第24章 電流と磁場

電流が磁場から受ける力
─ フレミング左手の法則

電流は磁場をつくるだけでなく、磁場の中に置かれた電流は力を受けます。 この「電流が磁場から受ける力」こそ、モーター(電動機)が回転する原理であり、スピーカーが音を出す仕組みです。
力の向きを一瞬で判定するフレミング左手の法則と、力の大きさを求める公式を学びましょう。

1磁場中の電流が受ける力

磁束密度 $\boldsymbol{B}$ の磁場の中に、電流 $I$ が流れている長さ $l$ の導線を置くと、導線は力を受けます。 この力は電流の向きにも磁場の向きにも垂直な方向にはたらきます。

この現象は1821年にファラデーによって発見されました。 彼は磁石のまわりで電流が流れる導線が回転することを示し、これが史上初の電動機(モーター)の原型となりました。

💡 ここが本質:力は電流にも磁場にも「垂直」

電流が磁場から受ける力は、電流の方向と磁場の方向の両方に垂直です。 数学的にはベクトルの外積(クロス積)$\boldsymbol{F} = I\boldsymbol{l} \times \boldsymbol{B}$ で表されます。

この「3つのベクトルが互いに垂直」という関係を覚えるのがフレミング左手の法則です。

2フレミング左手の法則

力の向きを決めるのがフレミング左手の法則です。 左手の3本の指をそれぞれ次のように対応させます。

📐 フレミング左手の法則

左手の3本の指を互いに直角に立てたとき、

  • 人差し指:磁場 $\boldsymbol{B}$ の向き(Bield / 磁場)
  • 中指:電流 $I$ の向き(Current / 電流)
  • 親指:力 $\boldsymbol{F}$ の向き(Force / 力)
※ 覚え方:「電(中)磁(人)力(親)」。左手を使うことに注意。
⚠️ 落とし穴:右手と左手を間違える

フレミングの法則には「左手」と「右手」の2種類があります。

✕ 誤:「電流が磁場から受ける力」に右手の法則を使う → 力の向きが逆になる

○ 正:「電流が磁場から受ける力」→ 左手の法則。「電磁誘導で生じる電流の向き」→ 右手の法則

「モーター(力を得る)=左手」「発電機(電流を得る)=右手」と対にして覚えましょう。

🔬 深掘り:外積で理解する

フレミング左手の法則はベクトルの外積 $\boldsymbol{F} = I\boldsymbol{l} \times \boldsymbol{B}$ の幾何学的な表現です。 外積では「右ねじの法則」の向きに力が出ますが、電流の正の向きが正電荷の流れであることを考慮すると、左手の法則と一致します。

外積を使えば、角度が直角でない場合も自然に $F = BIl\sin\theta$ が導かれます。

3力の大きさ ─ $F = BIl\sin\theta$

磁束密度 $B$ の一様な磁場中に、電流 $I$ が流れている長さ $l$ の直線導線を置いたとき、 導線が受ける力の大きさは、電流と磁場のなす角 $\theta$ を用いて次のように表されます。

📐 電流が磁場から受ける力

$$F = BIl\sin\theta$$

※ $B$:磁束密度 [T]、$I$:電流 [A]、$l$:磁場中の導線の長さ [m]、$\theta$:電流と磁場のなす角。 電流と磁場が垂直($\theta = 90°$)のとき $F = BIl$(最大)。平行($\theta = 0°$)のとき $F = 0$。

この式から読み取れるポイントを整理します。

  • 力は $B$、$I$、$l$ のそれぞれに比例する
  • 電流と磁場が垂直($\theta = 90°$)のとき力は最大 $F = BIl$
  • 電流と磁場が平行($\theta = 0°$ または $180°$)のとき力はゼロ
  • 力の向きは電流と磁場の両方に垂直
⚠️ 落とし穴:$\theta$ の取り方を間違える

$\theta$ は電流の向きと磁場の向きのなす角です。導線と磁場が「垂直に交わっている」場合に $\theta = 90°$ であり、$\sin 90° = 1$ なので $F = BIl$ です。

