電流が磁場から受ける力の正体は何でしょうか。
電流とは荷電粒子(主に電子)の流れですから、力を受けているのは一つ一つの荷電粒子です。
荷電粒子が磁場中で受ける力をローレンツ力と呼びます。
この力によって荷電粒子は円運動を描き、粒子加速器やオーロラなど多くの現象の根底をなしています。
磁束密度 $\boldsymbol{B}$ の磁場中を、電荷 $q$ の荷電粒子が速度 $\boldsymbol{v}$ で運動しているとき、 粒子はローレンツ力と呼ばれる力を受けます。
$$f = qvB\sin\theta$$
ベクトル表記:$\boldsymbol{f} = q\boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B}$
ローレンツ力の向きは、正電荷の場合はフレミング左手の法則で決まります。 「中指=速度 $\boldsymbol{v}$ の向き」「人差し指=磁場 $\boldsymbol{B}$ の向き」とすると、「親指=力の向き」です。
負電荷(電子)の場合は、$q < 0$ なので力の向きが正電荷の場合と逆になります。
ローレンツ力は常に速度に垂直です。 物体に垂直にはたらく力は仕事をしません($W = F \cdot \Delta x \cdot \cos 90° = 0$)。
したがって、ローレンツ力は荷電粒子の速さ(運動エネルギー)を変えません。 速度の大きさは一定のまま、方向だけが変わります。これが円運動になる根本的な理由です。
フレミング左手の法則の「中指」は正電荷の速度(=電流の向き)を指します。
✕ 誤:電子の速度の方向に中指を向けてそのまま力の向きを求める
○ 正:電子は負電荷なので、(1)電子の速度と逆方向に中指を向ける、または(2)正電荷として求めた力の向きを逆にする
電流が磁場から受ける力 $F = BIl$ の微視的な起源がローレンツ力です。 電流は多数の荷電粒子の流れですから、各粒子が受けるローレンツ力の合計が電流全体に働く力になります。
断面積 $S$、長さ $l$ の導線内に、単位体積あたり $n$ 個の自由電子(電荷 $-e$)が速さ $v_d$(ドリフト速度)で移動しているとします。
1個の電子が受けるローレンツ力:$f = ev_dB$
導線内の電子の総数:$N = nSl$
導線全体が受ける力:$F = Nf = nSl \cdot ev_dB$
ここで電流 $I = neSv_d$ なので、
$$F = nSl \cdot ev_dB = (neSv_d) \cdot lB = BIl$$
このようにして $F = BIl$ がローレンツ力から導かれます。
マクロな法則 $F = BIl$(電流が磁場から受ける力)は、 ミクロな法則 $f = qvB$(1つの荷電粒子が受けるローレンツ力)を多数の粒子について合計したものです。
このマクロとミクロの対応関係は、電磁気学の理解を深める重要な視点です。
磁場に垂直に入射した荷電粒子は、ローレンツ力を向心力として等速円運動を行います。
ローレンツ力 $qvB$ が向心力 $\frac{mv^2}{r}$ に等しいとおくと、
$$qvB = \frac{mv^2}{r} \quad \Longrightarrow \quad r = \frac{mv}{qB}$$
円運動の周期 $T$ は、円周 $2\pi r$ を速さ $v$ で割って求まります。
$$T = \frac{2\pi r}{v} = \frac{2\pi m}{qB}$$
$T = \frac{2\pi m}{qB}$ には速さ $v$ が含まれていません。 これは、速い粒子は大きな円を描き、遅い粒子は小さな円を描きますが、 1周にかかる時間はどちらも同じということです。
この性質はサイクロトロン(粒子加速器)の動作原理の基礎です。 一定周期の交流電場で繰り返し加速できるのは、周期が速さに依存しないおかげです。
磁場に対して角度をもって入射した場合、速度を磁場に平行な成分 $v_\parallel$ と垂直な成分 $v_\perp$ に分解します。
結果として、粒子はらせん(ヘリカル)運動を行います。 オーロラが地球の極付近で見られるのは、太陽風の荷電粒子が地磁気に沿ってらせん運動し、極に集中するためです。
ローレンツ力は速度に垂直なので、速さ(運動エネルギー)は変えません。
✕ 誤:磁場中で荷電粒子は加速される(速さが増す)
○ 正:磁場中で荷電粒子は方向が変わるだけで、速さは一定のまま(等速円運動)
粒子を加速するには電場が必要です。磁場だけでは速さを変えることはできません。
サイクロトロンは、一様磁場と交流電場を組み合わせた粒子加速器です。 荷電粒子は磁場中で半円を描き、中央の電場で加速されます。 周期が速さに依存しないため、一定周波数の電場で繰り返し加速できます。
電場 $E$ と磁場 $B$ を直交させると、特定の速さ $v = \frac{E}{B}$ の粒子だけが直進し、 それ以外の速さの粒子は曲がります。これが速度選別器の原理です。
電場による力とローレンツ力がつりあう条件:
$$qE = qvB \quad \Longrightarrow \quad v = \frac{E}{B}$$
速度選別器で速さを揃えた荷電粒子を一様磁場に入射すると、円運動の半径 $r = \frac{mv}{qB}$ は 質量 $m$ に比例します。これにより、同じ電荷をもつイオンを質量ごとに分離できます。 これが質量分析器の原理です。
