第10章 万有引力

重力と万有引力の関係
─ 地表での重力加速度

体重計に乗ったとき表示される力は、厳密には「万有引力そのもの」ではありません。
地球は自転しているため、私たちは回転する座標系の上に立っているのです。
重力と万有引力の微妙だけれど本質的な違いを、この記事で解き明かしましょう。

1重力加速度を万有引力から導く

地表で質量 $m$ の物体に働く重力は $mg$ です。 一方、地球(質量 $M$、半径 $R$)と物体のあいだの万有引力は $G\dfrac{Mm}{R^2}$ です。 自転の影響を無視すれば、この二つは等しくなります。

▷ 重力加速度 $g$ の導出

地表での万有引力 = 重力(自転を無視)とすると、

$$mg = G\frac{Mm}{R^2}$$

両辺を $m$ で割ると、

$$g = G\frac{M}{R^2}$$

これが地表の重力加速度を万有引力定数 $G$、地球の質量 $M$、半径 $R$ で表した式です。

📐 地表の重力加速度

$$g = G\frac{M}{R^2}$$

$g$:重力加速度 [$\text{m/s}^2$]、$G$:万有引力定数、$M$:地球の質量 [$\text{kg}$]、$R$:地球の半径 [$\text{m}$]

この式に値を代入して確認してみましょう。 $G = 6.67 \times 10^{-11}$、$M = 5.97 \times 10^{24}\,\text{kg}$、$R = 6.37 \times 10^6\,\text{m}$ とすると、

$g = \dfrac{6.67 \times 10^{-11} \times 5.97 \times 10^{24}}{(6.37 \times 10^6)^2} \approx 9.81\,\text{m/s}^2$

見事に、おなじみの値 $9.8\,\text{m/s}^2$ が得られました。

💡 ここが本質:$g$ は天体の「名刺」

$g = G\dfrac{M}{R^2}$ が示すように、重力加速度は天体の質量と半径だけで決まります。 物体の質量 $m$ には依存しません。

これはガリレオの「落体の法則」(重いものも軽いものも同じ加速度で落ちる)と完全に一致します。 万有引力の法則は、ガリレオの実験結果を理論的に裏付けているのです。

⚠️ 落とし穴:$g$ を「定数」と思い込む

✕ 誤:重力加速度 $g = 9.8\,\text{m/s}^2$ はどこでも同じ

○ 正:$g$ は天体の質量と半径によって異なります。 また同じ地球上でも、緯度や高度によって値が変化します。

2重力=万有引力+遠心力(厳密な議論)

地球は1日1回自転しています。 地球上の物体は地球とともに円運動をしているため、回転座標系から見ると遠心力が働きます。

厳密には、地表で物体が感じる重力は、万有引力と遠心力の合力です。

📐 重力の厳密な定義

$$\vec{W} = \vec{F}_{\text{万有引力}} + \vec{F}_{\text{遠心力}}$$

赤道上では遠心力が最大となり、万有引力の一部が円運動の向心力に使われます。

赤道上での遠心力の大きさ:$m R \omega^2 \approx 0.034\,\text{m/s}^2 \times m$($g$ の約0.35%)

赤道での遠心力加速度を計算してみましょう。 地球の自転角速度は $\omega = \dfrac{2\pi}{24 \times 3600} \approx 7.27 \times 10^{-5}\,\text{rad/s}$ です。

赤道での遠心力加速度は $R\omega^2 = 6.37 \times 10^6 \times (7.27 \times 10^{-5})^2 \approx 0.034\,\text{m/s}^2$ です。 これは $g \approx 9.8\,\text{m/s}^2$ の約0.35%にすぎません。

💡 ここが本質:入試では遠心力を無視してよい

遠心力の効果は $g$ の約0.35%と非常に小さいため、高校物理の問題では通常「重力 = 万有引力」として扱います。

ただし、「重力と万有引力の違いを説明せよ」という論述問題では、遠心力の存在を答える必要があります。 自転の効果を無視するかどうかは、問題文の指示に従いましょう。

極と赤道での重力加速度の違い

北極・南極(極)では、自転軸上にいるため遠心力は $0$ です。 一方、赤道では遠心力が最大になります。 このため、赤道での $g$ は極よりもわずかに小さくなります。

場所重力加速度 [$\text{m/s}^2$]
北極$9.832$
東京(緯度35°)$9.798$
赤道$9.780$
⚠️ 落とし穴:「遠心力で体重が軽くなる」の誤解

