第26章 交流と電磁波

コイルを含む交流回路
─ 誘導リアクタンス

コイル(インダクター)は自己誘導によって電流の変化を妨げる性質をもちます。
直流が定常状態に達すれば抵抗ゼロですが、絶えず電流が変化する交流では話が変わります。
コイルの「交流に対する抵抗」── 誘導リアクタンス ── を学びましょう。コンデンサーとは正反対の性質をもつ素子です。

1コイルに交流を流すとどうなるか

自己インダクタンス $L$ のコイルに交流電流 $i = I_0 \sin\omega t$ が流れているとき、 コイルの両端に生じる自己誘導起電力は $-L\dfrac{di}{dt}$ です。 キルヒホッフの法則より、電源電圧はこの起電力を打ち消す形になります。

▷ コイルの電圧の導出

コイルに流れる電流を $i = I_0\sin\omega t$ とします。

コイルの両端の電圧は、

$$v = L\frac{di}{dt} = L \cdot I_0\omega\cos\omega t = \omega L I_0 \cos\omega t$$

$\cos\omega t = \sin\left(\omega t + \dfrac{\pi}{2}\right)$ を用いると、

$$v = \omega L I_0 \sin\left(\omega t + \frac{\pi}{2}\right)$$

電圧の最大値は $V_0 = \omega L I_0$ です。

電圧が $\sin(\omega t + \dfrac{\pi}{2})$ で電流が $\sin\omega t$ ですから、 電圧が電流より位相が $\dfrac{\pi}{2}$ 進んでいる(=電流が電圧より $\dfrac{\pi}{2}$ 遅れている)ことがわかります。

💡 ここが本質:コイルは電流の「変化」を妨げる

コイルの電圧は $v = L\dfrac{di}{dt}$、つまり電流の変化率に比例します。

電流がゼロを横切る瞬間に変化率が最大なので、そのとき電圧が最大になります。 これがコンデンサーとは逆で「電圧が電流より $\dfrac{\pi}{2}$ 進む」理由です。

2誘導リアクタンス

📐 誘導リアクタンス

$$X_L = \frac{V_0}{I_0} = \omega L = 2\pi f L$$

※ 単位は $\Omega$(オーム)。$\omega$:角周波数 [rad/s]、$L$:自己インダクタンス [H]、$f$:周波数 [Hz]

容量リアクタンスとは対照的に、誘導リアクタンスは周波数が高いほど大きくなります。 高周波の電流ほど変化が急で、コイルの自己誘導による抵抗が増すためです。 直流($f = 0$)では $X_L = 0$ となり、抵抗ゼロの導線として振る舞います。

容量リアクタンスとの比較

コンデンサー コイル
リアクタンス $X_C = \dfrac{1}{\omega C}$ $X_L = \omega L$
周波数が増すと $X_C$ 減少(通しやすい) $X_L$ 増加(通しにくい)
直流では $X_C \to \infty$(遮断) $X_L = 0$(素通り)
電流の位相 電圧より $\dfrac{\pi}{2}$ 進む 電圧より $\dfrac{\pi}{2}$ 遅れる
⚠️ 落とし穴:コンデンサーとコイルの位相を混同する

✕ 誤:「コイルで電流が進む」「コンデンサーで電流が遅れる」

○ 正:コイルでは電流が遅れ、コンデンサーでは電流が進む

覚え方:「コイルは変化を嫌がる → 電流がなかなかついていけない → 遅れる」「コンデンサーは電圧変化にすぐ反応 → 電流が先に流れる → 進む」

🔬 深掘り:コイルは「低周波フィルター」

$X_L = \omega L$ は周波数に比例するので、高周波ほどコイルを通りにくくなります。 この性質を利用したローパスフィルターは、電源のノイズ除去などに利用されます。

コンデンサーのハイパスフィルターと組み合わせることで、特定の周波数帯だけを取り出すバンドパスフィルターも構成できます。

3電圧と電流の位相関係

コイル回路の位相関係をまとめます。

電流:$i = I_0 \sin\omega t$
電圧:$v = V_0 \sin\left(\omega t + \dfrac{\pi}{2}\right) = V_0 \cos\omega t$