導体に電流を流しながら磁場をかけると、ローレンツ力によって電子が一方の面に偏り、 電流と磁場の両方に垂直な方向に電位差(ホール電圧)が生じます。
ホール電圧を測定することで、磁場の強さを測ったり、半導体のキャリア密度や種類(電子かホールか)を調べたりできます。
ローレンツ力は「電流が磁場から受ける力」の微視的な起源であり、この章全体を貫く根幹的な概念です。電磁誘導への橋渡しにもなります。
Q1. ローレンツ力の公式を書き、各記号の意味を答えてください。
Q2. ローレンツ力は荷電粒子の運動エネルギーを変えますか。理由も答えてください。
Q3. 磁場に垂直に入射した荷電粒子の円運動の半径を求める式を書いてください。
Q4. 円運動の周期が速さに依存しない理由を簡潔に述べてください。
Q5. 速度選別器で直進できる粒子の速さを求める式を書いてください。
ローレンツ力と荷電粒子の運動を、入試形式の問題で確認しましょう。
電荷 $q = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{C}$、質量 $m = 9.1 \times 10^{-31}\,\text{kg}$ の電子が、磁束密度 $B = 0.010\,\text{T}$ の一様な磁場に垂直に速さ $v = 4.0 \times 10^{6}\,\text{m/s}$ で入射した。次の問いに答えよ。
(1) 電子が受けるローレンツ力の大きさを求めよ。
(2) 円運動の半径を求めよ。
(1) $f = 6.4 \times 10^{-15}\,\text{N}$
(2) $r \approx 2.3 \times 10^{-3}\,\text{m}$(約 $2.3\,\text{mm}$)
(1) $f = qvB = 1.6 \times 10^{-19} \times 4.0 \times 10^{6} \times 0.010 = 6.4 \times 10^{-15}\,\text{N}$
(2) $r = \frac{mv}{qB} = \frac{9.1 \times 10^{-31} \times 4.0 \times 10^{6}}{1.6 \times 10^{-19} \times 0.010} = \frac{3.64 \times 10^{-24}}{1.6 \times 10^{-21}} \approx 2.3 \times 10^{-3}\,\text{m}$
速度選別器において、電場 $E = 3.0 \times 10^{4}\,\text{V/m}$ と磁場 $B = 0.60\,\text{T}$ が直交して設定されている。次の問いに答えよ。
(1) 直進できる荷電粒子の速さを求めよ。
(2) 直進できる速さが粒子の電荷や質量に依存しない理由を説明せよ。
(1) $v = 5.0 \times 10^{4}\,\text{m/s}$
(2) 電場による力 $qE$ とローレンツ力 $qvB$ がつりあう条件 $qE = qvB$ で $q$ が消えるため。$v = E/B$ は $q$ にも $m$ にも依存しない。
(1) $v = \frac{E}{B} = \frac{3.0 \times 10^{4}}{0.60} = 5.0 \times 10^{4}\,\text{m/s}$
(2) 直進の条件は電場の力とローレンツ力のつりあいです。
$qE = qvB$ の両辺に $q$ が含まれるため、割り算すると $q$ が消えます。
よって $v = \frac{E}{B}$ は電荷や質量に依存せず、速さだけで選別されます。
速度選別器で速さ $v = 1.0 \times 10^{5}\,\text{m/s}$ に揃えた一価イオン(電荷 $e = 1.6 \times 10^{-19}\,\text{C}$)を、磁束密度 $B = 0.50\,\text{T}$ の一様な磁場に垂直に入射させた。イオンは半円を描いて検出器に到達し、入射点から検出点までの距離(直径)が $0.12\,\text{m}$ であった。次の問いに答えよ。
(1) このイオンの質量を求めよ。
(2) 同じ条件で質量が2倍のイオンを入射したとき、入射点から検出点までの距離はいくらになるか。
(3) この装置で異なる質量のイオンを分離できる理由を説明せよ。
(1) $m = 4.8 \times 10^{-26}\,\text{kg}$
(2) $0.24\,\text{m}$
(3) 半径 $r = \frac{mv}{qB}$ が質量 $m$ に比例するため、質量の異なるイオンは異なる半径の円を描き、異なる位置に到達するから。
(1) 直径が $0.12\,\text{m}$ なので半径 $r = 0.060\,\text{m}$。
$r = \frac{mv}{qB}$ より $m = \frac{qBr}{v} = \frac{1.6 \times 10^{-19} \times 0.50 \times 0.060}{1.0 \times 10^{5}}$
$= \frac{4.8 \times 10^{-21}}{1.0 \times 10^{5}} = 4.8 \times 10^{-26}\,\text{kg}$
(2) $r \propto m$ なので、質量が2倍なら半径も2倍、直径も2倍で $0.24\,\text{m}$。
(3) $v$、$q$、$B$ が同じなら $r = \frac{mv}{qB} \propto m$。質量が異なるイオンは異なる半径の半円を描くため、検出器上の異なる位置に到達し、質量ごとに分離できます。