コンセントに差したプラグから流れてくる電気は、実は「行ったり来たり」を繰り返しています。
乾電池のように一方通行ではなく、電流の向きが周期的に変わる ── これが交流です。
では、なぜ発電所は交流をつくるのでしょうか? その答えは、磁場の中でコイルを回転させるという驚くほどシンプルな仕組みにあります。
乾電池をつないだ回路では、電流は常に同じ向きに流れ続けます。 これを直流(DC: Direct Current)と呼びます。 一方、家庭のコンセントから得られる電流は、向きが周期的に入れ替わります。 これが交流(AC: Alternating Current)です。
交流を時間のグラフにすると、美しい正弦波(サイン波)が現れます。 電圧が正の値のときは一方向に電流が流れ、負の値に切り替わると電流の向きが反転します。 日本の家庭用電源では、この切り替わりが1秒間に50回(東日本)または60回(西日本)起こっています。
発電所から家庭まで電力を届けるには、長い送電線が必要です。 送電中の電力損失は $P = I^2 R$ で表されるため、電流 $I$ を小さくすれば損失を減らせます。 電力 $P = VI$ を一定に保ちながら電流を小さくするには、電圧 $V$ を高くすればよいのです。
交流の最大の利点は、変圧器(トランス)を使って電圧を自在に変えられることです。 発電所で数十万ボルトまで昇圧して送電し、家庭の手前で100Vに降圧する ── この仕組みが、現代の電力網を支えています。 直流では変圧が容易ではないため、交流が電力供給の主役となったのです。
交流が世界中の電力供給で使われている最大の理由は、変圧器によって電圧を容易に変換できるからです。 高電圧で送電すれば電流が小さくなり、送電中のジュール熱による損失 $P_{\text{loss}} = I^2 R$ を大幅に抑えられます。
この「変圧のしやすさ」こそが、交流を発明した人々が直流に勝利した理由です。
交流の発生原理は、電磁誘導の法則に基づいています。 一様な磁場の中でコイルを回転させると、コイルを貫く磁束が時間とともに変化し、起電力が誘導されます。 この起電力が正弦波状に変化するため、交流が生まれるのです。
磁束密度 $B$ の一様な磁場の中に、面積 $S$ のコイルを置きます。 コイルの面の法線(面に垂直な方向)と磁場のなす角を $\theta$ とすると、コイルを貫く磁束 $\Phi$ は次のように表されます。
$$\Phi = BS\cos\theta$$
コイルが角速度 $\omega$ で一定の速さで回転しているとき、$\theta = \omega t$($t = 0$ で法線と磁場が平行)ですから、
$$\Phi = BS\cos\omega t$$
磁束 $\Phi$ は $\cos\omega t$ に比例して変化します。 コイルの面が磁場に垂直なとき($\theta = 0$)に磁束は最大、コイルの面が磁場に平行なとき($\theta = 90°$)に磁束は0になります。
ファラデーの電磁誘導の法則により、起電力は磁束の時間変化率に比例します。 磁束そのものではなく、「磁束がどれだけ速く変わっているか」が重要です。
$\Phi = BS\cos\omega t$ は $\theta = 0$ で最大ですが、その瞬間は磁束の変化率がゼロです。 逆に $\theta = 90°$ で磁束はゼロですが、変化率は最大 ── つまり起電力が最大になります。
✕ 誤:コイルの面が磁場に垂直(磁束最大)のとき、起電力も最大
○ 正:磁束が最大のとき、磁束の変化率はゼロなので起電力はゼロ。起電力が最大になるのは磁束がゼロを横切る瞬間
$\cos$ の微分が $-\sin$ であることを思い出してください。$\cos$ が最大のとき $\sin$ はゼロ、$\cos$ がゼロのとき $\sin$ が最大(または最小)です。
ファラデーの電磁誘導の法則を使って、回転するコイルに生じる起電力を計算しましょう。 $N$ 巻きのコイルが磁場中で回転している場合を考えます。
ファラデーの電磁誘導の法則より、$N$ 巻きのコイルに生じる起電力は、
$$V = -N\frac{d\Phi}{dt}$$
$\Phi = BS\cos\omega t$ を代入すると、
$$V = -N\frac{d}{dt}(BS\cos\omega t) = -NBS \cdot (-\omega\sin\omega t)$$
$$V = NBS\omega\sin\omega t$$
ここで $V_0 = NBS\omega$ と置くと、
$$V = V_0 \sin\omega t$$
$V_0$ は起電力の最大値(振幅)であり、最大起電力または起電力振幅と呼ばれます。
交流起電力:$$V = V_0 \sin\omega t$$
最大起電力:$$V_0 = NBS\omega$$
