第24章 電流と磁場

荷電粒子の円運動
─ 磁場中の軌跡

一様な磁場の中に荷電粒子を打ち込むと、粒子はまっすぐ進まず、美しい円を描きます。 ローレンツ力が常に速度と垂直に働くため、粒子の速さは変わらず向きだけが変わり続ける ── これはまさに等速円運動です。
この現象は質量分析器やサイクロトロンなど、現代の科学技術を支える原理です。 円運動の半径・周期の公式を導出し、その応用を学びましょう。

1なぜ円運動になるのか

電荷 $q$($q > 0$)、質量 $m$ の荷電粒子が、速さ $v$ で一様な磁場 $B$(紙面の奥向き)に対して垂直に入射する場合を考えます。

このとき、粒子が受けるローレンツ力

$$F = qvB$$

で、その向きは速度と磁場の両方に垂直です。 力が常に速度と垂直ということは、力は速さを変えず、進行方向だけを変えることを意味します。

💡 ここが本質:ローレンツ力は仕事をしない

ローレンツ力は常に速度に垂直なので、力と変位の内積はゼロ → 仕事 $W = 0$ です。

したがって粒子の運動エネルギー $\frac{1}{2}mv^2$ は変化せず、速さ一定のまま向きだけが変わります。 これは等速円運動の条件(向心力が速度と常に垂直)そのものです。

力が常に運動方向と垂直で大きさ一定 → 粒子は等速円運動をします。 ローレンツ力が向心力の役割を果たしているのです。

⚠️ 落とし穴:「磁場が粒子を加速する」と思い込む

磁場中の荷電粒子の速さは変わりません。磁場は粒子の運動方向を変えるだけです。

✕ 誤:磁場が強いほど粒子の速さが増す

○ 正:磁場が強いほど曲がり方が急になる(半径が小さくなる)が、速さは変わらない

2円運動の半径と周期

ローレンツ力が向心力となるので、円運動の運動方程式は

$$qvB = \frac{mv^2}{r}$$

これを半径 $r$ について解くと、

📐 円運動の半径(ラーモア半径)

$$r = \frac{mv}{qB}$$

※ $m$:粒子の質量 [kg]、$v$:粒子の速さ [m/s]、$q$:電荷の大きさ [C]、$B$:磁束密度 [T]

この半径 $r$ をラーモア半径(旋回半径)と呼びます。

半径の依存性を読み取る

  • 速さ $v$ が大きいほど半径は大きい(速い粒子は曲がりにくい)
  • 質量 $m$ が大きいほど半径は大きい(重い粒子は曲がりにくい)
  • 電荷 $q$ が大きいほど半径は小さい(大きな力を受けるので曲がりやすい)
  • 磁場 $B$ が強いほど半径は小さい(強い力で急に曲がる)

周期と周波数

円運動の周期 $T$ は、$T = \frac{2\pi r}{v}$ に $r = \frac{mv}{qB}$ を代入して、

📐 円運動の周期(サイクロトロン周期)

$$T = \frac{2\pi m}{qB}$$

※ 周期は速さ $v$ に依存しない。これがサイクロトロンの原理の鍵。

対応するサイクロトロン周波数(角振動数)は

$$\omega = \frac{2\pi}{T} = \frac{qB}{m}$$

💡 ここが本質:周期は速さに依存しない

$T = \frac{2\pi m}{qB}$ には速さ $v$ が含まれていません。速い粒子は大きな円を描きますが、1周にかかる時間は遅い粒子と同じです。

これは直感に反するかもしれませんが、速い粒子ほど半径が大きくなり、周回距離も伸びるため、ちょうど打ち消し合って周期が一定になるのです。

▷ 半径と周期の導出

ローレンツ力 = 向心力 より

$$qvB = \frac{mv^2}{r}$$

両辺を $v$ で割ると

$$qB = \frac{mv}{r} \quad \Rightarrow \quad r = \frac{mv}{qB}$$

周期 $T$ は円周 $2\pi r$ を速さ $v$ で割って

$$T = \frac{2\pi r}{v} = \frac{2\pi}{v} \cdot \frac{mv}{qB} = \frac{2\pi m}{qB}$$

