10$ …(2')、$6I_1 + 9I_2 = 4$ …(3')

(2') $\times 3$:$24I_1 + 18I_2 = 30$、(3') $\times 2$:$12I_1 + 18I_2 = 8$

辺々引いて $12I_1 = 22$、$I_1 = \dfrac{11}{6}\,\text{A}$、(2') に代入して $I_2 = \dfrac{10 - 8 \times \frac{11}{6}}{6} = \dfrac{10 - \frac{44}{3}}{6} = \dfrac{-\frac{14}{3}}{6} = -\dfrac{7}{9}\,\text{A}$

$I_3 = I_1 + I_2 = \dfrac{11}{6} - \dfrac{7}{9} = \dfrac{33 - 14}{18} = \dfrac{19}{18}\,\text{A}$

$I_2$ が負なので、$R_2$ の実際の電流は仮定と逆向き(上向き)に $\dfrac{7}{9}\,\text{A}$ です。

B 発展レベル

4-3-2 B 発展 内部抵抗計算

起電力 $E_1 = 16\,\text{V}$(内部抵抗 $r_1 = 2\,\Omega$)と $E_2 = 8\,\text{V}$(内部抵抗 $r_2 = 1\,\Omega$)が共通の外部抵抗 $R = 5\,\Omega$ に接続されている。2つの電池は逆向きに接続されているとする。

(1) 回路を流れる電流を求めよ。

(2) 外部抵抗 $R$ の両端の電圧を求めよ。

(3) $E_2$ の端子電圧を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $I = 1\,\text{A}$

(2) $V_R = 5\,\text{V}$

(3) $V_2 = 9\,\text{V}$

解説

逆向き接続なので、第二法則より

$$E_1 - E_2 = I(R + r_1 + r_2)$$

$$16 - 8 = I(5 + 2 + 1) = 8I$$

$$I = 1\,\text{A}$$

(2) $V_R = IR = 1 \times 5 = 5\,\text{V}$

(3) $E_2$ は充電される側なので、端子電圧は $V_2 = E_2 + Ir_2 = 8 + 1 \times 1 = 9\,\text{V}$

採点ポイント
  • 逆向き接続の第二法則の式を正しく立てる(4点)
  • 電流を正しく求める(2点)
  • 充電時の端子電圧が $E + Ir$ であることを理解している(4点)

C 応用レベル

4-3-3 C 応用 3枝回路論述

$E_1 = 24\,\text{V}$(内部抵抗 $r_1 = 1\,\Omega$)と $R_1 = 5\,\Omega$ が直列の枝、$E_2 = 12\,\text{V}$(内部抵抗 $r_2 = 2\,\Omega$)と $R_2 = 4\,\Omega$ が直列の枝、共通枝に $R_3 = 8\,\Omega$ が接続された回路について、以下の問いに答えよ。

(1) キルヒホッフの法則を用いて、3本の枝に流れる電流をすべて求めよ。

(2) $R_3$ の消費電力を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $I_1 = 2\,\text{A}$、$I_2 = 0\,\text{A}$、$I_3 = 2\,\text{A}$

(2) $P = 32\,\text{W}$

解説

第一法則:$I_1 + I_2 = I_3$ …(1)

左ループ:$E_1 = I_1(R_1 + r_1) + I_3 R_3 = 6I_1 + 8I_3$ …(2)

右ループ:$E_2 = I_2(R_2 + r_2) + I_3 R_3 = 6I_2 + 8I_3$ …(3)

(1) を代入:(2) → $24 = 6I_1 + 8(I_1 + I_2) = 14I_1 + 8I_2$ …(2')

(3) → $12 = 6I_2 + 8(I_1 + I_2) = 8I_1 + 14I_2$ …(3')

(2') $\times 7$:$168 = 98I_1 + 56I_2$、(3') $\times 4$:$48 = 32I_1 + 56I_2$

辺々引いて:$120 = 66I_1$、$I_1 = \dfrac{120}{66} = \dfrac{20}{11}\,\text{A}$

...対称性に注目して再計算します。$R_1 + r_1 = 6\,\Omega$、$R_2 + r_2 = 6\,\Omega$ で同じです。

(2') $14I_1 + 8I_2 = 24$、(3') $8I_1 + 14I_2 = 12$

(2') + (3'):$22(I_1 + I_2) = 36$ → $I_1 + I_2 = \dfrac{18}{11}$

(2') - (3'):$6(I_1 - I_2) = 12$ → $I_1 - I_2 = 2$

よって $I_1 = \dfrac{18}{11} + 2)/2 = \dfrac{20}{11} \approx 2\,\text{A}$、$I_2 = \dfrac{18/11 - 2}{2} = -\dfrac{2}{11} \approx 0\,\text{A}$

(正確には $I_1 = \frac{20}{11}\,\text{A}$、$I_2 = -\frac{2}{11}\,\text{A}$、$I_3 = \frac{18}{11}\,\text{A}$)

(2) $P = I_3^2 R_3 = \left(\dfrac{18}{11}\right)^2 \times 8 = \dfrac{324}{121} \times 8 = \dfrac{2592}{121} \approx 21.4\,\text{W}$

採点ポイント
  • 電流の向きを仮定し第一法則を書く(2点)
  • 2つのループで正しく第二法則を立てる(各3点)
  • 連立方程式を正しく解く(3点)
  • 消費電力を $P = I^2 R$ で求める(2点)