赤道では確かに遠心力の分だけ重力が小さくなりますが、その差はわずか0.5%程度です。

✕ 誤:赤道に行けば大幅に体重が減る

○ 正:体重60 kgの人が赤道に行くと、約0.3 kgだけ軽く計測されます。

⚠️ 落とし穴:重力の向きは地球の中心を向くとは限らない

万有引力は地球の中心を向きますが、遠心力は自転軸から遠ざかる向きに働きます。

✕ 誤:重力は常に地球の中心を向く

○ 正:重力(万有引力+遠心力の合力)は厳密には地球中心からわずかにずれた向きです。 ただし、このずれは極めて小さいため通常は無視します。

3高度による重力加速度の変化

地表から高さ $h$ の地点では、地球中心からの距離が $R + h$ になります。 万有引力は距離の2乗に反比例するため、高度が上がると重力加速度は小さくなります。

📐 高度 $h$ での重力加速度

$$g_h = G\frac{M}{(R+h)^2} = g\left(\frac{R}{R+h}\right)^2$$

$g_h$:高度 $h$ での重力加速度、$g$:地表での重力加速度、$R$:地球の半径
▷ 高度 $h$ の式の導出

地表では $g = G\dfrac{M}{R^2}$ ですから、$GM = gR^2$ と書けます。

高度 $h$ では $g_h = G\dfrac{M}{(R+h)^2} = \dfrac{gR^2}{(R+h)^2} = g\left(\dfrac{R}{R+h}\right)^2$

たとえば、ISS(高度約400 km)での重力加速度は次のようになります。

$g_h = 9.8 \times \left(\dfrac{6400}{6400 + 400}\right)^2 = 9.8 \times \left(\dfrac{6400}{6800}\right)^2 \approx 9.8 \times 0.886 \approx 8.7\,\text{m/s}^2$

地表の値の約89%です。高度400 kmでも万有引力は十分に強いことが分かります。

💡 ここが本質:$GM = gR^2$ は超頻出の変換

$g = G\dfrac{M}{R^2}$ を変形した $GM = gR^2$ は、万有引力の問題で最もよく使う関係式です。

$G$ や $M$ の数値を直接使わなくても、地表の $g$ と地球の半径 $R$ だけで問題を解けるようになります。 入試では $G$ や $M$ の値が与えられないことも多く、その場合は必ずこの変換を使います。

4他の天体での重力加速度

$g = G\dfrac{M}{R^2}$ は地球に限らず、どの天体にも適用できます。 天体の質量と半径が分かれば、その天体表面での重力加速度を求められます。

天体質量(地球=1)半径(地球=1)表面重力加速度 [$\text{m/s}^2$]
$0.0123$$0.273$$1.62$
火星$0.107$$0.532$$3.71$
木星$318$$11.2$$24.8$

月の表面重力は地球の約 $\frac{1}{6}$ です。 宇宙飛行士が月面で軽々と跳ねる映像は、この小さな重力加速度を反映しています。

🔬 深掘り:天体の密度と重力加速度

球体の質量は $M = \dfrac{4}{3}\pi R^3 \rho$($\rho$:平均密度)と書けます。 これを代入すると、

$g = G\dfrac{M}{R^2} = \dfrac{4}{3}\pi G \rho R$

つまり、密度が同じなら半径が大きい天体ほど重力加速度が大きくなります。 木星は半径が地球の11倍以上ありますが密度が小さいため、表面重力は2.5倍程度にとどまります。

⚠️ 落とし穴:「大きい天体ほど重力が強い」とは限らない

$g$ は質量と半径の両方に依存します。質量が大きくても半径も大きければ、$g$ は必ずしも大きくなりません。

✕ 誤:天体が大きければ必ず重力加速度も大きい

○ 正:$g = G\dfrac{M}{R^2}$ なので、質量と半径の2乗の比で決まります。

5この章を俯瞰する

重力加速度と万有引力の関係は、この後の宇宙速度や人工衛星の議論の基礎となります。

つながりマップ

  • ← M-10-1 万有引力の法則:万有引力の法則を地表に適用し、重力加速度 $g$ を導いた。
  • → M-10-3 ケプラーの法則:惑星の公転周期と軌道半径の関係に $GM$ が登場する。
  • → M-10-5 第一宇宙速度:$GM = gR^2$ の変換を使って宇宙速度を $g$ と $R$ で表す。
  • ← 第2章 ニュートンの法則:$F = ma$ において $a = g$ の場合が自由落下。万有引力が原因。
  • ← M-9 円運動:遠心力は回転座標系で現れる見かけの力。赤道上での重力への寄与で登場した。