✕ 誤:常に $F = BIl$ と書く(角度を無視する)

○ 正:電流と磁場が垂直でないときは $F = BIl\sin\theta$ とする

多くの基本問題では $\theta = 90°$ ですが、斜めの場合は $\sin\theta$ を忘れないようにしましょう。

💡 ここが本質:$B$ の定義としての $F = BIl$

磁束密度 $B$ の単位 T(テスラ)は $\text{T} = \frac{\text{N}}{\text{A}\cdot\text{m}}$ と定義されます。 これは「$1\,\text{A}$ の電流が流れる $1\,\text{m}$ の導線が $1\,\text{N}$ の力を受ける磁場が $1\,\text{T}$」ということです。

つまり $F = BIl$ は公式というよりも、$B$ の定義そのものです。

4コイルが磁場中で受ける力 ─ モーターの原理

一様な磁場中に長方形のコイルを置き、電流を流すと何が起こるでしょうか。 コイルの対辺には反対向きの電流が流れているため、フレミング左手の法則により反対向きの力を受け、 コイルは回転し始めます。これが直流モーターの原理です。

コイルにはたらくトルク

磁場に垂直な面積 $S$($= ab$、$a$:磁場に垂直な辺、$b$:磁場に平行な辺の長さ)をもつ $N$ 回巻きコイルが 磁場 $B$ の中で電流 $I$ を流しているとき、コイルの面と磁場のなす角を $\alpha$ とすると、 コイルにはたらくトルクは

📐 磁場中のコイルが受けるトルク

$$\tau = NBIS\sin\alpha$$

※ $\alpha$:コイル面の法線と磁場のなす角。コイル面が磁場に平行($\alpha = 90°$)のときトルクは最大。コイル面が磁場に垂直($\alpha = 0°$)のときトルクはゼロ。
🔬 深掘り:直流モーターの仕組み

コイルが半回転すると電流の向きが逆になり、トルクの向きも逆になってしまいます。 これを防ぐのが整流子(コミュテータ)です。

整流子は半回転ごとに電流の向きを自動的に切り替え、コイルが常に同じ方向に回り続けるようにします。

⚠️ 落とし穴:コイルの「磁場に平行な辺」に力がはたらくと考える

長方形コイルのうち、力を受けるのは磁場に垂直な方向の電流が流れている辺です。

✕ 誤:コイルの全ての辺に力がはたらく

○ 正:磁場に平行な辺の電流は磁場と平行なので力を受けない($\sin 0° = 0$)。力を受けるのは磁場に垂直な辺のみ

5この章を俯瞰する

電流が磁場から受ける力は、「電流がつくる磁場」と並ぶ電磁気学の柱です。この力はモーター、スピーカー、計測器など幅広い応用をもちます。

つながりマップ

  • ← E-5-2, E-5-3 電流がつくる磁場:磁場は電流がつくる。その磁場の中に別の電流を置くと力が生じる。
  • → E-5-5 平行電流間にはたらく力:「電流がつくる磁場」と「電流が磁場から受ける力」を組み合わせた典型応用。
  • → E-5-6 ローレンツ力:電流が力を受ける本質は、電流を構成する荷電粒子(電子)が一つ一つ力を受けること。
  • → 第25章 電磁誘導:磁場中で導体を動かす(力を加える)と起電力が生じる。フレミング右手の法則へ。

📋まとめ

  • 磁場中の電流は力を受ける。力の向きはフレミング左手の法則で決まる
  • 左手の人差し指=磁場中指=電流親指=力
  • 力の大きさ:$F = BIl\sin\theta$(電流と磁場が垂直なら $F = BIl$)
  • 力は電流にも磁場にも垂直な方向にはたらく
  • 磁場中のコイルは回転力(トルク)を受ける → モーターの原理
  • トルク $\tau = NBIS\sin\alpha$($\alpha$:コイル面の法線と磁場のなす角)