$v$ がきれいに消えることに注目してください。

⚠️ 落とし穴:$r = \frac{mv}{qB}$ で $q$ に符号を入れてしまう

半径の公式では $q$ は電荷の大きさ(正の値)を使います。負の電荷の場合も $|q|$ を入れます。

✕ 誤:電子の電荷 $q = -e$ をそのまま代入し、半径が負になる

○ 正:$r = \frac{mv}{|q|B} = \frac{mv}{eB}$($e$ は電気素量の大きさ)

負の電荷は正の電荷と逆回りに円運動しますが、半径の大きさは同じ公式で求まります。

3応用:質量分析器とサイクロトロン

質量分析器

質量分析器は、荷電粒子の円運動の半径が質量に依存することを利用して、イオンの質量(したがって原子の種類)を特定する装置です。

同じ速さ $v$、同じ電荷 $q$ のイオンを一様磁場に打ち込むと、半径 $r = \frac{mv}{qB}$ が質量 $m$ に比例するため、質量の異なるイオンは異なる半径の半円を描いて検出器に到達します。 到達位置から半径を測定し、質量を決定できます。

$$m = \frac{qBr}{v}$$

サイクロトロン

サイクロトロンは、磁場中の荷電粒子の円運動の周期が速さに依存しないことを利用した粒子加速器です。

D型の電極(ディー)2つの間に交流電圧をかけ、粒子がディーの隙間を通過するたびに電場で加速します。 加速されて速さが増すと円運動の半径は大きくなりますが、周期は変わらないため、同じ周波数の交流電圧で繰り返し加速できます。

💡 ここが本質:サイクロトロンの共鳴条件

交流電圧の周波数を $f = \frac{qB}{2\pi m}$(サイクロトロン周波数)に合わせると、 粒子は毎回ディーの隙間で加速のタイミングが一致します。

これがサイクロトロン共鳴と呼ばれる条件で、粒子はらせん状に外側へ広がりながら加速され続けます。

🔬 深掘り:相対論的効果

粒子が光速に近い速さまで加速されると、相対論的質量増加により $m$ が増え、周期 $T = \frac{2\pi m}{qB}$ が長くなります。 このため、通常のサイクロトロンでは共鳴条件が崩れます。

この問題を解決するために、磁場を調整する「シンクロサイクロトロン」や、軌道を固定した「シンクロトロン」が開発されました。

4磁場に斜めに入射する場合 ─ らせん運動

これまでは速度が磁場に垂直な場合を考えましたが、速度が磁場と角度 $\theta$($0° < \theta < 90°$)をなす場合はどうなるでしょうか。

速度を磁場に垂直な成分 $v_\perp = v\sin\theta$ と平行な成分 $v_\parallel = v\cos\theta$ に分解します。

  • $v_\perp$ の成分 → ローレンツ力により円運動(半径 $r = \frac{mv_\perp}{qB}$)
  • $v_\parallel$ の成分 → ローレンツ力を受けない → 等速直線運動

これらを合成すると、粒子は磁場の方向に等速で進みながら、同時に円運動をするらせん(ヘリカル)運動をします。

📐 らせん運動のピッチ

$$p = v_\parallel \cdot T = v\cos\theta \cdot \frac{2\pi m}{qB}$$

※ ピッチ $p$ は、粒子が1周する間に磁場方向に進む距離。
🔬 深掘り:オーロラとらせん運動

太陽から飛来した荷電粒子(太陽風)は、地球の磁場に捕らえられてらせん運動をしながら磁力線に沿って極地方へ向かいます。 粒子が大気の分子と衝突して発光する現象がオーロラです。

