一様な磁場の中に荷電粒子を打ち込むと、粒子はまっすぐ進まず、美しい円を描きます。
ローレンツ力が常に速度と垂直に働くため、粒子の速さは変わらず向きだけが変わり続ける ── これはまさに等速円運動です。
この現象は質量分析器やサイクロトロンなど、現代の科学技術を支える原理です。
円運動の半径・周期の公式を導出し、その応用を学びましょう。
電荷 $q$($q > 0$)、質量 $m$ の荷電粒子が、速さ $v$ で一様な磁場 $B$(紙面の奥向き)に対して垂直に入射する場合を考えます。
このとき、粒子が受けるローレンツ力は
$$F = qvB$$
で、その向きは速度と磁場の両方に垂直です。 力が常に速度と垂直ということは、力は速さを変えず、進行方向だけを変えることを意味します。
ローレンツ力は常に速度に垂直なので、力と変位の内積はゼロ → 仕事 $W = 0$ です。
したがって粒子の運動エネルギー $\frac{1}{2}mv^2$ は変化せず、速さ一定のまま向きだけが変わります。 これは等速円運動の条件(向心力が速度と常に垂直)そのものです。
力が常に運動方向と垂直で大きさ一定 → 粒子は等速円運動をします。 ローレンツ力が向心力の役割を果たしているのです。
磁場中の荷電粒子の速さは変わりません。磁場は粒子の運動方向を変えるだけです。
✕ 誤:磁場が強いほど粒子の速さが増す
○ 正:磁場が強いほど曲がり方が急になる(半径が小さくなる)が、速さは変わらない
ローレンツ力が向心力となるので、円運動の運動方程式は
$$qvB = \frac{mv^2}{r}$$
これを半径 $r$ について解くと、
$$r = \frac{mv}{qB}$$
この半径 $r$ をラーモア半径(旋回半径)と呼びます。
円運動の周期 $T$ は、$T = \frac{2\pi r}{v}$ に $r = \frac{mv}{qB}$ を代入して、
$$T = \frac{2\pi m}{qB}$$
対応するサイクロトロン周波数(角振動数)は
$$\omega = \frac{2\pi}{T} = \frac{qB}{m}$$
$T = \frac{2\pi m}{qB}$ には速さ $v$ が含まれていません。速い粒子は大きな円を描きますが、1周にかかる時間は遅い粒子と同じです。
これは直感に反するかもしれませんが、速い粒子ほど半径が大きくなり、周回距離も伸びるため、ちょうど打ち消し合って周期が一定になるのです。
ローレンツ力 = 向心力 より
$$qvB = \frac{mv^2}{r}$$
両辺を $v$ で割ると
$$qB = \frac{mv}{r} \quad \Rightarrow \quad r = \frac{mv}{qB}$$
周期 $T$ は円周 $2\pi r$ を速さ $v$ で割って
$$T = \frac{2\pi r}{v} = \frac{2\pi}{v} \cdot \frac{mv}{qB} = \frac{2\pi m}{qB}$$
$v$ がきれいに消えることに注目してください。
半径の公式では $q$ は電荷の大きさ(正の値)を使います。負の電荷の場合も $|q|$ を入れます。
✕ 誤:電子の電荷 $q = -e$ をそのまま代入し、半径が負になる
○ 正:$r = \frac{mv}{|q|B} = \frac{mv}{eB}$($e$ は電気素量の大きさ)
負の電荷は正の電荷と逆回りに円運動しますが、半径の大きさは同じ公式で求まります。
質量分析器は、荷電粒子の円運動の半径が質量に依存することを利用して、イオンの質量(したがって原子の種類)を特定する装置です。
同じ速さ $v$、同じ電荷 $q$ のイオンを一様磁場に打ち込むと、半径 $r = \frac{mv}{qB}$ が質量 $m$ に比例するため、質量の異なるイオンは異なる半径の半円を描いて検出器に到達します。 到達位置から半径を測定し、質量を決定できます。
$$m = \frac{qBr}{v}$$
サイクロトロンは、磁場中の荷電粒子の円運動の周期が速さに依存しないことを利用した粒子加速器です。
D型の電極(ディー)2つの間に交流電圧をかけ、粒子がディーの隙間を通過するたびに電場で加速します。 加速されて速さが増すと円運動の半径は大きくなりますが、周期は変わらないため、同じ周波数の交流電圧で繰り返し加速できます。