同様に、交流電流も $I = I_0 \sin\omega t$ の形をとります。 ここで $I_0$ は電流の最大値(電流振幅)です。
教科書や問題集によって、$V = V_0 \sin\omega t$ と書く場合と $V = V_0 \cos\omega t$ と書く場合があります。
✕ 誤:「$\sin$ と $\cos$ は違う波形だから物理的に異なる」
○ 正:$\sin$ と $\cos$ の違いは時間の原点($t = 0$ の取り方)の違いにすぎない。$\cos\omega t = \sin(\omega t + \frac{\pi}{2})$ なので、位相が $\frac{\pi}{2}$ ずれただけで同じ波形
問題では「$t = 0$ でのコイルの向き」を確認し、それに合わせて $\sin$ か $\cos$ かを選びましょう。
$V_0 = NBS\omega$ から、最大起電力を大きくするには次の4つの方法があることがわかります。
実際の発電機では、これらの要因を最適化することで、必要な電圧を効率よく発生させています。
高校物理では「磁場中でコイルを回転させる」と説明しますが、大型の発電機では逆に「コイルを固定し、磁石(電磁石)を回転させる」構造が主流です。
固定されたコイル側をステーター(固定子)、回転する磁石側をローター(回転子)と呼びます。 大電流が流れるコイル側を固定することで、ブラシやスリップリングを介さずに電力を取り出せる利点があります。
しかし物理的な原理は同じです。相対的にコイルと磁場が回転すれば、磁束が変化して起電力が生じます。
交流を特徴づける重要な量として、周波数 $f$、周期 $T$、角周波数 $\omega$ があります。 これらは互いに密接に関係しています。
$$\omega = 2\pi f = \frac{2\pi}{T}$$
$$f = \frac{1}{T}$$
周波数 $f$ は「1秒間に何回振動するか」を表す量で、単位は Hz(ヘルツ)です。 周期 $T$ は「1回の振動にかかる時間」で、$f$ の逆数です。 角周波数 $\omega$ は円運動の角速度に対応し、1秒間に何ラジアン進むかを表します。
日本では、静岡県の富士川と新潟県の糸魚川あたりを境にして、東日本が 50 Hz、西日本が 60 Hz と異なる周波数が使われています。 これは明治時代に東京がドイツ製の50 Hz発電機、大阪がアメリカ製の60 Hz発電機を導入したことに由来します。
| 地域 | 周波数 $f$ | 周期 $T$ | 角周波数 $\omega$ |
|---|---|---|---|
| 東日本 | $50\,\text{Hz}$ | $0.020\,\text{s}$ | $100\pi \approx 314\,\text{rad/s}$ |
| 西日本 | $60\,\text{Hz}$ | $0.017\,\text{s}$ | $120\pi \approx 377\,\text{rad/s}$ |
✕ 誤:$50\,\text{Hz}$ の交流の角周波数は $\omega = 50\,\text{rad/s}$
○ 正:$\omega = 2\pi f = 2\pi \times 50 = 100\pi\,\text{rad/s}$
周波数と角周波数の間には $2\pi$ の係数があります。$\sin$ 関数に代入するのは角周波数 $\omega$ であり、周波数 $f$ をそのまま入れてはいけません。
$V = V_0 \sin\omega t$ の $\omega t$ はラジアン単位の角度です。 コイルが1回転($2\pi$ ラジアン)するのにかかる時間が周期 $T$ であり、$\omega T = 2\pi$ が成り立ちます。
交流の式を読むときは、常に「コイルが今どの角度にいるか」をイメージすると、$\sin$ や $\cos$ の値の変化が直感的に理解できます。
実際の発電所では、1つのコイルではなく、互いに120°($\frac{2\pi}{3}$ ラジアン)ずらした3組のコイルを使って発電します。 これを三相交流といいます。
3つの起電力は $V_1 = V_0\sin\omega t$、$V_2 = V_0\sin(\omega t - \frac{2\pi}{3})$、$V_3 = V_0\sin(\omega t - \frac{4\pi}{3})$ で表されます。
三相交流には「電力の送電効率が高い」「回転磁場を簡単に作れる(モーターに有利)」などの利点があり、産業用の電力供給で広く使われています。
交流の発生は、電磁誘導の応用であり、交流回路の出発点です。 ここで学んだ内容が、後の記事でどのように発展するかを確認しましょう。
Q1. 交流と直流の最も大きな違いを、実用的な観点から1つ述べてください。