電流は電圧より $\dfrac{\pi}{2}$ 遅れています。 電圧が最大になってから $\dfrac{T}{4}$ 経って、ようやく電流が最大に達します。

💡 ここが本質:微分と積分で位相がずれる

交流回路における位相のずれは、微分と積分の関係で統一的に理解できます。

コンデンサー:$i = C\dfrac{dv}{dt}$(電流は電圧の微分) → 電流が $\dfrac{\pi}{2}$ 進む

コイル:$v = L\dfrac{di}{dt}$(電圧は電流の微分) → 電圧が $\dfrac{\pi}{2}$ 進む(=電流が $\dfrac{\pi}{2}$ 遅れる)

$\sin$ を微分すると $\cos$($\dfrac{\pi}{2}$ 進む)、積分すると $-\cos$($\dfrac{\pi}{2}$ 遅れる)。これがすべての根拠です。

4コイルの消費電力と3素子の比較

コイル回路の瞬時電力を計算します。

$$p = vi = V_0\cos\omega t \cdot I_0\sin\omega t = \frac{V_0 I_0}{2}\sin 2\omega t$$

📐 コイルの平均消費電力

$$\overline{P} = 0$$

※ コンデンサーと同様、コイルも平均的にはエネルギーを消費しない。磁場にエネルギーを蓄え、次の半周期で返す。

3素子の比較まとめ

素子 電流の位相 「抵抗」 平均消費電力
抵抗 $R$ 電圧と同位相 $R$ $V_e I_e$(消費する)
コンデンサー $C$ 電圧より $\dfrac{\pi}{2}$ 進む $X_C = \dfrac{1}{\omega C}$ $0$(消費しない)
コイル $L$ 電圧より $\dfrac{\pi}{2}$ 遅れる $X_L = \omega L$ $0$(消費しない)
💡 ここが本質:エネルギーを消費するのは抵抗だけ

3素子の中で平均消費電力が正なのは抵抗だけです。コンデンサーとコイルはエネルギーを蓄えて返すだけで、1周期の平均では消費しません。

これは位相差が $\dfrac{\pi}{2}$ のとき $\overline{\sin\omega t \cdot \cos\omega t} = 0$ であることの帰結です。RLC直列回路でも、消費電力は抵抗分だけで計算します。

5この章を俯瞰する

3素子の交流特性がそろったところで、次はそれらを組み合わせた回路に進みます。

つながりマップ

  • ← E-7-3 抵抗だけの交流回路:同位相(位相差ゼロ)が基準。
  • ← E-7-4 コンデンサーの交流回路:電流が進む($+\dfrac{\pi}{2}$)。コイルと正反対。
  • → E-7-6 RLC直列回路と共振:$X_L = X_C$ となる周波数で共振が起こる。3素子の知識が統合される。
  • → E-7-7 変圧器:コイルの相互誘導を利用した変圧の原理。

📋まとめ

  • コイル回路では電流が電圧より $\dfrac{\pi}{2}$ 遅れる($v = L\dfrac{di}{dt}$ の帰結)
  • 誘導リアクタンス $X_L = \omega L = 2\pi f L$(単位:$\Omega$)
  • 周波数が高いほど $X_L$ は大きい → 高周波ほど通りにくい
  • 直流($f = 0$)では $X_L = 0$ → 導線と同じ(抵抗ゼロ)
  • コイルの平均消費電力はゼロ(磁場にエネルギーを蓄えて返す)
  • 3素子のうちエネルギーを消費するのは抵抗だけ

確認テスト

Q1. コイル回路で電圧と電流の位相関係を述べてください。

▶ クリックして解答を表示電流が電圧より $\dfrac{\pi}{2}$(90度)遅れている。コイルは電流の変化を妨げるため、電流が電圧についていけない。

Q2. 自己インダクタンス $0.10\,\text{H}$ のコイルに $50\,\text{Hz}$ の交流を流したとき、誘導リアクタンスを求めてください。

▶ クリックして解答を表示$X_L = 2\pi f L = 2\pi \times 50 \times 0.10 = 10\pi \approx 31.4\,\Omega$

Q3. コンデンサーとコイルで周波数依存性が逆になる理由を簡潔に説明してください。

▶ クリックして解答を表示コンデンサーは電圧の変化率に応じて電流が流れるので高周波ほど通しやすい。コイルは電流の変化率に応じて逆起電力が生じるので高周波ほど通しにくい。