交流電圧の周波数を $f = \frac{qB}{2\pi m}$(サイクロトロン周波数)に合わせると、 粒子は毎回ディーの隙間で加速のタイミングが一致します。
これがサイクロトロン共鳴と呼ばれる条件で、粒子はらせん状に外側へ広がりながら加速され続けます。
粒子が光速に近い速さまで加速されると、相対論的質量増加により $m$ が増え、周期 $T = \frac{2\pi m}{qB}$ が長くなります。 このため、通常のサイクロトロンでは共鳴条件が崩れます。
この問題を解決するために、磁場を調整する「シンクロサイクロトロン」や、軌道を固定した「シンクロトロン」が開発されました。
これまでは速度が磁場に垂直な場合を考えましたが、速度が磁場と角度 $\theta$($0° < \theta < 90°$)をなす場合はどうなるでしょうか。
速度を磁場に垂直な成分 $v_\perp = v\sin\theta$ と平行な成分 $v_\parallel = v\cos\theta$ に分解します。
これらを合成すると、粒子は磁場の方向に等速で進みながら、同時に円運動をするらせん(ヘリカル)運動をします。
$$p = v_\parallel \cdot T = v\cos\theta \cdot \frac{2\pi m}{qB}$$
太陽から飛来した荷電粒子(太陽風)は、地球の磁場に捕らえられてらせん運動をしながら磁力線に沿って極地方へ向かいます。 粒子が大気の分子と衝突して発光する現象がオーロラです。
らせん運動の物理は、オーロラだけでなく核融合プラズマの閉じ込めにも重要な役割を果たしています。
磁場に斜めに入射する問題では、速度を分解することが必須です。
✕ 誤:斜め入射でも $r = \frac{mv}{qB}$ とする
○ 正:磁場に垂直な成分だけを使い、$r = \frac{mv\sin\theta}{qB}$ とする
荷電粒子の円運動は、ローレンツ力の最も重要な応用です。質量分析器やサイクロトロンなど、現代技術への直結が特徴です。
Q1. ローレンツ力が荷電粒子に仕事をしない理由を簡潔に述べてください。
Q2. 磁場中の荷電粒子の円運動の半径を2倍にするには、速さ・磁場をどう変えればよいですか。
Q3. 円運動の周期 $T = \frac{2\pi m}{qB}$ が速さ $v$ に依存しないのはなぜですか。
Q4. 陽子と電子が同じ速さ・同じ磁場中で円運動するとき、半径が大きいのはどちらですか。
Q5. 荷電粒子が磁場に対して斜めに入射するとどのような運動をしますか。
荷電粒子の円運動に関する問題を、入試形式で確認しましょう。
質量 $m = 1.67 \times 10^{-27}\,\text{kg}$、電荷 $q = 1.60 \times 10^{-19}\,\text{C}$ の陽子が、速さ $v = 2.0 \times 10^{6}\,\text{m/s}$ で磁束密度 $B = 0.50\,\text{T}$ の一様磁場に垂直に入射した。次の問いに答えよ。
(1) 円運動の半径を求めよ。
(2) 円運動の周期を求めよ。
(1) $r \approx 4.2 \times 10^{-2}\,\text{m}$($4.2\,\text{cm}$)
(2) $T \approx 1.3 \times 10^{-7}\,\text{s}$
(1) $r = \frac{mv}{qB} = \frac{1.67 \times 10^{-27} \times 2.0 \times 10^{6}}{1.60 \times 10^{-19} \times 0.50} = \frac{3.34 \times 10^{-21}}{8.0 \times 10^{-20}} \approx 4.2 \times 10^{-2}\,\text{m}$
(2) $T = \frac{2\pi m}{qB} = \frac{2\pi \times 1.67 \times 10^{-27}}{1.60 \times 10^{-19} \times 0.50} = \frac{1.05 \times 10^{-26}}{8.0 \times 10^{-20}} \approx 1.3 \times 10^{-7}\,\text{s}$