らせん運動の物理は、オーロラだけでなく核融合プラズマの閉じ込めにも重要な役割を果たしています。

⚠️ 落とし穴:磁場に平行な速度成分を忘れる

磁場に斜めに入射する問題では、速度を分解することが必須です。

✕ 誤:斜め入射でも $r = \frac{mv}{qB}$ とする

○ 正:磁場に垂直な成分だけを使い、$r = \frac{mv\sin\theta}{qB}$ とする

5この章を俯瞰する

荷電粒子の円運動は、ローレンツ力の最も重要な応用です。質量分析器やサイクロトロンなど、現代技術への直結が特徴です。

つながりマップ

  • ← E-5-6 ローレンツ力:荷電粒子が磁場から受ける力。円運動の原動力そのもの。
  • ← M-4 円運動:等速円運動の運動方程式 $F = \frac{mv^2}{r}$ をここで活用する。
  • → E-5-8 速度選別器:電場と磁場を組み合わせて特定の速さの粒子だけを選び出す装置。
  • → E-5-9 ホール効果:導体中の荷電粒子のローレンツ力が電圧を生む現象。
  • → 第25章 電磁誘導:磁束の変化と起電力のつながり。

📋まとめ

  • 磁場に垂直に入射した荷電粒子は、ローレンツ力を向心力として等速円運動をする
  • 円運動の半径:$r = \dfrac{mv}{qB}$(ラーモア半径)
  • 円運動の周期:$T = \dfrac{2\pi m}{qB}$(速さに依存しない)
  • ローレンツ力は仕事をしない → 粒子の速さは変化しない
  • 質量分析器は $r \propto m$ を利用して質量を測定する
  • サイクロトロンは $T$ が速さに依存しないことを利用して粒子を加速する
  • 磁場に斜め入射 → 円運動 + 等速直線運動 = らせん運動

確認テスト

Q1. ローレンツ力が荷電粒子に仕事をしない理由を簡潔に述べてください。

▶ クリックして解答を表示ローレンツ力は常に速度に垂直なので、力と変位の内積がゼロとなり、仕事 $W = \boldsymbol{F} \cdot \Delta\boldsymbol{r} = 0$ だからです。

Q2. 磁場中の荷電粒子の円運動の半径を2倍にするには、速さ・磁場をどう変えればよいですか。

▶ クリックして解答を表示速さを2倍にするか、磁場を半分にすればよいです。$r = \frac{mv}{qB}$ より $r \propto \frac{v}{B}$ です。

Q3. 円運動の周期 $T = \frac{2\pi m}{qB}$ が速さ $v$ に依存しないのはなぜですか。

▶ クリックして解答を表示速い粒子は大きな円を描くため、周回距離が長くなりますが、速さも大きいため、1周にかかる時間はちょうど同じになるからです。

Q4. 陽子と電子が同じ速さ・同じ磁場中で円運動するとき、半径が大きいのはどちらですか。

▶ クリックして解答を表示陽子です。$r = \frac{mv}{qB}$ で電荷の大きさは同じですが、陽子の質量は電子の約1836倍なので半径も約1836倍です。

Q5. 荷電粒子が磁場に対して斜めに入射するとどのような運動をしますか。

▶ クリックして解答を表示磁場に垂直な成分で円運動、平行な成分で等速直線運動をするため、合成するとらせん(ヘリカル)運動になります。

8入試問題演習

荷電粒子の円運動に関する問題を、入試形式で確認しましょう。

A 基礎レベル

5-7-1 A 基礎 円運動の半径計算

質量 $m = 1.67 \times 10^{-27}\,\text{kg}$、電荷 $q = 1.60 \times 10^{-19}\,\text{C}$ の陽子が、速さ $v = 2.0 \times 10^{6}\,\text{m/s}$ で磁束密度 $B = 0.50\,\text{T}$ の一様磁場に垂直に入射した。次の問いに答えよ。

(1) 円運動の半径を求めよ。

(2) 円運動の周期を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $r \approx 4.2 \times 10^{-2}\,\text{m}$($4.2\,\text{cm}$)

(2) $T \approx 1.3 \times 10^{-7}\,\text{s}$

解説

(1) $r = \frac{mv}{qB} = \frac{1.67 \times 10^{-27} \times 2.0 \times 10^{6}}{1.60 \times 10^{-19} \times 0.50} = \frac{3.34 \times 10^{-21}}{8.0 \times 10^{-20}} \approx 4.2 \times 10^{-2}\,\text{m}$