Q4. コイルの平均消費電力がゼロである理由を述べてください。

▶ クリックして解答を表示電圧と電流の位相差が $\dfrac{\pi}{2}$ であるため、瞬時電力 $p = \dfrac{V_0 I_0}{2}\sin 2\omega t$ の1周期平均がゼロになる。コイルは磁場のエネルギーを蓄えて返すだけ。

8入試問題演習

この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

7-5-1 A 基礎 誘導リアクタンス計算

自己インダクタンス $0.20\,\text{H}$ のコイルに、実効値 $100\,\text{V}$、周波数 $50\,\text{Hz}$ の交流電圧を加えた。コイルの抵抗は無視できるとする。次の問いに答えよ。

(1) 誘導リアクタンスを求めよ。

(2) 電流の実効値を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $X_L = 20\pi \approx 62.8\,\Omega$

(2) $I_e \approx 1.59\,\text{A}$

解説

(1) $X_L = 2\pi f L = 2\pi \times 50 \times 0.20 = 20\pi \approx 62.8\,\Omega$

(2) $I_e = \dfrac{V_e}{X_L} = \dfrac{100}{20\pi} = \dfrac{5}{\pi} \approx 1.59\,\text{A}$

B 発展レベル

7-5-2 B 発展 位相と電力計算・論述

自己インダクタンス $L$ のコイル(抵抗は無視できる)に $i = I_0\sin\omega t$ の交流電流が流れている。次の問いに答えよ。

(1) コイルの両端の電圧 $v(t)$ を求めよ。

(2) 瞬時電力 $p(t)$ を求めよ。

(3) コイルに蓄えられるエネルギーが最大になる時刻を、最も早いもの1つ求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $v = \omega L I_0 \cos\omega t$

(2) $p = \dfrac{\omega L I_0^2}{2}\sin 2\omega t$

(3) $t = \dfrac{\pi}{2\omega} = \dfrac{T}{4}$

解説

(1) $v = L\dfrac{di}{dt} = L \cdot I_0\omega\cos\omega t = \omega L I_0\cos\omega t$

(2) $p = vi = \omega L I_0\cos\omega t \cdot I_0\sin\omega t = \dfrac{\omega L I_0^2}{2}\sin 2\omega t$

(3) コイルのエネルギーは $U = \dfrac{1}{2}Li^2 = \dfrac{1}{2}LI_0^2\sin^2\omega t$。これが最大になるのは $\sin^2\omega t = 1$、すなわち $\omega t = \dfrac{\pi}{2}$ のとき。$t = \dfrac{\pi}{2\omega} = \dfrac{T}{4}$

採点ポイント
  • 電圧の導出で微分を正しく行う(3点)
  • 瞬時電力を $\sin 2\omega t$ の形に整理する(3点)
  • コイルのエネルギーと電流の関係から最大時刻を求める(4点)

C 応用レベル

7-5-3 C 応用 RL直列回路計算

抵抗 $R = 40\,\Omega$ とコイル $L = \dfrac{0.3}{\pi}\,\text{H}$(抵抗無視)を直列に接続し、実効値 $100\,\text{V}$、周波数 $50\,\text{Hz}$ の交流電源につないだ。次の問いに答えよ。

(1) 誘導リアクタンス $X_L$ を求めよ。

(2) 回路のインピーダンス $Z = \sqrt{R^2 + X_L^2}$ を求めよ。

(3) 電流の実効値を求めよ。

(4) 回路の平均消費電力を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $X_L = 30\,\Omega$

(2) $Z = 50\,\Omega$

(3) $I_e = 2.0\,\text{A}$

(4) $\overline{P} = 160\,\text{W}$

解説

(1) $X_L = 2\pi f L = 2\pi \times 50 \times \dfrac{0.3}{\pi} = 100 \times 0.3 = 30\,\Omega$

(2) $Z = \sqrt{R^2 + X_L^2} = \sqrt{40^2 + 30^2} = \sqrt{1600 + 900} = \sqrt{2500} = 50\,\Omega$

(3) $I_e = \dfrac{V_e}{Z} = \dfrac{100}{50} = 2.0\,\text{A}$

(4) 消費電力は抵抗分のみ:$\overline{P} = I_e^2 R = 2.0^2 \times 40 = 160\,\text{W}$

採点ポイント
  • $X_L$ の計算(2点)
  • インピーダンスの計算(2点)
  • 電流の計算(2点)
  • 消費電力が抵抗分のみであることを正しく適用する(4点)