質量分析器において、1価の正イオン($q = 1.60 \times 10^{-19}\,\text{C}$)を速さ $v = 1.0 \times 10^{5}\,\text{m/s}$ で磁束密度 $B = 0.20\,\text{T}$ の一様磁場に垂直に打ち込んだところ、半円を描いて検出器に到達した。入射点から検出器までの距離(直径)が $d = 0.12\,\text{m}$ であった。次の問いに答えよ。
(1) このイオンの質量を求めよ。
(2) このイオンは何の元素のイオンと考えられるか。(参考:$^{12}\text{C}$ の質量 $= 1.99 \times 10^{-26}\,\text{kg}$)
(1) $m = 1.92 \times 10^{-26}\,\text{kg}$
(2) 炭素 $^{12}\text{C}$ のイオンと考えられる
半径 $r = \frac{d}{2} = 0.060\,\text{m}$ である。
(1) $r = \frac{mv}{qB}$ より $m = \frac{qBr}{v} = \frac{1.60 \times 10^{-19} \times 0.20 \times 0.060}{1.0 \times 10^{5}} = \frac{1.92 \times 10^{-21}}{1.0 \times 10^{5}} = 1.92 \times 10^{-26}\,\text{kg}$
(2) $^{12}\text{C}$ の質量 $1.99 \times 10^{-26}\,\text{kg}$ に近いので、$^{12}\text{C}^{+}$ イオンと考えられる。
サイクロトロンにおいて、陽子(質量 $m = 1.67 \times 10^{-27}\,\text{kg}$、電荷 $q = 1.60 \times 10^{-19}\,\text{C}$)を磁束密度 $B = 1.0\,\text{T}$ の一様磁場中で加速する。ディーの最大半径が $R = 0.50\,\text{m}$ であるとき、次の問いに答えよ。
(1) 交流電圧の周波数を求めよ。
(2) 陽子が取り出されるとき(ディーの縁に達したとき)の速さを求めよ。
(3) そのときの陽子の運動エネルギーを eV 単位で求めよ。
(1) $f \approx 1.5 \times 10^{7}\,\text{Hz}$($15\,\text{MHz}$)
(2) $v \approx 4.8 \times 10^{7}\,\text{m/s}$
(3) $E_k \approx 1.2 \times 10^{7}\,\text{eV}$($12\,\text{MeV}$)
(1) $f = \frac{qB}{2\pi m} = \frac{1.60 \times 10^{-19} \times 1.0}{2\pi \times 1.67 \times 10^{-27}} = \frac{1.60 \times 10^{-19}}{1.05 \times 10^{-26}} \approx 1.5 \times 10^{7}\,\text{Hz}$
(2) $r = R$ のとき $v = \frac{qBR}{m} = \frac{1.60 \times 10^{-19} \times 1.0 \times 0.50}{1.67 \times 10^{-27}} \approx 4.8 \times 10^{7}\,\text{m/s}$
(3) $E_k = \frac{1}{2}mv^2 = \frac{1}{2} \times 1.67 \times 10^{-27} \times (4.8 \times 10^7)^2 \approx 1.92 \times 10^{-12}\,\text{J}$
eV 換算:$\frac{1.92 \times 10^{-12}}{1.60 \times 10^{-19}} \approx 1.2 \times 10^{7}\,\text{eV} = 12\,\text{MeV}$
(注:この速さは光速の約16%であり、相対論的効果は小さいので古典的な計算で十分です。)