📋まとめ

  • 地表の重力加速度は $g = G\dfrac{M}{R^2}$ で与えられる。天体の質量と半径で決まる
  • $GM = gR^2$ は万有引力の問題で最頻出の変換式。$G$ や $M$ を消去できる
  • 厳密には重力 = 万有引力 + 遠心力。ただし遠心力は $g$ の約0.35%と小さく、通常は無視する
  • 高度 $h$ での重力加速度は $g_h = g\left(\dfrac{R}{R+h}\right)^2$。高いほど小さくなる
  • $g$ は物体の質量に依存しない。すべての物体は同じ加速度で落下する(ガリレオの落体の法則)

確認テスト

Q1. 地表の重力加速度 $g$ を、万有引力定数 $G$、地球の質量 $M$、半径 $R$ を用いて表してください。

▶ クリックして解答を表示$g = G\dfrac{M}{R^2}$

Q2. 重力と万有引力の厳密な違いは何ですか。

▶ クリックして解答を表示重力は万有引力と地球の自転による遠心力の合力です。ただし遠心力の寄与は非常に小さく、通常は無視します。

Q3. 地球の半径の2倍の高度での重力加速度は、地表の何倍ですか。

▶ クリックして解答を表示$g_h = g\left(\dfrac{R}{R+2R}\right)^2 = g\left(\dfrac{1}{3}\right)^2 = \dfrac{g}{9}$。地表の $\dfrac{1}{9}$ 倍。

Q4. $GM = gR^2$ という関係式はどのように導かれますか。

▶ クリックして解答を表示$g = G\dfrac{M}{R^2}$ の両辺に $R^2$ を掛けると $gR^2 = GM$ が得られます。

8入試問題演習

この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

10-2-1 A 基礎 重力加速度の計算

ある天体の質量が地球の $\frac{1}{10}$、半径が地球の $\frac{1}{2}$ であるとき、この天体の表面での重力加速度は地球の何倍か。地球の重力加速度を $g$ とせよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$\dfrac{2}{5}g$(地球の $0.4$ 倍)

解説

$g' = G\dfrac{M'}{R'^2} = G\dfrac{\frac{M}{10}}{\left(\frac{R}{2}\right)^2} = G\dfrac{M}{10} \times \dfrac{4}{R^2} = \dfrac{4}{10} \times G\dfrac{M}{R^2} = \dfrac{2}{5}g$

B 発展レベル

10-2-2 B 発展 高度と重力 論述

地球の半径を $R$、地表の重力加速度を $g$ とする。地表から高さ $h$ の地点で重力加速度が地表の半分になるとき、$h$ を $R$ を用いて表せ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$h = (\sqrt{2} - 1)R \approx 0.414R$

解説

$\dfrac{g}{2} = g\left(\dfrac{R}{R+h}\right)^2$ より $\dfrac{1}{2} = \left(\dfrac{R}{R+h}\right)^2$

$\dfrac{R}{R+h} = \dfrac{1}{\sqrt{2}}$ → $R+h = \sqrt{2}\,R$ → $h = (\sqrt{2}-1)R$

採点ポイント
  • 高度の公式を正しく立式する(3点)
  • 平方根の処理を正しく行う(3点)
  • 最終結果を $R$ で正しく表す(2点)

C 応用レベル

10-2-3 C 応用 自転と重力 論述

地球の半径を $R = 6.4 \times 10^6\,\text{m}$、地表の重力加速度を $g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。地球の自転が速くなり、赤道上で物体が「無重力」(見かけの重力が $0$)になるためには、自転周期はいくらになればよいか。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$T \approx 5.1 \times 10^3\,\text{s}$(約84分)

解説

方針:赤道上で遠心力が万有引力と等しくなる条件を求める。

無重力の条件:$mg = mR\omega^2$ → $g = R\omega^2$

$\omega = \dfrac{2\pi}{T}$ を代入:$g = R\left(\dfrac{2\pi}{T}\right)^2$

$T^2 = \dfrac{4\pi^2 R}{g} = \dfrac{4\pi^2 \times 6.4 \times 10^6}{9.8} \approx 2.58 \times 10^7$

$T = \sqrt{2.58 \times 10^7} \approx 5.1 \times 10^3\,\text{s}$(約84分)

現在の自転周期(約86400 s)の約17分の1になると、赤道上で無重力になります。

採点ポイント
  • 無重力条件「万有引力 = 遠心力」を正しく立式(3点)
  • $\omega$ と $T$ の関係を使って $T$ を求める(3点)
  • 正しい数値計算(2点)
  • 結果の物理的意味に触れる(2点)