確認テスト

Q1. フレミング左手の法則で、人差し指・中指・親指はそれぞれ何を表しますか。

▶ クリックして解答を表示人差し指=磁場 $B$ の向き、中指=電流 $I$ の向き、親指=力 $F$ の向き。

Q2. 磁束密度 $0.50\,\text{T}$ の磁場に垂直に、$3.0\,\text{A}$ の電流が流れる長さ $0.20\,\text{m}$ の導線が受ける力を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$F = BIl = 0.50 \times 3.0 \times 0.20 = 0.30\,\text{N}$

Q3. 電流と磁場が平行な場合、導線が受ける力はいくらですか。

▶ クリックして解答を表示$F = BIl\sin 0° = 0$。電流と磁場が平行なら力は受けません。

Q4. 「モーター → 左手」「発電機 → 右手」と覚える理由を簡潔に述べてください。

▶ クリックして解答を表示モーターは電流から力を得る装置($F = BIl$)→フレミング左手の法則。発電機は力(運動)から電流を得る装置(電磁誘導)→フレミング右手の法則。

8入試問題演習

電流が磁場から受ける力を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

5-4-1 A 基礎 $F = BIl$計算

磁束密度 $0.80\,\text{T}$ の一様な磁場中に、磁場と垂直に長さ $0.25\,\text{m}$ の直線導線を置き、$4.0\,\text{A}$ の電流を流した。導線が受ける力の大きさを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$F = 0.80\,\text{N}$

解説

電流と磁場が垂直なので $\theta = 90°$、$\sin 90° = 1$ です。

$$F = BIl = 0.80 \times 4.0 \times 0.25 = 0.80\,\text{N}$$

B 発展レベル

5-4-2 B 発展 斜め磁場計算

磁束密度 $0.60\,\text{T}$ の一様な磁場中に、長さ $0.30\,\text{m}$ の直線導線を磁場と $30°$ の角度で置き、$5.0\,\text{A}$ の電流を流した。次の問いに答えよ。

(1) 導線が受ける力の大きさを求めよ。

(2) 導線が受ける力が最大になるのは、導線を磁場に対してどのような角度で置いたときか。その最大の力を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $F = 0.45\,\text{N}$

(2) 磁場に垂直($90°$)のとき最大。$F_{\max} = 0.90\,\text{N}$

解説

(1) $F = BIl\sin\theta = 0.60 \times 5.0 \times 0.30 \times \sin 30° = 0.90 \times 0.50 = 0.45\,\text{N}$

(2) $\sin\theta$ が最大($= 1$)になるのは $\theta = 90°$ のとき。

$F_{\max} = BIl = 0.60 \times 5.0 \times 0.30 = 0.90\,\text{N}$

採点ポイント
  • $F = BIl\sin\theta$ を正しく適用する(3点)
  • $\sin 30° = 0.50$ を用いて計算する(2点)
  • 最大条件 $\theta = 90°$ を正しく述べる(3点)

C 応用レベル

5-4-3 C 応用 導体棒のつりあい計算・論述

水平な2本の導体レールの上に、質量 $m = 0.020\,\text{kg}$、長さ $l = 0.30\,\text{m}$ の導体棒を置く。レールの間には鉛直上向きの一様な磁場 $B$ がかけられている。導体棒に電流 $I = 5.0\,\text{A}$ を流したとき、導体棒が浮き上がるために必要な磁束密度 $B$ の最小値を求めよ。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$B \geq 0.13\,\text{T}$

解説

導体棒にはたらく力は、重力 $mg$(下向き)と電磁力 $F = BIl$(フレミング左手の法則で上向きになるように電流の向きを設定)です。

浮き上がる条件は $F \geq mg$ すなわち $BIl \geq mg$ です。

$$B \geq \frac{mg}{Il} = \frac{0.020 \times 9.8}{5.0 \times 0.30} = \frac{0.196}{1.5} \approx 0.13\,\text{T}$$

採点ポイント
  • 導体棒にはたらく力を正しく図示する(2点)
  • つりあい条件 $BIl \geq mg$ を立てる(3点)
  • $B$ を正しく計算する(3点)
  • 力の向きをフレミング左手の法則で正しく判定する(2点)