(2) $T = \frac{2\pi m}{qB} = \frac{2\pi \times 1.67 \times 10^{-27}}{1.60 \times 10^{-19} \times 0.50} = \frac{1.05 \times 10^{-26}}{8.0 \times 10^{-20}} \approx 1.3 \times 10^{-7}\,\text{s}$

B 発展レベル

5-7-2 B 発展 質量分析器計算

質量分析器において、1価の正イオン($q = 1.60 \times 10^{-19}\,\text{C}$)を速さ $v = 1.0 \times 10^{5}\,\text{m/s}$ で磁束密度 $B = 0.20\,\text{T}$ の一様磁場に垂直に打ち込んだところ、半円を描いて検出器に到達した。入射点から検出器までの距離(直径)が $d = 0.12\,\text{m}$ であった。次の問いに答えよ。

(1) このイオンの質量を求めよ。

(2) このイオンは何の元素のイオンと考えられるか。(参考:$^{12}\text{C}$ の質量 $= 1.99 \times 10^{-26}\,\text{kg}$)

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $m = 1.92 \times 10^{-26}\,\text{kg}$

(2) 炭素 $^{12}\text{C}$ のイオンと考えられる

解説

半径 $r = \frac{d}{2} = 0.060\,\text{m}$ である。

(1) $r = \frac{mv}{qB}$ より $m = \frac{qBr}{v} = \frac{1.60 \times 10^{-19} \times 0.20 \times 0.060}{1.0 \times 10^{5}} = \frac{1.92 \times 10^{-21}}{1.0 \times 10^{5}} = 1.92 \times 10^{-26}\,\text{kg}$

(2) $^{12}\text{C}$ の質量 $1.99 \times 10^{-26}\,\text{kg}$ に近いので、$^{12}\text{C}^{+}$ イオンと考えられる。

採点ポイント
  • 直径から半径を正しく求める(2点)
  • 公式を変形して質量を求める(3点)
  • 既知の質量と比較して元素を同定する(3点)

C 応用レベル

5-7-3 C 応用 サイクロトロン論述・計算

サイクロトロンにおいて、陽子(質量 $m = 1.67 \times 10^{-27}\,\text{kg}$、電荷 $q = 1.60 \times 10^{-19}\,\text{C}$)を磁束密度 $B = 1.0\,\text{T}$ の一様磁場中で加速する。ディーの最大半径が $R = 0.50\,\text{m}$ であるとき、次の問いに答えよ。

(1) 交流電圧の周波数を求めよ。

(2) 陽子が取り出されるとき(ディーの縁に達したとき)の速さを求めよ。

(3) そのときの陽子の運動エネルギーを eV 単位で求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $f \approx 1.5 \times 10^{7}\,\text{Hz}$($15\,\text{MHz}$)

(2) $v \approx 4.8 \times 10^{7}\,\text{m/s}$

(3) $E_k \approx 1.2 \times 10^{7}\,\text{eV}$($12\,\text{MeV}$)

解説

(1) $f = \frac{qB}{2\pi m} = \frac{1.60 \times 10^{-19} \times 1.0}{2\pi \times 1.67 \times 10^{-27}} = \frac{1.60 \times 10^{-19}}{1.05 \times 10^{-26}} \approx 1.5 \times 10^{7}\,\text{Hz}$

(2) $r = R$ のとき $v = \frac{qBR}{m} = \frac{1.60 \times 10^{-19} \times 1.0 \times 0.50}{1.67 \times 10^{-27}} \approx 4.8 \times 10^{7}\,\text{m/s}$

(3) $E_k = \frac{1}{2}mv^2 = \frac{1}{2} \times 1.67 \times 10^{-27} \times (4.8 \times 10^7)^2 \approx 1.92 \times 10^{-12}\,\text{J}$

eV 換算:$\frac{1.92 \times 10^{-12}}{1.60 \times 10^{-19}} \approx 1.2 \times 10^{7}\,\text{eV} = 12\,\text{MeV}$

(注:この速さは光速の約16%であり、相対論的効果は小さいので古典的な計算で十分です。)

採点ポイント
  • サイクロトロン周波数の公式を正しく用いる(3点)
  • 最大半径から速さを求める(3点)
  • 運動エネルギーを求めてeV換算する(4点)