Q2. コイルを貫く磁束が最大のとき、誘導起電力はどうなりますか。理由とともに答えてください。
Q3. 巻数100、面積 $0.05\,\text{m}^2$ のコイルが $0.4\,\text{T}$ の磁場中で $50\,\text{Hz}$ で回転するとき、最大起電力を求めてください。
Q4. 周波数 $60\,\text{Hz}$ の交流の周期と角周波数を求めてください。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
磁束密度 $0.50\,\text{T}$ の一様な磁場中で、面積 $0.020\,\text{m}^2$、巻数 $200$ のコイルが角速度 $100\pi\,\text{rad/s}$ で回転している。次の問いに答えよ。
(1) 最大起電力 $V_0$ を求めよ。
(2) 交流の周波数と周期を求めよ。
(1) $V_0 = 200\pi \approx 628\,\text{V}$
(2) $f = 50\,\text{Hz}$、$T = 0.020\,\text{s}$
(1) $V_0 = NBS\omega = 200 \times 0.50 \times 0.020 \times 100\pi = 200\pi \approx 628\,\text{V}$
(2) $\omega = 2\pi f$ より $f = \dfrac{\omega}{2\pi} = \dfrac{100\pi}{2\pi} = 50\,\text{Hz}$
$T = \dfrac{1}{f} = \dfrac{1}{50} = 0.020\,\text{s}$
磁束密度 $B$ の一様な磁場中で、面積 $S$、巻数 $N$ のコイルが角速度 $\omega$ で回転している。時刻 $t = 0$ でコイルの面が磁場に垂直であるとする。
(1) 時刻 $t$ におけるコイルを貫く磁束 $\Phi(t)$ を求めよ。
(2) 時刻 $t$ における起電力 $V(t)$ を求めよ。
(3) 起電力が最大になる最も早い時刻を求めよ。
(1) $\Phi(t) = BS\cos\omega t$
(2) $V(t) = NBS\omega\sin\omega t$
(3) $t = \dfrac{\pi}{2\omega} = \dfrac{T}{4}$
方針:$t = 0$ で面が磁場に垂直(法線と磁場が平行)なので磁束は最大値 $BS$ から始まる。
(1) コイルの法線と磁場のなす角が $\theta = \omega t$ なので、$\Phi = BS\cos\omega t$
(2) ファラデーの法則 $V = -N\dfrac{d\Phi}{dt} = -N \cdot (-BS\omega\sin\omega t) = NBS\omega\sin\omega t$
(3) $\sin\omega t = 1$ となる最小の正の $t$ を求める。$\omega t = \dfrac{\pi}{2}$ より $t = \dfrac{\pi}{2\omega}$。$T = \dfrac{2\pi}{\omega}$ を使うと $t = \dfrac{T}{4}$
面積 $0.10\,\text{m}^2$、巻数 $50$ のコイルが磁束密度 $0.80\,\text{T}$ の一様な磁場中で回転し、最大起電力 $400\pi\,\text{V}$ の交流を発生している。
(1) コイルの回転数(毎秒の回転数)を求めよ。
(2) 最大起電力を2倍にするために回転数を変えるとき、毎秒何回転にすればよいか。
(3) 回転数を変えずに最大起電力を2倍にする別の方法を1つ挙げ、具体的な数値を示せ。
(1) 毎秒 $50$ 回転
(2) 毎秒 $100$ 回転
(3) 例:巻数を $100$ にする(または面積を $0.20\,\text{m}^2$ にする、磁束密度を $1.6\,\text{T}$ にする)
方針:$V_0 = NBS\omega$ の各因子と回転数 $n$($\omega = 2\pi n$)の関係を使う。
(1) $V_0 = NBS\omega = NBS \cdot 2\pi n$ より
$400\pi = 50 \times 0.80 \times 0.10 \times 2\pi n = 4.0 \times 2\pi n = 8.0\pi n$
$n = \dfrac{400\pi}{8.0\pi} = 50$ 回転/秒
(2) $V_0$ は $\omega$(したがって $n$)に比例するので、$V_0$ を2倍にするには $n$ を2倍の $100$ 回転/秒にする。
(3) $V_0 = NBS\omega$ は $N$、$B$、$S$ のいずれにも比例する。たとえば巻数を $N = 100$(元の2倍)にすれば、$V_0$ は2倍になる。