電流は磁場をつくるだけでなく、磁場の中に置かれた電流は力を受けます。
この「電流が磁場から受ける力」こそ、モーター(電動機)が回転する原理であり、スピーカーが音を出す仕組みです。
力の向きを一瞬で判定するフレミング左手の法則と、力の大きさを求める公式を学びましょう。
磁束密度 $\boldsymbol{B}$ の磁場の中に、電流 $I$ が流れている長さ $l$ の導線を置くと、導線は力を受けます。 この力は電流の向きにも磁場の向きにも垂直な方向にはたらきます。
この現象は1821年にファラデーによって発見されました。 彼は磁石のまわりで電流が流れる導線が回転することを示し、これが史上初の電動機(モーター)の原型となりました。
電流が磁場から受ける力は、電流の方向と磁場の方向の両方に垂直です。 数学的にはベクトルの外積(クロス積)$\boldsymbol{F} = I\boldsymbol{l} \times \boldsymbol{B}$ で表されます。
この「3つのベクトルが互いに垂直」という関係を覚えるのがフレミング左手の法則です。
力の向きを決めるのがフレミング左手の法則です。 左手の3本の指をそれぞれ次のように対応させます。
左手の3本の指を互いに直角に立てたとき、
フレミングの法則には「左手」と「右手」の2種類があります。
✕ 誤:「電流が磁場から受ける力」に右手の法則を使う → 力の向きが逆になる
○ 正:「電流が磁場から受ける力」→ 左手の法則。「電磁誘導で生じる電流の向き」→ 右手の法則
「モーター(力を得る)=左手」「発電機(電流を得る)=右手」と対にして覚えましょう。
フレミング左手の法則はベクトルの外積 $\boldsymbol{F} = I\boldsymbol{l} \times \boldsymbol{B}$ の幾何学的な表現です。 外積では「右ねじの法則」の向きに力が出ますが、電流の正の向きが正電荷の流れであることを考慮すると、左手の法則と一致します。
外積を使えば、角度が直角でない場合も自然に $F = BIl\sin\theta$ が導かれます。
磁束密度 $B$ の一様な磁場中に、電流 $I$ が流れている長さ $l$ の直線導線を置いたとき、 導線が受ける力の大きさは、電流と磁場のなす角 $\theta$ を用いて次のように表されます。
$$F = BIl\sin\theta$$
この式から読み取れるポイントを整理します。
$\theta$ は電流の向きと磁場の向きのなす角です。導線と磁場が「垂直に交わっている」場合に $\theta = 90°$ であり、$\sin 90° = 1$ なので $F = BIl$ です。
✕ 誤:常に $F = BIl$ と書く(角度を無視する)
○ 正:電流と磁場が垂直でないときは $F = BIl\sin\theta$ とする
多くの基本問題では $\theta = 90°$ ですが、斜めの場合は $\sin\theta$ を忘れないようにしましょう。
磁束密度 $B$ の単位 T(テスラ)は $\text{T} = \frac{\text{N}}{\text{A}\cdot\text{m}}$ と定義されます。 これは「$1\,\text{A}$ の電流が流れる $1\,\text{m}$ の導線が $1\,\text{N}$ の力を受ける磁場が $1\,\text{T}$」ということです。
つまり $F = BIl$ は公式というよりも、$B$ の定義そのものです。
一様な磁場中に長方形のコイルを置き、電流を流すと何が起こるでしょうか。 コイルの対辺には反対向きの電流が流れているため、フレミング左手の法則により反対向きの力を受け、 コイルは回転し始めます。これが直流モーターの原理です。
磁場に垂直な面積 $S$($= ab$、$a$:磁場に垂直な辺、$b$:磁場に平行な辺の長さ)をもつ $N$ 回巻きコイルが 磁場 $B$ の中で電流 $I$ を流しているとき、コイルの面と磁場のなす角を $\alpha$ とすると、 コイルにはたらくトルクは
$$\tau = NBIS\sin\alpha$$
コイルが半回転すると電流の向きが逆になり、トルクの向きも逆になってしまいます。 これを防ぐのが整流子(コミュテータ)です。
整流子は半回転ごとに電流の向きを自動的に切り替え、コイルが常に同じ方向に回り続けるようにします。
長方形コイルのうち、力を受けるのは磁場に垂直な方向の電流が流れている辺です。
✕ 誤:コイルの全ての辺に力がはたらく
○ 正:磁場に平行な辺の電流は磁場と平行なので力を受けない($\sin 0° = 0$)。力を受けるのは磁場に垂直な辺のみ
電流が磁場から受ける力は、「電流がつくる磁場」と並ぶ電磁気学の柱です。この力はモーター、スピーカー、計測器など幅広い応用をもちます。
Q1. フレミング左手の法則で、人差し指・中指・親指はそれぞれ何を表しますか。
Q2. 磁束密度 $0.50\,\text{T}$ の磁場に垂直に、$3.0\,\text{A}$ の電流が流れる長さ $0.20\,\text{m}$ の導線が受ける力を求めてください。
Q3. 電流と磁場が平行な場合、導線が受ける力はいくらですか。
Q4. 「モーター → 左手」「発電機 → 右手」と覚える理由を簡潔に述べてください。
電流が磁場から受ける力を、入試形式の問題で確認しましょう。
磁束密度 $0.80\,\text{T}$ の一様な磁場中に、磁場と垂直に長さ $0.25\,\text{m}$ の直線導線を置き、$4.0\,\text{A}$ の電流を流した。導線が受ける力の大きさを求めよ。
$F = 0.80\,\text{N}$
電流と磁場が垂直なので $\theta = 90°$、$\sin 90° = 1$ です。
$$F = BIl = 0.80 \times 4.0 \times 0.25 = 0.80\,\text{N}$$
磁束密度 $0.60\,\text{T}$ の一様な磁場中に、長さ $0.30\,\text{m}$ の直線導線を磁場と $30°$ の角度で置き、$5.0\,\text{A}$ の電流を流した。次の問いに答えよ。
(1) 導線が受ける力の大きさを求めよ。
(2) 導線が受ける力が最大になるのは、導線を磁場に対してどのような角度で置いたときか。その最大の力を求めよ。
(1) $F = 0.45\,\text{N}$
(2) 磁場に垂直($90°$)のとき最大。$F_{\max} = 0.90\,\text{N}$
(1) $F = BIl\sin\theta = 0.60 \times 5.0 \times 0.30 \times \sin 30° = 0.90 \times 0.50 = 0.45\,\text{N}$
(2) $\sin\theta$ が最大($= 1$)になるのは $\theta = 90°$ のとき。
$F_{\max} = BIl = 0.60 \times 5.0 \times 0.30 = 0.90\,\text{N}$
水平な2本の導体レールの上に、質量 $m = 0.020\,\text{kg}$、長さ $l = 0.30\,\text{m}$ の導体棒を置く。レールの間には鉛直上向きの一様な磁場 $B$ がかけられている。導体棒に電流 $I = 5.0\,\text{A}$ を流したとき、導体棒が浮き上がるために必要な磁束密度 $B$ の最小値を求めよ。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。
$B \geq 0.13\,\text{T}$
導体棒にはたらく力は、重力 $mg$(下向き)と電磁力 $F = BIl$(フレミング左手の法則で上向きになるように電流の向きを設定)です。
浮き上がる条件は $F \geq mg$ すなわち $BIl \geq mg$ です。
$$B \geq \frac{mg}{Il} = \frac{0.020 \times 9.8}{5.0 \times 0.30} = \frac{0.196}{1.5} \approx 0.13\,\text{T}$$